9-1.アニメ視聴(9日目)
9日目となり、遂に電気を得る算段がついた智司達。 さてどうなっていくのかっ
日の出はまだ訪れておらず暗い部屋の中、ベッド下の微かな明滅はその色を青から赤へと変えていく・・・
カーテンの隙間から光が漏れ始める頃、9日目が始まろうとしていた。
「ん・・・。 おはよう、紅葉」
「・・・おはにょぉ・・・・・・ zzzZZZ」
俺も眠いが紅葉は相当なようで、起きれる感じでは無いな。 俺もベッドから出たくは無いが、しっかりと眠れたようで清々しい目覚めを得られていた。
暖かく包まれていた布団から抜け出し、俺は大きく伸びと屈伸をしてからカーテンを開いた。
予想外に寝過ごしてしまっていたようだ。 陽は出ており、時計を確認すると既に9時を回っていた。
紅葉は光を嫌ってか、布団の中に潜り込み二度寝する気満々であった。
「さぁて、昨日の続きをするか」
俺は紅葉を放置し、未使用のエアコン用配管蓋を取り外しておく。 ここからコードリールを通せば屋外のパワコンと綺麗に接続できるだろう。
早速屋外に出てコードリールを部屋に持ち込み、プラグ側をエアコン用配管に通して室内には30m分のコードを引き出しておいた。 部屋の中はコードだらけになってしまったが、後ほど掃除すれば良いだろう。 掃除機を使える可能性もあるが、この程度なら濡れ雑巾で十分なはずだ。
キャンプ用のバッテリーをパワコンのコンセントに繋いで充電しておく。 これは夜に電気を使う為に重要な物となる。
屋外からコードを引っ張るが中々重い・・・。
「くっ・・・。 もう1人居ればな・・・」
屋外と屋内を行き来して、20m程コードを屋外に引き出す事に成功した。 20往復しただろうか? 足が既にクタクタだ・・・。
間もなく11時になるので昼飯の準備をしなくてはな。 ただ、腹を満たすよりも今は電気だ。
ペアーチを1つ丸齧りしながら、庭にケーブルを敷いて自立運転中のパワコンに再度接続した。
「これで完了か!」
疲れが吹き飛ぶ瞬間であった。
室内で電気を使える状態となったのだ。 紅葉とアニメを見るのが楽しみである。
部屋に戻った俺はテレビ等を繋いだ電源タップを、コードリールに繋ぎ直してテレビの電源を入れてみる。 テレビは400W強の定格消費電力だが、今日も快晴で十分発電できているので問題無く正常起動し、AVアンプ用のホーム画面が写っていた。 今までAVアンプもテレビと同時起動させる設定だった為、予定外にAVアンプまでも起動してしまったのだが問題なく動作しているようだった。 サブウーファーも同時起動させなければ、大丈夫だろうと順に接続してみたところ、こちらも問題なかった。 各機器を同時起動させない事と、音量さえ気をつければ日中のアニメ鑑賞は手持ちの機器を最大限利用できそうだった。
最後にBlu-rayプレイヤーを起動し、こちらも問題無く動作を始めた。
「さて・・・」
ガチャガチャとさっきから音を立てているが、紅葉は意に介さず寝続けているようだ。
起こしに行っても良いが、このままの状況でアニメが見れるかを確認しておく方が優先事項だろう。
早速適当なBlu-rayディスクを挿入する。
これは学生の男女が互いに別々の異性を想いながら協力関係を築きつつも、最終的にはただの協力関係では無く、かけがえの無い存在だと気づく流れを描いたラブコメである。 紅葉に何を見せるか悩む所だが、SF要素や難解な設定も無く比較的見やすいだろうと考えてのチョイスである。 個人的には可愛いキャラばかり出てくる日常系のアニメも見たいところだが、そういったものは嗜好に合わない場合も多い。 ギャグアニメも悩ましく、こんなチョイスとなったのだ。
音量操作をしていると、流石に煩かったのか紅葉が起きてきた。
「サトシ、おはよぉ・・・・・・」
「おはよう、紅葉 まだ眠そうだね。 テレビ付けてたんだけど煩くしちゃったかな?」
「テレビ・・・? ん・・・? ・・・あ! アニメッ! 見れるようになったのっ!?」
紅葉は寝起きでボーっとしているようだったが思い出したようだ。 寝ぼけ眼から、急にキラキラと輝くように目はまん丸く開き、俺の胸に飛びついてきた。
「おっと・・・そうだよ、きちんと動くか確認したくて俺だけで先に見ちゃってごめんね?」
飛びついてきた紅葉を受け止めながら、頭を撫でて謝っておく。 点けるところから一緒にするべきだったかなと少し罪悪感があったのだ。
「ううん、大丈夫 私が起きれなかったんだし...」
やはり、最初から一緒にするべきだったなと、言葉尻がか細くなっていた紅葉を見て思った。
「今度新しい事があったら、俺が紅葉を起こすから一緒にやろうな」
紅葉の頭から背中に掛けて、子供をあやすように撫でながら俺は話しかけていた。
可愛い。 本当に紅葉は可愛いのだ。 日頃行動的な面もあるのだが、もうちょっとワガママを言っても良いかな?ってくらいに控えめな態度をとる時もある。 ただ、すぐ表情や態度に表れるのでどんな気持ちなのか分かりやすい。 気持ちを汲み取ってやる事で、輝くような笑顔を俺に向けてくれている。 そんな時間が俺は大好きなのだ。
「ありがとう! サトシと一緒に起きられるように頑張るよ。 でも、起きれない時は起こしてね・・・?」
「ああ、分かったよ」
ちょっと照れくさそうに抱負を述べた紅葉を、きゅっと抱きしめてから俺はソファに座り直した。
紅葉を太ももの上に座らせたが、俺のお腹に紅葉は背中をくっつけてきた。
まるで子供が親の膝の上に座るかのように。 こんな体勢は初めての事だったので疑問に思った。
「紅葉どうしたの、珍しい姿勢だね?」
「嫌だった・・・?」
「ううん、違うよ。 言った通りに初めての状況だったから不思議に思っただけだよ。 いつもなら太ももの上で丸くなってるでしょ?」
「こうしてるとサトシにずっと包まれてるみたいで・・・な、なんかね? こんな感じでテレビ見れたら幸せだなー・・・って・・・」
「なるほど。 俺もお腹が温かくて気持ちいいな。 それじゃあ、俺の手は紅葉のお腹に置いておこう。 もっと包まれてる感じになるかな?」
紅葉を潰してしまわないように、そっとお腹に触れるように手を置いた。
「えへへ、嬉しいなぁ~♪ 私もお腹あったかいv」
幸せそうな紅葉を見つつも、ちょっと悪戯もしたくなる。
「温かさなら、手の代わりに布団でも掛けようか? 手だと・・・こちょこちょ~」
俺は紅葉のお腹周りをワシャワシャと軽い手付きでくすぐってみた。
「ん? 布団じゃ無くて手が良・・・んっ、きゃっ! きゃははははっ!! だ、だめっ! く、くすぐっ、くすぐったいっ! サトシっ! だめっ、あっ きゃははっ!」
可愛いが流石に怒られそうなので、くすぐるのを止めて謝っておく。
ジタバタと暴れる紅葉を無理やりくすぐっていたので、ちょっとプンスカしていたが優しくお腹を撫でていると次第に落ち着いていった。
「くすぐりは禁止だからねっ!」
「はーい」
軽い返事を俺は返しておいた。 紅葉の気分次第では、またくすぐってやろうと考えていたのだ。 そんなスキンシップも有りだろう。
2人でじゃれ合っている間にアニメの映像は進んでいたので、紅葉の為にも最初から見直す事となった。
画面に釘付けになっている紅葉を時々見下ろしながら、大好きなアニメを見てゆったりとした時間を過ごしている。 こんな当たり前にあった時間が、大地震後には失われていたのだ。 ここに来て以来、ずっと気を張っていたんだなと俺は感じていた。
心がこんなにも温かくなるのは、久々にアニメを見れているからってだけでは無いだろう。 きっと紅葉と娯楽を楽しめている事が嬉しいんだろうな・・・。
紅葉はアニメを見ている間、話しかけてくるような事は無いが、流れていくアニメの映像に一喜一憂しているようだ。 漏れ出てくる声が、音声の中に混じって聞こえてくる。
そうこうしている内に、1話目が終わりエンディングが流れ始めた。
紅葉はあれ?といった感じに俺を見上げてきた。
「アニメの1話目が終ったんだよ。 今流れているのは、このアニメのエンディングと言ってそれぞれの話の終わりを表すものだよ」
「えー・・・もう終わり? もう無いの?」
残念そうにしょぼくれる紅葉へ希望の言葉をかけた。
「まだまだあるよ。 1話目が終ったら2話目があるんだ。 1話の最後に次回予告ってのがあるから、それもまた楽しみの一つとしてこのままエンディングを見ようね。 アニメは何話かで終っちゃうけど、少ないものでも10話以上はあるから、まだまだ先は長いぞ?」
「やった~♪ 早く!続き早く~!」
しょんぼり顔から一転、輝くような笑顔でフサフサな尻尾も俺の太ももの内側で揺れている。
そんな紅葉の頭を俺は撫でていた。
「待ってれば始まるから、焦らない焦らない」
こんなにも楽しんでもらえて俺は嬉しくなった。 苦労した甲斐があった。
紅葉はいつも楽しそうだが、俺の好きな物を一緒に楽しんでくれている。 初めての娯楽ってのもあるだろうが・・・共感・・・正にその通りだろう。 アニメが終らない事を望む紅葉と同じように、俺も一緒にアニメで楽しんでいられる時間を永遠と願いたくなる。
アニメのように、この時間にも終わりが来るのだろうか・・・。 楽しく温かいはずの思考の中に、小さいがとても冷たく寂しい考えが過ぎった。
(きっと大丈夫だ)
掌にはサラサラとした毛の手触りと共に、ふっくらと空気を蓄えた柔らかな毛が感じられる。
冷たさは次第に薄まっていく。 ただ・・・何が大丈夫なのだろうか? 俺はどうしたいのだろうな・・・。 余韻はゆっくりと胸の中に落ちていった。
プツンッ!
「えっ!?」
紅葉の驚きに我に返った。
「電力不足か・・・」
俺はかなりの時間、ボーっとしていたようだ。 紅葉から特別話しかけられた記憶は無いので、今まで紅葉は見入っていたのだろう。
陽はまだ出ているが、太陽光パネルへの当たり方が悪いのだろう。 15時半だが電力不足に陥ってしまったようだ。 モニタとプレイヤーのみならもう少し使えるかも知れないが、早めに切り上げるのも必要かも知れないな。
グー・・・ギュルルゥー・・・
「紅葉、お腹空いたな。 お昼食べ逃しちゃったし、ちょっと早いけど晩御飯の準備するか?」
「うー・・・ 今日はもう見れない?」
「陽が落ち始めるとダメみたいだね。 今日の鑑賞はここまで、明日の楽しみにしような?」
ぅーぅーと中々諦められない紅葉をなだめつつ、晩御飯の準備をする事に・・・。 今日は奮発して、ステーキ(ペアーチソースを添えて)を焼く事にした。
紅葉のご機嫌取りとしてだ。 今後の事を考えれば肉も調味料も貴重だが、必要な時にケチり過ぎてもな・・・。 それに、今は強力な装備もあるので森の中に入っても楽に食料調達できるだろう。
(明日は・・・森に入るか・・・)
今日1日アニメ鑑賞して、消費するばかりの生活をしてしまった。 このままダラダラと続けたら生活出来なくなるのが目に見えているので自重が必要だ。 装備の安心感もあるので、1人でも大丈夫だろうと考えているのだ。 一緒にアニメ鑑賞するのも楽しいが、それだけではこの世界で生きていけない。 働くってのとはちょっと違う印象である。 森から糧を得られなければ無ければ生きていけず、どんなに苦労しても結果が伴わなければ無駄でしかない。 とてもシビアなのだ。
そう思えば、仕事とはとても安全で安定していた。
一介のサラリーマンで居た頃の苦労と、命に直結した現状の苦労・・・まだ余裕があるとは言え後者の方が恐怖である。 今サラリーマンとして復帰できたのなら、きっと以前よりも生産性の高い業務が出来るんだろうな・・・。
陽が森の木々に隠れる頃、紅葉と共に朝と昼と夜を兼ねたご飯を食べ始めた。
今日も今日とて互いにステーキを御代わりし、肉の在庫はみるみる減っていった。
ソースを使い切る事で、今日のステーキパーティーは閉幕となる。
「おなかいっぱーい♪ おいしかったぁ~♪」
ご満悦なようで、計画通り・・・。
「ごちそうさま。 さぁて、明日の為に早めに寝るかな」
「サトシ、サトシ! 明日もアニメ見られる?」
さっそくアニメにはまっているようで、布団に飛び込むや否や聞いてきた。
「んー、今日の状況から考えると10時~15時くらいまではアニメ見れそうだね。 でも、明日は俺は食料調達の為に森へ行こうと思ってるよ。」
「そっかぁ・・・。 それも大切だもんね・・・。」
しょんぼりしつつも、状況を理解して駄々を捏ねないのは流石だな・・・。 ベッドで横になりながら、紅葉を抱き寄せて頭を撫でてやった。
「紅葉はアニメ見ていても良いんだぞ?」
「ううん、私もサトシに着いてくよ。 今日もいっぱい食べちゃったし、私もまた肉探すの手伝うよ!」
本当に良い子に育って・・・ お父さん、涙が出そうだよ。(ぉぃ)
「じゃあ、明日は日の出と共に起きて森に行くぞ!」
「・・・もうちょっと遅くしない? ・・・ね?」
うるうるした目で俺を見つめてきた・・・。 いつも朝弱いもんな。。。 だが。
「一緒に頑張ろうな?」
「ぅん・・・」
珍しくだいぶ弱い肯定だったがまぁ問題はないだろう。 起こせば結構起きてくるのだ。 寝かせてやりたい気もするが、一緒に来ると言うのなら俺に合わせて行動してもらう他無い。 せめて今日のベッドの中くらいは、いつもより甘やかしてやろう。
「紅葉、服の中においで」
ベッドで仰向けになった状態で、お腹の辺りを捲り上げて呼んだ。
「いいの!?」
驚いて目を見開いていたが、嬉しそうな表情でサッと潜り込んで胸に顔を擦り付けてきた。
いつも入りたがるが、くすぐったい上に結構毛が寝巻き代わりのジャージに絡まるので後処理が大変なので禁止させているのだ。
「今日は特別だよ」
「うん♪ えへへ~」
ジャージの首元から、頭だけ出して首元に顔を擦り付けてくる。 くすぐったいが可愛い。 本当はいつもやってやっても良いが、[特別]としているのは重要だと思う。 これがご飯以外のご機嫌取りでもあるのだ。 本人には言えないが、俺の切り札の1つとしておきたい。
紅葉と戯れながら明日の探索の為にも早めに寝るか・・・と考えていたが、ふと思い出す事があった。
「そうだ、電気毛布が使えるんだった! もっと温かい布団になるぞ!」
「サトシ、急にどうしたの? でんきもうふ?」
俺は、今朝から充電していたバッテリーの事をすっかり忘れていた。
電気毛布の説明をしつつバッテリーを採りに行く際、紅葉はジャージに潜り込みながら、俺の首に絡み付いてきた。 生きた毛皮のマフラーといった感じである。
温かい布団という言葉に紅葉の期待値は膨らむばかりのようだ。
明日起きれるのだろうかと不安もあるが、俺も温かい布団は望みだ。 朝の冷え込みで目が覚める事も無くなるだろう。
貴重だった懐中電灯を使って、バッテリーを部屋に持ち込んだ後は電気毛布を早速繋いで動作確認をした。 温かい・・・ そして紅葉はマフラー状態を早々にやめて電気毛布で温められた布団に潜り込んでしまった。
(まぁ···。温かいのは気持ちいいもんな)
もの悲しさをグッと堪えて、俺も改めて布団に入り直した。
「あったかいなぁ···」
「だねぇ···もう私眠たくなってきちゃった···。明日は森の探索だったよね?」
「たくさん歩くことになるだろうから、しっかり休んで明日に備えようか。 紅葉、おやすみなさい。」
紅葉は明日の予定を忘れずに覚えていたようだが、俺が話しかけて頭を撫でても反応は返ってこなかった。 いつも以上の温かさで、あっという間に眠りについたようだ。
「おやすみ」
俺はもう一度呟いた。 布団から耳だけ出して丸まって眠る紅葉を見つめながら···
窓からは月明かりが漏れて、うっすらと室内を照らしている。 まだ21時程度だが、照明を使わない生活にずいぶんと慣れてきた。
時間に追われていた数日前が懐かしい。
明日は久々の探索だ、やっと装備を活かせそうだな。 遠出するのも良さそうだし楽しみだな···
これにて9日目完成!
いやぁ・・・仕事も私生活も忙しいです・・・zzzZZZ




