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18-3.岩と干し草の寝床(18日目)

真っ暗は怖いです、寂しいです・・・

 ぴちゃ・・・


 ぴちゃ・・・・・・


 「・・・ん・・・うっ・・・」

 冷たっ・・・寝ていたのか・・・? いや、体中が痛いな・・・意識飛んでたのか?


 目を開けたが、自分が本当に目を開けているのか判断できないくらいに真っ暗だった。

 手足は思うように動かないし、体もクネクネとのたうつ程度しかできない。

 足や頬に触れるこの感触は岩肌だろうか?

 若干ヌメリのあるような、冷たくてゴツゴツした・・・


 ここは洞窟のようなところか・・・?


 (ものの見事に捕まったなー・・・)


 紅葉(もみじ)に川へ突き落とされて溺れかけ、必死にたどり着いた岸で取り囲まれたもんな・・・。 はぁ・・・


 ゴロン・・・ゴロン・・・ゴロン・・・いてっ・・・ゴロン・・・ うぅぅ・・・

 何度か転がってみたが、出口は分からないし何より目が回って気持ち悪くなってきたので、動くのは早々に諦めた。


 紅葉(もみじ)の事を、確かキウィ様と言ってたよな・・・?

 連れてかれる時に見えたのはエルフっぽかったし、アリス達の村人の生き残りと考えるのが妥当か。

 とすると、アリスも保護されている可能性が高そうだな。


 アリスが一人で夜の森を彷徨っていない事をまずは祈る。

 あいつも結構不運に見舞われてるよなぁ・・・本当に大丈夫だろうか・・・


 ただ、紅葉(もみじ)は丁重に扱われているだろうな。 歓声上がって担ぎ上げられて、連れていかれてたよなぁ・・・相当慕われてたって事か。


 はぁ・・・俺だけこのパターンか?

 そう言えば、エイシャさんは今どうしているんだろう? どうせ死なないと思っているが、一応アリスの母親だし、無下には出来ない。 一番の心配はエイシャさんのトラブルにアリスが巻き込まれてえらい目に合っていないかどうかってところか。


 グゥゥー・・・

 もう考える事も無いかと、思考が途切れたところで腹の虫が鳴った。


 あ~・・・腹減ったな。 ペアーチや肉も持って来てたけど、どうなったかな。。

 バックパックやジップロック、照明やバッテリーには替えが無いし、ボッシュートされていない事を祈るほかなかった。


 喉も乾いた・・・


 ・・・ぴちゃ


 ゴロン・・・ゴロン・・・ゴロン・・・・

 ・・・ゴロン・・・ゴロン・・・ゴロン・・・・うぅ・・・


  眩暈と吐き気に抗いつつ・・・

 「うんしょ・・・うんしょ・・・お、見つけた・・・あー・・・」

 垂れ落ちる水が汚くない事を願いつつ、口を開け続けて喉を潤し、空きっ腹に入れていく・・・


 しかし、寒いな。。

 荷物の毛皮や防具はもちろんの事、服まで剥ぎ取られている・・・。

 (すだれ)のような物で巻かれている事が唯一の救いだった。 ユラユラと体を揺らしていても、中々温かくはならない。 下半身も縮み上がってしまった。 そこかしこが痛いが、五体満足でこうして居られる事は感謝だ。


 ただ、どれだけ意識を失っていたか分からず、当然今が夜なのか朝なのかすらも分からなかった。

 真っ暗で一切何も見えず、垂れ落ちる水音が反響するのみ・・・。

 いつまでこうして居ればいいんだ・・・


 「早く助けてくれ・・・紅葉(もみじ)、アリス・・・ぐすん。。」

 暗闇の中、水音に交じって俺の啜り泣きが反響していた。


―――――――――――――――――――――――――――

 ~数時間前~


 「マ、ママっ!? うっぷ・・・はぁ・・・ぷはっ・・・ダメ・・・流れがはや・・・はっ・・・」


 ママに引っ張られるまま飛び込んだ川の勢いは凄まじく、息継ぎするのもやっとのこと・・・。 川岸まで泳ぐ体力は、私にはもう残されていない。

 モンスタートレインを擦り付けてきたとか、激流に飛び込ませた事への恨みは不思議と出てこなかった。

 ただ・・・サトシに一言伝えたかったな・・・“私も愛してます”って・・・。 言ってくれたのに・・・私はその気持ちを返せないまま。。。

 あー・・・名前も呼んで欲しかったな。。愛称のアリスじゃなくて、アリアって。 でももう叶わないか。

 紅葉(もみじ)様にも何も話せなくて・・・ごめんなさい。。。


 ゴブリンとの地獄から救われて、数日間だったけど私の72年間で最も濃くて幸せな時間だったわ・・・。 あなたと出会えた事、私は幸せでした。 これからを一緒に居られなくて・・・本当にごめんなさい。。。


 私は生きる希望を失っていた。 走馬灯と共に、感謝とそして謝罪を胸に目を閉じて、川底に沈・・・・・・


 「アリアちゃん、手を放しちゃダメッ! わたしにまかせて~っ!」


 ・・・ママ・・・? もう、私疲れちゃったの・・・もう、、、ごめんなさい。。。



 ・・・

 ・・・・・・


 ・・・息ができる・・・? 私は・・・

 「っ!?」

 死を覚悟して閉じていた目を開くと働かない頭のまま、私は激流を丸太だろうか?に跨って川を下っている事に気づいた。 周囲にママは居なかった。

 離さないでと言っていた手は、両手とも何も掴んではいなかった。。。


 川の流れは速いが、流れが潜り込んでいたり、荒れていない事が功を奏しているのだろう。 私は川に流されるまま下流へと進んでいた。

 既に一度経験していた、ママの死。 ゾンビ化して復活していて、また出会えたのは本当に奇跡だった。 それは夢のようで・・・でも現実だった。

 一度失って諦めていたその温かさを、二度失った事が、私の胸に大きな穴を開けていた。

 ただ流されるまま・・・生きながら死んでいるように。


 ・・・


 ・・・お、おぃっ! お前、アリスかっ!?・・・

 おぃ・・・聞こえてないのか!?

 ・・・おぃっ! アリスッ!


 ・・・? 聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた気がした。

 気のせいだろう・・・


 ・・・アリスッ!

 アリスッ!


 「っ!?」

 聞き間違いじゃない! ハッキリと聞こえた。 私の黒歴史みたいな相手の声が。 周囲を見渡すと、たいまつを掲げた彼が走っていた。


 「リュ、リュウ…なの?」


 「あぁ、そうだ。 今、助けるからな! ロープを掴めよっ!」


 リュウが重りと浮きの付いたロープを振り回し、私の前方に投げてきた。

 私はまだ助かる・・・助かる!

 必死にロープ掴んで、リュウに川岸まで引き寄せられて、九死に一生を得た。 黒歴史を思い出すのであまり話したくは無かったが、命の恩人には変わりない。

 「リュウ、ありがとう助かったわ・・・」


 「助けられてよかった。 このまま流されると、滝つぼまで真っ逆さまだったぞ・・・」


 「そ、そう・・・本当にありがとう」

 私は助かった・・・。でも・・・

 中々今を喜ぶ事が出来なかった。




 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・? お尻がモゾモゾする・・・?




 「あら、リュウ君久しぶり~♪ アリアの事助けてくれありがとね~」


 「っ!?」

 

 「え、エイシャ様!?」

 「ママッ!?」


 「もう~ 二人して驚かれたら、どっちから応えればいいのかしら~?」


 「ママが無事ならそれでいいわ・・・」

 正直複雑な心境だった。 胸にぽっかり空いた穴は、急に塞がれてしまった。 ママが無事でいてくれた事は、素直にうれしいけど。。。 頭がボーとしていたから、まさか川下に足を向けたママに跨って下っていた事に気づかなかった。 嬉しさより、恥ずかしさが勝って素直に喜べない。 絶対後でママにからかわれる・・・。

 リュウにゾンビ化の事を説明しながら、さっきからニヤニヤとこちらを見て来るので、頭が痛くなってきた。。。


 リュウもあまりの出来事に、簡単には納得できないようだったが河原で話し続けるのも危険との事で、私達は新しい隠れ里に案内されるのだった。

 ただ・・・私は下着しか付けてないから何か羽織らせて欲しかった。 ほんと気が利かない・・・はぁ・・・。 早く会いたいな。。。


 「ね~ね~ 新しい村は誰が長をやってるのかしら~?」


 「今は、クイナ隊長が兼務なさってますよ」


 「あら、クイナちゃん隊長になってたのね~ 旦那さんは見つかったのかしら・・・?」


 「あ~…えっと…」


 「まぁ!? もしかしてリュウ君が~?」


 「えぇ・・・お恥ずかしながら・・・」


 「それはそれは・・・でも、クイナちゃんなら皆を引っ張っていけそうだし合ってるわね~」


 「おっしゃる通りでしょうね」


 「でも、隊長を兼務となると、子供はまだまだって感じなの~?」


 「はい・・・、エイシャ様に聞くのも申し訳ないのですが、子を成したいとどう伝えれば良いのでしょうか?」


 ・・・


 リュウとママのみで話がどんどん盛り上がって行っている。 私は口を出さない。 絶対に!

 振られると面倒な事になりそうだったので、聞き専に徹していく。 クイナ姉か・・・。


 リュウに連れられて、暗い森を抜けて入り組んだ通路をクネクネ、クネクネ・・・。

 開けたところに出ると、大きな湖が見えた。 月が湖面に浮かび、ユラユラと揺れている。 リュウは足を止める事無く、湖の周囲を回り更に森へ踏み入り・・・背面を崖に守られた小さな集落にたどり着いた。


 木と土で作られた壁に、葉っぱで作られた屋根。 質素だけど、懐かしい生活がそこにはあった。

 でも、以前とは違う面もいくつかあった。


 きっと、村を襲われた経験から練られた対策なのだろう。


 私も住んでいた今は亡き村は、ゴブリンの集団に包囲され、数の暴力に屈した。

 今回の村は全方位される事が無い地形で、且つ複雑に入り組んだ通路を通らないと村へは入れない。 一度通っただけでは覚えられなそうだ。。。


 「エイシャ様、アリスもこちらへどうぞ」


 ひと際大きな家へ私たちは巻き入れられた。 入り口には槍を構えた兵が立っており、鋭い目で見られながらも会釈を受けた。

 「お・・・おじゃまします・・・」

 小声で門番に会釈を返し、ママに続いて家に踏み入った。


 「おい、クイナ隊長に連絡を頼む。 エイシャ様とアリスを保護した。 至急、自宅へ戻って下さいと」


 「はっ!」


 最後にリュウが家に入ってくる。 さっきの門番は、入り口を守っているだけではないようだ。 テレパシーでの伝達が出来るのだろう。


 「クイナ隊長を呼んでおります。 こちらでしばらくお待ちください」

 招かれた部屋には、丸テーブルが置かれており、木を彫って作られた6つの椅子が周囲を囲むように並べられていた。


 「リュウ君、案内ありがとね~」


 ママはすぐさま椅子に座っていた。 物怖じしないというより、ママの存在は村の中で伝説となっていた。 リュウの受け答え含め、さっきの門番もエイシャという名前に一瞬表情が変わっていたのは感じていた。


 「アリスも、気にせず座ってくれ」


 「・・・ありがとう」

 恐る恐るママの隣に座った。 私はママの娘だが、その名声を台無しにするような存在だった。 魔法を使う事が出来ない・・・村の皆もパパも、私を責める物は居なかった。 だけど、周囲の期待を裏切っていたのは幼少期から感じていた。 だから、ママの研究の手伝いに(かこつ)けて引きこもっていた。 そんな私は、こんな堅苦しい場所は苦手だ。 出来るならば今すぐ出ていきたい・・・。


 「アリアちゃん、大丈夫よ~」


 ママが私の背中をぽんぽんと叩きてきた。 不安なのもバレちゃってた・・・恥ずかしくなって顔を俯けた。


 「ねぇ、リュウ君。 アリアちゃんに何か飲み物をもらえないかしら~」


 「少々お待ちください」


 ・・・

 ・・・・・


 「わっと・・・、お、お水をどうぞー・・・」


 「っ!? あ、ありがとう」


 「お水をどうぞー・・・」


 「あ、わたしは要らないわ~ でも、ありがとう~」


 ママは水を運んできた小さな子供の頭を撫でていた。 こんな小さな子供すら、働いているようだった・・・。


 「可愛らしい給仕さんね~」


 「恥ずかしながら、村民不足は深刻ですので誰一人として無駄はおりません。 村民すべてで団結し新たな村を・・・、いえ、建国すると言っていましたか。 クイナ隊長の言葉で皆が率先して働いています」


 「流石、クイナちゃんね~」


 リュウは部屋に戻ってからも、ずっと入り口の横で立ち続けている。 私達は客人扱いなのだろうけど、どうにも居心地が悪い。 水を口に含んでも、のどの渇きは癒えなかった。


 部屋にいるのは、私とママとリュウの3人のみ・・・。

 誰とも声を発する事無く、静かな時間が流れている。


 突如、激しい足音が鳴り響いてきた。


 「リュウ! エイシャ様を保護したってほんとうかっ!?」


 「事実だよ・・・。 というか、少しは威厳を持ってくれ・・・」


 「クイナちゃん、おひさ~」


 ママはは笑顔でクイナ姉に手を振っている。

 泥で薄汚れて、ボサボサのショートヘアには葉っぱもついてた。

 クイナ姉、ほんと変わっていなー。 リュウと結婚したみたいだけど、男勝りなのも変わりないし、“ガハハ! すまんすまん”と大胆に笑っていた。 リュウも。。。葉っぱを取りながら・・・大変そうだった。 クイナ姉を前に、頭を押さえているのが、他人とは思えないレベルだった。


 「アリスも久しぶりだな。 無事だったか?」


 「クイナ姉、久しぶり。 ・・・ゴブリンの地獄は身をもって見てきたわ・・・それでも、こうして生き延びた私は幸運だったのでしょうけど」


 「・・・そうか。。 それでも良く戻って来てくれた。 辛いだろうが、奴らの事は私達以上に知っている部分もあるだろう。 すまないが、その知識を活かして協力して貰えないだろうか」


 「ええ、協力はするわ。 でも、私には帰るところが今別にあるわ。 その人に何も伝えられないまま事故でここに来てしまっているの。 だから、一度帰してもらえないかしら?」

 「あ、わたしも一緒に住んでるから、同じく~」


 「そうでしたか。 しかし、困ったな・・・今森の中にはゴブリンも徘徊していて危険なんだ・・・」


 「そう・・・せめてテレパシーでも、伝えられれば良いのだけど・・・」

 「アリアちゃん、それは~・・・」


 「アリスは・・・使えなかったよな?」


 「・・・えぇ、私は昔と一緒よ・・・まだ何も使えないわ・・・」


 「アリスも知っているだろうが、テレパシーは伝える相手を行使者がハッキリと意識できなければならない事は知っているよな?」


 「えぇ。。。ごめんなさい、無理を言って」

 「アリアちゃん・・・」


 俯く私の背中を、ママは撫でてくれた。 その手に熱は無いけど、心が少しだけ温かくなった気がした。 ママはやっぱりママで、死んでゾンビ化してまで私を助けてくれる。

 「ママ、ありがと・・・」

 涙を流しても、誰もそれを咎める事は無かった。 ただ、静かに落ち着くだけの時間を待ってくれていた。



 「・・・もう大丈夫よ」

 サトシに今の状態を伝える事は、簡単には叶わない。

 紅葉(もみじ)様を探しに飛び出した時のように、私の事も探してくれるだろうか?

 迷惑を掛けたくは無かった。 心配させたくなかった。 でも、探してくれていたら嬉しいな・・・だけど、無理だけはしないで欲しい・・・あなたを失う方が私には怖い。

 一刻も早く帰りたい。 その為の事をしよう、そう強く私は自分に誓った。


 「そうか、それでは・・・おっとすまない、テレパシーが来たようだ」 


 クイナ姉の顔つきが鋭くなった。 あまり良い事では無いのだろう・・・


 「エイシャ様、申し訳ありませんが、獣の類が多数攻め入ってきたようで私も参戦してきますので、本日はこちらでご就寝下さい。 アリスも、今日はゆっくり休んでくれ。 リュウ! お前は、お二人の案内を頼む」


 「はっ!」


 クイナ姉は、すぐさま外に出て行った。 リュウとは夫婦のはずだが、私達の前だからだろうか、それとも役割としてだろうか? ピリピリとした部隊としての規律を感じていた。


 お腹は空いたけど、今日は色々と本当に疲れた。

 案内された部屋には、干し草の上に麻布が敷かれた簡素な寝床があった。 村の生活では当たり前の事だったが、最近ふかふかな布団やマットレスで寝る事を知ってしまった私には、硬く寂しい物であった。

 ママは寝なくて良いはずだが、私の横で寝転がっている・・・。

 柔らかい布団では無くとも、横になるとすぐに眠気が襲ってきた。 本当に疲れていたんだな・・・zzZZZ

ちょっと18日目はまだ続きそうですかね

連日投稿で疲れたので、ちょっときゅうけ~い・・・

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