7-3.晩御飯(7日目)
7日目の晩御飯、結城と紅葉に何かが・・・?(※今回短いので、また追記予定です)
鬱蒼とした森でも、陽が頂点に昇りキラキラと木漏れ日が足元を照らしていた。 日中はまだ暖かいはずだが、照り付けるほどの日光は無く肌寒い森を進んでいる。
動いていれば暖かくなるだろうという安易な考えではあったが、休憩を経て冷えていた手足も今や自由に動く。 火照り始めた体も、周囲の温度で適度に冷やされ丁度良い環境だといえる。
(肉ばかり食べて太ってもおかしく無いが、動き回っている関係でむしろ引き締まってきたかも知れないな)
そんなしょうもない事を考えていられるくらい、何も問題なくペアーチの丘まで辿り着いた。
「今回も・・・誰も居ないか・・・」
紅葉が居ない為、完全に独り言なのだが不安と期待の入り混じった呟きを発していた。
何か居るかも知れない痕跡が、午前中に向かった川原で新たに見つかっているのだ。 それもとびきり危険そうな道具を。。
身を屈めながら念入りに周囲を見渡し、危険が無さそうな事を確かめてから、木々を転々とし地面に落ちたペアーチを回収していく。 最初は10個持って行ったが、今回は肉以外の貴重な食料でもあり確実に集められるので、持てる限り集めてしまおうと考えている。
肉は不思議と腐らない、きっとペアーチもそうだろうと考えている。 地面に落ちるような果物は、基本的に完熟しきり、後世に子孫を残す為に万全を期した状態のはずだ。 正直熟れ過ぎとも言えるレベルで。
だが、この数日間全く味が落ちていなかったのだ。 最近は、ゲーム内でも道具の耐久や食料の腐敗等々設定されている事が多いのに、何とも安直な・・・。
まぁ、道具が破損するのはバックパックや靴の件で実証済みではあるか。
サバイバルにおいて、食料が腐敗しないという事はヌルゲーと言えるだろう。 持てるだけ集めた食料は、ある分だけ全てが最良の状態で消費できるのだ。 チートレベルの状態だと言って良いだろう。
ペアーチ以外の食料は現段階で確実な入手法は無いが、飽きて食べる事を拒否しない限り命をつなぐ事は難しくは無い。 今はタンパク質と糖質やビタミンくらいしか摂取出来ていないだろうが、これといって体調は崩していない。 甘んじて現状維持せず、更なる食料開拓は必須だろうと考えている。
「中々成果は無いがな・・・」
ため息を漏らしつつも、軽かったバックパックは今やペアーチでずっしりと重くなっている。 入れた個数は覚えていない。 ただ歩き回ってポイポイと入れていっただけだ。
ひと休みがてらペットボトルを取り出し中身を飲み干した上で、足元の草を縄の代わりに用いてバックパックへ括り付けた。 さらにペアーチを2個追加して、パンパンにペアーチが詰まった鞄を背負い帰路に着く事にした。 当分は取りに来なくとも大丈夫だろう。
陽が落ちる前に帰ろう。 すりおろしたペアーチを嬉しそうに食べる紅葉を思い浮かべながら、来る時に負けないぐらいしっかりとした足取りで森を突き進んだ。
森を抜けると、見慣れた無敵な家が目に入る。 予想以上に早く帰宅でき、まだ陽は沈んでいない。
俺は小さくため息をついていた。
|紅葉が出迎えてくれるかもしれないという期待を持っていたのだろう。 自己暗示のように淡い・淡い期待だったのだと繰り返し胸の中で繰り返しながら。
葛藤と戦いながら、玄関を開け部屋に入ると朝と変わらず盛り上がった布団がベッドの上にあった。
確認するまでも無く丸まった紅葉と卵だろうと判断し、バックパックを床に置きペアーチの確認と整理を始めることとした。
鞄から取り出し、段ボールの空箱にペアーチを詰めていく。 まさか、引越しの時に使って残していた段ボールが役立つとは・・・。 捨てずに取っておいて良かったと、部屋が片付かないながら良い結果だったと自画自賛した。
結果、なんと40個ものペアーチを持って帰って来ていた。 肩に食い込んで正直痛かったが、仕方が無いだろう。 詰めに詰め込んだが、潰れている物も無かった。
何故潰れもしないこの果物が、卸し金ですりおろせるかの謎も深まってしまったが考えない事にしておく。
陽が沈み始め、部屋の中が急に暗くなっていく。
早々に火を点け、晩御飯の準備を始める事にした。 未だに紅葉は起きてこない。 少し不安が出てくるが、まずは晩御飯を先に準備してからか・・・と後回しにした。
今日もご飯は、焼肉とペアーチである。 調味料は色々と揃えているとはいえ、限りがあり且つ焼く以外の調理をしていない。 アレンジを加えて中途半端なものを作る事が怖いのだ。 材料は脂がそこそこのった肉と、桃のような風味と梨のような食感の実のみである。 2つを炒めたり、蒸したり、はたまた貴重な油を使い揚げてみたり、 ミンチにして練り物としてみたり・・・。
いくつか思いつきはするが、ピンと来ない。 寒くなってきた、今を考えると練り物としてつみれ風にして鍋も良いが、具材がそれだけである・・・。
キューブ型の鍋の素や出汁用の昆布や椎茸に鰹節もありはする、だが・・・葉物が欲しい。
子供の頃には、鍋物といえばタラやアンコウやカニ等のメインとなる具材が好きだった。 歳を取ったせいなのか、いつの間にか白菜や豆腐に糸こんにゃく、そんな脇役のような具材がどんどんと好きになっていた。
鍋には色々と入れたい・・・。 つみれだけなのはNGなのだ。 そもそも、桃のような味の時点で味が合わなそうである。
そんな訳で、連日の作業なので上手に焼けました~が繰り返されている。 もう失敗しないのではないだろうか?というレベルで焼き加減が耳で,鼻で判断できるくらいの野生感が生まれていた。 連日使っている皿の上に肉を盛り、すりおろしペアーチも深皿に注いだので紅葉を起こす事にした。
ベッドを確認すると、何やら布団がうっすらと光っているようだった。
既に陽は落ちており、部屋は暗い。 月明かりの無い部屋の中は真っ暗といっても良いだろう。 ぼうっと浮かび上がるような淡く青白い光が明滅しながら布団の中から漏れているのだ。 正直夏場だったら会談ネタとして十二分に使用できるくらいの極々弱い光だ。
(お化け・・・とかやめてくれよ・・・?)
再びちびりそうである・・・。
高鳴る鼓動を、何度も深呼吸して抑え込みながら布団をめくり上げた。
「・・・。」
想定通りではあったが、言葉が出なかった。
卵が青白い光を放ちながらゆっくりと明滅を繰り返している。 深く呼吸をしているような明滅だった。 無精卵では無いようだが、ただの卵でも無いのも確実だった。 そもそもイノシシから手に入れた卵の時点で怪しすぎる。
卵の中が透けて見えるような事は無く、中身が光っていると言うよりも殻自体が光っているといった方が良さそうだ。 このまま光り続けてくれるなら、弱いが夜目の効かない自分にはライト代わりになりそうだと、考えがよぎった。
(この世界に毒されてきたか?)
すぐに冷静かつ有効活用する思考が働くのは良い事だが、警戒心がすこぶる落ちている事に気がついた。 客観的に考えられているのだろうかな・・・
一呼吸置いて、紅葉を確認するとお腹が上下しており生きている事が分かった。 手で触れればふかふかの毛が温かい。 くすぐったいのか身じろぎしていたので、頭を撫でて起こしてやった。
寝過ぎでもあり食事も取っていなかったので衰弱の可能性もあるが、少しふら付く足取りで起き上がり、手を舐め始めた。
「紅葉、おはよう。 もう晩御飯の時間だけど、どうする?」
紅葉は抱いていた卵に目を向けると、一瞬いつも以上に目を見開いていたのでクスリと笑ってしまった。 本当に寝続けてこの変化に気づいていなかった事が可笑しかった。
ベッドの縁に座っていた俺が立ち上がるのに合わせ、紅葉は卵を布団の中に押しやった後に床へと飛び降りた。 俺に着いてくるので、晩御飯を食べるのだと理解した。
リビングに持ってきていた肉を紅葉と分けながら食べた。 すりおろしペアーチは、甘えてくる可愛さに負けて2個目も与えてしまった。 俺の敗北によってペアーチは意外とすぐに無くなってしまうかもな・・・と在庫管理はきちんとしようと心に決めた。 与えないという選択肢に辿り着けないのは可愛いから仕方ないのだ。
食べ終わると俺の太ももの上に紅葉は乗っかり、またもや丸くなった。 寝る訳ではなく、甘えているのかスキンシップをすごく取ってきた。 不意にわき腹から肩へと移り、頬ずりをしたり顔を舐めてくるのでずっとニヤニヤが止まらない。 鏡で自分を見たら、引くレベルだろう。
一頻り遊び終え、寝る為にベッドへ行くと変わらず卵は明滅していた。
俺が布団へ潜り込むと、紅葉は何事も無かったかのように卵を抱えていつもの定位置である俺の胸の上に乗って丸まった。 光っている卵が少々不安ではあるが、野生(?)な紅葉が気にして居なさそうなんだから大丈夫だろうと信じる事にした。
頭を撫でて、おやすみと囁く。
今日もかなり動き回ったので体がとてもだるい。 濡れタオルで体を拭きはしたが、お湯に浸かりたい気持ちは払いきれない。 また露天風呂に行きたいなと考えていたら睡魔は唐突に襲ってきた。
自分と紅葉の体温で温まっていく布団に負けて、俺は眠りに落ちた。
(ん・・・、揺れている・・・?)
目を閉じたままだが、不快な揺れで眠りから覚めてしまったようだ。 目を開くのも億劫だが、まだ眠い・・・。 胸の上が軽くなっているが、紅葉が胸から落ちただけだろうと意識はまた遠くなって・・・
(揺らされている。。。)
眠りたいがどうも揺らされているようだ。
左肩を押されている。 眠い目を擦りながら、薄目を開けると窓から陽は入っておらず、夜か夜明け前だと判断した。 薄目のまま左に頭を向けると、やはり紅葉が俺を揺らしていた。
日中寝過ぎた為、眠りつけずに俺にちょっかい出してるんじゃないだろうな・・・と恨めしい気持ちを持ちながら、紅葉に声を掛けた。
「紅葉どうしたんだ・・・? まだ真っ暗じゃないか・・・」
「ちがう、ちがうの!」
「そうか・・・ちがうか。 でも、俺はまだ眠いから寝かせてくれ。」
「寝ないで! ねぇ! 起きてってば!」
「日中いっぱい動いたから俺は疲れたんだよ・・・ 紅葉はいっぱい寝てたから元気だろうけど、俺はもう少し・・・」
ん・・・? 俺は誰と会話しているんだ・・・? 寝ぼけていた思考がだんだんと鮮明になっていく。
閉じかけていた目を開き、紅葉をじっと見つめた・・・
「・・・ 紅葉・・・今、しゃべったのお前か・・・?」
夢でも見ているのかと思い、手で何度も顔を拭い頬を叩いた後、上半身を起こして俺は話しかけた。
「そうだよ! すごいでしょ♪」
すぐに紅葉からは返答が来た。 尻尾をぶんぶんと振っている。 とても嬉しそうだ。 以前よりも表情が豊かになったようにも感じるが気のせいだろう。 大きな狐耳と赤い目をした子狐に間違いはない。 擬人化しているとかそんな事も無く、突き出た口から声が発せられていた。
「夢か・・・ 紅葉、まだ起きるには早いから寝ようね、おやすみ・・・」
騒ぐ紅葉を掴み上げ抱きしめて寝る事にした。
俺は改めてベッドで横になった。
パキッ!
背中に硬い物が突き刺さり、痛みで目が覚めた。
「イタタ・・・。 卵の殻か、イノシシでも孵ったのか?」
ちがう、ちがうと騒ぐ声が再び耳に入ってきた。 なら、かぐや姫でも生まれたか?と考えていると、腕の中で紅葉が首を横に振りながら、ちがうー・・・と言っている。
狐耳がペタンとしており、泣きそうな表情と言えばいいのだろうか。 訴えかける何かが、今までと違う。 動物らしい目から、人間味を持った表情を感じる。
そう言えば、クリッとした真ん丸な目が紅葉の特徴だった。 まぶたがあるようには見えないが、半月上の目は悲しげな表情をかもし出している。 どうにもおかしい・・・
本当に時間が取れなくて、久しぶりの更新となってしまい、申し訳ない。。
仕事+私用が忙しいです。
水槽のエビが6匹卵抱えていたり、何か魚も卵産みそうな気配・・・ そして長風呂が気持ちいいです。温泉行きたい・・・。
しょうもない日常生活の話はおいといて、書くのをやめた訳ではないのであしからず・・・。
色々と頑張らねば~・・・ おやすみぃ




