16-3.ふたりきり(16日目)
智司はベッドの中でも魔法の事を考えているようだったが・・・
陽が落ちて暗い部屋だが、ベッドサイドにはオレンジ色の温かい光が灯っている。 充電式の電池を用いた電球を点けているのだ。
「紅葉は変わらずか・・・」
また頭や背中を撫でていく。 呼吸は落ち着いているようだし、苦しんではいないようだ。 お腹空いているはずだろうけど、魔力の枯渇は怖いな・・・。
「ペアーチくらい剥いておくか」
箱からペアーチを取り出すと、残数が心もとない事に気づいた。 ペアーチも補充が必要か。
紅葉が起きたら、今度こそ冒険に出かけなきゃな・・・。 調味料も、食料もまだまだ探さなくてはならない。 エルフの村があったくらいだから、きっと何かあるはずだ。 場合によっては、そちらを調査する事も必要かもしれない。 アリスやエイシャさんによるガイドも可能かも知れないので、リスクはあるがリターンが見込めるだろう。
取り皿にペアーチを細かく角切りにして、紅葉が食べやすいように置いておく。 実の状態では腐る事も無いようだったが、そう言えば切身はどうなのかな?と素朴な疑問も浮かぶ。
部屋は、紅葉の寝息が聞こえる程度で静まり返っている。 隣には紅葉が居るが、静かなのも何か寂しいな。 エイシャさんやアリスのところへ行ってみるか?
いや、やめておくか・・・
アリスは困ったと頭を悩ませつつも、エイシャさんと会えた事を喜んでいる事は間違いない。 二人だけの時間を作って上げないと、見栄っ張りなアリスは甘える事もできないだろうしな・・・
クククッっと、今まで見られなかった新しいアリスの一面を思い出しながら、小さく笑ってしまった。
甘えるアリスも可愛いかったし、気にしなくてもいいんだがな。
(俺も寝るか)
紅葉の邪魔をしないように慎重にベッドで横になった。
まだ20時だが、目を閉じる。
イメージの具現が魔法か・・・俺は何ができるんだろうな・・・。
そう言えば、透視とかも魔法でできるのだろうか?
カッコいい魔法は当然憧れる。 だが、魔法と言えば何でも夢が叶うような漠然としたイメージがある。
魔法とはちょっと方向が違うかも知れないが、透視や透明化は男として一度は憧れる物ではないか? 今、俺の周りには裸をじっくり見てしまったアリスや、美乳ゾンビなエイシャさんくらいしか居ない。 でも、そんな彼女達が俺には見せないような姿を覗き見る事ができたら・・・それは背徳感があってすごく興奮する。 廃れてしまったとはいえ、エルフの村があったのならこの世界はまだまだ村や町があってもおかしくは無いだろう。
ここは、俺がこよなく愛する可愛らしい人や動物達で溢れている世界だ。 エロゲのように、立ち絵が全員裸になるような状況も作り上げられるかも知れない。 女性との付き合いは正直疲れるが、性的欲求の時に何とかしたくなるのも男としての悲しい性だ。 こっそり見抜きするなら誰にも迷惑は掛からないから良いよな・・・。
俺は透視をイメージしていく・・・。
目を開け布団を見たが、布団を透視して俺の体が見える事は無かった。
次は透明化・・・
布団から出て、洗面台へ来たが鏡にもバッチリ移っていた。 このままアリス達のところへ行って透明かどうかを確認するまでも無いだろう。。
「やっぱりダメか・・・」
膨らんだ妄想は一気に高ぶったが、冷えて・・・はいかなかった。
ここに来て2週間以上過ぎていた。 生きる事ばかりに集中していて、生活が基盤に乗った頃には既に一人で行動する事は減っていた。 こうして一人になる事は久々なのだ。
俺の息子が“今しかない!”そう告げていた。
トイレは流す事が出来ず、浴室だって同じだ。 ティッシュも貴重だし、どうしたものか? 外に出れば、アリスは居なくとも、エイシャさんには見つかる危険性がある。 なら・・・
俺は洗面台にタオルを敷いて抜く事にした。
オカズはアリスだ。 せっかく仲良くなって来たところだが、すまない。
目を閉じて妄想していく・・・アリスの裸は、助けた時に見てしまっている。 健康的な今は見ていないがそれでも妄想するには十二分な情報を持っていた。 妄想に合わせストロークさせていく・・・
・・・・・・
「・・・えっ!?」
「・・・」
「・・・」
俺のこめかみを冷たい汗が流れていく。 賢者タイムに入った訳じゃない。 まだ熱を持った下半身はそのままに、俺は動く事ができなくなっていた。
「・・・」
一度きり声を発した後は、叫ぶ事も無かった。 恐る恐る目を開けて凝視すると、一糸纏わぬ向こうも動こうとはしていなかった。
ただ、視線は感じる。 洗面台は持ち込んだランタンで淡い光で照らされている。 俺の姿も向こうに見えているはずだった。
「す、すまない・・・」
もう、何を言っても弁解の余地は無いし、この状況は想定外だった。 避けられても仕方ないし、自棄になっていた。
「い、いえ・・・大丈夫、気にしなくていいわ・・・これはサトシの魔法・・・?」
アリスは動転しているのだろうか? 驚きはしつつも、予想外の質問が返ってきた。
「わ、分からない・・・。 本当にすまない・・・申し訳ありません・・・」
謝るしかなかった。 恥ずかしそうに腕で胸を隠しつつ、もう一方では下腹部を隠しはじめたアリスは扇情的に見えて、謝罪の気持ちと興奮がせめぎ合っていた。 冷静に受け答えしているアリスに対し、俺は、息子をしまう事すらできず硬直したままだ。
「・・・そ、そう・・・転移系の魔法なのかも知れないわね。 便利じゃない? 見つかって良かったわね」
「あ、ありがとう・・・だが。。」
「ちょ、ちょっとはビックリしたけど、あなたは寿命の短い人間の男でしょ・・・? そう考えるなら、わたし達よりも生殖願望が強くたって仕方ない事だわ・・・」
「そ、そうか・・・すまない・・・」
アリスは顔を赤らめながらそう言ってきたが、俺の思考は停止したままだった。
「謝らなくてもいいわ。助けてもらった時から、無理やりされる可能性は考えてたのよ・・・」
「・・・そうか」
「それでも今まで強引に求められる事は無かった。 命令されるなら、私は断る事が出来ないって考えてたの。 そうなっても、生かしてもらえるならあの頃の地獄とは比べられないくらい今の生活は幸せよ」
「そうか・・・だが。 俺はアリスに命令なんてしたくなかった・・・こんな形で呼び出したくはなかった・・・俺は、結局ゴブリンと変わらない・・・」
起きたばかりのアリスにゴブリンと怯えられた事が頭をよぎっていく・・・
「ゴブリンとサトシは違うわ。 あなたは襲ったりしていない。 これは事故みたいなものでしょ? ママに言われたからってだけじゃない・・・私は、あなたの事を嫌いじゃないわ。 それは今も同じ・・・」
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「アリアちゃんの事よろしくね~」
ママはあの人に、なんて事を・・・。 さっきも色恋沙汰の話ばっかりされたし・・・。
「あらあら、サトシさん寝ちゃったわね~?」
「疲れてたんじゃない? 寝かせてあげてよ・・・」
ママが疲れの原因なんだから静かにしていて欲しかった。 この人のおかげで、私は今わらっていられる。 ママに会う事が出来たのも結局はこの人のおかげなのだ。
「アリアちゃんは、サトシさんの隣来ないの~?」
「行かないわよっ!」
「でも、アリアちゃんはサトシさんの事を~気に入っているんじゃな~い?」
「・・・嫌いじゃないわね・・・」
好きか嫌いかでいえば、好きなのだろう。 だけど、ハッキリとは言いたくなかった。 紅葉様は、この人の事を私以上に求めている。 私は紅葉様にも嫌われたくはない。 だから、3人で過ごしてきた時間が続く事を望んでる。 この人が私を助けてくれた時に望んでいた事は、今は私の望みでもある。
「そ~なのね~。 アリアちゃんがそんな態度とるの初めてじゃな~い? リュウ君の事はもういいの~?」
「・・・小さい頃の事なんてもう忘れたわよっ!」
ママには魔法でも口でも拮抗する事は出来きそうにない。 私の一方的な敗北ばかりだ。
「キウィ様の事を気にしてるの~? あ、今は紅葉さんだったかな~」
「そうよっ、分かっててそういう事言うのホントやめてよ・・・」
泣きたくなってくる。。 ママは私の事なんて手に取るようにわかるのだろう・・・
「ん~・・・気になるならもっと素直になればいいのに~。 さっきだって、可愛いって言われてたじゃない? サトシさんだって、まんざらでもなさそうだし~?」
「そ、それは・・・今までも求められてそうな視線は何度かあったけど、求めてはくれなかったし・・・」
「なら、求めて貰えたなら素直になるの~? 紅葉さんの事があっても、彼女は神の使いだし、あのままじゃサトシさんの寿命の方が先に尽きるんじゃないかしら~?」
「でも・・・でも、紅葉様に嫌われたくない・・・」
「どうしてそんなに一人しか愛して貰えないなんて考えてるのかしら~?」
「・・・えっ?」
私には盲点だった。 それを考えたら、ずっとモヤモヤしてきたのがパッと晴れていくのが分かった。
「紅葉さんにも気持ちを話して、それで一緒に愛して貰えばいいんじゃな~い? あの方ならきっと分かってくれるとは思うわ~」
「そうかな・・・」
「そうよ~」
「そっか・・・ママ、私も眠くなってきちゃった。 おやすみなさい・・・」
「おやすみ~ それじゃあ、わたしは周囲を警戒してようかな~っと」
目を閉じると頭の中で、さっきママと話していた言葉とサトシの事がグルグルと回っている。 求められるなら、私も素直になってみようかな・・・そう考えるようになっていた。
(サトシ・・・か)
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「同じ。。。って、アリス・・・?」
アリスが俺の事を受け入れてくれているような発言だった・・・。
「そう・・・変わらない。 私はサトシの事を嫌いじゃないわ」
「それって・・・どういう・・・」
何もしない今のままなら、嫌わないで居てくれるという事だろうか? それとも、好きだと言ってくれているのだろうか? 俺はこのまま欲求に流されてしまって良いのだろうか?
「・・・ちょっと予想外に早かったけど・・・、私の事を求めてくれるなら、私はそれを嫌とは思わない・・・嫌とは・・・う・・・」
「う・・・?」
「う、嬉しいって思うわ・・・私を求めてくれてるって分かったから・・・」
アリスの顔は真っ赤になっていた。
俺の顔も真っ赤だろう・・・熱い。 下半身以上に今は、顔が熱いし鼓動も激しい。 これは。。。もう間違いようがなかった。
「い、いいのか・・・?」
「えぇ。 でも、ひとつだけお願いがあるの」
「何・・・?」
ゴクッ・・・
「私と同じくらい・・・いいえ、私以上がいい。 紅葉様の事を大切に思って欲しい。 紅葉様とあなた、そして私でこれからも過ごして行きたい。 私はそれが一番幸せだから・・・」
「あぁ、分かった」
・・・・・・・
身だしなみを整える頃には、日が変わろうとしていた。
「それじゃ・・・私は部屋に戻るわね・・・お願い・・・守ってよね?」
「分かってるよ。 それと・・・ありがとう。 俺も嬉しかった」
「そっ・・・」
パタン・・・
裸のままアリスが部屋から出ていった。 服を貸す程度の気を利かせる事ができないまま、部屋は静かな空間に戻っていく。 寝室に戻ると変わらず紅葉が寝息を立てていた。
私以上・・・か。 アリスの紅葉に対する想いの大きさを知る事が出来た。 俺はその想いにちゃんと応えられるだろうか・・・。
ふふっ・・・えへへ・・・
さっきのひと時を思い出して、ニヤつきが止まらなくなる。
溜まっていたものがスッキリして、心もポカポカしていた。
そして俺にも魔法が使えるようだ。 転移というより召喚に近いだろうが。
朝になったら、エイシャさんに確認を取って無理無いレベルで使い方の練習をしてみよう。
幸せと喜びを噛みしめつつベッドサイドの明かりを消して、俺も眠りにつくのだった。
勢いあまって、今日は一気に書きまくった感じがしますねー。
この後どう進めるか・・・2案考えていますが、どっちにしようかな・・・?




