15-2.日中の出来事(15日目)
アリスから問われた着方の分からない服3種はもちろんアレだろう・・・。
智司の精神は持つのだろうか?
放置しすぎて作者も忘れかけた続きが、遂に再始動し始めた!
「どれが分からなかったのかな?」
冷え切った一筋の汗が、俺の背中を流れていった。
「これよ」
部屋に戻ったアリスの手には、さっきのやり取りで予想した物が握られていた。
そう、水着とブラとショーツだった・・・。
「こ、これか・・・」
俺の背中をまた汗が流れ落ちていく。
思考をフル回転させるまでもなく、アリスを見つめる俺の視線は下がっていた。視線とは反対に俺の一部が上を目指そうとしていた。
(ダメだ・・・ダメだ・・・。)
目を閉じ、思考を切り替えていく・・・。
(暑苦しい満員電車、汗をかいたおっさんが乗ってきた。汗と共に強烈なワキガ臭が辺りを包み込む。ギュウギュウと押され、やがて腕と腕が触れ合ってしまった。汗ばんだ腕はベタついていて、電車の揺れと共にヌルヌルとした感触が伝わってくる。。数分間の我慢だろうが、永遠の様に長い。車内エアコンの風向きが変わる度、フレッシュな空気を送ってはくれるが、それは一瞬の事であり、次の風を待ち望む時間の方が何倍も長い。ただひたすらに時間が過ぎ去るのを耐えて待つのみ。)
そんな情景によって、すべてが萎えていく。。。
・・・ねぇっ! ねぇったら! ・・・ちょっとっ!
目を開けるとアリスが俺に声を掛けていたようだった。
俺の精神統一(?)で難は去ったが、アリスは怪訝な顔をしていた。
(そんな顔を俺に向けないでくれ・・・。 今は意識を向けないように、冷静で居られるように精一杯頑張っているのだから。)
「ごめんね・・・それじゃ、一つずつ説明するよ」
「・・・お願いするわ」
・・・ぶるっ
アリスにジト目で見上げられ、背中に電気が流れるように俺は一度震えた。
「えーっと・・・・・・。 まずは、ショーツと呼んでるこれからかな」
最も話題にし難かったが、これを何とかしないと俺の精神が保ちそうになかったので、真っ先に一番の爆弾を選択した。
プラBOXの上に広げられた、頭を痛める3種の衣服からショーツを摘みあげてアリスに見せた。
「それと、こっちのも服なの? どう見てもそんな風には・・・」
アリスは、ブラジャーを指差しながら首を傾げていた。
俺の視線はアリスの指から腕へ、そして胸・・・更に下へとまた流れて行ってしまった為、目を閉じて目頭を押さえて自問自答して満員電車をまた思い浮かべた。
仕方ないよね、だって俺が男でアリスは可愛い女の子なのだから・・・。
「サトシ、大丈夫?」
「あぁ、ちょっと目にゴミが入っただけだよ」
俺の肩に飛び乗った紅葉が心配そうに声を掛けてきたので、咄嗟に嘘をついてしまった。 この嘘は、紅葉との関係性を円滑にする為に必要なものだと自分に言い聞かせながら。
「なら、良かったよ♪」
肩は少し重いけど、それは苦にならないくらい紅葉の笑顔は汚れた俺の心を洗い流し、落ち着く事が出来た。
「えーっと、説明が途切れちゃったけど、このショーツは下半身に身に着ける物なんだ。どうやって身に着けるのかというと・・・」
両サイドの解けたリボンを片側だけ結び、輪を作った状態でアリスの方へ向けた。
「紐を結んだ事で、輪がここに出来てるよね。ここに足を通すんだよ」
「両方とも結んだままにしておけば良いのに何故解けていたの?」
アリスが痛い所を突いてきた。趣味で紐パンを選んだからとか、ニーナちゃんに穿かせて居たのを脱がしたからです!と潔くは言えない・・・。
「それは、色々な人にサイズが合わせられるように調節出来るようにする為に紐になっているんだよ」
頭をフル回転させた結果だった。
「なるほど。中々に考えられた服だったのね・・・興味深いわね」
「でしょ? だからアリスが着易いようにと解いてたんだよ」
さっきから背中を冷たい汗が流れ続けている。
「ただ、その服って何の為に着るのかしら?」
「・・・ぇっ?」
アリスから投げかけられた質問の意図が俺には理解できず、驚きの声が漏れた。
「な、何の為って下着は当たり前のように身に着けるものなんじゃ・・・」
「そうなの? 私達は確かに上着の下には柔らかい生地を身に着けては居たけれど、下は・・・」
アリスは俺の返した答えに納得がいかず、首を傾げるばかりであった。
俺も余計な事(今は!)を考えずに、冷静に分析をしよう・・・
そう言えば、昔・・・
日本の一般女性が下着を着用する文化は、まだ100年経っていないと調べて驚愕した事を思い出した。
そう、世界的に見ても現代のようなショーツという物は、まだ登場して新しい物である。 古代は褌の様な物や、布を巻きつけるだけの簡素な物だった。 それに袴のような物を穿いてしまえば、そもそも下着を身に着ける必要もなかった。 恥ずかしくて隠すというならば、肌着,上着なんていう概念は必要ない。 肌触りが・・・なんてのは贅沢な思考だと言われればその通りである。
日本の場合は島国だった事もあり、海外の下着文化が入ってくるのが随分と遅かったのであった。
小学生高学年や中学生男子の知識欲求というか、まぁ色々な物は、時折変な方向へ進む事もあるけど、それがまさか役に立つなんて・・・
アリス達の文明は、当時の日本のように孤立した物か、はたまた貧しいものだったと想定できた。 うちの生活に順応しているような感じがしたが、そう言えば異様に毛布に愛着を持っている事を、紅葉が話していたな。
俺はアリスに便利で快適な生活を満喫させてやりたいと考えた。
どう説明するれば、アリスは納得するだろうか・・・?
「・・・ねぇアリス。このショーツは汚れても簡単に洗えるし、作りも簡単だ。 服は構造も複雑で高価だ。 生活の中で服が汚れにくくなるって言うのは価値ある物だと思わないかな?」
「・・・。 確かにそうね。 でも、これだってすごく柔らかくて良い物だわ・・・」
ショーツの生地を撫でながら、アリスは戸惑っているように見えた。
「それは、俺も紅葉も使えなくて仕舞っておくしかなかった。だからアリスが使ってくれると、そのショーツは本望だと思うよ」
「・・・そう。なら、ありがたく使わせてもらうわ。 ありがとう」
何だろうか? 今までのアリスとの会話で一番感謝されたような気がした。
「早速穿いてみる? 俺が居ないと使えないようじゃ今後困るしね」
俺自身が一番困る事はもちろん一切伝えなかった。
「なら、穿いてみるわ。 そこで待っていて」
「あぁ」
アリスはショーツを持って、部屋に入っていった。
「サトシ・・・掃除頑張ろうね・・・」
黙っていた紅葉から、どんよりとした言葉が投げかけられた。
理由は一目瞭然だった。 砂だらけのフローリングが目に入り、玄関には草履がなく確実に土足のまま部屋に上がっているようだった。 俺も部屋の掃除が大変だなと苦笑いするしかなかった。
ハードな一仕事を終え、一息つけると思ったがまだブラと水着がある事を思い出して、午前中はこれで全てが終る事を覚悟する他なかった。
周囲の木々は赤く染まり秋の訪れを感じさせるが、昼間の陽射しは温かく心地の良い風が吹いている。
数分経ったが、アリスは部屋に入ったままである。
洗濯や水汲みを午前中で終らせる予定だったが、腕時計を確認すると間もなく12時だ。
「アリス遅いねー・・・」
俺のヤキモキした気持ちが伝わったのか、首に巻きついていた紅葉が俺の気持ちを代弁していた。
「初めてだし、苦戦しているのかもな。俺が行ったらダメそうだし、紅葉確認してきてくれる?」
「はぁ~い」
さっと俺の首から飛び降りると、すぐさま部屋へと入っていった。
アリス、いつまでかかってるの~?とか、も・・・紅葉様っ申し訳ありません!とか、ゴンゴンと何かがぶつかる音が部屋の奥から響いてくる・・・。
(・・・不安しかない)
「紅葉ー、大丈夫そうか?」
しばらく反応はなかったが、紅葉が玄関に戻ってきた。 アリスは居ないところを見るとダメだったという事だろう。
「アリス、不器用・・・」
紅葉がバッサリと吐き捨てていた。
「でも、草履作ってたみたいだし、慣れればきっと!」
「そうだけど、今はダメそうだよ?」
「そうか・・・」
「だから、サトシが着けさせてあげて。アリスには言っといたから」
「・・・は? 今何と・・・・」
俺の聞き間違いだろうか、アリスに紐パンを俺が穿かせると・・・? しかもそれをアリスが納得・・・?
「だからー・・・」
紅葉は面倒くさそうだったが、説明してくれた。
アリスがあまりにも苦戦して時間ばかり掛かるから、色々一日の作業が進まないので説教したようだ。 ゴンゴンと音が鳴っていたのは、アリスが頭を床に打ち付けていたからで、アリスにばかり時間を使っていられないので俺が着させる事でアリスが折れたようだ。
紅葉が怖くなる時が時々あったが、今回は特に怖い。 本当に怒らせてはいけなさそうだ・・・。
「アリス、入るねー・・・」
一応声を掛けて、恐る恐ると部屋に入っていく。砂だらけのフローリングではあったが、土足では上がらなかった。
おでこが赤くなったアリスは毛布に包まった状態で、目に涙を浮かべていた。
「・・・お手数おかけします・・・ぐすっ・・・」
「だ、大丈夫だから。 初めてだし仕方ないよ」
お世辞ではなく、本心だった。 正直可哀想に思えてきた。
横目で紅葉を見ると、目が吊り上っていた。とても穏やかでは無さそうだ、さっさと終らせるべきであろう。
「えっと、今どんな状態かな、アリス?」
「・・・お願いします」
丸まって捻じれた緑の縞柄の紐パンを手渡された。
大切な事なので、もう一度確認しよう。
ブロンドヘアの涙目な美少女から、緑の縞柄紐パンを手渡されて私に穿かせて下さいとお願いされているのだ。
何でこうなった!?とか、役得だぜっ!とかそんな思考は吹き飛び、何故かごめんなさいと俺が言いたくなる状況がそこにはあった。おっさんに挨拶されたとかで通報される事案とは次元が違った。
これはどう考えても犯罪臭しかしない。
ただ、今も紅葉の目は鋭いままだ。もたもたしていると俺にまで火の粉が降りかかりそうだった。
(すまん、アリス! この埋め合わせは今度するから・・・)
「アリス・・・立てるかな?」
「はぃ」
丸まったショーツを広げて、弱々しいが立ち上がったアリスの片足に結ばれて輪なった方を通していく。
アリスの身長は低い。 だが俺は接近した状態でしゃがんでいるし、何よりも丈の短いスカートを穿かせている。 上を見上げれば、色々見えるだろう。 助けた時に見ていると言えばその通りだが、非常事態と今は違う。 健康的で元気な今のアリスの体を見るのは色々と問題がある。
まぁ・・・紅葉の関係でアリスは人形状態で元気とは言い辛いし、見たら見たで俺もアリスと同じ道を歩む事になりそうである。
「・・・アリス、穿き方見えるかな?」
俺はアリスの脚を見ながら話しかけていた。 足も透き通るような白さで、無駄毛は一切なくすべすべだろう。 爪も磨いているのかと思うくらいに綺麗である。 マニキュアやヤスリ何て使っていないだろうが。
平常時の俺ならきっと色々と元気になっていただろうが、今の俺は違う。 修行僧だった。
「ん・・・見えた。 ぅん・・・」
スカートをたくし上げたのかも知れない。 衣擦れが耳のすぐ近くで聞こえたのだ。
「それで、このままあげて行くんだけど・・・、えーっと結んでない方も足を通して両方の紐を持ってね・・・」
「・・・はぃ・・・」
俺が持っていた部分を、アリスに持たせて上にあげる事を伝えた。
「でき・・・ました」
あげきったのだろうか? それともちゃんと結んで穿けたのだろうか?
「見ても・・・大丈夫かな・・・?」
「・・・は、はぃ」
お互いにビクビクしていて、かなり空気は悪かった。
ゆっくりと顔をあげると、結びきれておらず緩々で中が見えてしまいそうな状態の縞パンが目の前にあった。
「アリス、反対側はそのまま押さえててね。 それで、こっちをよく見ててね」
「ぅん・・・」
キュッ
「痛かったり、きつかったりはしないかな?」
「・・・ぅん、大丈夫・・・」
「なら・・・良かった。 結ぶのは腰の所でしてね。 ここで結ばないと落ちちゃうから。 それと今回は俺が反対側をてきとうに結んだせいで穿きにくかったんだよ。 次からはきっと大丈夫。 そしたら、反対側を俺がやったように結んでみてね」
「はい・・・」
アリスは、結ばれていた紐を解いて結びなおしているようだ。 失敗したのか「あっ!」とか聞こえたが、ゆっくり下を見ながら待つ事としよう。 俺の息子も今は静かで良い子だった。
「は・・・穿けましたっ!」
足の指綺麗だなと無心になっていたら、遂に穿けたようだ。アリスの言葉に活気が出ていた。
「・・・おめでとうっ!」
しゃがんでいた俺も、アリスから一歩下がって立ち上がり手を取り合って喜んだ。
共に抱き合うように喜びを分かち合っていた。
「はぁ~・・・」
紅葉の大きな溜息で、俺とアリスはハッとして離れた。 名残惜しい感じもあったが、吊り橋効果の様な一時的な物だろう。 2人して小さな苦笑いをした後、アリスは身だしなみを整えていた。
「紅葉、もう12時過ぎちゃったけど、これから洗濯と水汲みに着いて来てくれる? 昼ご飯は、食べる時間遅かったし無しで良いよね・・・?」
「今日何にも出来てないもんね、しょうがないな~」
アリスへの圧迫と思われる発言と共に、語尾が上がっているのは喜んでいるって事だろうか? 俺の選択はあっていると思いたい。 少しの間だけでも、紅葉とアリスを離した方が良いだろうと感じたからだ。
紅葉は基本的に優しいし、気が利くが感情的になりやすいのが最近分かってきた。
アリスは紅葉を崇拝しているが為、強く言われると萎縮する傾向が強い。
この状況で、中立な立場なのが俺だ。 うまく動けさえすれば、3人の生活はスムーズになるのはずだから。
「アリス、他の服は一旦置いといてまた後にしようか。 それとアリスにも仕事を頼みたい」
「・・・何でしょうか?」
「そんなに難しい事じゃないよ。 んと、部屋に入る時は草履を入り口で脱いでね。 今は床が砂だらけだから、これから持ってくる箒で綺麗に外へ掃き出して欲しいんだ」
「ご・・・ごめんなさい。 今後気をつけます」
えらく低姿勢だ。 紅葉の威光が強烈に利いているのが肌でも感じられる。
「気にしないで、それじゃお願いね」
陽は頂点をとうに通り過ぎ、ギラギラと川原を照らしていた。
アリスに箒を渡して使い方を教えた後、すぐに紅葉と川へ向かったのだ。
川の雰囲気は初めて見た頃となんら変わらない。 ただキラキラと陽を受けてきらめいている。
着込んだ鎧が森を抜け、陽を浴びているので熱くなってきた。 熱耐性は無いのかも知れない。
「サトシ~、はやく~!」
紅葉は、はしゃいでいる。
家を出てからすぐに、紅葉はアリスの非難を口にしていた。 まぁ非難といっても、生活にまだ慣れていないのもあるだろうし、これからだよって事でその話は打ち切った。
それよりもと、俺から切り出したのは・・・
「こうして2人で外出するのって何だか久々だな」
「あっ! ほんとだっ」
「正直、アリス助けてからバタバタしたもんなー・・・」
「ほんとだよ~生活が楽になるどころか忙しくなったしぃ。 朝ゆっくり出来なくなった!」
「ん? 紅葉、今日何時に起きたか覚えてる?」
「ぁっ・・・・ん~・・・サトシが忙しくなって大変だーって事・・・だよっ!」
「あはは、紅葉が手伝ってくれたら、俺も楽できるのになぁ」
「ぅ~・・・」
「あははっw まだまだ大丈夫だよ。 心配してくれてありがとな」
一輪車を置いて、乗っていた紅葉を撫でてやった。
「俺がほんとうに大変になってたら、言わなくても紅葉は手伝ってくれるって分かってるから心配してないよ。 だから、紅葉は紅葉の考えるままで良いんだ。 俺は紅葉にいっぱい救われてるよ」
「もぉ~・・・っ」
俺の首に飛びついたかと思うと、頬に顔を擦り付けてきた。 喜んでいるのだろう、俺も頭や顎の下を撫で続けた。
時間にすると僅かなものでも、そんなスキンシップが今の表れだろう。
俺も笑顔になっている。 一緒に森を抜け川原へ到着するだけでも楽しく感じた。 遊びに来た訳ではないけど、良い息抜きになりそうだと実感している。
紅葉がいつもの川原に先に到着してピョンピョン跳ねていた。
「仕事終わったら少しだけ川原探索しよっ♪」
探索は俺もしようと考えてはいた。 また何かあるかも知れないしな。
「もちろん!」
「やったー♪」
「それじゃあ、洗濯と水汲みさっさと始めようか」
「うんっ♪」
陽は傾きつつあるが、まだまだ日差しは強い。 手早く洗濯を済ませ、陽を遮る物の無い河原に竹で物干し竿をサックっと組み上げた。 以前作った筏をバラすのは躊躇したが、今後も有意義な物干し台にするべきだと考えたためだ。 衣服を竹に通し、三本ひとまとまりで結んだ支柱を河原の小石の隙間に立てかけていく。 辺りには何本もの物干し台が出来上がっていた。
「これなら、すぐに乾きそうだな」
風が流れ、洗濯物が揺れていた。
絞り切れていない洗濯物から水滴が・・・
(・・・ん? 何かおかしい・・・)
水を吸って、洗濯物は重いはずである。 というか生地を痛めるから雑巾のように強く絞っていない。 風でなびくとしても、そよ風で濡れた衣服が揺れる訳がない。
干したばかりの服に触れると、不思議な事に乾いていた。 最初に干した物から、ついさっき干したばかりのバスタオルすらも。
今までは、河原の石の上に置いて乾かしたり、木にぶら下げる等して乾かしていた。 今まで干した瞬間に乾くなんて事はなかった。
(物干し台を作ったからか・・・?)
想定外はあったが、すぐに乾いた事を、今は快く受け入れてさっさと取り込んで畳みながら、周囲を見渡すと紅葉は居なかった。
「そう言えば、静かだったもんな・・・飽きちゃって散策にでも行ったのかな」
辺りを見渡せど、紅葉の姿は見当たらない。 近くには居ないようだが、どこへ行ったのやら。 一緒に居られる事を喜び合ったのも束の間、気ままに行ってしまうとは・・・
(紅葉も一応は女性って事か・・・)
偏見だと言われてしまうだろうが、今まで女性との付き合いで俺はそう感じる部分が多かった。 紅葉の行動で、不意に付き合っていた頃の事を思い出した。
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あの日、デートの誘いを受けて面倒ながら遠回りをして彼女を拾ってショッピングモールへ車で向かっていた。 彼女が車に乗った直後から、何だか空気がピリピリしているのを俺は感じていが、ムスッとしているばかりで会話は弾まない。 面倒だなぁ・・・と感じていた俺の態度もきっと伝わっていただろう。
ショッピングモールに付いて車を降りると、彼女はそそくさと先へ向かってしまった。 慌てて駆け寄るとカンカンに怒っていた。
訳を聞いても答えは返って来ず、「いつもいつも・・・何でっ」とボソボソ言っているばかりだった。
それでもしつこく彼女の横に並んで話しかけていると、「っ! もう単独行動!」と言ってズンズンと進んで行ってしまった。
(はぁー・・・こりゃ相当にお冠のようだ。 めんどくせぇ・・・)
俺も買い物のつもりでショッピングモールには来ていたので、馴染みの店に入って欲しかった服を買っていると、スマホに通知が入った。 確認すると、「ほんとマイペースで自由だね。 何で一人で行動しているの?」的な感じのメッセージが入っていた。 ブチギレ気味のメッセージだったと思うが詳細は忘れたな。。
周囲を見渡しても彼女は見当たらない。
またスマホに通知が入ったが、今度は電話だった。
散々怒られ、機嫌悪いのに気づいていたならショッピングモールに行くの止めれば良かったとか、言われまくった。 挙句、探しに来いとか言うでわないか…もちろん居場所は聞いても返って来ず。
(さて、手には買ったばかりの服が入った袋が複数…これは持って無い方が絶対に良いよな・・・)
コインロッカーに入れる事も考えたが、取り出す時にまた怒り出しそうなので駐車場まで走って荷物を車に入れてから彼女を探し回った。
(居ねぇ・・・もう30分探し回ってるのか・・・)
初夏の日差しで汗が流れ落ちる。 このショッピングモールは所々に屋根はあるが広大なレジャースペースも有した一大施設だ。 有意義に買い物をしていた俺もダメだったのだろうが、どこに行ったかも分からない彼女を探すのは困難であった。
メッセージには、「おなか空いた。 早く見つけろ。 暑いから限界」等々・・・
涼しい所に向かっている可能性があった。 各店舗の中はもちろん冷房がかかっている。 お店を見回っていたらキリが無い。 後は、いくつかある休憩スポットにも空調があった事を思い出した。
休憩スポットを地図を見ながら、回り始めたが見つからない。 既に探し始めてから1時間が経過していた。 マジでショッピングモールだけでも広すぎる。。。スマホのメッセージ欄は、怒りのスタンプや文句が書き連ねられていた。 それでも探すしかなく、一階エリアを確認し終え、二階に上がり探し始めて合計1時間半掛かって椅子に座ったままスマホを眺めている彼女をやっと見つけた。
汗を垂れ流しながらだと、汗臭いとこれまた文句を言われそうなので、ウェットタオルで拭きつつ俺を睨み続ける彼女に声を掛けた。
そこから俺への説教が始まった。
要約すると、車にタブレットを持ち込んでカーナビを使いながら、MMD(MikuMikuDance)等の音楽映像を流していたことが発端で、車の中にミニフィギュアがいくつもある事や、ボカロ曲やアニソンばかりで嫌だとか、何で追いかけて来ないのかとか等々・・・。
長距離のドライブではタブレットを持ち込んでいる事が多いが、彼女を乗せた状態では初めてだったのが引き金のようだ。
正直3次元のキャラクターも可愛い。 基本2次元大好きな自分だが、MMDはお気に入りである。(あれは3次元と言っていいのか?)現実の女性より、MMDキャラに好意を持ってしまうのは俺のようなオタクなら仕方ない。 同じ映像を何度見ていても飽きない。 萌えるのだ。
彼女に対して謝罪しながら、MMDキャラに嫉妬していたのだろうか?と俺は考えていた。 もちろん車からフィギュアを降ろす気は無い。 せめて彼女が乗っている時くらいは、一般曲(?)や人気アーティスト等の曲を流す事で折り合いがついた。 ボカロ曲に対しては、比較的理解は得られていたが、MMDはダメなようである。 オタクなのは伝えているし、自宅の状況も中々の物だがデートの時は、私を見て!って事だったのだろう。
彼女が喜んでいる時も多かったが、気分の浮き沈みは激しかった。 今まで付き合った彼女とは似たような経験が何度もあった。 まぁ、結局一人になったのは自分が変わろうとしなかったためだろう。
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「やっぱ、他人の存在は面倒か・・・」
俺のつぶやきは、風に乗って掻き消えていった。
(そう言えば2次元の嫉妬やツンは何であんなに可愛いんだろうな? やっぱ、当事者でなく傍観者という立場だからなのかな・・・)
水を汲みながらそんな事を考えていると、紅葉の声が風に乗って運ばれてきた。
「サトシ~っ! たいへんっ!」
大変お久しぶりです。
スマホゲーでラストイデアが思いの他面白く、そっちにばかり気を取られていました。
全然本文を打てていませんが、続きを書く事を諦めた訳ではありません(更新遅いでしょうが)
今朝、夢を見たのですよね。
小説の内容というか、中々個人的にはワクワクする内容だったのですけど完全に忘れました!




