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18-2.月明かりの下で(18日目)

森に入った智司達。

召喚魔法でチョチョイのチョイッ♪

 ウォーン・・・

 夜の森では、遠くに動物の遠吠えが聞こえてくる。

 一人で踏み込むのは怖いが、胸当ての隙間から顔を出した紅葉(もみじ)と一緒だ。


 「紅葉(もみじ)、こっちで良いのか?」


 「うん、アリスの匂いがこっちからする・・・」


 「助かる、そのまま案内宜しくな」

 装備を身に着けた身体強化で、たいまつの灯りを頼りに木々の間を縫って、南東に向かっている。


 エイシャさんと野菜を探していた時も、東から南東方面を重点的に散策した。 その事を知らないはずの紅葉(もみじ)が、同じ方向を指摘している事はアリスは野菜を探したまま何かに巻き込まれたに違いない。


 今は紅葉(もみじ)の嗅覚と聴覚が頼りだった。 俺は、モンスターが出た時の戦闘要員としての役割が主体になるだろう。 俺には探すスキルが無いのだから・・・・ん?


 ちょっと待て、俺の魔法は何だったっけか・・・

 ①毛穴操作魔法 ←今回無意味だろう

 ②召喚?魔法  ←そ、存在を忘れていた…


 魔法行使での倦怠感も熟れたペアーチで完治している。 1回は間違いなく使えるはずだ。 エイシャさんのピンチは想像できないが、アリスは別だ。 それにもうアリスは、ただの仲間では無い。

 守りたい大切な存在だ。 足を止めて、魔法をイメージしていく・・・


 「どうしたの?」


 「紅葉(もみじ)、ちょっと魔法を試してみようかとね」


 「わぁ♪ サトシも使えるようになったんだねっ どんなの?」


 「成功するかは分からないけどね・・・召喚魔法だよ」


 「すごいっ!」


 俺は目を閉じて集中していく・・・

 どこにいるか分からないアリスを呼び戻したい・・・

 大切な人を救いたい・・・


 目の前に。。。目の前に来てくれっ!


 カッ!

 目を見開くと、俺の前には誰も居なかった。

 失敗か・・・? 距離の制約があるかも知れない。 やはり紅葉(もみじ)を頼るしかないようだった。


 「サトシ・・・?」


 「すまん、失敗したようだ・・・紅葉(もみじ)だけが頼りだ」


 「うん、頑張るよっ!」


 紅葉(もみじ)の案内を頼りに、俺はまた走り始めるのだった。



 「サトシ、もっと南っ!」


 立ち止まって方角を確認して更に進む・・・このまま行けば、熱水の川へ出るはずだ。 森を出てしまうと野菜は無いはずだが・・・


 ジャリッ・・・


 とうとう森を抜けてしまった。

 河原の周りは、木々が無く月明かりに照らされている。 流れる川もキラキラと月明かりを反射して、時折岩で弾ける水流も、バシャバシャと水飛沫を上げて煌めいている。


 「紅葉(もみじ)・・・」


 「ちょっと待って・・・」


 流れる水音以外俺には聞き取れない。 紅葉(もみじ)の言葉を静かに待ち続けるしかなかった。

 ヒュゥ~・・・

 河原を吹き抜けていく風が、森を走り抜けて火照った体を冷ましていく。

 また、紅葉(もみじ)を探し回った時のような入れ違いになる危険ははらんでいる。 だが、家で待っているだけは出来なかった。

 探しに出た旨を伝える置手紙はしたので、前回の反省を一応は活かしているつもりだ。


 ・・・


 数分間静かな時間が流れ、紅葉(もみじ)を待った。


 「川下に向かってっ!」


 「おお!」

 待って居ましたとばかりに、砂利に踏み込んで走り出す。

 作っていた露天風呂も目に入ったが、紅葉(もみじ)からの反応は無い。 まだ東に進めという事だろう。


 ゴォーーーー


 想像でしかなかったが、やはり西の川と南の熱水の川は合流していたか・・・

 二つの川はY字に合流しており、川下はさらに南西へと続いていた。


                           【丘】

 

 

    【大滝】   【大木】        崖―――――――――

     |                      湖

     |                    湖【噴水】湖

    /                       湖

   /                        |

   |                        |

   |        【家】             |

   |                       /

   | ↓イマココ               /

   | _____________【露天】_/

    Y

    |

   /

 /


 「紅葉(もみじ)、まだ川下だよな・・・?」


 「うん・・・もっと先だと思う」


 「そうか・・・」

 大滝側の川幅は15m程あり川底も深く水流が早いので、アリスを助けた時のように筏が無いと渡れないだろう。

 間欠泉から流れる熱水の川側なら、川幅5m程度で川底も浅い。 一先ず南に川を渡って川下を目指すか・・・

 対岸に居ない事を祈るしかないな。


 「ちょっと濡れるかも知れないけど、我慢な! おっぷっΣ」

 すかさず紅葉(もみじ)が胸元から這い出てきて、頭の上に乗った・・・。 小さいと言っても、頭に乗られると首がグラグラする・・・。


 というか、爪立てたら俺の髪の毛が・・・(´・ω:;.:...

 「も、紅葉(もみじ)・・・」


 「濡れるのヤー・・・」


 そう言えば、紅葉(もみじ)は泳げなかったな。。。 

 俺は諦めて毛穴操作魔法を使って、毛髪をキュッと抑え込んだ。

 地味に使い道のある魔法だった・・・


 ザバザバ・・・ ザブッ・・・


 「だ、大丈夫か?」

 危なかった・・・暗くて川底が見えないのもあるが、予想外に深く口元まで水が来て焦ってしまった。 紅葉(もみじ)も驚いたようで、頭皮への刺激が強くなって二重の意味で焦った。


 「うん・・・怖かった。。。」


 温水の川を渡り切ったところで、頭の上から紅葉(もみじ)が河原へ飛び降りた。

 俺も皮手袋を外して頭に触れ、毛がある事を確認する・・・


 毛穴操作魔法は偉大であった。


 「サトシ、そのままだと風邪ひいちゃうから、魔法使ってもいい?」


 「助かるけど、体は大丈夫か?」


 「うん、元気になったし次は気を付けるよっ!」


 「そっか、それじゃお願いするよ」


 「うんっ♪」


 体の周りを優しく温かな風が包み込み、回り始めた・・・

 (あ~-・・・良いわこれぇ・・・)

 走って火照った体だったが、濡れて冷たい風に当たったので凍えていた。 それが、温められて体がほぐれていく・・・


 「できたっ♪」


 鎧の中の服も含め、完全に乾いていた。

 「ありがとう」

 わしゃわしゃと撫でてやると、腕の中に飛び込んできたので抱きしめた。

 ひとしきり撫でると、また鎧の間に潜り込んで頭だけ出す定位置に戻ってきた。


 「しかし、さっきの魔法はすごいな。 服までしっかり乾いてるよ」


 「風がサトシの体全域に行き渡るようにってイメージしながら温めたの♪」


 「風と火の合わせ技か、それはすごいな」

 紅葉(もみじ)の魔法技能は留まる事を知らないようだ・・・。 俺の毛穴魔法にももう少し慈悲を下さい。。。 少しだけうるっと来た。


 「サトシ大丈夫・・・?」


 紅葉(もみじ)には見られていたようだ・・・。

 「大丈夫だよ、それじゃあ進もうか」

 こうして更に川下に向かって走っていくのだった。


――――――――――――――――――――――――――――

 ~数時間前~


 「はぁ~ ほんと美味しかったなぁ♪」


 今日はどんなご飯作ってくれるかな・・・

 あ、まだお鍋の中残ってたし、ポトフだっけ? の残りかな。 ん~・・・それも良い♪ じゃがいも美味しかったし、たくさん取ってこればいっぱい入れてくれるかな?


 えーっと、サトシとママが取ってきたのは、確か・・・にんじんと玉ねぎにじゃがいもだったかな。 他の野菜を持ってきたらサトシ喜んでくれるかな・・・?


 頑張ったら褒めてくれるよね・・・頭も、撫でてくれるかな。。

 抱きしめてくれるかな・・・


 きゃ~♪


 頭の中がお花畑になってる。 自分でも分かってるけど、一緒に居る事ですごく幸せを感じてる。。。 ママに発破かけられてまんまと乗せられた気もするけど、それで良かったって思えるよ。 

 やっぱりママはすごいなぁ・・・

 私には出来ない事も何でも上手くできちゃう・・・ママの娘なのに、私は。。。

 ううんっ、そんな事考えちゃだめっ!

 サトシは私を大切って、嬉しいって言ってくれたよね! 頑張らなきゃ!


 「あっ、じゃがいもあった!」

 んしょっと・・・

 尖った木片を突き刺して、地面を掘り進むと3つのじゃがいもが掘り出せた。

 「幸先好調♪ あ、あっちにもあるわ!」



 「いっぱい取れたわー!」

 じゃがいも15個と玉ねぎ10個、ニンジン8本、白菜3つ、大根1本・・・

 地面に広げていた野菜を種類毎にまとめて袋詰めしていると・・・森を抜けたところに白い湯気が見えた。


 「あれは何・・・かしら?」

 袋を持って森を抜けると、川の水から湯気が立っていた。 

 水に手を付けてみると温かい・・・


 水浴び・・・くらい良いよね?

 服と下着を脱いで未使用の袋に詰め込んで、私は川の中に体を沈めた。


 「気持ちいぃ~♪」

 川に浸かりながら、体を手で撫でるように洗っていくと、採集で付着していた土汚れが落ちていく。


 「服も洗っちゃおっと!」

 もらったセーラー服は、サトシが気に入っているみたいで頻繁に来ているので汚れやすい。 私はジャージが好きだけど、目に見えてしょんぼりしてるから、夜に洗濯している時や寝る時に着ている。


 「ふんふん~ふ~ん♪」

 セーラー服を洗うと、温水の影響だろう良く汚れが落ちた。 石の上に広げて乾かせておく。


 ピチャピチャッ

 「今日もいい天気だわ♪」

 下着姿で、お湯に足をつけてプラプラと揺らしている。 こういうのんびりしたのも良いな~ みんなでここに来るのも良いかもっ! あ・・・でも、一緒に入るのは恥ずかしいかも。。。



 「アリアちゃ~ん!!!」

 

 「あ、ママっ! 探してたんだからね? 一緒に野菜集め・・・」


 「アリアちゃん、逃げて~」


 「マ、ママ? ど、どうしたの、そんなに慌てて」


 「アリアちゃんっ! 死にたくなかったら逃げるが勝ちよ~」


 森の方から来たママは、私の前を横切るとすぐさま向きを変えて、西へ走って行った。

 森の中に目をやると・・・多数のモンスターがこちらにやって来ていた。 


  ドドドドドドドッーーーーー


 「ちょ!? お、置いて行かないでよーっ!!」



 「はぁ・・・はぁ・・・マ、ママはもう死んでるんだから、はぁ・・・大丈夫でしょっ!」


 「いやよ~ 全身壊されたら死んじゃうから~! まだ死にたくな~い!」


 「こ、こっちは、はぁ・・・全身どころじゃないわ、はぁ・・・よっ!」


 「話しながら走ってると、バテるわよ~」


 「だ、誰の、はぁ・・・せいよ・・・」

 一度は死んでゾンビとして復活しているママが、死にたくないと泣き喚ていてる・・・。 こんな状況に私も泣きたいが、そんなママを見ていると何故か冷静になってくる。。。

 あーーーもうっ! せっかく集めた野菜置いてきちゃったし、セーラー服も河原に干したままだし・・・ほんと泣きたい・・・。

 並走するママを睨むが、“いや~ん(„>ω<„ )”なんて状態だ・・・冷静さというか苛立ちと言った方が正しいようだ。


 「アリアちゃん、も~う逃げ場がないわっ!?」


 後方から、そして私達を挟むように北からもモンスターの群れが向かって来ていた。。

 「ママ・・・もうダメだわ。。。」

 足が棒のようになって、動けそうになかった。 死にたくは無かったけど、もう諦めてしまっていた。


 「アリアちゃん・・・ママに任せなさいっ!」


 ザブ~ンッ


 ママに手を引っ張られて、私は川に飛び込まされた・・・

――――――――――――――――――――――――――――


「アリス達見つからないな・・・」

 ほんと、どこまで行っているのやら。


「ごめんなさい、こっちには来ていると思うけど、もうほとんど匂いで追えなくて。。。」


 胸のところで紅葉(もみじ)が悲しそうな声を上げていた。

「いや、ここまで追えたのは紅葉(もみじ)のおかげだよ。 もう少し行ってみよ・・・くっ! 紅葉(もみじ)、気をつけろっ!」


 前方には、狼5匹、イノシシ(小)7匹、イノシシ(大)2匹が待ち構えていた。。。

 一体何が・・・


 「慎重に行くぞ・・・」


 「任せてっ!」


 一声と共に、紅葉(もみじ)が胸から飛び出して敵陣へ単身突撃して行った。

 「ま、待て 紅葉(もみじ)っ!」


 瞬発力は、今の俺でも紅葉(もみじ)には追い付けなかった。

 恰好の的となった紅葉(もみじ)に、14匹ものモンスターが同時攻撃を仕掛けていた・・・


 「くそっ、何でっ! ・・・」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・ ボワッ ドーンッッ!!!


 ゴトッ・ボトボトッ・・チャリィ~ン・・・ バサッ・・・


 お、ぉぅ・・・

 紅葉(もみじ)を中心として、炎の渦が現れたのも束の間・・・竜巻のように上空へ伸びていき敵をまとめて爆散させていた。 炎の爆発と共に、霧散する星の輝きが綺麗だった。


 辺りにはドロップ品が散乱した。


 「紅葉(もみじ)、す・・・すごいな・・・」

 やはり物理より、魔法が便利であった。 俺、もう要らない子・・・


 「サトシの服乾燥させた時のを強くしてみたんだよっ♪ 一網打尽にできたっ♪」


 一歩間違ってたら、俺があれを食らっていたのだろうか・・・? 紅葉(もみじ)恐ろしい子・・・


 一応皮と硬貨だけ拾って更に進むと、人影が見えた。

 「アリスか!?」


 「サトシ、あぶないっ!」


  ヒュンッ!

   ブワッ!


 「どぶぁっ!?」

 ドッボーン・・・

 目の前に、矢が到達するギリギリのところで、突然の突風を受けて俺は川の中に突き落とされた。 


 「うわっっぷ・・っぷ・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 急流の中に投げ出され、必死に泳いで川岸の岩に抱き、助かった・・・


 「キウィ様、ご無事でしたか!? どうぞこちらへ!」


 「えっ!? サ、サトシ~~ッ!? まって、殺さないでーーーっ!」

 紅葉(もみじ)は、見知らぬエルフに取り囲まれて森の中へ連れていかれてしまった。



 「お前は何者だ! 不気味な顔をした異形の者めっ!」


 命からがら岸にたどり着いたが、目の前に矢を構えられて動く事が出来ない状態になってしまった・・・。 異形か・・・俺はこの世界だとやっぱり異質なんだな・・・ゴブリンだもんな・・・。


 「さっさと片付けちまおうぜ?」


 「キウィ様が殺さないでって言って無かったか?」


 「どうだろ? 聞き間違いじゃねぇか?」


 「お前らっ! 一旦そいつはとっつかまえとけっ!」


 「了解っ!」


 死んだ魚のような眼をした俺は、為す術なくエルフに簀巻きにされたのだった・・・。

 そこで俺の記憶は途絶えた・・・。

どうしよかなー

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