7-1.夜明け(7日目)
被害も多かった6日目を無事乗り越えた結城と紅葉。 新たな7日目が遂に始まる。
「・・・朝・・・か」
しっかりと寝れたようで、俺はスッキリとした目覚めが訪れた。 ベッドでの睡眠はやはり良い。 たまには屋外で寝袋も悪くは無いが、毎日と言うのは疲れが取れないのだ。 便利な事に慣れすぎた今の俺には自然の中で暮らし続けるのは本当に大変だと感じていた。
ふと、この世界(?)に来てしまった出来事を思い出した。
地震が発端だった。 俺は今こんな生活をしているが、地震被害があった場所はこの状況以上に大変な事となっているのだろう。 電気だって、ガスだって使えない。 水だって思うようには手に入れられない。 固い床や地面に寝る事だって強いられるのだろう。 俺はむしろ良い生活をしているのかも知れない。
今一度、自分を奮い立た。 絶望するような気持ちではなかったが、未来が楽しいものだと考えていなくちゃ始まらない。 ここには綺麗な水だって、温泉だって、美味しい果物や家だってある。 ゆっくりと生活を豊かにしていけば良い。
それに、今は独りではない。
俺は胸の上で丸まった紅葉を撫でた。 まだ起きていない様で、じゃれ付いてくる事もない。 昨日から抱かかえ続けている卵を守るように・・・。
「このまま・・・でいいか」
酷使し続けた体は鉛のように重く、ベッドに沈みこんだ手足が持ち上がらない。 目は覚めて意識もしっかりしているが、紅葉を撫でるだけで疲れたように腕を下ろした。
顔だけ時計に向けると、まだ5時だった。 陽はまだ出ておらず、カーテン越しの窓は闇に包まれている。 考え事をするには丁度良いかと天井を見上げながら昨日の事やこれからの事を整理する事にした。
<昨日のあったこと>
・紅葉は、イノシシを大滝沿いの川で手に入れた。
・大きなイノシシを倒し、牙と銀貨と紅葉が現在抱いている卵を手に入れた。
・靴底が傷み接着剤で補修し、バックパックも損傷して簡易的に縫い止めた。
・スポーツドリンクを1本飲み干し、20Lのポリタンクが1つ空になった。
・ペアーチが残り2個
ざっと、こんな所か。 続いてもう少し深く掘り下げるか・・・
<大滝の川>
あそこで発見するイノシシは食料として丸っと肉になる。
他のイノシシは全てキラキラと星になって散っていく。
崩落での落下にしても、行く度に100%の確立で何かに出会っている。
紅葉ですらあの川沿いで発見した。
あの川沿いは、森の中とは違った何かがある。 あそこで倒せば肉になる不思議空間という可能性もある。 安定した食料調達の方法は重要な項目だ。 川周辺の調査は行うべきだろう。
<牙や銀貨、卵に以前手に入れた銅貨や骨>
何かに使える可能性があるが、今すぐは思いつかないので一旦家の中に置いておこう。
卵はしばらくの間、紅葉が温め続けるだろうから任せておこう。
そういえば、ドロップしてから直ぐに温めなかったけど生きているのだろうか・・・? というか無精卵の可能性もあった事を失念していた。 紅葉の機嫌を損ねないように、もしもの時、どう対応するかする考えておかねば・・・頭が痛い懸案だ。。。
<道具類>
靴もバックパックもピッタリな代えは無い。
修繕するにも限界はある。
普通のスニーカーとかでは足を挫き易いし、カジュアルな鞄では機能性が無い。
便利な物を使い続け壊れる事に悲観するよりも、現地にある物で代用品を作ってそれに慣れていき、改良をしていく方が良いだろう。 技術はまだ足り無すぎる・・・。 それでもDIYや工作で培ってきた知識や、動画サイトで見てきた数々のサバイバル術も記憶の片隅には残っているだろう。 それらを呼び起こせば何か出来るかもしれないな。
小さな事から挑戦し、少しずつ成長していこう。 急にやっても失敗する。 自分なりの階段を登っていけば良い。
<飲料水>
残りのスポーツドリンクは21本。
残りの水はポリタンク20Lのみ。
500ccペットボトル3本とポリタンク20Lが空。
水の調達は最優先事項だろう。 水が無ければ生きていけない。 生命維持には食料以上に水が重要である。 まずは水の確保、それが生きる手段だと動画の中の彼は言っていた。
また川への道を往復しなければいけないのは重労働だが、こればかりはなんともならない。 灌漑工事なんて、簡単に1人で出来るような物ではない。 井戸を掘るのも簡単な事ではない・・・道具が足り無すぎる。 面白そうではあるので挑戦したいが、まだそこまでの余裕が無い。
<ペアーチ>
残り2個
これはヤバイ。 正直、食後のデザートとして最近必須である。 というか毎食食べていた気配すらある。 取りに戻るのも難儀だが、これも欲しい。 大滝での水確保とは正反対なので、優先度的に妥協しなければいけないが、早急に採取するべきだろう。
一息つきながら、改めて時計を見ると6時になっていた。 まだ外は暗く日は昇っていないようだ。 もうすぐ空が白み始めるだろう。 電気の無い生活は、陽と共にある。 焚き火が出来る屋外の方が夜は過ごしやすいくらいだ。
起きるべき時間が近づいたので、紅葉を起こすとしよう。 勝手に俺だけが起きて居なくなるとまた不安にさせてしまう。 出来る限り、紅葉が起きるまで待っていてあげたい。 それに今は卵を温め続ける事に専念するだろうし、今日は久々に1人での行動になるかもな。
「紅葉、もう直ぐ朝だよ。 どうする?」
撫でながら話しかけると、頭を擦りつけながら甘えてくるのでいつものように撫でまくった。 肝心なことを確認し忘れたので、改めて聞きなおす。
「卵温める為に、今日はベッドで過ごす? 俺は作業しなきゃだから一度起きるよ。」
紅葉は、薄目を開けながらこちらを見ると、起きちゃ嫌ー!とでも言うかのように嫌々と頭を横に振りながら胸にすり付いて来きた。
「水も在庫が減ってるし、ペアーチも2個しかないんだよね・・・」
水よりもペアーチの部分に反応したのか、さっきまで立っていた耳がペタンと垂れた。 チャンスとばかりに紅葉を持ち上げると、ベッドに置き直して布団を掛けてやった。
「卵しっかり温めておいてね。 俺は行って来るよ。 昼には戻るから、そしたら一緒にご飯を食べよう」
紅葉は首を縦に振ると、大きなあくびを1つすると大切そうに卵を温めるもとい、二度寝に入っていった。 俺も、二度寝していたいんだけどなぁ。 俺はあくびを噛み殺しながら、ベッドから出て薄明かりの部屋の中を進んだ。
手早く身支度をした後、俺は一輪車に空のクーラーボックスとポリタンクを載せて大滝の川へと向かった。
日が出てまだ間もない7時頃。 森の中はまだ暗いが、僅かな明かりで先を急ぐ。 川沿いにまた何かあるかもしれないと逸る気持ちを抑えながら・・・
おやすみなさい・・・あ、晩御飯食べてなかった。




