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31-7.未定(31日目)

 障子を開けた先は、だだっ広い板間の中央にポツンと3つの布団が敷いてあって、演劇でも出来そうな舞台まであった。

 これは客室というより宴会場と言われた方が納得できる。

 きっと仲居さんが間違えたのだろうと、振り返って部屋を出る事に・・・


 トトトッ


 「もみじしゃんっ?」


 小走りで駆け寄ってきたアヤト君が足元で紅葉(もみじ)を呼んできた。

 「紅葉(もみじ)はもうお眠かもな。 アヤト君は寝ないのかな?」


 紅葉(もみじ)はよく寝ているが、まだまだ起きているとは思う。 と言うかアヤトの声を聞いてビクリと動いた程だ。

 だが何故ここに居るのかとか、布団が3つ敷いてあった事に合点がいった。

 俺達は、アヤト君とユーフィリアの所に招かれたようだ。


 「サトシ様,紅葉(もみじ)様、相部屋ですが宜しいでしょうか?」


 言葉とは裏腹に、ユーフィリアの顔はニヤついていた。

 砕けた感じのユーフィリア(本体)さんのが、ユーフィリア(藁)より気が楽だ。。 本体がひねくれ者ならありそうだが、別人格の方が厄介とはこれ如何に(´・ω・`)

 「どうせ他に部屋は無いんだろ? ガイヤさんはアヤト君と寝てるんじゃないのか? こんな所にいたら悲しむんじゃ・・・」


 「書き置きを残しておいたので大丈夫です」


 「いや、大丈夫じゃ・・・」


 「問題はありません」


 「・・・でも、」


 「問題ありません、大丈夫です」


 「は、はい。 分かりました・・・」

 問題無いとの一点張りで、確実に問題しか無いのだが、押し切られてしまった。 ここで言い争っても埒が明かない上、状況的に俺達の立場は低い。

 喋れる紅葉(もみじ)の事も一応黙っているようで、これ以上ボロを出さない為には、ある程度の妥協がいるだろう。

 今日は中々眠れなさそうだと、ふかふかな布団を前に、俺はため息をつくのだった。

 “あーちゃん、どこでちゅかー?”とか何か聞こえる気がするが、気のせいだろう。 というか、ユーフィリアは行き場所書かなかったのか!? ガイヤ哀れである。。 やはり何も聞こえなかった事にしよう。。。



 「それで、何の用ですか?」

 俺はため息混じりにユーフィリアへと訪ねた。

 わざわざこんな広い部屋にたった3人で使っているのだ。 それなりの理由があるのだろうと。


 「アヤト様が紅葉(もみじ)様に会いたがってましたので。 それにお喋りするなら周りに聞こえないように広い場所のが良いかと」


 一応喋れる事は分かった上での選択のようだった。

 一先ず今の状態なら公表する気は無いようだ。

 「そうか、それは助かる。 で、紅葉(もみじ)を起こせばいいか?」


 「その前に1つ。 奥様も紅葉(もみじ)様を大層気にかけています。 奥様と入れ替わる事を了承頂きたいのです」


 「ユーフィリアは紅葉(もみじ)の事を話したのか?」

 俺は質問に質問を返した状態だった。 何故知っている?

 その疑問が、ユーフィリアへの警戒心を高めるきっかけとなったのだ。


 「私の考えている事は、奥様は容易に読み取る事ができます。 そしてそれを拒否する事は出来ません。 そして、私が見聞きしている事は全て奥様も見る事ができます。 ただ、今はまだ奥様はそれをしていません。 私の思考から悟られ、それ以上はサトシ様の了承を得てからと伺っています。 どうか、了承を」


 珍しく真面目なユーフィリア(藁)は、言い終えるとこちらから離れ、アヤトと遊び始めるのだった。

 紅葉(もみじ)が出て来ず、退屈しのぎの為かも知れないが、考える猶予を・・・とも思えた。


 ユーフィリアは、“ユーフィリア(藁)”を作り出すほどの魔法使いだ。

 関係を良くしておけば、城下町へ着いた際にメリットは確実にあるだろう。 だが、知られる事でのデメリットはそれ以上とも思える。

 城下にどれほどの人が居るかは分からないが、見世物として狙われる危険がある。

 ただ、簡単に紅葉(もみじ)が負けるとは思えない。 返り討ちには出来ると思う。 なら安全だ、とは言い難い。

 分からない事だらけなのだから。


 それはユーフィリアに限った事じゃない。

 人間の村に来て、急な生活様式の向上が感じられた。

 食事だってそうだ。

 距離はあると言っても、人とエルフの生活圏は越えられない壁では無いはず。 何故、こんなにも差がある?


 人は魔法の素質が低い・・・、そうエイシャさんから聞いていた気がする。

 エルフは魔法の便利さに慣れ、技量・知恵で困難を乗り越える事をしなかったのか? そんな訳・・・無いよな。。 魔法には、魔法なりの技量があり、困難がある。


 料理だってそうだ。

 調味料の概念が無く、素材をそのまま使うエルフには違和感を感じていた。

 食べ慣れない料理にも関わらず、それを美味しいと感じられる味覚があり、アリアもエルフ達も特に調味料を拒否せず、むしろ求める程だと。。


 何だここは。。。

 思考の片隅に置いていた物が、再び渦巻き始めていた。



 異世界転生・・・その言葉1つで・・・

 考える事を放棄していたのか?

 今が楽しければ良いと・・・


 何故こんなにも楽観的になれた?


 思い返せば自分の姿に変わり無く、家の中も家自体も変わり無い日常だった。

 電気に水道も無いやらと問題はあったが、代わり映えしない世界が小さくてもそこにはあったからだ。


 頭の片隅で、これは夢を見ているだけでその内に覚めると思っていた。

 だがそれは今も覚めないでいる。


 この世界の知識は欲しい。

 だが、自分以外を信用出来なかった。

 せめて、アリアが居てくれれば。。


 孤独の寂しさが溢れ、俺はしばらく悩んだ後ユーフィリアの申し出を断った。

 残念との言葉は残したものの、同室である事は変わらずアヤトの為に紅葉(もみじ)を出す事となった。

 というか寝てはいないので、すぐに諦めて出てきてくれたのは有り難かった。



 アヤトは追いかけ、紅葉(もみじ)は逃げるを繰り返す。

 その手で掴む事は叶わないがそれでも、楽しそうである。


 「どの程度こちらに滞在するのですか?」


 紅葉(もみじ)達を眺めながら布団に腰掛けていた俺の隣に、ユーフィリア(藁)は話しかけてきた。

 「明日にでも出ると思うぞ」


 「あら!? そうでしたか。。 それは残念です。 明日には気が変わってるかも知れませんのに。。」


 「・・・どういう意味だ?」

 大部分の言葉が省略されていた。 滞在日数の話から急に飛んだとしか思えない。 意味を問いながら、思考は答えを導き出した。


 「奥様はまだ諦めてらっしゃらないようで、また明日にでもと思ったのですけどね」


 やはりそうきたか。

 諦めが悪い・・・ただ、ある意味では好感が持てる。

 (藁)の事を覗けば分かる事を、わざわざ聞いてくるというのは約束を守る意志の現れだろう。 それに報いるのを1つの考えだが、どうにも承諾はしたくなかった。

 城下には向かう予定だから、わざわざ今話しておく必要も無い。 それに魔法の知識はもっと欲しいが、紅葉(もみじ)が居れば事足りる。 俺には素質は無さそうだと既に諦めてもいるのだ。

 なら、今急ぐ必要なんて無い。

 今やらなくても良い事は、後回しにすれば良い。

 俺はそう考えて、再び断るのだった。



―――――――――――――――――――――


 「・・・また、断られちゃったわね。。 そんな嫌われる事したかしら? やっぱり藁で作ったのが失敗だったかしら。。。 あーちゃん、何故かあの子を気に入ってるのよねー・・・」


 「奥様、どうかなさいましたか?」


 部屋の中で静かに佇んでいた人形が言葉を発した。


 青白くも感じる透き通る白い肌を持った球体関節人形である。

 その表情はどこかもの寂しげな中に微笑みも感じられるが、その瞬間を切り取った写真が実体を持った不思議な存在であった。

 ただ、ガラス玉で出来たその目を彷徨わせながら、動かす事のできない表情を巧みに表し、発した言葉に心配する気持ちを乗せているようだった。


 「ありがとね、青磁ちゃん。 ちょっと、あなたのお姉さんの所で気になる人達が居て、お姉さんの視覚を借りようかと思ったんだけど、その人達からは拒否されちゃって。。 どうも私は避けられてたみたいで。。。」


 「藁姉さんの所ですか? 奥様は積極的に押しすぎたんじゃ無いでしょうか?」

明日は休みだー!

原神アップデートだー←

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