8-1.川へ洗濯に(8日目)
喋れるようになり、今まで以上に意志の疎通が容易になった紅葉との新たな1日が始まる。と言っても、今までの生活がガラッと変わる事もなく・・・たぶん。
「・・・ふぁぁ―・・・」
目が覚めて、大きな欠伸が漏れた。 目を開けると周囲はまだ暗く、触覚以外の識別が難しい。 日の出前だろう。 照明の点かない現状では、カーテンは冷気対策としての役割しか果たさない。 日の出に気づけるよう、ロールカーテンは全閉にしていない。 隙間から漏れ出る陽の光がなければ真っ暗なのだ。
俺は再び目を閉じて昨夜の事を思い出す。
夢では無いと信じたい。
左胸から肩にかけてもたれ掛かる紅葉の重さは今も感じている。 一定の間隔で呼吸している事も感じられた。 昨夜の事を抜きにしても、この子が居てくれる事が今の自分には大切なのだといつも思っている。 そんな中、話し相手となって1人と1匹から、2人になれた気がするのだ。 永遠の孤独は地獄だと思う。 毎日の中、僅かばかりでもいい、自分以外の存在との干渉が必要だ。 ただ寂しかった・・・それに尽きるのだ。
昨日の興奮が冷めやらず、俺は遠足当日の子供のように早起きをしていた。 前日から寝れずに体調を崩してしまわなくて良かったとしみじみと感じている。
紅葉はいつも通りぐっすりと眠っていた。 まだ視認できるほど周囲は明るくない。 このまま寝続けるのがいつもの俺の生活リズムだが、時計を見る限り間もなく日の出だろう。 さっさと起きて、朝食の準備をしてしまおう。
紅葉を慎重に肩から下ろし、頭を撫でた。
「紅葉、おはよう。 俺は先に朝ごはんを作ってるから、また後で起こすね」
垂れていた耳がピンッと立ったのも束の間、また垂れた。 紅葉も欠伸をしていたので、目は覚めているのかも知れない。 朝はいつも弱いようなので仕方ない。 目を開けたら俺が居ないので驚いて走り回る事態が目に浮かぶが、俺まで寝ていたら日中の時間が勿体無いのだ。
顔を拭い、外に出ると薄明かりに照らされ十分視認できる状態となっていた。 日が出る直前の最も寒い中、急いで焚き火に火を点けた。
焚き火はパチパチと音を立てて橙色の炎を揺らめかせている。 手をかざしていると、かじかんでいた指先も次第に温まってくる。
火は安らぐ。 何故焚き火とはこんなにも・・・と感じるのは、キャンプで焚き火をしてみないと気づけないだろう。 電気や便利な道具で満たされている中じゃ味わえない。 ただ燃えているだけなのに不思議である。
時間もまだ早い・・・色々とできるかもな。
ペアーチが大量にある安心感もあって、俺は創作料理をしてみようと考えていた。 失敗したとしても、食べるか埋めてしまえばいいと。 紅葉が起きてこない内に試しておきたかった。
塩味だけの焼肉も良いが、そろそろ味を変えてみたい。 焼肉のタレはこの世界に来る前に切らしていた為、買い込んでおかなかった事に今更ながら後悔している。
焼肉のタレのような物を作ろうと思っているのだ。 果物を入れた醤油ベースの味は良くあるだろう。
ペースト状にしたペアーチに、醤油と味噌を少しずつ混ぜていく。 みりんと料理酒を入れて雪平鍋で煮詰めていく。 にんにくや生姜も入れたい所だが、紅葉が食べたら危険かも知れず入れるのは止めた。
甘い桃の香りが、蒸発していくアルコールに乗って鼻をくすぐる。 ひと煮立ちした所で、ごま油を垂らして完成である。
「さて・・・」
スプーンで軽くすくって、冷ましてから口に含んだ。 味噌と醤油の深みと共に、濃厚な桃の甘みが口に広がった。 にんにくや生姜を入れれば更に良くなるだろう。 創作タレの成功を感じ、肉焼きを行う事にした。
今日はステーキとしよう。 キッチンから溶岩プレートを持ち出し、20分程度直火でプレートを温めてから厚めに切った肉ブロックを2枚敷いた。
じわじわと焼ける肉の状態をジッと見続ける。 溶岩プレートだとこんがりとは焼き難い。 しかし、じっくりと火を通し、ある程度脂を落とした焼き加減となる為、ステーキを焼く時は愛用している。(焼くのにも時間が掛かるが...) 溶岩プレートで吸収し切れなかった脂がプレートから溢れ、焚き火に落ちる度、じゅうじゅうと香ばしさが辺りを包む。 揚げてしまう様な状態になっては堪らないと、キッチンペーパーで余分な脂を拭き取りつつ焼いていく。
プレートに接した肉が側面から見る事で、段々と焼けて白っぽくなっているのが分かる。 肉の中央に向かって白くなるにつれて肉表面に赤い汁が出始めた。 余分な油は拭き取ってから肉を引っくり返した。 焦げ目は殆ど無いが、ふっくらと盛り上がったような肉の状態に俺は満足していた。 反対面も段々と白さが中央に向かっていく。 あと少しだ・・・と言う所で、玄関の扉が開き紅葉が駆けてきた。
中々早起きじゃないか、と誉めようかと思ったが俺では無くジッとステーキを見つめる眼に気づき、改めて俺もステーキと向き合った。 中央まで火が通りきる前にサッとプレートから肉をまな板に載せ、食べ易いように短冊に切っていく。
切断面は中央が赤い。 レアと言えるだろうか? ミディアムレアよりはレア寄りだな・・・等と考えていると、紅葉が背中を伝わって肩に乗ってきた。
「朝ごはん、もう食べれる?」
寝起きに俺が隣に居ない事で走ってきたのでなく、食欲の塊だった事が些かショックではあったが、俺自身も自信作と言えるレベルなので笑顔で答えた。
「食べれるよ。 今日はいつもと違うソースも作ってみたから、ソースの味をみてくれなかな? 紅葉がソース苦手ならいつもの塩味にするからさ」
スプーンでソースをすくって、ふーふーと冷ましてから紅葉の口元に近づけた。
匂いを嗅ぎながら問題ないと判断したのか、紅葉はスプーンごと咥えた。
「すっごく美味しい!」
「それは良かった。 それじゃ、紅葉のステーキにもソースをかけるね」
紅葉は尻尾を振りながらぴこぴこと動き回る耳や、新たに得た表情で嬉しがっているのが良く分かる。 本当に夢ではなかったんだと改めて感じた。
俺も肉を口に含み、咀嚼した。 柔らかな肉を噛み切る時に溢れ出る肉汁が口に広がっていく。 醤油の香ばしさや味噌のコクと桃の甘さもマッチしている。 わさび醤油で食べても良いなと思える上品な肉の味をしていた。 今までの焼肉とは大きく違う表情をこの肉も見せてくれている。 焼肉よりもステーキとした方がこの肉の良さを出せるかも知れないと考えていると、紅葉から「おかわり!」との一言で自分のも含め、更に4枚ステーキを焼く事となった。 ソースにアレンジで豆板醤と生姜やにんにくも追加したが、紅葉も気にせずに食べ、作ったソースは使い切ってしまった。
この後の紅葉の体調が少し心配ではあるが、現実の犬等の動物と紅葉が同じ食性なのかは分からない。 分からないからこそ不安ではあったが、本人があんなにもおいしそうに食べるのだから止める事は出来なかった。 その甘さが紅葉を殺してしまうんだ等とは言わないで欲しい・・・今回は運が良かっただけではあるが。。
----------------------------------------------------------
先に言っておくと、紅葉は俺と同じように食べる事が出来たようだ。 その後も問題無いどころか要求して来るほどに。
----------------------------------------------------------
最近の朝ごはんにしてはまだ早い8時頃、食べ終わった食器や道具を集めて作業用の大型BOXに入れた。
今日もやりたい事は多い。
まず、紅葉と話し合ってから予定を決めようと思う。
「俺は食器や服など洗物が流石に増えてきたから、洗濯をする為に川へ行こうと思う。 紅葉は今日どうする?」
「私は、サトシに着いて行きたいよ。 ダメ・・・?」
邪魔だから置いていかれると受け取ったのだろう・・・寂しそうにさせてしまった。
紅葉の自由に・・・とも思っていたが、話せる事での擦れ違いも増えそうだなと肝に銘じておく。
「着いてきていいよ。 昨日急に話せるようになったりと変化激しすぎて紅葉の体調大丈夫か心配したから確認しただけだよ」
「体は大丈夫、元気だよ!」
「それなら良かった」
紅葉の頭を撫でながら、俺は安堵した。
一輪車にBOXとポリタンクを載せて、川へと向かった。
現在水の入手は川でタンクに貯めるしか方法が無い。 ふと気づいたのだが、お風呂は空っぽである。 貯水できる大きなタンクが室内にはあったのだ。 飲み水として使う場合は、どうせ煮沸するのだからポリタンクの中でも、お風呂でも大差は無いと判断したのだ。 ポリタンク2つを浴槽に貯め現在に至る。
今まで1人で進んでいるような森だったが、紅葉が喋っているおかげだろう、ハイキングのような気分になっている。
「あの木、さっき見たのと一緒だー! ほらほら、この枝のところコブになってる!」
紅葉は元気である。 さっきから目に付いた物を積極的に教えてくれている。 言われたとおり、木を見ていると家の近くでも同じようなコブの付いた枝が確かにあった。 今まであっただろうか・・・? そこまで周囲を観察できていなかっただけかも知れないが、不穏を感じてしまう。
散策をしながら川に辿り着くまで、敵との遭遇は無かった。
俺はさっそく川原へ洗濯しに向かい、紅葉は山で芝刈り・・・とは行かず、紅葉は川原を歩いてイノシシが倒れていないか確認してくるとの事だった。
今朝のステーキをすごく気に入ったようで、たくさん肉が無いと食べられなくなってしまうと必死になっていた。
俺は敵や他の人間のような者が居る可能性があり危険である事を説明したが、すぐに逃げ帰ると約束した上で川原の散策を許した。
洗濯を始める前に、昨日見つけていた斧を確認しておいた。 変わらずイノシシ革の下に重厚な金属の斧が置いてあった。 見る限り昨日の状態から移動していないように思われた。 こっそりと皮の端に小石を置いていたのだが、それすらも移動した痕跡は無い。 察するに今のところこの斧は未使用であるという事が分かった。 持ち主は遠征でもしているのかも知れない。
これ以上調べる事は無いな。
気を取り直して洗濯を始めた。 BOXの中に入れていたバケツに川の水と洗濯用洗剤を少量入れ、もみ洗いで洗っていく。 俺の衣服やタオル類のみなのであっという間に終ってしまうが、洗剤も有限である。 頭を悩ます事は本当に多いな・・・。
環境保護を無視して、汚れた洗濯水は川へ流している。
そもそも生物が見当たらず、川に仕掛け続けた罠にも何も掛からない。
この川に生態系という物があるのか謎である。
洗い終わった下着やタオルはハンガーに通し、手頃な川岸の木の枝へ引っ掛けた。
風が洗濯物を揺らしている。 ここは風通しもよく、今日も晴れて暖かい。 これなら夕方前には乾くだろう。
続いて食器も洗い、近場の石の上に置いて乾かしておく。
そう言えば、紅葉が戻ってきていないな。 まだ11時だし昼ご飯には早い。 そもそも昼はペアーチのみの予定である。 食事の準備も不要なので簡単だ。 紅葉が北の大滝へ向かってから戻ってくるのは確認しているから、南へ向かっているはずか・・・。
ポリタンクに水をたっぷりと入れ、一輪車まで運んでおく。 すぐに帰れるよう出来る準備はしておいた。 俺は紅葉を探すべく、川を南下する事とした。
今日はかさばる物を持ちたくなかったので、ナイフ1本を携帯している。 川の流れも、周囲の風景も以前見たままで変化は無いようだ。
槍の材料を入手した竹林が風で揺れている。 揺れる葉が擦れあい、カサカサと音を立てている。 竹林付近は、この音にかき消されるように川の流れや周囲の音が聞き取り辛くなる。
竹林を後にし、更に南下する事とした。 この先は行った事が無い。 紅葉は大丈夫だろうかと一抹の不安がよぎる。
その先も、これまでと変わらず岩場や崖が見える。 黄色い毛玉は目立ちそうなものだが中々見つからない。 ふと、違和感のある物が動いているのに気がついた。
(丸い・・・茶色っぽい物?)
明らかに岩場を移動している。 だいぶ南下した先なのではっきりとは分からないが、何かが移動している。 腰のナイフを取り出し、慎重に動く丸い茶色に近づいていく・・・。 南下する俺に対し、あちらも北上している動きなので接触するまで時間は数分だった。
日曜日の夕方アニメのように、円盤を持ち上げ器用に2本足で歩く紅葉が近づいてきた。
「紅葉、お疲れ様。 それどうしたの?」
「あっ! サトシ、ただいま。 もうちょっと南行った所に落ちてたよ! まだ他にもあるの!」
紅葉には重かっただろう、円盤を砂利の上に降ろすとペタリと座り込んだ。 俺がペアーチを紅葉差し出すと、果汁が毛に垂れる事を気にする素振りも無くかぶり付いていた。 俺もペアーチに噛り付きながら、丸い円盤に目を向ける。
盾である。 お鍋の蓋とか、木の盾って感じではない。
シンプルな丸い形状をしているが、表面はナメシ革で覆われており、更に金属製のエンブレムのような物も付いて装飾されている。 円盤の外周部も金属製の枠となっており、強度もありそうだ。 引っくり返して裏面を見てみると、木製の基礎に皮や金属をあしらっている事が分かった。 持ち手の部分は、皮製のバンドと同じく皮でできたグリップが付いていて、腕を通して固定するタイプのようだ。 更に裏面には一回り小さい金属板が基礎の木板に貼り付けてある。 木製である為、腕を通した部分の保護用だろうか。 随分と手の込んだ盾である。 良い仕事してますねぇ~と盾に詳しくないが言ってみたくなった。
さて、一通り確認したところで紅葉に確認せねば・・・。
「紅葉、この盾の落ちてたところに人は居なかった?」
「うん、誰も居なかったよ。 他にも剣や鎧も落ちてたから取り行く?」
うーん・・・。 斧の次には装備一式か・・・装備を脱ぐくらいだから水浴びでもしていたのかも知れないな・・・。 見やすい川辺ではなく、隠れて行水していたのかも知れない・・・。
既に盾は盗んでしまった状態であり、弁明の余地は無さそうだな・・・。
次からは勝手に持ってきちゃダメだと、紅葉にしっかりと伝えておいた。 もし、何かあったらまずは報告と、一緒に行動しようと。
紅葉に連れられて更に川を南下する。
段々と南南西から南西へと曲がっていく川を進むと、そこには川岸に打ち捨てたかのように防具一式が転がっていた。 紅葉に確認したが、見つけた時からこの状態だったようだ。 周囲に人影は無い。 というか、下着のような物も何も無いな。 防具って素肌に着るものだったろうか・・・? そして盾もそうだったが、胸当てに小手とブーツに剣だ。 どれも使用感が無く新品同様で、打ち捨てられたにしても汚れが全く無く、剣のサビも皆無でとても鋭利である。
正直に言おう、欲しい。
少年の心を忘れないおっさんとして、ロマン溢れるこの一式は着用してみたい。 コスプレとかの経験は無いが、こんなファンタジーな世界で戦闘もしている中、皮鎧のような一式が目の前にある。 今までのジャケットやパーカーとは防御力が段違いだろう。 RPG感が急激に出てくるし、後は魔法でも欲しいところである。 俺は紅葉に周囲の警戒を依頼し、皮鎧一式の着用を始めた。
ブーツを履いている最中に発覚したのだが、履いた直後はガバガバだったのに一瞬光を発したと思ったら身体に合わせて微調整されたようだ。 オーダーメイドの靴を買ったような素晴らしい着用感であった。 もちろん、胸当てや小手、果ては盾や剣すらも調整された。 胸当てはベルトバンド等あったが、それは飾りだと言わんばかりに自動調整によってバンド以外の部分の形状すら変わっていった。 小手は剣を持つ右手用だけだが、指の太さ,長さ,関節の位置まで正確に調整されており、手術用の手袋を着けているかのようなフィット感である。 盾はグリップを持った拳から肘にかけての長さに合わせて円盤自体の大きさが変わった。 剣すらも握るとグリップの太さ,長さ,重さが変わったようだ。 長剣では無く、短剣とも言いづらい刃渡りは60cm程度の剣となった。 しかし、装備が自動寸法調整って、現実世界においてもありえないレベルの技術だ・・・流石ゲームのような世界。
毎度の考えても仕方ない事なので、そういう物なんだと納得した。
着用できたので、紅葉を呼ぶと、強そう強そう!とはしゃいでいる。 俺自身も満更でも無く、いくつかポージングして楽しんだ。
剣を腰についた鞘へしまうと、再び周囲を見渡した。
(危険な場所である事をすっかり忘れていた・・・)
時刻は14時だった。 そろそろ戻る頃には洗濯物も乾いているだろう。 紅葉に伝え、川を北上し戻る事にした。
予想以上にブーツはしっかりしている。 川辺の石でもすべる事無く、しっかりとグリップしている。 どのような素材なのか分からないが、下手なスニーカーよりも優秀である。 というか、履き心地がオーダーメイド級なのでその意味合いが強いのかも知れないが。
帰り際にある竹林で剣を振ってみたが、素人の俺ですらスパッと竹が切れた。
スカッとした気持ちと切れ味に恐怖する2つの感情が入り混じり、素直に喜べなくなってしまった。 扱いには相当注意せねば。。。
洗濯物と食器は予定通り乾いていた。
タオルや衣服を畳みながらBOXへしまっていく。 洗濯用に使ったバケツも乾いており、そちらもしまった。 BOXを一輪車まで運び、紅葉と共に帰路に向かった。
帰宅するには十分に早い時間。 肌寒くなるような木漏れ日の中を、息荒く俺は進んでいた。
40Lの水、そして皮とは言え鎧一式と剣・・・足取りが重い。
何度も通っている道ではあるが、こうも重いと体力の消耗は激しい。
体の自由度は、フィットしているせいか苦にはならない。 本当にただの筋力不足だと感じている。 これ着て森に入るだけでかなりのトレーニングだな。。。
紅葉は、さっきから辺りを警戒しているのか、呼び込もうとしているのか怪しい。
新しい装備が手に入ったら、まずは戦ってみたいよな・・・分かる、分かるが・・・メインで戦うの俺だよね・・・?
紅葉の期待あってか、前方にウリ坊の群れを発見した。
「4頭だ。 周囲に親イノシシも居る可能性がある。 紅葉は周囲の警戒を頼む」
「分かったよ」
いつもより声のトーンを落とした返答の後、紅葉はサッと木の上に飛び移った。
樹上から周囲を見渡すようだ。
(さて・・・ウリ坊とは言え、4頭同時は初めてだ。 肉集めの淡い希望もあり、確実に仕留めたい)
剣を抜き、腰を屈めて迂回しながら群れに近づく・・・。 後5m・・・
「サトシ! 親イノすぐ西っ!」
樹上から慌てた声が響き、ウリ坊も親イノシシも上を見上げた。 俺は咄嗟に西の茂みに突撃し、頭上を見上げている親イノシシを発見したが止まらず剣を振り降ろした。
ザシュッ! ドサッ・・・
一刀両断だった。 親イノシシの胴を真っ二つにしていたのだ。 先ほど竹を切った時と同じように大した抵抗はなかった。 本当にサクッと・・・ものすごく良く切れるようだ。
倒れた親イノシシに寄り添うように、4頭のウリ坊は近づいてきた。 容赦なく俺は剣を横なぎにし、ウリ坊も一撃で切り裂いた。
呆気ない・・・ というか、今までの苦労はなんだったのかと。。
剣が強すぎる。 もしかするとこの防具も相当強いのではないだろうか? または、イノシシ相手だからここまで楽なのだろうか?
倒した5頭のイノシシは、輝きながら霧散した。
銅貨4枚と銀貨1枚、イノシシの牙を手に入れた。 肉は手に入らなかった。
紅葉も流石に驚いていた。
一刀両断できてしまうとは流石に思っていなかったのだろう。
お互いに剣の恐怖を知った。 味方であるうちは良いが、敵がこれを持っていたら自分が両断されてしまうだろう。 また、取り扱いを誤ったり、戦闘中に接触でもすればかすり傷では済まないだろう。 強いが、危険である事が良く分かった。 今後の戦闘中の行動は事前に打ち合わせておいた方が良いだろう。 そう考えながら、ようやく家に辿り着く事ができた。
今までで一番長い文面になってます。
投稿前の読み直しも・・・ダレますorz




