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31-5.会食(31日目)

 暗い夜道を、小さなランタン1つ頼りに歩いている。

 一人ならば、心細かったり恐怖心を煽られそうだが、うるさいカッシュやアキラとの夜道は楽しく思えた。

 「で、どんな宿なんだよ? そろそろ教えてくれてもいいだろ?」


 さっきから勿体ぶっているアキラとカッシュに詰め寄りながら聞くが、はぐらかされてばかりだった。





 アキラに案内された先には、村の門よりも立派な門のある屋敷が建っていた。 門をくぐれば、点々とランプが灯っていて手持ちのランタンは必要無くなり、アキラは火を消していた。


 この村には、2階建てと思われるような家屋は無かった。 この家も同じく平屋だろう。

 ただし、規模が違った。


 あれだ、コンビニが4×4で並んだくらいだろうか。

 他の家は、コンビニ0.5店くらいなもんなのに。。。

 一体何人住んでるんだ!? というレベルの大きさだ。 家の中に家でもあるんじゃないかとさえ思える。

 「ア、アキラ…。 何だよこれ、凄すぎるだろ…」


 気の利いた言葉は、出ないくらい圧倒されていたのだ。


 「まだ建設中らしいが、宿を始めるらしくてな。 その宣伝も兼ねて、今晩泊めてくれるって太っ腹らしいぞ」


 そうしてアキラは経緯を話し始めた。



 今回の取引を終えた後、ジンが馴染みの友人に会ってくるとの事でアキラもカッシュもついて行ったらしい。 そして、出会ったのはジンも驚くほど恰幅(かっぷく)の良い老人だったようだ。

 服や装飾も綺羅びやかで、さぞ儲かっているだろうと感じたらしい。

 ジンの友人は、冒険仲間の一人らしく以前は前衛として共に戦っていたらしい。 そんな会話を聞きつつも、見る影もない現状にアキラもカッシュも半信半疑のようだが。


 ただ、カッシュが儲け話にあやかろうと話に割り込んだようだが、煙に巻かれて聞き出せなかったらしい。 まぁ、儲け話を広めた時点で儲けが目減りしていくもんな。。 隠す方が正しいだろうさ。


 「お前ら、ちょっとこっちに来い・・・」


 アキラが小声で呼び、俺達は庭園の中の大きな石の横に隠れるように集まった。


 「何だよ? 美味しい飯が待ってるのに、さっさと行こうぜ? ・・・あー、もう分かったから、何だよ?」


 カッシュが文句を言うが、アキラの眼差しは真剣そのものでカッシュも両手を上げて諦めたようだ。


 「どう考えても真っ当な稼ぎとは思えない…。 言っちゃなんだがこんな辺鄙な村だぞ? 言えないような事をしてるとしか思えない。 だから、警戒しろよ?」


 そう言い終えると、アキラはカッシュが身につけていた腰袋を叩いていた。

 そこには金貨や銀貨が詰まっている。 もちろんジャラジャラと音がするような入れ方はしていないようだが、大金持って歩いているのは色々と危険か。

というか、何故カッシュに持たせてるんだ?と疑問が浮かぶ。


 「そう言えば・・・」

 「おい、ジンが呼んでるようだぞ。 俺は先に行くからな? もちろんこれは警戒するさ」


 カッシュの言葉に遮られ、俺達はジンの待つ玄関を目指した。


 「あんなとこで何しとるんだ。。 せっかく豪華な飯があるのに、はよぅこんか」


 ジンから小言を言われながら、家の中に入る事に。。


 中も外と同じように豪華だった。

 入り口では靴を脱ぐよう促され、日本家屋のような状況である。

 フローリングは磨かれており・・・いや、板間と言う出来だろうか?

バリも節も無く、深い茶色の木製の床がずっと先まで続いている。


 ジンを追いつつ、周囲を見ると入り口からは3本の廊下が伸びており、両端はガラス窓付きの縁側として作られていてるようだ。

 エルフの村には無かったものの一つが、このガラス窓だろう。 あっちとは文明レベルが違うと言えそうだ。


 板や土もふんだんに使った壁は、現代建築のような遮音や断熱性は無くとも趣がある。 そして家の周囲を窓付きの縁側で囲う事で、その内側の部屋自体の断熱性を上げている節が伺えた。 空気の層をもつ事が断熱する1番のほうほうだから。

 誰が、この家を設計した? どんな思想でこの構造に至ったのか俺は食事よりも興味が湧いてきた。

 日中はこの縁側は冬でも暖かく気持ちが良いだろう。 ここで寝転がっていたらさぞ、気持ちがいいのだろうな・・・

 宿・・・これは旅館と言うべきか。

 この世界の宿とはこんなにも素晴らしいのか? 現代に合っても見劣りはしない。

 俺が目に入るもの全てにうっとりしていると、目的の部屋に着いたようだ。



 「ようこそいらっしゃった! ジンの今の仲間なのだから、そう遠慮せずこちらで座ればええ。 遠慮はいらんぞ!」


 恰幅で済ますのは難しいレベルのお腹の持ち主だった。

 座っても腹がつっかえて前傾になれないんじゃないか?



 その家主が座った事を皮切りに、すぐさま食事が配膳され始めた。

 時間を取らせないためだろう・・・俺達1人1人に、仲居さんが付いているようで一瞬でお膳の上には色とりどりの料理が並んだ。


 あたりを食欲をそそる香りが包んでいく。


 メインと思われる焼き魚を中心に、小鉢の煮物やおひたし、椀には吸い物だろうか。 そして、おひつから仲居さんがご飯を装ってくれた。

 さっきから腹の虫が鳴っているが、音漏れしていないかドキドキしている。 はやく! はやく!と腹が米を求めていた。


 しかし、見渡してもまだ箸を付ける者はいない。


 仲居さんから、小さなグラスが配られ透明な液体が注がれた。

 ふわっと、果物にも花のようにも感じる甘い香りがグラスから漂う。 米がある時点で、当然といえばそうなのかもな。


 「ささっ、冷めないうちに」


 全員に行き届いた事を見計らい、家主の進めで食事は始まったのだった。



 グラスに口を付けてみたが、やはり日本酒のようだと感じた。

 それも、吟醸酒いや大吟醸か。。

 鼻に抜ける甘みの中に、しっかりとした酸味が感じられる。 嫌なエグ味もアルコール特有の臭さも感じられない。

 一口だけで分かる。 これは良いものだ。。。と。


 いつも甘い酒ばかりを飲んでいたが、一度進められて買ってみた日本酒を思い出す・・・

 辛口のりんごジュースだとはよく言ったものだ。 その表現がピタリと当てはまる。

 日本酒って物を知らなかっただけだったんだな、と衝撃を受けたものだ。 ふとしたきっかけで、自分の中の概念なんて容易く崩れるのだから。


 アキラやカッシュ、ジンも談笑をしながら料理に舌鼓を打っていた。

 そんな中、黙々と俺が酒を味わっていると、仲居さんから声がかかる。


 「お口に合いましたか? とても良い香りですよね。 お継ぎしましょうか?」


 ぁあ、あぁ・・・はい。 とても良い物ですよね…これは凄く美味しいです」

 完全に自分の世界に入ってしまっていたので、咄嗟のことに驚いて慌ててしまった。

 仲居さんはそんな俺を見ながらも笑顔で日本酒を注いでくれた。

 この時、俺は料理やご飯に気を取られて仲居さんをしっかり見ていなかった事に気付いた。


 キレイな人だ。 どの仲居さんもキレイだった。 それは素晴らしい限りなのだが、重要なのはそこじゃない。 髪から出ている耳の形だ。


 俺の事は置いといても、アキラは耳の端が内に丸まって正面の音を集めようと働く形状になっている。 俺も自分の耳を触るが同様だ。

 だが、仲居さん達にはそれが無い。

 いや、身体的特徴で差別するようなつもりは無い。 もしかすると、そういった特徴を持った人達の集落もあるのかも知れない。

違和感を感じても、それがだから何だというのだ。 うまい酒とうまい飯、そしてキレイな仲居さんがいてくれれば、これ以上・・・


 胸のところがモゾモゾしてきて俺は我に返った。


 ひょこっ!


 胸当ての中から紅葉(もみじ)が顔を出す。

 今まさに、料理へと箸を付けるところだったのだが。。


 「っ、ずるいっ! Σ!」


 「「・・・」」


 一同、時間が止まったかのようにポカーンと口を開けて、俺の方を見ている。 いや、俺では無く突然出てきて喋りだした紅葉(もみじ)だろう。

 どうするべきかは、皆の思考が停止している間に考える・・・!

 紅葉(もみじ)は魔法が使える、そして俺の仲間だとまではアキラ達だって知っている。 そこに喋れるって事が追加されても大したことではないはず。。 だが、ずるいの一言で話せるかまでは分からないはずだ、まだ隠し通せるはず。

 ただ、希少性から紅葉(もみじ)がさらわれそうになるかも知れないが、正直誰よりも強い。 紅葉(もみじ)が止められない相手を俺が止められるとは思えなかった。

 よし! 一先ずここは有耶無耶に・・・


 ガラガラッ


 「パパー、ただいまぁー!」

 「ガイヤ様、ただ今戻りました」


 正面の障子が開き、次は俺の思考が止まる番だった。


 「あーちゃんお帰りなさいでちゅね〜♪ パパ、今はお友達とご飯食べてるから、お部屋でフィーちゃんとご飯食べ待ててくれるかなー? そうしてくれたら、パパ嬉しいなぁ」


 「あっ! もみじしゃんっ!」


 ジンの元冒険者仲間の名がガイヤと言うのが分かったり、気持ち悪いほどの溺愛を見せられた以上に、目の前に現れた子供と藁人形に意識が持っていかれた。

 さっき別れたばかりだ。

 彼らは紅葉(もみじ)が喋れる事を知っている。 ユーフィリアの方はもしかすると口裏を合わせてくれるかも知れないが、あやと君には到底無理だろう。


 今も俺の目の前で、紅葉(もみじ)を呼んでいる。


 顔を出していた紅葉(もみじ)は今や胸当ての中に戻っていた。 隠れても時既に遅しである。

 胸当てを引いて中を覗くと、苦笑いな表情を・・・って、どこで覚えた!? てへペロしてやがるっ


 顔を上げると様々な風景が目に写った。


 目の前には、紅葉(もみじ)を呼び続けるあやと君。 かくれんぼ?と、遊んでいると思われる始末。。

 その後方では、ユーフィリアがとても楽しそうに膝をついたガイヤの背中を擦っている。

 溺愛する息子の注目を一身に浴びた紅葉(もみじ)への敗北感だろうか。 あれだけの姿を晒して息子にスルーされた事への悲しみだろうか?

 まぁ、ユーフィリアはこの状況を楽しんでいるようだとは感じた。 頭の中は藁じゃないようだ。 多分、大豆が詰まっている訳でも無いだろう。。

 中身は腐って無くとも、性格は腐っているようだ。

 ニヤリと笑みを向けてきたユーフィリアに俺は苦手意識を抱かずにはいられなかった。


 あたふたするアキラを尻目に、カッシュは好奇な目線を向けてくる。

 肝が座ってるのか、ただ単に何も考えていないかのどちらかか?


 「・・・ガイ、そいつは何者だ?」


 ジンだけは違った。

 違和感しかない藁人形を睨みながら、戦闘態勢に入っていた。

仕事が忙しいのと、ぱっと妄想が膨らんでこないので、更新がまた停滞しそうです。。(´・ω・`)

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