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6-2.濡れ戦(6日目)

森に入り、帰宅を目指す結城達の運命やいかに・・・

紅葉(もみじ)を先頭に俺は森を進んでいる。 あいつは1人(1匹)で大滝から露天風呂までを行き来しているのだ。 方位磁石を使用して苦労して進むより合理的である。 もちろん紅葉(もみじ)の事は目に入れても痛く無い程に可愛がっているので、石槍を構えつつ守れるように進んでいるので歩みは速いとは言えない。 というか、さっきから(つる)を搔き分けなければ通れないような道を進んでいるので、もう少しなんとかしてくれと言いたいところを我慢している。 蔓が石槍に絡みまくるのだ・・・。 ほらまただ。。。


 「紅葉(もみじ)、ちょっと待ってくれ。 槍に蔓が絡まって重い」


 俺は歩みを止めて、まるで底引き網のように槍に絡みついた蔓をナイフで切り付けて毟り取る。 すでに3度目の事である。 紅葉(もみじ)は足元まで寄ってきて、早く早く!と急かせるかのようにキラキラした目をしながら尻尾を振っている。 頼られている事が嬉しいのだろう。 そんな紅葉(もみじ)を見ていると進む道を選んでくれなんて言い出せないのである・・・。


 槍から蔓が取れたのを確認したところで、紅葉(もみじ)はまた先頭を進み始める。


 ガサッ・・・・・・


 俺達の歩みとは違うタイミングで音が聞こえた。


 「紅葉(もみじ)警戒しろっ!」


 分かっているよ!と言わんばかりに、足元にサッと寄ってきた紅葉(もみじ)と共に立ち止まり周囲を警戒する。 周りは鬱蒼と木々が生え、膝上程度まで草が茂っている。 紅葉(もみじ)程度の大きさだと草に隠れられてしまう。 不意を突かれて襲われれば危険だ。


 周囲は森に遮られて地表付近では風は無い。 草が揺れればそこに何かが居るはずだと思われる。 だが、立ち止まってから数分経ったが物音も、草が動く事も無い。

 「紅葉(もみじ)、かんちg・・・っ!」


 ブシュッ

 俺はすぐさま石槍を草むらに向かって突き刺した。 勘違いだったかも知れないと言おうとした瞬間に右側の草が揺れてイノシシが突進してきたのだ。

 今回の相手は小さかった。 紅葉(もみじ)よりも一回り小さそうだ。 まさにウリ坊といった横縞がクッキリと入った楕円形の体に短い足の生えたイノシシである。 相手が小さかったからか、一撃で撃退できたのは気分が良い。

 俺TUEEEはやっぱり憧れる。 どんな苦難も乗り越える事が出来き、いつだって優位に立ち続ける。 そんな夢を望んだって良いだろう。 そして可愛い女の子がどんどん集まってくるようなハーレムに・・・・・・。


 だんだんと邪な妄想を膨らませていると、急にガサガサと音が聞こえだした。 妄想から現実に強制送還された俺の鼓動は激しさを増していき、下半身も萎縮していく。 ちょっと妄想し過ぎていたが、そんな事を考えている場合ではなかった。


 木々の背後から、体長1mはあるイノシシが現れたのだ。


 俺の足元には、キラキラと星になり間もなく消えるだろうウリ坊と紅葉(もみじ)がいる。 目の前の大きなイノシシは消え行くウリ坊を見ているようだ。

 冷や汗が頬を伝わって落ちた。 脇もビショビショである。 今まで見た中で最も大きなイノシシだ。 力も強いだろう、何より口元にキラリと輝く立派な牙が見える。


 (あれはヤバイ・・・)


 紅葉(もみじ)も尻尾を丸めてしまっている。 今のところ動きが無いが、時間の問題だろう。

 そして遂にキラキラとウリ坊は空へと散っていった。


 俺の命も同じように散るのだろうか・・・。 一度地震で死んだような身。 運良く生き残れはしたが、摩訶不思議な世界で第2の人生を過ごし始めていた。 心残りがあるとすればもっと紅葉(もみじ)と過ごして居たかった。 今の俺は、紅葉(もみじ)が一番大切だった。


 (紅葉(もみじ)だけでも生かしてやりたい)


 そう考えるのに時間は掛からなかった。 俺はバックパックと石槍を持ち上げ、少しでも体を大きく見せてイノシシを威嚇した。 


 (去ってくれ・・・!)


 神に祈る思いでなけなしの勇気を振り絞った。 紅葉(もみじ)は後退りしており、俺の背後に来るのも時間の問題だろう。 俺はイノシシから目を離さず、睨み合いが続いている。 お互いに一歩も引く事無くジリジリと時間だけが過ぎていく。


 バサッ

 「そのまま木の上でじっとしてろっ!」


 緊張の糸が切れる前に俺は行動に出た。 バックパックをイノシシに放って、紅葉(もみじ)を掴み上げて木の上に放り投げながら叫び、イノシシとの間に木の幹が入る位置に飛び込んだ。

 イノシシはバックパックに一瞬気を取られたようだが、すぐさまこちらに突進してきた。 履いていた靴底に牙が擦ったが、靴が脱げた事が幸いしそちらに気を取られたイノシシは靴に噛み付いている。 直ぐに石槍を拾い、尻に目掛けて投げつけると後ろ足の付け根に石槍は刺さったが敵は怯まなかった。


 グルルルルゥ・・・


 向きを変え、再度こちらに突進してくる。 すかさず取り出していたナイフを構え、横へ飛び退きながらイノシシの横っ腹を切り裂いた。 赤い肉が一瞬見えたが、すぐさま方向転換してきたイノシシの牙が服を引き裂いた。 深手を負っているはずのイノシシだが、一向に怯む事が無い。

 間一髪で牙を避けたが服が破れた瞬間恐怖し、俺のズボンは湿り下半身はベタベタになっていた。 だが、意識を乱されはしなかった。  先手を打った時から既に捨て身なのだ。 漏らそうがそんなのは気にならない。 意識は全て対峙するイノシシに向けていた。


 イノシシは立ち止まり、こちらを睨みつけて警戒している。 


 イノシシが深手を負っているのは間違いないが、血は流れていない。 今まで捌いたり戦った時と同様だが、この世界の敵に流血は無さそうだ。 という事は、深手を負わせて時間をかけて流血で弱らせ仕留める方法は取れない。 相手の体力を削りきる方法しか、倒す事は出来ないと考えた。


 (攻撃しかない・・・)


 イノシシの方も、子供を殺された事に対する怒りから来る死闘と思われる。 どちらかが倒れるまで続くとそう感じていた。 互いに睨み合いながら有効打が無いまま焼けるような時間が続いて、俺は焦燥していた。


 そんな停止した時間を黄色い毛玉が打ち破った。


 イノシシの傷口に紅葉(もみじ)が飛びつき噛み付いた。

 イノシシは気を取られ、俺から視線を外して腹の方へ首を向けながら紅葉(もみじ)を狙っていた。 驚きはしたが、それ以上に紅葉(もみじ)が決死の思いで作った一瞬を見逃してはいなかった。 ナイフを強く握り締めて、俺も飛び掛りイノシシの無傷だった反対側の腹も切り裂き、後ろ足の付け根にナイフを深々と突き刺した。


 ドサ・・・


 静寂が訪れた。


 俺も、そして紅葉(もみじ)も何とか生き延びた。

 目の前には傷つき横たわったイノシシがキラキラと輝きながら霧散していく。 激しく鳴り響いていた鼓動もいつしか落ち着きを取り戻した。 辺りには草木の青臭さと土,汗とアンモニア臭が漂うだけとなった。


 極度の緊張状態が続き、安堵感からその場に座り込んだ。 グッショリとしたズボンには気が滅入るが、それ以上に打ち勝って生き延びた喜びに満たされていた。 正直、勝てたのは紅葉(もみじ)が参戦した功績が大きかった。 あのままではジリ貧だったと思われる。


 大きなイノシシが消え去った後には、大きく立派な牙が2つと銀色の歪んだコイン2枚に謎の卵が1つ落ちているのが見えた。


 先に、ひょっこりと近づいてきた紅葉(もみじ)に感謝を述べ頭を撫でてやった。

 いつものように胸に飛び込んでこなかった事に少しばかり傷ついたのは秘密だ。


 ドロップ品を全て拾い集め、靴底が剥がれかけた靴を履いた。

 一部に穴が開いてしまったバックパックへドロップ品を入れると共に、軽く休憩を取る事とした。

おやすみなさい

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