12-1.アリス(12~14日目)※挿絵あり
倒れた智司はっ・・・
「・・・っ!?」
俺は森の中を探し回って、倒れて・・・寝ってしまっていたのか・・・。
目覚めたが、眩しくて回りが真っ白だ・・・薄目で目がなれてくるのを待つ。
ここはどこだ? 森の地面じゃない。 干し草の上に寝ていたようだ。 上を見ると空が見えた。 そりゃそうかと言うことで、立ち上がると・・・空というか、森が上から見渡せるというか・・・。
あれだけ渇れていた水分のはずだが、脇から冷や汗が出てきた。
違う、きっと違う・・・頬に当たる風がいつもより強いような気もするが気のせいだ、気のせいであってくれ・・・。
大きな円形に敷かれた干し草の外周に這って下を見た。
そこには案の定というか絶望があった。 足にも腕にも力が入らなくなったが、疲れの影響ではない。
ここは、とてつもなく大きな木の上らしい。
ちなみに高所恐怖症なのだ。 タワーの展望台とか行きたくもないし、足元を透明にするとか拷問かよって思う。 もちろんガラス張りのエレベーターはもっての他、どこか一ヶ所くらい透けてない壁を用意して下さい。 出入り口の透けてない扉だけをじっと見つめていますので・・・ついでに手摺も下さい、握っていたいです。 あと、吹き抜けか何かで高低差が多くてガラス貼りのエスカレーターも勘弁して欲しい。 大地と足が接しているのが好きです、安心します。
気が動転してしまっている。 こんな俺なので、この状況はダメだ。 完全に腰が抜けて動けなくなっていた。 というか、漏れそうです。 誰か、せめて円の中央に運んで下さい。。。
切に願っていると後方からガソゴソと物音がし始めたが、もう円の外周近くで動けなくなっているので見上げる事も、うつ伏せ状態から寝返る事すらできない。 これで死ぬのも悲しすぎるがこればかりはどうしようもないと諦めてしまっていた。 せめてあまり痛みがありませんように・・・。
「やっと目を覚ましたか。 で、おぬしは何をやっておるんだ?」
後方からは突然声が聞こえた。 知らない声だが、内容からして危険度は低そうだ。 高所の影響で奥歯もガタガタいっているが何とか返答した。
「・・・う゛、うご けな く な りまし た・・・た すけ て くださ い・・・」
「・・・? 怪我は治っているだろうし、体調は万全に近いと思うのだが・・・」
「え、えっと・・・たかいば しょ がにが てでして・・・」
「そんな事か・・・情けないぞ・・・森の中を走っていた根性はどこへ行ったというんだ・・・」
ズルズル・・・ ガプッ
「っ!?」
両足を掴まれるのでは無い。 両足ごと噛みつかれたというy・・・
「ア゛ッーーーーーーーーー!?」
噛みつかれた事に驚いているのも束の間、足側から上に持ち上げられそのまま放られた。
一瞬白っぽい物が見えたと思ったら、干草と思われる黄土色、青へと移り変わっていく。
ドサッ!
見事に一回転して、干草の上に正座するようにして着地した。 というか、草を突き抜けて落下しなくて本当に良かった・・・。 バクバクと高鳴る鼓動は数々の恐怖から脱した安堵感で少しずつ治まっていく。 思考が回り始め、2度助けてもらった事に感謝を述べようと、後ろを向いてありがとうございますと言おうとしたが・・・
「ギャッーーーー!?」
白い、太い、見上げるようにデカイ。 ギネス記録なんて余裕で超えるだろう。
そこには真っ白で、あまりにも巨大な蛇が頭をあげていた。 立ち上がっても見上げるような高さに頭があってこちらを見ていた。 化石として発見された蛇種としてはティタノボアってのが居たような気がするが、同等以上ありそうだ・・・。 余裕で飲み込まれそうである。 というか食べても俺じゃ足しにならなそうなレベルで・・・
「悲鳴のみか? おぬしは感謝も出来んのか?」
白い大蛇は、頭上から不満を浴びせてきた。 食べられては叶わないと、すぐさま返す。
「ありがとう御座いました! に、二度も助けて頂いて、本当にありがとう御座います。 す、すぐに伝えられなくて申し訳ありません、少々驚いてしまい・・・」
体がガチガチに硬くなっていたが、何とか普通に話せたはずだ・・・恐る恐る改めて上を見上げた。
わっはっはっと盛大に笑う大蛇がそこにはあった。
って、そんな事をしている場合ではなかった! 紅葉だ。 紅葉を探さなくては!
「あ、あのっ! 助けて頂いた身の上で申し訳ありませんが・・・ここはどこでしょうか? 私は探しものをしていて、時間が無く・・・」
これだけの晴天だ、倒れてから半日は少なくとも経っているはず。 のんびりとしている場合ではない。
「ここは、おぬしが倒れていた森の中だ。 以前見ていたのではないか? 大きな大木を見上げていたと思うが?」
「・・・へ? ・・・あっ、もしかして家の北にある一本だけ一際大きな大木がそう言えば・・・」
敬語を完全に忘れて呟く様な僅かな声だったが、大蛇は聞き取っていたようだ。
「それだ、それだ! それと、おぬしは2日間寝ておったぞ」
「そ、そんな・・・」
現在地以上に、半日どころか2日間過ぎていた事が衝撃だった。 紅葉はどうしているのだろうか、心配はより深まっていく。 紅葉の事で頭がいっぱいになり、干草の上に手を着いて悩んでいた。
「ショックを受けているようだが安心せい。 おぬしの探しものとも直に会えるわ」
「っ!? ほ、本当ですか!? あっ!? ご、ごめんなさい・・・」
朗報が予想外なところから舞い込んできた。 あまりに嬉しく飛び上がり、大蛇の太い体に掴みかかるように抱きついてしまった。 軽率だったとすぐ気づいて謝罪していた。
「本当だ。 この姿だと些か話し難いか・・・」
ボフッ
突然、湖に超特大のドライアイスでもぶち込んだような白い煙が広がった。 もちろん前も後ろも何も見えない。 オドオドしていると次第に視界が鮮明になってくる。
大蛇の姿は無い。
目の前には銀髪のイケメンが立っていた。
銀髪、そして病的と思えるような白い肌、そしてグレーの瞳。
「何だ? もっと驚くと思ったのだが・・・」
少しガッカリしたイケメンはそんな風に言っていた。 驚きはしたが真っ白な大蛇が消えて、真っ白なイケメンが突然現れたのだ。 さっきの大蛇が彼なのだろうと想定できた。 驚きはしたが、ぽかーんとして意識が飛んでいたような顔を俺はしていたのかも知れないな。
「もちろん驚きました。 ただ、さっきの大蛇が貴方だろうとは察しがついてたので・・・」
「そうか・・・」
次からはもう少し考えねばな、なんて小声が聞こえた気がするがスルーしておく。 それよりも・・・
「紅葉は! えっと、小さい狐の子は無事なんですか!?」
「無事だが、まぁそう責付くな」
あやつはあまり好かん、とまたも小声が聞こえたがこちらはスルーしなかった。
「あの! 紅葉の事をご存知なんですか?」
「あやつの事となると、本当に騒がしいなおぬしは・・・。 まぁ、一応見知っておるぞ」
煮え切らない事を目の前のイケメンは言っていたが、俺が大木を見上げた事すら知っていたのだ。 そりゃ紅葉も知っていたって当然か。 今は、紅葉の無事に安堵した。 胸の中でずっと暗く重く残り続けていた何かが消えていくようだった。
会いたい。 その気持ちで俺の心は埋め尽くされていく。 俺の中では半日、だが紅葉には2日間だったのだ、この短期間で嫌われたとは考えたくない。 泣かせているかも知れない。 抱きしめてやりたい。 あのフワフワした温かさを感じていたい。 だから・・・
「色々とお世話になりました! あの・・・早く紅葉に会いたいので帰りたいのですが・・・」
「はぁ・・・あやつも幸せだの。 仕方ない、下に降ろしてやるとするかの」
呆れたような溜息と共にイケメンはまた大蛇に戻り、背中に掴まれと無理難題を言ってきた。 爬虫類は嫌いではない。 1.5m程もあるような胴なので十分掴むことは出来る。 だが・・・
「キ゛ャ゛ァァァァァ゛ーーーーーッ!」
彼は、木のてっぺんから垂直に木の幹を伝って降りていくのだ。 所々の枝が体に引っかかりまくるとか、垂直にゆっくり降りる事はもう諦めた。 文句は言わない、言える立場じゃないし・・・。
だが、体のサイズの割りに小さな鱗なのに滑る胴体のどこを掴んでろと言うのか!?
「す、滑る滑るっ!? うわわっ!?」
「お、おぬし痛いわ、もう少し緩めんかっ」
「無理無理無理無理無理!!!」
「せっかく飛び降りるのを止めてやったというのに・・・」
彼はとんでもない事を言っていた。
バンジーのような命綱も無く、フリーフォールのような固定する器具も無い。 装備一式を身につけていたから、助かったようなものである。 申し訳ないが・・・どちらの降り方を選択していても感謝はできなかった。
「あ、ありがと・・・う御座いました」
腰が抜けて地面にへたり込んだ。 そこには大好きな大地が広がっていた。 大地を抱きしめるように手を広げうつ伏せになった。 少しの間離れていただけなのにこんなにも恋しかったなんて・・・大地さん・・・v
「ほんとに・・・何やっておるんだおぬしは・・・」
完全に呆れた冷たいまなざしを向けられているであろう事が、大蛇姿からも察しが付いた。
それから大蛇との無駄話も程ほどに、俺は早々に家へと向かったのだった。
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「・・・借りは返したぞ。 いつかまた旧友として合間見える時を楽しみにしておるぞ・・・」
家に帰ると森へ走って行った男の姿が見えなくなった後、大蛇は小さく呟いていた。
それは吹き抜ける風に流され誰にも聞こえる事は無かった。
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大蛇と分かれた後は、また全力疾走で森の大木から南下している。 このまままっすぐ行けば紅葉と会える! 不思議と体の痛みは無かった。 まぁそんな事どうでも良かった。 少しでも早く会えるに越した事は無いのだから。
木々の隙間から家が見えてきた。
「紅葉ー!」
名前を呼びながら、木々を掻き分け家への最短距離を突き進む。
すると、俺を呼ぶ声も聞こえてきた。
「サトシー! 無事だったんだねっ!」
丁度森を抜けたところで、紅葉が胸に飛びついてきた。
泥だらけの俺の頬にも、今までと変わらず擦り寄ってきてくれた。
この2日間、相当心配させたのだろう・・・無事に俺が戻ってきた事で紅葉は泣いているようだった。
「心配・・・いっぱい掛けちゃってごめんな」
「ぐすっ・・・そんなのいいの。 無事で居てくれて良かった・・・本当に良かった・・・」
泣き続ける紅葉を抱きしめ、頭や背中を撫で続けた。
今回、結果的に俺が慌てて探しに出たのが失敗だったのだろう・・・それでもこうして待っていてくれる相手が居てくれた事が本当に嬉しかった。
安定して2人でいる間には気づけなかった事、紅葉には苦しい思いをさせてしまったけど、こうして無事に元に戻れた。 改めて2人で居たい想いに気づけた良い経験だった思っている俺を許して欲しい。 この気持ちはこれからも大切にしていきたい、いつかの俺のように2人で居る事を軽薄に思う時が来るかも知れない。 そんな時、今日の経験を生かせればきっとまた戻って来れるから。
だから・・・紅葉、ありがとう。
中々泣き止まない紅葉をあやしつつ、家に向おうと顔を上げると声が掛かった。
「あ、あなたが紅葉様の話されていた、サトシさんですよね?」
そこには、あの天使?が居たのだが・・・
10mは離れているだろうか、家の玄関扉から顔を出しながら、大声でこちらに向って叫んでいる・・・。 紅葉とこの2日間生活していたのだから、あの子に危険性は無いのだろう。
ただ、俺はやはりすごく警戒されているようだった。
泣きつかれたのか、静かになって腕の中で眠ってしまった紅葉を起すのは可哀想なので、ベッドで寝かせてやりたい。 伝わるか微妙だったが、ジェスチャーで天使に紅葉が寝たので寝かせてくると表現すると、玄関は閉まってしまった。
(ダメだったか・・・)
否、すぐさま扉が開かれ毛布を持った赤いジャージ姿の天使が走って来た。
袖や裾は長すぎるのでかなりの量を巻くっている。 プラチナブロンドと赤のコントラストが素晴らしいと言いたいが如何せんジャージだ、とても惜しい。 足には、蔦や葉で作ったのだろうか草履のような物を履いていた。 自作したのだろう、器用なものだな・・・と感心していると2m程手前で立ち止まった。
「・・・?」
俺が首を傾げていると、あちらもジェスチャーをしてきた。
何々・・・多分、アスファルトの上に毛布を敷くから、そこに紅葉を寝かせるろと言っている様だった。 ベッドの上に寝かせたいんだが・・・どうにも伝わらないようなので諦めて、毛布に近づいていくとそれに合わせる様に、赤ジャージの天使は後ずさって行く。
紅葉の事だから、きっと俺の事は無害だと伝えてくれている筈だが、それでもこの状況ですか・・・。 まぁ・・・境遇がそうさせてしまったのかもな。
俺は腕からそっと紅葉を降ろして、毛布で包んでおいた。 もしかして寝ていなかったのかも知れないな・・・先日までよりも、すこし紅葉がスリムになったような気がする。 今は安心しきった幸せそうな寝顔で眠っているな・・・。 そっと頭を撫でてやると、急に隣に気配を感じた。
天使が真横に居て、食い入るように紅葉を見つめていたのだ。
それもハァハァと息が荒く顔が赤い。 ふと、俺と彼女の目が合った。
「キャッ!?」
彼女は声を発してすぐさま口を手で抑えていたが、また2m程飛び退いていた。
ダメだ、俺はどう見ても避けられている以外の何ものでもないようだ。
寝かせている紅葉から俺も距離を取り、彼女へ話しかけてみた。
「えーっと、俺は紅葉から聞いているかも知れないけど、結城智司。 智司と呼んでくれればいい。 君の名は?」
「・・・」
沈黙された・・・。
避けられている事は承知の上だったが、この程度の会話もダメなのかと肩を落としていると彼女から話し始めた。
「わ、私はアリア・ラピス。 アリスと呼んでもらえれば良いわ」
アリア・ラピスか・・・青色の宝石にラピスラズリってのがあったな。 彼女にぴったりの名だ。
「アリスか、よろしくな。 この数日間、紅葉の事を見ていてくれてありがとう」
「こ、こちらこそ助けてもらったのに、感謝が遅くなった事を謝っておくわ。 行き倒れていたところを助けてくれてありがとう。 それとゴブリンのことも・・・」
「紅葉から聞いたのか? 止めてたんだがな・・・」
「いえ、紅葉様に私からお願いした事だから、あなたが気にする事では無いわ」
「そうか・・・。 俺が居ない間、紅葉はどうしてた?」
あまり深追いする話ではないだろうと、紅葉の話題へ切り替えた。
「紅葉様は、ずっと泣かれていました。 昨日は朝から森に入られ、匂いで追われていましたが、森の中で忽然と匂いが消えてしまったようで後を辿れなくなって、家に戻った後はずっと・・・」
「そうだったのか・・・そう言えば、紅葉様って何かあったのか・・・?」
「紅葉様は、紅葉様です! 崇めるべき存在です! 事情は色々とありますが、私たちエルフは紅葉様のような神の遣いとしての狐様を崇めていたので、紅葉様にも同じように接しているのです!」
急にえらく力の篭った発言が飛び出してきた。 分析していくと、やはり彼女はエルフなのだな。 そして、狐を崇めていたと。 しかし、神の遣いとは・・・紅葉にそんな気配は一片も感じられないが・・・あー、喋れるって事で考えればそう思えなくも無いかも・・・でもあれはイノシシ卵の効果では・・・
「よ、良く分かった、紅葉の事については・・・」
早々に切り上げた方が良さそうな気がしたので、次は衣食等の話をしようと話題を変えようとしたが・・・
「いやいや、まだまだ足りませんよ! 狐様から我々は神託を授かり、種族の繁栄と安寧を確固たるものにして頂いているのです! それにモフモフでフカフカしてて温かくて、可愛いんです! 崇めないなんて選択は不可能じゃないですかっ!?」
お・・・おぅ・・・さっきは諸事情とか言って省略してたのにきっちり前者の話は分かった。 それは重要だ・・・、だが後者の話の方がアリスは力が入っているし、どっちかって言うと後者がメインなんじゃ。 分からなくも無い、いや理解できる考えではあるが、もしや・・・?
「あ、アリス、もしかして紅葉をモフモフしたい? さっき眺めていたのも頭撫でたかったのか?」
「そっ!? そ、そんな訳無いじゃないですかっ! 神の遣い様ですよ!? あなたは紅葉様を冒涜しています!」
あ、あれ・・・? 想定と違う。 もっと食いついてくると思ったんだけど・・・。
いや、あれは違う。 顔を真っ赤にしながらモジモジと、紅葉の方を恋しそうに、それはそれは物欲しそうに眺めているではないか・・・。
アリスは、俺に嫉妬でもしていたのかも知れないな・・・強情だけど損するタイプの子だな。 あー・・・不幸体質って奴か? まぁ俺が目の前に居る建前、モフれない事を妬んでる節すらあるな。
ここは助け舟を出す事にした。
「まぁ、そう言うなって。 騙されたと思って紅葉撫でてみ。 フカフカしてて気もち良いぞ。 流石に今は寝てるから優しく触ってあげて欲しいが」
「そ、そこまで言うなら触ってみてみます・・・」
ぐへへ・・・と言う声が聞こえたような・・・? やめてくれ・・・流石に天使のような可愛い見た目でその笑い方は・・・ん? あ、考えようによってはそれもギャップ萌で悪くは無いか。 俺の許容範囲内だったので一応記憶に留めておく。 アリスはどんな子なのだろうか。
紅葉の前に到着する時には、アリスとの距離は50cmにも満たない程近づいていた。 意識を取り戻して以来、初めて接近した状況で話ができた。 何かドキドキするが、それは一旦置いておこう。
「ほら、こんな感じに撫でてやると・・・何か嬉しそうだろ? それに寝顔可愛いだろ?」
「はわわわぁぁぁぁ・・・」
何やら声を押し殺しながら悶えているようだ。 まだ紅葉に触れているのは俺なのにこの反応とは・・・これは相当だなと直感していた。
「ほら、次はアリスもやってみ」
「で、では・・・お言葉に甘えて・・・」
アリスは、ブルブルと震える右手を左手で抑えつけながら、紅葉の頭へ手のひらを沿えていた。 横目で彼女を見ているが、ぽわわ~~んって効果音と背景が一面花畑になっているだろう、だらしない顔をしながら目を細めていた。
優しく撫でられ続ける紅葉は起きる気配は無い。 対してアリスはというと・・・
目から涙を零していた。
そんなに感動的だったのだろうか・・・2日間と言えど、紅葉と生活を共にしていたのならこの程度の事あっただろうに・・・・まぁ・・・いいか。
俺は静かに立ち上がり、アリスの隣から離れた。
いつもの屋外調理場の岩の上に腰を下ろし、紅葉とアリスとの可愛いものが揃った世界を眺めていた。 きっとさっきのアリスと同じようなだらしない顔を俺もしているのだろうな・・・。
だが、可愛いものの空間に俺みたいなおっさんは必要ない。 こうして少し離れて眺めているのも好きなんだ。 アリスが時折、口元の涎を俺の赤ジャージで拭っているが、それも愛嬌だ・・・愛嬌。
というか、あの涎は俺へのご褒美か?なんて変態的思考も交えつつ、心が洗われる様な光景を眺め続けていた。
少女と可愛らしい動物の日常系アニメを見ているような心持ちで2人を眺めていたら、時間があっという間に過ぎていたようだ。 飯も食わずに・・・
腹の虫がなった事と日が陰り始めた事をきっかけにして、さすがの俺も動く事にした。
アリスは未だに紅葉を眺めている。 アスファルトの上でうつ伏せになって、眺めているのだ。 気持ちは分からなくも無いが、そろそろ何か動こ?と思ってしまう。
晩御飯の準備を始めるべく、かまどに火を点けたところで、アリスが俺の方へやってきた。
「流石に・・・お腹が空きましたわ。 夕飯か何か作るのですか?」
「あぁ、そうだよ。 いつもの事なんだけど、肉を焼くつもりだよ。 紅葉とはいつも肉とペアーチって呼んでる木の実を食べてるんだ」
2m程離れて座り込んで話しかけてアリスに俺は苦笑しながら返答した。
「私にも、お肉頂けませんか?」
「もちろん良いよ。 良かった、肉を食べないかもと思ってたから助かったよ」
「私たちの種族は、確かに菜食が主体ですが、狩猟もするのでお肉も食べますわ」
「今日はいつもよりたくさん焼かなきゃな」
仕舞い切れず、庭に捌いたまま放置しているイノシシに近寄り、今晩の分を切り分けた。 かまどの状況からして、俺が居ない間は火を使っていないようだった。 イノシシの方も肉を切り分けた形跡も無かった。 ペアーチのみで凌いでいたのだろうな・・・
早速肉を焼き始めると、いつの間に起きたのか紅葉が俺の背中に飛びついて首に絡んできた。
「おはよ、紅葉 ずいぶんぐっすり眠ってたみたいだね。 肉焼いてるけど食べる?」
「いっぱい寝たからスッキリ♪ お腹空いたからいっぱい焼いて!」
「あぁ、分かったよ」
焼いている間も、紅葉は俺の首元を離れようとはしない。 ずっと擦り寄ってきているが、邪険にせず時々頭を撫でたり、顎の下も撫でてやった。 こんな時間を俺は待っていた。
まだ俺に対して余所余所しいアリスではあるが、会話が出来るレベルにはなったはず・・・あれ? 猛烈なまでにアリスから睨まれてる。 多分俺が紅葉を独占してるからだろうけど、その目はやめて欲しい。 ジト目キャラやツンデレキャラは大好物だが、アリスの目からは憎悪しか感じない・・・流石の俺もこれじゃご褒美にならなかった。 紅葉が俺を大切に考えてくれてるから、俺は一命を取り留めているのではないかと思えてしまう。 勘違いであって欲しいと祈るばかりだ。
肉が焼け、デザートとしてペアーチも準備した。
3人での初の夕飯だ。 俺の正面にはかまどを隔ててアリスがいる。 俺の隣には、紅葉がいつも通り座っている。
「それじゃ、食べようか」
アリスは、食事の前に祈りを捧げていた。 恵みに感謝しているのだろう。 そう言えば、俺も今まで頂きますを言っていなかったな・・・。 思い出したのだから手を合わせておいた。
食事中に明日の予定を確認しておいた。
皆用事は無いとの事で、今日は早めに寝て明日改めて自己紹介や今後の事を話し合う事に決めた。
食事中、俺と紅葉の会話ばかりで、アリスが会話に入ってくる事は無かった。 俺もどう扱うか迷っていたので、今日は成り行きに任せた。 皆で肉を食べ終わり、デザートとしてペアーチを振舞った。
アリスは壊れ物を扱うかのようにビクビクしていたが、美味しそうに食べていた。
紅葉には細かく切ったペアーチを渡した。 一個ずつもぐもぐしている。
そうだ!
「アリス、ちょっと良いか?」
「え・・・何ですか」
何かすごく嫌そうな風に言わないでっ ガラスのハートなんだから・・・
「えっと・・・紅葉の事見てみ。 あいつペアーチ大好きでさ、小さく切ってやると前足で器用に持って食べるんだよ。 可愛くね?」
「ほぉ・・・」
アリスさん、興味津々ですかw 静かに立ち上がり、紅葉が見える位置に移動しているようだ。 紅葉の事大好きなんだな・・・何かすごく片思い感は強いけど・・・。
「ほ、ほんとですね・・・可愛らしい・・・」
こういう時だけは、俺にも近寄ってくれるようだ。 というか、俺を避けたい気持ち以上に紅葉には近づきたいと言うことか。
「明日の夜でも、紅葉のこういう可愛いところを話さないか?」
「・・・考えておきますっ」
ぷいっと顔を背けられたが、アリスはその後も食い入るようにペアーチをもぐもぐする紅葉を眺めていたのだった。
食事も済ませ、今日は就寝する事となった。
アリスは2階の部屋で寝ているようだった。 紅葉は俺に着いて来るので、別れ際にまたすごく睨まれた。 アリスと2人きりになる事は、避けた方がもしかして安全かも知れない。 さっき、明日の夜にでも・・・と話しておいたが、あれ危ないんじゃ・・・。
まぁ色々とあったが、何とかすべて良い方向で収まった気がする。
俺の服の中に潜り込んできた紅葉は、安心したのかまたすぐに眠りについていた。 もうちょっと話していようかと思ったが仕方ない。 俺も紅葉の温かさを感じながら眠りに着いた。
次回はアリスの事をもう少し掘り下げていこうと思います。
今回は、ディスガイアRPGがプレーできないモヤモヤがありましたが、その反動か超絶久しぶりドット絵を描いた挙句、GIFアニメを作ってみました。
本話の最後の方にGIF貼り付けております。
無難な可愛さはありますが、自分が悶える様な萌える絵は私には描けません・・・。
ただ、ドット絵ながら自分のイメージを形にするのも面白いですね。
中々絵を描く気力は出てこないと思いはしますが、こんな機能もあったのですね。
ま、まさかディスガイアRPGが開始いきなり、期限未確定メンテとは・・・。
もちろんDLもできずモヤモヤとした状態です(泣
ウサリアーーー!




