6-1.川原での起床(6日目)
念願の温泉を満喫し生活水準が上がってきてはいるが、まだまだ不安はいっぱいだ。 6日目はどうなる!
サラサラと流れる川の音で目が覚めた。
時刻は6時だった。 習慣は消えないものだな。
体を起こし活動を始めようかと思ったが、体が重くて動かない。 紅葉は胸に乗っているが、これは・・・確実に筋肉痛だな。。。 昨日あれだけ石を運んだんだ、その前だって結構激しく動いていた。
どうしたもんかなぁ・・・
動くのもまだ辛いし、考え事でもして時間を潰すか。
<ペアーチの丘>
・管理者が居る可能性は高い。
⇒泥棒となる可能性もあるので、極力落ちた物を頂こう。
・収穫はされていない?(まだ熟していないからとは言い難いレベルで残っていた)
⇒神聖な物とか、本当にただ偶然生えているだけなのか?
経過観察が必要だ。
・鳥類等の食害被害が見当たらない。
⇒あれだけ甘くて美味いのに動物に狙われないのは変だ。
やはり何か理由があるはず。
ペアーチの丘は魅力的な場所でもあるが、どうしても勘繰ってしまう部分が多すぎる。 杞憂であれば良いのだが・・・
<熱い湖>
・船等見当たらず。
⇒丘と程近くペアーチの輸送を考えれば、船や船着場があっても良いと思う。 だが、何もない事が余計に不安をさそう。
・噴水は止まるのか。
⇒馬鹿でかい噴出音に気づかないとは思えず、丘で過ごしている内に突然噴出したとしか思えない。 止まってお風呂が使えなくなる可能性はある。
使える時は存分に使い、湖の様子も時々確認するべきだろう。 冬になっても風呂に入れる事を祈らずにはいられない。
<紅葉>
・イノシシをどうやって仕留めたのか。
⇒石槍で何度か刺さないと倒れないような相手だが、大した力も無さそうなのにどうやったのか。 起きたら話してみるか。
今思いつくのはこれくらいだろうか。
胸の上の紅葉を撫でながら考え事をしているが、俺も含めて一向に起きようとはしないな。。。 顔を擦りつけ甘えてきてはいるんだが、目を開けないのはいつものパターンだ。 俺も体が痛いからこのままでいっか。
緊張感を持つべきだとかなんとか昨日言った言葉が頭を過ぎるが、体の痛みと小動物らしい紅葉の温かさに負けて2度寝に入ってしまった。
外は今日も晴天で穏やかな風が流れている。
テントに当たる陽は周囲の木を超えて直接降り注ぎ始めている。 だが1人と1匹は一向に出て来ようとはしない。 基本怠け者な所は同じなのだろう。
「・・・んん~――!」
寝袋の中で伸びをして、いい加減起きるかなと考えた。 体はまだ痛いが、寝てても何も進まないし家に戻ってベッドで寝る方が気持ちいいしな。 未だに寝続ける紅葉を退かし、毎度の尻尾攻撃とバタつかせる足を無視して起き上がった。 紅葉はさっさと寝袋に戻って行くので一声かけておいた。
「あんまり寝続けるお寝坊さんは追いてっちゃうよ?」
ガサッ
ぷっ、中々に素早いな。 ちょっと苦笑いが抑えられなかったが、紅葉は飛び起きてズボンをカリカリしている。 ちょっと出来心で言っただけだったので申し訳なくなってしまった。 冗談だったと謝ると紅葉は少しの間拗ねていたが、俺のパーカーのフードに入り込むと定位置だと言わんばかりに退こうとしなかった。 正直首が絞まるのでほんとに苦しいのに・・・。 冗談言って怒らせた報いと割り切ることにした。
最初の内は首が苦しかったが、紅葉が前足で肩を掴むようになってからは幾分良くなった。 さっきから尻尾と頭を首や頬に擦りつけて来る。 くすぐったいのももちろんあるが、ここまで懐かれていると助けた甲斐があったってもんだ。 というかもう十分すぎるほどに紅葉には癒されている。
「あ、そうだ紅葉に聞きたい事があったんだ。 昨日はどうやってイノシシ捕まえてきたのかな?」
火を起こし、朝というか昼の焼肉準備をしながら首の後ろに張り付く紅葉に尋ねた。
紅葉は地面に飛び降りて、うーん・・・と悩むように首を捻っていた。 まぁこの質問はたとえ意味が分かっても喋れない紅葉にはきついか。
平たい大きな石をキャンパスに、油性ペンで今俺が知っている範囲の周辺地図を描いた。 一箇所ずつ説明していき、現在地を書き込んでもう一度さっきの質問をしてみた。 紅葉は移動し、俺達が出会った大滝の川を前足で指し示した。
大滝の川辺で戦ったのかと確認すると、紅葉は首を横に振った。 そこから何度か質問を繰り返した結果、紅葉は大滝の川辺で倒れていたイノシシを引っ張ってここまで運んできたらしい。 自分よりも大きな獲物をよく運んで来れたものだ、本当に大変だったのだろう。
また、紅葉と複雑な会話が成立した事も大きな進展だった。 今まではYes・No程度の簡単な質問しかダメだと思っていた。 しかし、紅葉は俺の話す事全てを理解しているようだった。 言葉を発せないだけで、動物としでなく今まで以上に1人として扱うべきだと感じた。
そして考える事がまた一つ増えた。 大滝の川がどうにも気になる。 いくらなんでもポンポンと落ち過ぎだ。 それに俺が紅葉から受け取った時は既に絶命していたが光になって消えず、肉として捌けた。 あの川は何かあるかも知れない。
昼食の焼肉と共にペアーチを食後のデザートとして半分ずつ食べて、家に帰ることとした。 温泉が名残惜しいが入浴してから森に入るのは湯冷めして風邪を引く未来しか見えない。 後ろ髪惹かれつつも森へと入っていった。
話が少しずつ進んできたように感じますが、日常系大好きなのでゆっくり進行は変わりませんのでご了承ください。
おやすみ~




