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30-3.紹介と質問攻め(30日目)

 泥だらけの2人組は、俺の言葉に反応して手を振った。

 「大丈夫だ! すまない、本当に助かった!!」


 疲れているはずだが、力強い言葉が返ってきた。

 俺は2人組の元まで来ると、一枚だけ持ってきた毛皮を敷いて腰を降ろした。

 「間に合って良かったよ」

 木陰でタイミングを図っていたなんて言えるはずもない。 間に合うが、でもギリギリまで待っていたのだから。

 だが、彼らはそんな事は露知らず、九死に一生を得たと頭を下げていた。

 「偶然だよ、運良く君らは助かっただけだよ」


 「だが・・・」


 射手は大の字になって既にいびきを立て始めていた。 疲れと安堵が限界を迎えたのだろう。

 剣士の方はまだ申し訳なさを持っているようだがその瞼は重く、いつしか体の欲望に負けたようだ。

 牛も足をたたんで横になっていた。


 「紅葉(もみじ)・・・何か眠くなる魔法でも使ったか・・・?」


 「?」


 喋らず首だけ傾げて、そんな事出来ないよ?っと言いたげである。

 って事は、2人と1頭は偶然眠ったようだ。



 平静の訪れた河原には、寝息がしばらく続くのであった。

 もちろん、紅葉(もみじ)も俺の鎧の中に戻り眠ったようだ・・・。

 たくさんの寝息に囲まれながらも、俺は周囲を警戒する。

 10や20で済まないような狼の群れ・・・それは苦戦したゴブリンとの戦闘を思い出すのに十分な数の劣勢だった。

 俺の気も知らないで眠り続ける者達に苦笑しながらも、今は起こさずを時間が経つのを待つことにした。


 ・・・


 「お・・・寝ちまってたか。 生きてる・・・のか?」


 一番早く起きたのは剣士だった。

 「あぁ、五体満足で生きてるぞ。 よく眠れたか? 」

 気軽に声を掛けておいた。 警戒させるつもりは微塵も無いのだから。


 「さっき・・・でいいのか? まぁ、助かった。 ありがとう、俺はアキラだ。」


 アキラは立ち上がり、広げた手を俺に向けた。

 「たまたまだよ。 俺は智司だ。 よろしく。」

 俺はアキラの手を取った。


 ゴツゴツしていて、硬い掌を感じる。

 握られた手も痛いほど・・・

 最近は俺も手にマメができたりしているが、こうはなっていない。

 剣士としての器の違いを感じていた。


 「そう言えば、カッシュの奴も無事か・・・?」


 カッシュ? 射手の事か?

 「まだこっちで寝てる射手の人かな?」

 俺はアキラを連れて、荷車の後ろで眠りこけていた射手へ案内した。


 「こいつの事まですまないな・・・恩に切る」


 アキラは律儀な性格のようだ。

 隠れて頃合いを見計らってたので、感謝される度に罪悪感が湧いてくる。。


 アキラはそのままカッシュに駆け寄り・・・


 ゴンッ!


 「おい、起きろ! いつまで寝てんだよ、お前は・・・」


 カッシュの脳天に、ゴツゴツしたアキラの拳が振り下ろされた。

 あれはー・・・半端なく痛そうだ。。


 少し腰が引けた俺を他所に、カッシュは頭を抑えながら地面をのたうち回っていた。

 「い゛ってーーー!? アキラッ! いくらなんでも、そんな起こし方はねーだろっ!!」


 カッシュは地面を転がり回った後、スッと立上がり俺に向かってそんな事を言ってきた。

 あー・・・人違いですよ?


 「って!? 誰だお前?」


 あんたに言われたく無かったが、再びアキラの拳が降り注ぎのたうち回るカッシュ。。

 俺は手を合わせ目を閉じるのだった。 ドンマイ・・・



 ギャーギャーと騒ぐカッシュに、アキラの方も声が大きくなっていく。

 時折、殴り合ってるような気がするが、互いに険悪な状態ではなさそうだ。

 生きている喜びを確かめ合っているかのように・・・



 騒がしさから逃げるように、俺は休んでいる牛に近づいた。


 目の前で見ると、結構デカいな・・・

 放牧された牛を見た事もあったが、結構威圧感がある。 のんびり動いていたとしても、その体躯は人より大きく、ひとたび暴れ出したら人の手には負えない。


 昔、俺の実家には牛が居たらしい。 その名残の牛舎が今も残っていた。

 気性も穏やかで良く働き、乳も出るメスの牛だったと聞いている。 畑から家まで、1人で帰って来るような賢さもあったと。

 農家ながらそんな話を聞いた時は、俺の家って相当田舎なんだなと子供ながらに思ったものだ。。

 帰る事の出来ない現実・・・実家の事を思い浮かべながら俺は感傷に浸っていたのだろう。

 恐怖よりも何か惹かれる物があって、俺は牛へと近寄っていた。


 「おい、それ以上は近づかない方がいい。」


 静かだが、とても渋い声が耳に入った。

 声のする方へ顔を向けると、牛車に座ったままの御者が目に入る。

 顔には深いシワが刻み込まれていて、ここに来て初めて艶やかな肌じゃないと感じる。 だが、この人も俺とは違う。 渋いじーさんと言ったところか。

 タバコでも吸ってたら絵になるだろう、顔は老人に見えるがその腕や肩,太股も鍛え上げられている・・・張りつめた薄い肌の下には、俺なんかよりも立派な筋肉があるようだ。


 俺が立ち止まり尋ねようとすると、それを知っていたかのように口を開いた。


 「俺は、ジンだ。 こいつらの世話をしてる。 助けてくれた恩人に申し訳ねぇが、不用意に使づいて、こいつらが驚いて暴れやがったら、あんたを怪我させちまうからな。」


 「俺はサトシ、宜しくな。 それは・・・助かったよ。。」

 落ち着く声ではあるが、そんなジンがハッキリと怪我させちまうと確定的な言い方をしてきたので背筋に悪寒が走った。

 ジンはずっと起きていたようだが如何せん存在が希薄だった。 戦闘に夢中になっている間に、忘れてしまうくらいに。


 これで全員起きたようだな・・・ただ一匹、俺の鎧の中で眠り続ける紅葉(もみじ)は例外だが。。 これは鎧の中が温かくて、想像以上に気に入ってるな・・・。



 ジンと軽く話をして、アキラとカッシュを呼んでくるように頼まれた。 どうやらジンは足が弱いようだ。 その脂肪ではない太股のどこに弱さがあるのかと問い詰めたくなるが、年からくる骨密度の低下や関節炎だろうと疑問は飲み込んだ。


 「おーい、アキラ! カッシュ! ジンが呼んでるぞー!」


 呼ぶとまず現れたのはカッシュだった。


 「何でお前、俺の名前を知ってるんだ? どこでっ・・・つぃっ。。 おいアキラ! 何度も叩くな!」


 「命の恩人に、向かってお前なぁ・・・。 サトシ、すまないな。。 こいつ、こんなんなんだわ。。」


 肩を落とすように、アキラはカッシュを紹介した。


 3人揃ってジンの下に集まると、ジンから今回の救援に対する感謝と、自分達のこと、そして俺の事を聞かれる場が設けられた。


 ジンは、以前傭兵をやっていたようで、老後はのんびり過ごしたいと田舎暮らしをしていたらしい。 野菜や狩りの事でも話が合うので、一度腰を据えて話したいと思った。

 そんなおり、弟子だったアキラに強く望まれて、共に行動するようになったらしい。 家を空けてしまっている事が気がかりだとずっと言っていた。 すごく分かる。 俺も家を空けている日数が増えるほど不安が増えてくるものだった。。

 そして予想通りではあるが、今でも体は鍛えているようで、何気にアキラより強いらしい。 足が弱いとはやはり何だったのか。。

 率直に言って、ミラクル元気な老人がジンである。


 アキラは、ジンの出来きの悪い弟子らしい。 狼の群れに拮抗していたのだから十分では?と思ったが、あれで満足してはいけないようだった。

 それどころか、飛び火して俺の太刀筋も身のこなしも全くなっていないと怒られる始末・・・。 闇雲に振って、次の事を考えていない避け方ばかりで基礎が足りな過ぎると。。

 そりゃそうだろう。 俺は剣道すらも経験の無いただの萌ヲタだ。。

 軍ヲタや刀ヲタとか方向性が違えばまだマシだろうが、肉体を使う戦いとは無縁のオタクに何ができる。。 真夏の祭典で動き回ったとしても、それで強くなる訳ではない。。

 アキラの話以上に俺が怒られていた気がするがまぁ、良しとしよう。。


 カッシュは、アキラとジンが村々を回っている間に路上で行き倒れてたらしい。 見捨てる事が出来ず、仕方なく助けたようでそのままなし崩し的に・・・。

 過去の記憶が無いようで、話す事は出来ても未だに読み書きは弱いらしい。

 同行するなら戦力にと、ジンから弓を教わっているみたいだが中々上達しない模様。 行き倒れていた頃から耳が切れていて、日頃からニット帽を深々とかぶっているようだ。

 波乱万丈な人生を歩んでるのは明白だが、いたって本人は笑いながら気にも止めないようだ。 助けたとはいえ、初めて会った俺にまでこんな身の上話を・・・バカだが、何か憎めない奴だと感じる。


 牛車で運んでいる物には、答えは得られなかった。

 ただ、小さな行商のようなもの・・・とは話していた。 恩人に隠す事は躊躇うが、この運搬の契約上、秘匿するべき事らしい。

 丁重に中を調べたりしないようにと頭を下げられた。


 そうして3人の話は終わり、次は俺が質問攻めに会う事になった。。

 どこまで真実を話すか? しばし考えてから口を開く。

 「俺は旅をしている。 気付いたらずっとこの先の森の中に居たんだ。 何であんなとこに居たかは分からないけど、人里を探して川を南下して来たんだ。」


 「おぃおぃ、お前も大変だったんだなー!」


 急に気分を良くしたカッシュが絡んできた。

 境遇が似てると親近感でも湧いたのか? 冬だから良いものの、暑苦しく疲れる。。 静かに聞いてられないのか?コイツは・・・

 残りの2人に助けを求めようと振り向くと、黙っているのはジンだけで、アキラは目頭を押さえている。

 いや、俺の身だしなみを見ろよ? 行き倒れるとかって感じじゃないだろっ!?


 ジンは俺の剣をジッと見ている。 何か変わった事でもあるのだろうか?

 見た目は普通だけど、伝説級の武器だと見破っているのか?(どれくらい凄いかは分からないが)

 おもむろにジンが剣を石に向かって緩やかに振り下ろした。


 キーンッ・・・


 高い音を、立てて剣は石に弾かれる。


 ?


 あの程度の石は紙を切るより容易いはず。 まして石に剣が弾かれるなど想像すらしなかった。

 剣に満足したのか、ジンは俺へと剣を返す。


 「サトシ、この石に向かってそれを振ってもらえんか?」


 満足していなかったようだ。

 ジンには剣の振りが、体幹がと色々と問い詰められていた。 やっと終わったと思っていたが、そうでは無いようだ。 俺が狼を一刀両断するのを彼らは見ている。 それが納得できないのだろう。

 俺も、こんな便利な剣をジンが使えないのが不思議でならない。


 豆腐を包丁で切るように、俺は足元の石を2つに切った。

 特に金属音も無い。 言うなれば、剣の道筋に石が退いたかのように。

 「こんなもんですね」

 切った石を拾い上げ、ジンに手渡す。 3人は囲うようにその石を確認しだす。


 俺も残った半分の石を見てみた。

 衝撃でキレイに割れたのとは違う。 表面が平なのだ。

 石の内部組成から、部分的な凹凸が普通は出来たりする。 石の材質によっては平面的に割れる物もあるが、平面過ぎる事と割始めの衝撃を受けた箇所が分からない。


 やはり割ったのではなく、切れている。

 とても鋭利に・・・。 石の表面がガラスのように滑らかに輝く。


 石の断面に俺が見飽きた頃、ジンが口を開いた。


 「サトシ、この剣をどこで手に入れたのだ?」


 「拾った・・・かな。 河原に落ちてたんだよ。 身を守るにも、武器は必要だったしね。 あ、売らないからな?」


 「そうか。。 買うつもりは無いわい。 それは特殊な剣だぞ? 魔法剣、またはお主だけの魔法剣だろうな。」


 「魔法剣っ!? おぃ、サトシすげーな! 何か魔法使えるのか? 魔法見せてくれよっ」


 カッシュが俺の肩に乗りかかってきた。

 華奢とはいえ、重い。。

 それに・・・俺が自由に使える魔法は見せられた物じゃない。。

 「期待に答えれるような魔法は使えないんだ。。 この剣が、魔法って事すら知らなかったくらいだぞ?」


 カッシュがため息混じりに離れていく。

 変わるようにアキラが口を挟む。


 「それでもすげーよ! 俺ら人間は魔法使えるのは極限られた学者先生くらいだぞ? こりゃ、サトシは王宮騎士になれるんじゃねーか?」


 拾った剣が魔法剣で、俺が知らなかっただけで毛穴魔法やよく分からん転移魔法以外にも使えてたとか、王宮騎士になれるとか気になる事が多過ぎて思考がオーバーヒートしそうだ。


 「そうじゃなー・・・今の力だけでも十分かも知れんが、剣士として成長さえすれば騎士団長も夢ではないかも知れんな。 それよりも・・・サトシ、お主まだ力を隠しておるじゃろ? 手数が剣の倍以上合ったと思うが?」


 今までにない、ジンの鋭い眼光が俺を見据えている。

 アキラとカッシュは、ジンの態度に驚いていたが静寂の中で、2人も俺に視線を向けてきた。

 軽率だったか? いや、1人では助けきれなかっただろう。

 それに、今後隠し続けるのも難しいとは考えていた。 こうも簡単にバレるとは思わなかったが。。

 「ジンの言う通りだな。 俺にはここに仲間がいる。」

 革鎧を指差して俺は紅葉(もみじ)を呼んだ。

 色々と揺られて鎧の下でモゾモゾと動いているのは分かっていたので、外に出すことにした。

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