16-1.魔法(16日目)
眠りを妨げるような、自然音が耳に入ってきた。
手足が痛いな、目が覚めたって訳か。
「ふわぁ~・・・」
目を擦りながら、薄眼で光に慣れさせていくと、日が昇り始めていた。
「おはよ~サトシさん、良く眠れたかしら~?」
あーー・・・昨日の赤髪エルフゾンビの事は夢ではなかったようだ。
「おはようございます。 そちらは早起きですね」
「わたし達はエルフだしね~、と言っても今のわたしは寝る必要ないから徹夜よ~」
流石にゾンビは便利だな・・・というか、マジで陽が出ていても動けるのか。 昨夜の行動は、聞いた通りだったという事が、木漏れ日を浴びながら伸びをしている赤髪エルフゾンビの行動が証明していた。
陽で焼けるとか無いのかよ・・・魔法とは言っていたが、切断した腕がくっついて治るとか睡眠が不要とか禁忌レベルだよな・・・平凡な生活を望んでいたが、朝から頭痛がした。
「便利ですね・・・」
「結構大変だったけどね~」
「ほぉ・・・例えば?」
禁忌の魔法を知る事が出来る好奇心で思考は冴えてきた。 やはり異世界と言えば魔法だろう。 RPGでも武器を振り回すより魔法職が好きだった。 一撃魔法で敵を粉砕とか痛快で・・・
「魔法が成功して目覚めたまでは良かったんだけど、すっごく土が硬くて掘り進めるの大変だったのよね~ あ! わたし達って土葬文化なのよ~」
「そ、それは大変でしたね・・・」
魔法の深淵に近づく事は出来なかったというか、確かに土葬状態から土を掘り進んで地上に上がるのは難儀だろう。 だが・・・俺が求めていたのはそんな話じゃなかった。。
「それと、わたしはご飯要らないからアリアちゃんのみで大丈夫よ~」
「・・・分かりました」
うん、予想してました。 何を使って生きて(?)いるのかが全く分からない。 ほんと便利だなその体。
周囲に目を向けると、アリスは日課と思われる祈りを東を向いて行っていた。
「あなたはアリスと祈らないのですか?」
「あれは、アリアちゃんの願いというか子供の頃に読み聞かせた絵本をずっと信じてるみたいなのよね~。 まだ続けているなんて思いもしなかったけど~」
早起きはエルフの一般のようだが、祈るのはアリス個人の行動だったようだ。 全面的にこのぽわぽわした母親を信じて良いものかと些か不安はあるが。。
そろそろ起きるかと、座ったままの太股を見てみると紅葉は居なかった。 器用な事にジャケット中に潜り込んでいるようだ。 俺が臨月の妊婦のようになっている。
「紅葉、おはよう、だよ? 」
妊婦がお腹を撫でるかのように、ジャケットの上から軽い手つきで紅葉を撫でながら起床を促す。
「むぅ~・・・いやぁー・・・」
いつもの紅葉であった。
手近な蔓でジャケットごと腰で縛り上げ、袋状になった部分に紅葉を入れたまま俺は立ち上がった。 カンガルーの気分である。
「よっと、起きないとこのまま動くからなー?」
「・・・すぅすぅ・・・」
紅葉は起きるどころか、再び眠りに入ったようだ。
軽い朝食を準備するか。
昨日、紅葉は肉を袋に詰めて咥えて持って来ていたがそれは使い切ってしまっている。 だが、アリスが持ってきたと思われる袋が河原に置いてあり、中からペアーチが顔をのぞかせていた。 アリスも祈りが終わったようでこちらに向かってきていたので声を掛けた。
「アリス、おはよう」
「・・・おはよう・・・ですわ」
顔を真っ赤にしたアリスは、どこかたどたどしかった。
「あのペアーチはアリスが持って来てくれたの?」
「へっ? あ、あれは、そうですわ」
「そっか、ありがとな。 朝食として食べたいんだけど良かった?」
「・・・あなたの物なんだから・・・確認する必要なんて無い、わよ」
「あはは、アリスのも剥こうか?」
「・・・ぅぅぅ~・・・ お、お願いするわ」
「それじゃ、かまどのとこで座って待ってて、ついでに薪くべてくれると助かる」
「はぃはぃ、分かったわ」
いつものアリスに戻ってきたようだった。 避けられている感じでは無いので、特に気にする必要も無いだろう。 ペアーチの入った袋を持って、俺もかまどに並んで座った。 それを見た赤髪エルフゾンビもアリスの横に腰かけていた。
ペアーチを一つ取り出し、サバイバルナイフで皮を剥いていく。 リンゴのような皮なので実を回すようにして繋がった一本の赤い皮が足元に落ちた。
「中々上手なのね~」
「これくらいは普通ですよ」
赤髪エルフゾンビは感嘆していたが、厚めに皮を剥いていれば難しい事ではない。
「でも、わたしは魔法以外からっきしだったし、アリアちゃんも不器用だから~」
「!? ママッ!」
「あらあら~、アリアちゃん怒ったら可愛い顔が台無しよ~?」
「・・・もうっ!・・・」
アリスは母親には形無しなようだ。 ただ、ゾンビではあっても母親と再会できた事は喜んでいるようで、表情がコロコロと変わって見ているこちらとしては楽しい限りである。
「はいっ、剥けたよ」
俺は一切れのペアーチをアリスへ手渡した。
「? ありがとう・・・」
シャクッシャクッ
俺もアリスへ手渡した後、実を切り分けて一切れ味わう。 旨い! みずみずしい甘さが、体中に行き渡る。 腹も減っているし、いくつでも入ってしまいそうだ。 二切れ目を食べ終え、アリスに改めて切身を手渡す。
「まぁ~まぁ~v」
赤髪エルフゾンビが、何か言いたげだがアリスが無視しているので触れない方がよさそうだった。 そうこうして、2個のペアーチを食べ終え、朝食は終了となった。
「さてっと・・・」
落ち着いたところで、現状整理しておこうと考えた。 このまま家に戻ってもいいが、食べたばかりだし休憩がてらに赤髪エルフゾンビを交えて話をする事を提案すると、快く承諾された。
「と、その前に・・・紅葉いい加減に起きろー、朝ご飯のペアーチ無くなっちゃうぞ?」
再び膨らんだ腹を撫でていると反応があった。
「私の分は残しておいてー・・・話をするならこのまま聞いてるからぁ・・・ふあぁぁぁ~・・・」
大きな欠伸をしているが、起きてはいたようだ。 やむ無しって事で、お腹に紅葉を入れたまま焚火を囲んでの話し合いが始まった。
「まずは自己紹介からかな。 自分は結城智司。 智司と呼んでくれればいい。 それと、朝は弱いからこうしてお腹に入っているのが、狐の紅葉だ。」
「アリアちゃんは大丈夫だろうから、わたしかな~? わたしは、エイシャ・ラピスよ~。 エイシャって呼んでくれればいいわ~」
「それじゃ、エイシャさんで」
「エイシャ、よろしく~・・・zzZZ」
俺と紅葉はそれぞれ呼び方を決めたが・・・紅葉のやつまた寝入りそうだぞ。。。
「お母さんって呼んでくれてもいいのよ~? っゔ!?」
「っ!? 遠慮しておきます」
アリスが、エイシャさんの口に飛び掛かるように塞いでいた。 地中から蘇ったくらいだから、呼吸すら必要なさそうだが、口を塞ぐことで喋れなくは出来るようだった。 それが分かったところで、何だっていう程度だが。。
「はぁはぁ・・・マ・・・お母さんの事は、私から話すわ。 お母さんは黙ってて!」
「・・・あらあら~? いつもみたいにママって呼んでくれれば良いのに、恥ずかしがり屋さんなんだから~」
「ゔあぁぁぁぁー!?」
息切れからか、締めていた腕が緩んだと同時にエイシャさんの発言でアリスが爆発した。
エイシャさんにチョークスリーパーを掛けるがごとく、首を絞めているが悲しいかな効果は今一つなようだ。 ただ、発言を止めさせる事は出来ているので、十分なのかもしれない。
エイシャさんの事を聞こうと思っていたが、当の本人は娘に首を締めあげられ、諦めたように脱力したまま、とても可愛い笑顔をこちらに向けている。 すごく・・・シュールです。
「はぁはぁ・・・えっと・・・お母さんの事だったわね・・・」
「あ、アリス・・・ゆっくりでいいからな・・・?」
真っ赤になりながら息切れしているアリスを落ち着かせながら、話は続いていった。 エイシャさんもチョークスリーパーから解放され、聞いた経緯はこうだ。
エイシャさんは50年ほど前に起きたゴブリンとの闘争で、旦那を失いそのショックで・・・という訳でなく、普通に30年前に老衰で亡くなったようだ。 夫が亡くなった時にも復活の魔法を施したが、蘇る事は無かったようだ。 その失敗を糧に村の住人にも了解が得られた場合は、復活の魔法を施し続けたが同じく誰一人として蘇る事はなかったという。 それでも改良を続け、自らは復活する事に成功したと。 結構アグレッシブというか、マッドなサイエンティストな雰囲気が話からは伺えた。
そして、硬い土を10年間掘り続けてやっと最近出てこれたとのことらしい・・・気が遠くなりそうだった。
それと、アリスは現在72歳らしい。 72歳・・・72歳・・・ロリババア枠としても何という中途半端な・・・まぁ、可愛ければ良いのか。 エイシャさんは、510歳という大往生で亡くなったとの事だが、復活した事もあって540歳が適当とのこと。 魔法の調整によって、400歳あたりの頃の容姿で蘇っているようだ。 エルフの寿命は500歳が限界らしいが、10代前半の成長は、俺のような人間と同じようだが、それ以降の成長がとても遅く、400代後半でも容姿筋力共に衰えが見られない場合もあるようだ。 エイシャさんは正にそのパターンらしく・・・。
竹林に倒れていたのは、遠方から俺と紅葉が見えたので、久々に出会えた人型の生き物との交流がてら驚かそうと死んだふりをして待ち構えていたとのこと・・・マジだったらしい。。。
紅葉は知っていたようだが、キウィ様というのがアリス達の村には神の使者として住んでいたようだ。 その人(?)に紅葉がよく似ているとの事だが、紅葉にその記憶はない模様。 ペアーチも村で似たような物が極僅からしいが流通していた様で、神果として強力な力を持った果実だったようだ。 ペアーチと同じなのかは分からないが、エイシャさんがペアーチに触れると、火傷するくらいに熱いと痛覚があった事に驚いていた。 若干指先が焦げたような感じだったが、きっと大丈夫だろう・・・
後は、アリス達のラピス家は代々青色の目を持って生まれており、魔法の適性が低い家系だったようだ。 そんな中、魔力適性が高い赤い目・髪をしたエイシャさんを、アリスの父親が射止め、アリスが生まれたとのこと。 ただ、アリスにはエイシャさんの魔法適正は一切受け継がれていないようで、一代で築きあげられた大魔法士の血は途絶えてしまったようだ。 昨日も朧げに聞いていたが、エルフ以外でも多くの人が何かしらの魔法適正をもっており、1芸程度は出来るらしい。 ただラピス家は、村のエルフの中でも唯一代々魔法を使えない家系なようで、気苦労が絶えないらしい。 それに漏れずアリスも魔法の才能は一切なかったとのこと。 弓の才を極め、何とか村八分を防いできたらしいが、アリスが根っからのお母さんっ子だったらしく、魔法適正は無くとも魔法研究の助手として部屋に籠りっぱなしだったようだ。
とても濃い話がたくさん聞けた。
ゴブリンは一体一体は大した事は無いが、大魔法士を以てしてもその繁殖力に裏打ちされた数の暴力は警戒に当たる物だと言うこと。 アリス達の村は、そんなゴブリンの軍勢に蹂躙され壊滅した。 キウィ様という存在が居たということ。 これらは重要な事だろうとしっかりと記憶しておいた。
そんなことより! 今は魔法だろう! 魔法が使えれば色々な事ができる! 今までできなかったことが出来るだろうし、空とかも飛べちゃったり? あ~~~~!!! 楽しみだっ!
俺の頭の中は、魔法に対するワクワクでいっぱいだった!
「色々と聞けて参考になりました。 有り難うございます」
俺は、エイシャさんに頭を下げて今回の話し合いはお開きにする事に決めた。
「それと、早速なんですが魔法を教えて貰えませんか?」
「えぇ、いいわよ~ アリアちゃんも一緒にど~う?」
「私は・・・」
「アリスも一緒にやってみようよ、もしかして今ならできるかも知れないよ?」
「はぁ~・・・分かったわ」
ため息交じりに渋々アリスも魔法の勉強に参加する事となった。
「はぁ~い、それではエイシャ先生の魔法教室、はっじまるよ~♪」
「・・・ヮァー・・・」
俺も、やっと起きた紅葉も、アリスも、同様に言葉にならない声が漏れていた。
「まず、魔法を使うにはそれぞれが内包している魔法の力を消費しま~す。 なので、内包している力の総量が尽きちゃうと魔法は使えなくなりま~す」
良くあるRPGでいうところのMPって事か。 口調にちょくちょくイラっと来るが、魔法を覚えるためだと抑え込んだ。
「魔法はその力の消費量によって、効果が変わったりします~ぅ 今わたしは使う事ができないけど、例えば火を起こす魔法の場合は~力の消費量が少なければちっちゃな炎になるし、多ければ大きくて強い炎になりま~す」
「それと~、魔法は自分に対して効果がある物は、総じて消費量が少なくて~、他者に与えたり放出するものは消費量が多めだと覚えておいてね~。 まぁ、練度というか慣れてこればどっちも消費効率を下げる事もできるんだけどね~」
ふむふむ・・・大魔法は当然MP消費が大きく、放出系魔法は魔力が霧散しやすいって事なのかね。 それと練度システムのような物もあるのか・・・
「で! さっそく魔法の使い方なんだけど~」
うぉぉぉぉ! 待ってましたー!!!
「それは~・・・」
「イメージよ~♪」
「ぉぅ・・・」
イメージしろってか・・・。 どっかのカードゲームのTVアニメを思い出してしまったが、そういう事なのだろうか・・・?
「イメージ・・・? 詠唱のような物とかないのか? さっきの炎だったら、“火出ろっ!”みたいに?」
「そうよ~ 詠唱する事でイメージを強く持ったりする為に唱える人もいるけど~、唱えなくて同じように出来れば便利じゃな~い? 要はハッキリとしたイメージを持つ事が魔法の行使だからね~」
「確かにそうか・・・」
戦闘中に長々と詠唱していたら的にしかならないし、スキを作らずに魔法が使えればそれに越した事は無いな。
「あっ、それと~ イメージする事で魔法が使えるけど、それぞれが内包している魔法力によってイメージが発現するかは相性だから、何でもは使えないからね~」
自分の属性によって、使える魔法の属性が決まるって感じか?
「でもでも~ わたしがそうだったけど、色々な魔法が使える場合もあるから諦めずにイメージの挑戦をしてね~ まずは代表的な、火や水、風、土、雷、光、闇 他には毒とか植物とか~まぁ色々だね~」
「よし、分かった・・・紅葉、一緒に順番にイメージの練習しよっか」
「うん、頑張るー」
俺と紅葉は隣り合ってイメージトレーニングを始める事にした。
「まずは、火かな。 目の前に炎もあるし、それを見ながら薪に火を点ける事をイメージしてみよっか」
「火が使えるようになったら、火起こし要らなくなるねっ♪」
「あぁ、そうだな。 めっちゃ便利だよ。 よーしやるか!」
目の前の炎を見つめる・・・赤く揺れて、そして熱い熱量を持って・・・。 この炎が火の点いていない薪へ点る事をイメージする・・・。 燃えろ! 燃えろ!
だが、薪は何も変化していなかった。
イメージ力が足りないのか? 目を閉じて深呼吸をしてから深くイメージを形にしていく。 目の前にあるはずの薪へ、火が点くことを・・・燃え上がる炎を・・・
しかし、火は点かなかった。 俺には火に対する適正が無いのかも知れないし、そんな簡単に扱えるものではない可能性も高い。 こんなにも簡単なら、今までの生活で何か起きていたっておかしくないからだ。 もう少し練習が必要だろうか。
そんな事を考えていると、隣が熱くなってきている事に気づいた。
「紅葉・・・?」
俺の隣で、大量の薪を炎で燃やしている紅葉が居た・・・。 口から火を噴いているようだ。 楽しそうにボォーボォーと炎を噴射している。
「サトシー♪ できたー♪」
「おぉ! やったな、紅葉! 野宿する時の点火は紅葉頼むぞ」
「任せてー!」
俺はめちゃくちゃ紅葉を撫でまわした。
紅葉にコツを聞いて、体から放出するイメージで炎を出す事もイメージに組み込む事に挑戦した。 紅葉が口から噴くように、俺は手から・・・
(炎よ・・・!)
目を開くとそこには・・・焦げ付きすら皆無の薪が転がっていた。
「ダメ・・・か」
「まだ一つ目だし、サトシに合うものもきっとあるよー、がんばろー」
「そうだな、次は水にしよっか。 これも横に川が流れてるしイメージしやすそうだ」
「水が出せれば、もう水汲みも要らなくなる?」
「ああ、これも出来たら便利だな」
紅葉が炎を出してくれた。 これは今後の生活ってかサバイバルで大いに役立つ。 戦闘でも活躍できるだろう。 今、正直重要なのは戦闘よりも生活だろう。 アパートの周りに居れば安全なようだし、よりよい生活環境を得られるならそれに越した事は無い。 危険を冒さずして生活できるなら、それに越した事は無いのだ! そう、俺は自堕落が基本だから、ダラダラする事を優先したい!
(水・・・水か。 飲み水に、お風呂やシャワー・・・素晴らしい!)
再び俺は、目を閉じてイメージする。 もちろんカードバトルではなく、降り注ぐ天の恵みを・・・
極小の範囲でもいい・・・この手を濡らす程度の雨を・・・!
長い間目を閉じていたので些か眩しい・・・いや、この眩しさは魔法の発動か!?
目を見開くと・・・
「わー雨だー♪ 冷たーい! 火が消えたー!」
紅葉がワイワイとはしゃいでいた。 俺の手は濡れていなかった。 秋のような乾いた風で湿り気一つない。 というか、赤切れするんじゃないかってくらいに乾いていた。
「も、紅葉は水も出せたの?」
「わかんなーい。 水ーって思ったら雨が降ってきたのー」
「んー・・・それじゃ、俺の手の中に水を出してくれないか? やってみてくれ」
紅葉にも見えるように、俺は両手で水を掬うかのように構えた。
「やってみるねー」
ポタ・・・ジャババ~~~~~
「できた、出来たー♪」
「紅葉、ストップ! ストーップ!」
「もういいの?」
「もう十分わかったから、大丈夫だよ。 紅葉には、水も頼る事になりそうだな」
「良いよ! 任せてっ!」
俺の足元は、手から零れ落ちた大量の水でビチャビチャになっていた。 靴もズボンも濡れてしまったが、今後水の心配も無くなったようだ。 しかし、俺は何も出来ていないのに紅葉は優秀であった。 狐火とかってイメージもあるし、火が使えるのは想定内だったがまさか水も使えるとは。
「あら~ 流石紅葉ちゃんね~。 火と水がもうこんなに使えるなんて、優秀な魔法士になれそうだわ~、がんばってね~。 さぁ! アリアちゃんも負けずに頑張って!」
「できないよぉ・・・できないよママァ・・・」
エイシャさんが、ビシビシとアリスを鍛えているようだった。 結構スパルタかもしれない。 ただアリスは泣きじゃくっていたが。 それと、ママ呼びに戻ってるんだな。
その後も、色々と俺と紅葉、アリスの三人はイメージ作りに挑戦していった。
紅葉は結局、火や水以外にも土や植物等々使えるようで、今は魔法力を使い果たして疲れて眠ってしまっている。 エイシャさん曰く、内包する魔力総量を理解した上で行使しないと、このように突如疲れ果てて眠ってしまうので、戦闘中は危険とのこと。 訓練の中で自分の上限を把握しておくのが重要という事だ。
まるで飲酒で自分が吐く限界や、寝入る限界を探るようだと思ってしまったが口にはしない。
俺とアリスはというと、思いつく限りの属性っぽいものは一通り試したが、何の成果も得られなかった。 ポケ○ンを思い出しながら、数々のタイプをイメージしたんだがなぁ・・・。 まだ日常生活の中に試していない魔法に繋がるイメージが残っているかも知れない。
「アリス・・・俺達は魔法の才能がないんじゃない。 内包する魔力に合ったイメージを見つけられていないだけだ・・・。だから、一緒に頑張ろうな・・・」
「・・・私はあんまり自信ないわ・・・」
アリスは遠い目をしていた。
60年以上も同じような事をしてきたのだろう、今日一日だけの挫折じゃないのだろうから・・・
周囲には紅葉の力によって、石で作られた大人3人くらいが寝転がれるドーム、15mはあろうかという大木が生え、幹には蔓と木材で組まれた螺旋階段があり地上10m辺りには小さなウッドハウスが建設されている。
正直、俺やアリスは要らない子かも知れない。 俺もアリスも紅葉が色々できるので、どんどんと面白い想像を伝え、実現させた結果がこれだ。
正直やりすぎた感はあるが、野宿用のドームに物見櫓は役立つだろう。
俺達にはこんな才能は無いだろうが、今日は面白い体験ができたと思う。
陽は頂点に差し掛かっていた。 河原で半日も魔法の練習をしていたようだ。
腹も減ってきたし、家に帰ろうかという事で洗濯物とせっかく詰めた水は運ぶ事にして、皆でアパートへ向かうのだった。
キリ良い感じなので30話はこれで完了かなー




