6-3.暖かなアスファルト(6日目)
謎の卵は何だろな?
バックパックからペアーチ2つとスポーツドリンクを取り出し、1つはくし型切りにしてプラ皿に並べ紅葉に渡しておく。 俺は500ccをあっという間に飲み干し、ペアーチに噛り付く。 糖分が体中に行き渡るようだ。
落ち着いたところで状態確認をする。 休むといってもだらだら過ごす訳ではないのだ。
体には大した怪我はしていない。 服が破れ靴底が取れかかっている程度だ。 バックパックから瞬間接着剤を取り出して靴底を貼り付けておく。 考えていなかったが、靴を失うのは森を歩く上で厳しいものがある。 トレッキングシューズはこれ一足のみであり、普通の靴では足を滑らせ易くなり危険な場面が増えそうだ。 バックパックは部分的に切り裂かれ穴が開いてしまったので裁縫セットで簡易的ながら縫い付けておく。 しっかりとした修繕は家に帰ってからとしよう。 今後の事を考えると、靴もバックパックも寿命が心許なくなってきている。 すぐに替えが必要な状況ではないが、どうにかしないとな・・・。
そう言えばドロップアイテムで卵があったな・・・何の卵か怖すぎる。 というかイノシシから卵ドロップとか。。。 しかも牙あったからあれは雄だろ。 どこからどう考えてもありえない事ばかりだ。 ここがゲームのような世界、そう考えるだけでペット育成は卵からというのも当たり前のように感じ、不思議と納得できてしまう。 真面目に考えても仕方ないので卵は丁重にタオルで包み直してバックパックに戻した。
まだペアーチを食べている紅葉を待ちながら、ストレッチをしておく。 外傷は無いが、打ち身などはあるだろう。 明日辺りは筋肉痛と打ち身で本格的に動けなくなりそうだな。 節々が痛いのは歳かもしれないが・・・。
プラ皿を片付け、紅葉と共に森を進み、無事家まで辿り着くことができた。 変化の無い森にポッカリと空いたアスファルトの上で、俺は大の字に寝そべった。 安心感とまだ射し込む陽が暖かく、もう動きたく無かった。 ズボンは乾ききり、湿度の低い今は思ったよりも臭いもきつくない。
やらなきゃいけない事はたくさんあるが今は寝かせてくれ・・・。
紅葉も寄ってきて俺の肩の辺りで丸まった。 重たいまぶたに負けて、俺は目を閉じ眠った。
ハ・・・、ハッ、クションッ!
とてつもなく鼻がむずむずして目が覚めた。 陽は周囲の木々に隠れ始めていた。 俺の顔には紅葉の尻尾が当たっている。 毛でもぞもぞして起きたようだ。
「普通に揺すって起こしてくれれば良かったのに・・・ くしゃみで尻尾が汚れちゃっただろ?」
気にしないよ!と首を横に振っていた。
(漏らした時から避けられてる感あったが気のせいだろうか? 心が折れそうだったが飲み込んだ)
俺は起こしてくれた事にお礼を言いつつ、日が沈む前に焚き火の準備を急いだ。 食事よりも前に、体を拭いたりするお湯を準備したかった。
いつものコンロ台に大きな鍋で湯を沸かした。 明日水を汲みに行くとして、バケツに10Lの水と5Lのお湯を注ぎながら温度調整した。 適当な温度になったところでバケツを風呂場に持って行き、服を洗濯カゴに放り込んだ。 お湯で手拭いを濡らし、紅葉を最初に拭ってやった。 やはり土汚れでかなり汚れていたようだ。 綺麗に拭った後、バスタオルで紅葉を拭いた。
さて、次は俺か。 帰ったばかりだが露天風呂が恋しい。 あの時、折り返すべきだったかも知れないなと内心思っている。 暖かなベッドでゆっくり寝たい気持ちがあったが、汚れた事での洗濯や行水による影響の方が今後の負担が増えているような気がした。 冷めて温くなってきてしまったので、手早く全身を・・・特に下半身を拭いて下着と服を新しい物に着替えた。
サラリとした下着と服は気持ちが良い。 すっきりとした気持ちでコンロ台に向かい、腹ペコな俺達はジップロック満杯の肉をまるっと食べきってしまった。 食後のデザートにペアーチを実験的にすりおろしてみたところ、紅葉はかなり気に入ったようで、一個分丸まる食べきっていた。 そんなに美味しいのか?と自分の分をすりおろしていたら、また貰えるのかと行儀良く俺の足元で待っているではないか。。 仕方なく俺の分を半分に分けて紅葉に与え、コップに入れたすりおろしペアーチを俺は飲み干した。 桃のような濃い甘みが一気に口の中を満たし、シャリシャリとした食感も僅かに残っており悪くは無い。 だが、俺は丸かじりの方が好みだった。 今後時間があるなら紅葉の分はすりおろしてやる事にしよう。
食事を終え、陽の沈んだ暗い家の中に入った。 俺は勝手知ったる家なので足元が見えないような状況でも手探りで何とかなる。 紅葉は夜目が利くのだろう。 初めての頃から難なく夜でも歩き回っている。
冷たい布団の中に潜り込むと、紅葉も遅れて入り込んでくる。 何故だか胸の上が好きなようで、退けても上ってくるので争っても仕方ないと俺が折れた。 今日はあまりスキンシップが無かった分か、布団の中で夕方までの分を取り戻すかのように紅葉は俺の胸や首,頬にすりすりと顔をを擦りつけて来る。 俺はこのしぐさが大好きだ。 紅葉の頭や背中を撫でたり、腕で抱くように包んでやると嬉しそうにしっぽを振っている。 嫌がるような素振りは無く、むしろ手を離すと小さくクゥーン。。。と何度も鳴いてくる。 今日もまた紅葉の重みを感じながら寝るつもりだ。
「あ・・・、あれ試して損は無いか・・・。 ちょっと卵温めてみようか」
紅葉に断りを入れて布団から起き出ると、珍しく布団の中で待機せずに紅葉は俺の肩に飛びついてきた。
卵が気になるのか、それとも俺と離れたくないという気持ちのどっちなのか聞きたくなったが止めておく事にした。 ショックで眠れなくなる可能性を捨て切れなかったからだ。
懐中電灯を使いバックパックから卵を取り出し、ベッドに戻って布団に改めて潜り込む。 どうやって温めようかと思ったが、丸まった紅葉が丁度良さそうだと頼んでみた。 すると予想外に首を横に振ってきた。 正直驚いたので質問してみると、あまり卵に興味は無い様だった。 ウリ坊が産まれるかもしれない事についても伝えたが、食べる方が好きなようで興味なさ気だった。
「・・・温めて産まれたら、俺達の子になるんかなぁ・・・」
どうしたものかと考えていたところ、ふと思い至って呟いてた。
胸の上で丸まって寝る気満々だった紅葉が急に立ち上がり、俺の顔の前で縦に頭を振っていた。 布団から飛び出て尻尾も振っており、驚きつつも【俺達の子】という部分に反応してくれているのなら俺は嬉しい。 まぁ、そんな事を聞くのも勘違いだったら恥ずかし過ぎるので、また聞くのは止めた。
俺の方に紅葉が前足を伸ばしてきたので、卵を渡してみると慎重に抱えて俺の胸の上で卵を包むように丸まった。 頭を撫でてやると手に顔を擦り付けてくるので撫で続けていたら、いつしか紅葉は眠ってしまった。
「おやすみ・・・」
俺も眠くなってきたので目を閉じ、今日の一日を振り返る・・・ 事は出来ずに寝てしまった。
明日も仕事か・・・明後日もか・・・
お、おやすみなさい。。。zzz




