30-4.野宿(30日目)
河原の石も流れる水もオレンジ色に染まり始めていた。
一筋の風が頬を撫で、紅葉は・・・出て来なかった。
「もみじ? もしかして妖精でも仲間にしてるのか!?」
「おぃおぃ妖精なんて物、お前信じてたのかよ? カッシュ・・・お前ってやつは。。」
カッシュとアキラの談笑を他所に、ジンの表情は変わらない。
胸の中でピクリと動く紅葉にもう一度声をかける。
「みんなに、紅葉の事も紹介するだけだよ。 大丈夫、彼らは俺の仲間みたいなもんだよ」
「ああ! サトシはもう仲間だな! なっ、カッシュ?」
「あぁ!」
アキラは言葉とは裏腹に、肩を強張らせ緊張しているのが分かった。
対してカッシュは、キラキラと目を輝かせている。 アキラに妖精なんて迷信だと言われバカにされ肩を落としていたが希望を得たようだ。
ゴソゴソ・・・(ひょこっ!)
「紅葉、苦しくなかった?」
首を横に振って、クゥーと小さく鳴いた。
ちゃんと人前での約束を守ってくれている。 言葉を理解できる事も隠すべきかとは思っていたが、協力して戦う事を考えると俺の命令を紅葉が理解している流れは必要だとして、そこまでは許可している。
問題は・・・初めての彼らがどう思うかだ。
紅葉が出てきた事で、世界の刻が止まったように感じた。
カッシュもアキラも、ジンさえも目を丸くして彼女を見ているようだった。
息が詰まるような無音が続く・・・
それを壊すのは俺しか居なかった。
「紅葉この人がジンで、こっちがアキラ、それとカッシュだよ。 皆、危害は加えて来ないから安心して。」
こくりとか頷く紅葉に、皆が一歩後退る。
やはり、言葉を理解できるキツネの登場に驚いたか?
紅葉は隠しておくべきだったか?
魔法を使わせて戦闘を手伝わせたのは軽率だったか・・・
オレハそんな事を考え始めていた。
「・・・キウイ・・・じゃと。。。?」
ジンの囁くような声も、静寂はそれを隠す事無かった。
「ジン、その名前をどこで・・・?」
俺は深く考えず、キウイと呼んだジンに問いかけた。
エルフの村では何度もその名を聞いた。 しかし、ジンは人間だ。
年老いていようが、エルフと人間の寿命には大きな差がある。。
エルフの村で言う、キウイ様が居なくなってから何年だったろうか。。?
森の近くで住む人間にも、キウイ様は関係があったのか?
狐の姿を見て・・・そう言えば、アリアが子狐姿のキウイ様は珍しいとか抱きしめたいとか言ってたよな。。。
ジンはなぜ。。。?
「昔、噂があってな・・・。 この森には、子狐が住んでおると。 何人かの村の者が見たと言っておったが、そんな噂があったのは忘れておったが、間近で見ることになるとはのぅ・・・」
違和感は・・・俺には感じられなかった。
アキラやカッシュは噂を知らないようだ。 ジンが若い頃の噂なのだろう。
俺は、キウイでは無く、紅葉と名付けている事を伝えた。
河原で出会って助けた事や、魔法が使えるので俺を手助けしてくれているとも。
アキラやカッシュ、そしてジンも魔法が使える紅葉に心底驚いていた。
人が魔法を使える事すら稀なのに、ただの子狐が使える事にアキラもカッシュも愚痴をこぼしている。
分かる。 すごく俺も分かるぞ・・・俺も魔法使えると言っても、毛穴広げるだけだからな。。。
紅葉やリンの魔法をどれ程羨んだか。。 アリアだって素晴らしい攻撃力を持っていた。。
生活に役立つ魔法・・・そう思おうと考えても、やはり毛穴じゃな。。
触ろうと飛びかかるカッシュを軽やかに紅葉は躱し続けている。
そんな状況を感心しながら見ているアキラ。
俺は、久々に自分の情けなさを思い出して、しばし落ち込むのだった。
気持ちが落ち着く頃には、既にあたりはオレンジ色に染まってしまった。
アキラ達も心底疲れたらしく、今日はここで野宿らしい。
「まずは、飯じゃな。」
ジンの一言で、紅葉を追いかけ回していたカッシュが荷車に乗り込んでいく。
ジンはその場で座り込み、河原の石を円弧状に並べ始めた。
それを見てかまどだと気付きた頃には、アキラはすぐそばから消えている。
キョロキョロと周囲を見渡すと、森の中で薪拾いに勤しむ姿が見えた。
「俺、やること無いな・・・」
俺はお客様待遇に甘える事にした。
みるみる周囲が暗くなるが、俺と紅葉は焚き火の前で暖を取る。
慣れてきたとはいえ、暗くなると寒さが増してきたのだ。
紅葉の魔法で遮断はできるか、多彩な魔法を安易に彼らに見せるべきでは無いだろう。 まぁ、既に風の攻撃は知られているし風の魔法の応用だと言えば乗り切れるかも知れないが。
彼らは今、ランタンや松明を使って食事の準備に取り掛かっている。
ランタンはエルフの村には無かった物だ。
文明の衝突違いが出ている。 エルフの村には魔法があって、皆がそれを使い合って1つの集団を成り立たせていた。 人が作る道具も同じ方向性ではあるが汎用性はより高い発展を遂げるはずだ。
村を目指すのがますます楽しみになってくる。 アリアを捜し連れ戻すという役目のついでに楽しんでもバチは当たらないよな?
「飯にするぞー!」
荷車の中からカッシュがホクホク顔で出てきた。
「何か良い事でもあったのか?」
「ぁ? そりゃそうだろ。 こんなにも上等な毛革を貰ったんだからな! 飯も奮発したからしっかり食べてくれ!」
上機嫌なカッシュが見せてきたトレーには、肉や野菜が刺さった串が山積みだった。
アキラとジンも感嘆をあげ、かまどを囲うように座り込り、遠火で串を地面へと刺し始めていた。
俺も習い、串山から肉串2つと野菜1つを小石の位置を合わせながら突き刺す。 サバイバルって感じがするな・・・
近頃はフライパンや鍋に、金網とか使って焼く事が多かったから、新鮮味を感じた。
焚き火を囲って談笑するのも良いな・・・。 今、家で待っている子供達とこういったワイルドなバーベキューも楽しそうだなと想像していた。
揺れる炎を囲いながら、酒も無いのに㊚4人で笑い合う。
もちろん、紅葉が拗ねないように肉串はちょくちょく与えている。 というか、俺よりも食べていそうだ。 熱々は苦手なので冷ましてから紅葉に食べさせているのを見て、カッシュが笑ってきた。
どっちの立場上か分からなくなって、命令聞かなくなるんじゃないか?と。 どちらが上とか無く、紅葉は対等な仲間だと伝えるも流されてしまったが。。
ジンのみ、時折鋭い視線で紅葉を見ているようで終始円満とは言い難いが、美味い串焼きが食べれて結果満足と考えよう。
「そろそろ寝るか?」
アキラが俺に声を掛けると共に、夜間は火の番と周囲の警戒を彼らは交代で行うと言ってくれた。 ここでも俺は甘える事に。
一応貴重品の装備は着直しておく。 彼らが夜な夜な盗賊に・・・とは思いたくないが警戒するに越したことはないだろう。
「すまない、先に休ませてもらうよ」
「“先に”じゃなくて良いぞ。 朝までゆっくり休んでくれ」
「交代してくれるなら、願ったりだっ!」
カッシュが背中を打たれる音がしたのを合図に、ジンは火元に腰掛け、アキラは装備を整えて松明を片手に周囲の巡回に行くようだった。
あんな事を言っていたカッシュは、どうやら彼らの中で最初の休息者。
背中が痛いと騒いでるが、休めるのだろうか? 一番元気があるように思った。
俺と紅葉は、火元からも荷車からも離れた木陰に身を寄せて眠ることにした。
ジンから毛皮を3枚受け取っている。
これを地面に敷き、毛の部分を内側に掛ければ温かい。
ふかふかの毛皮が空気の壁を作り、冷気を見事に遮断しているようだ。
もちろん、紅葉の方が柔らかいし、何より魔法で冷気なんて遮断できる。 だが・・・これ以上は見せない方が良いと決め込んで、毛皮を被ったのだ。
「紅葉、寒くないか?」
キュッと小さく鳴いて、首を横に振っている。
まぁ、そうか・・・
いつも通り、俺の鎧の中だもんな。。
再び鎧の中に頭を戻すと、前足で胸を押して寝場所を作っているようだった。
くすぐったいが笑いを堪える他なかった。
「はっ、はっくしょんっ・・・」
やっぱ寒いな。。
既に横になってるし、ここで立ったら紅葉が怒りそうだよな?
「・・・紅葉、冷気遮ってもらえるか?」
俺の小声を聞き入れてくれたのだろう、僅かな耳鳴りのような圧迫の後に冷気が遮断された。 ちゃんと声を出さない約束を守ってくれているようだけど、それに引き換え俺は結局紅葉に頼ってばかりだな。。
これで眠れそうだ・・・
虫の声すら無い静かな夜。
ジンの座っているかまどの周りですら夜の闇が覆っている。
自分の体も見えない深い黒に染まっていた。
眠いし疲れてるはずなんだけどな・・・
眠気とは正反対に、鼓動が高まってくる。
無音の闇が、恐怖を煽っていた。
「紅葉、起きてるか・・・?」
・・・
無言の時間が流れるのみであった。
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・・・な、なんでキウィ様がこんな所に!?
自分を追ってきた!? いや、今のところその気配はないみたいだけど。。。
怪しまれているか?
そんな素振りも見えないけど、警戒するに越したことはないか。。
今日は眠れなさそうだ。
割の良い仕事だし、はっきり言ってwin-winな事だと思っている。
悪いだなんて思う事は今まで無かった・・・それでも、キウィ様を久々に見て罪悪感のような物を感じてしまったのだ。
今は一刻も早く彼らとは離れたい。
このまま何食わぬ顔で・・・
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内心焦る者も居るようだが、その全てを闇は覆っていた。
空へ昇る太陽をあざ笑うかのように。
出張からやっと帰ってきました(`・ω・´)ゞ
原神にハマってますが、ボチボチと更新せねばなぁ
妄想がパッと浮かんでこない時は書けないですねぇ(´・ω・`)