30-2.救出(30日目)
エルフの村を出る頃には、既に時刻は10時に差し掛かろうとしていた。
森を抜け、突き当りの川を川下へと南下していく。
頭上からは陽が射し、歩いている事も相まって、程よい涼しさを感じている。
耳には川のせせらぎが。
目にはぴょんぴょんと器用に石の上を飛び回っている紅葉が映る。
ここに・・・アリアが居ない現実に、ギュッと胸が締め付けられる。
早く連れ戻したい。
一緒に居たくないと言われるかも知れない。。
それでも。。。
俺の事を命の恩人だと言っていた。
奴隷として扱われる事すら覚悟していたとも。
なら今・・・無理矢理連れ戻したとしても、逃げた奴隷を捕まえるだけだ。
また奴隷として隣に居させればいい。
自分の弱気を、ストーカー的な感情だったとしても・・・理屈を着込んで抑え込んだ。
「行こう この先の村へ!」
「ん? ぅんっ♪」
周りの風景に変化は無い。
川の両岸には大小さまざまな石が転がっていて、草が茂る土場が広がったと思うと先は薄暗い森がどこまでも広がっている。
先へ進めているのだろうか? そう不安を覚えてしまうくらい、退屈な道だ。
背後には、森が見えた。
川は一直線ではなく、くねくねと曲がっているようだった。
前方も森・・・まだまだ、先は遠そうだな。。
地図を広げ、現在地を確かめる。
うん! この地図は簡略的過ぎるな!(´・ω・`;)
道に迷いようがないルートだが、地図が指し示すようなまっすぐした川など無い。 すぐ横を流れる川が、数年前は直線的に流れていたと言われても誰も信じやしないだろ。
「サトシー、歩くの飽きちゃった! 飛んでいかないのー?」
「え? あっ・・・」
そう言えば、リンの魔法を掛けてもらっていたな・・・。 ただ、有効期限はいつだ? ずっととか言っていた気もするが、いくらなんでもそんな性能はぶっ飛び過ぎだ。 あり得ない。
あくまで忘れていた訳じゃない。
忘れていた訳じゃない。
「まだ、飛べるのかな? もし、墜落した時の事を考えると不安でね・・・」
「なら、私の草に・・・って、サトシ苦手だったよねー。。」
「すまん。。」
「ぅぅん、ならサトシが私を抱えて飛んでよっ! もし落下した時は風と草で守ってあげるっ!」
「なるほど! それなら、試す価値はあるな。 採用!」
「やったー♪」
最悪失神はあり得るが、死ぬ事は無いだろうと、俺は紅葉を抱えて空へと昇った。
ヒュゥーー
地上では感じなかった風が、木々を超えると強くなってくる。 飛び上がった直後はその寒さも心地良かったが、それは一瞬で終わりを迎えた。
「あ゛あ゛・・・さ、ざむぃ゛・・・」
顎すら震える程だ。。
「あわわっ!? はぃっ! これで大丈夫だよっ!!」
紅葉が風の壁を慌てて作り出す。
肌を刺す冷気が夢だったと思える程の劇的な変化が起こる。 毎度の事ながら、本当にこの組み合わせあっての飛翔魔法だろう・・・
不安はあったが、リンの魔法はまだ解けていないようだ。 俺が思うように前へ、上へと進む事が出来た。
森を見下ろした先に、川沿いに森が拓けた場所が目につく。
耳も視力も人並なので、緑が少なくて何か建物がありそうだとしか見えないが、闇雲に歩き続けるより遥かに希望が持てた。
そして森は永遠では無かったようだ。
感覚が掴めないが、彼方には草原のような土地が広がっている事が分かった。 続く川を跨ぐように草原の中には白い建物が見えた。 あれが城か?
高い視点は本当に有益だな。。
これからのルートを考えながら、俺は森の木すれすれを飛ぶ事にした。
地上の様子を確認して、村人に無用な警戒をさせないためだ。
旅人として村に入らなくてはならない。
「紅葉、村に着いたら悪いんだけど、喋らないでくれるか?」
「えー。。やだっ!」
「そこをなんとか! っね?」(人ŏ﹏ŏ。)
「やーだーっ! なんで、喋っちゃだめなの?」
鎧の中で紅葉が暴れて、胸や腹が痛い・・・防具の内側で攻撃されたら、生身と変わらんよ・・・ぐすん。。
「いてて。。 えっと、紅葉が喋れる事で、これから行く村の人が驚いたり、警戒したりされる可能性が高いんだよ。。 それに、紅葉は可愛いだろ? それで喋れたりもするんだから連れ去られるような危険に合うかも知れない。 傷付けられるのが紅葉かも知れないし、俺かも知れない・・・少しでも安全に行きたいんだ。 ダメかな。。?」
「サトシずるい。。。 そんな事言われたら断れないよぉー。。 もぅ・・・」
そう言い終えると、ぽふっと鎧の中で静かに丸まったようだ。
ずっとこうしてる手もあるが、いつ紅葉を発見されるか分からない。
ペットとして寄り添わせる方が自然だろう。
それに、この世界の動物は皆可愛い。 イノシシもオオカミもデフォルメされている。 怖い存在の中にも可愛さがあるのだ。。
こんな可愛い動物をペットにしないなんておかしいだろ?
まぁ・・・エルフの村ではペットは見なかったが、人間の村ならきっと。。
そうこうしている内に、村が近づいてきたのでスピードを落とした時、紅葉が慌てたように鎧から顔を出し、前足を地面へと向けた。
「ん? どうしたんだ?」
何も喋ろうとしない紅葉の従順さに感心しつつ、下界に視線を向けると・・・
「荷車か? いや、オオカミの群れに襲われてるのか!」
紅葉が肯定の頷きをしていた。
どこから来たのかは謎だが、南の村に向かっているのは確かなようだ。
見つからないように、木々に隠れながら下降していく。
荷車は馬では無く、白と黒の模様が・・・あれは牛っぽいな。。
乳牛の期待を持ちつつ、草地に降り立った。
盾は壊れたままで、今の俺は一般人になってしまっている。
よく切れる剣や鎧は着けていても、セット効果が無いのが致命的だった。
「紅葉、俺の周りを風の壁で守ってくれないか? 俺一人じゃ倒せそうにない。。」
「・・・っ!」
声は発しなくても、周囲の空気が変わった。
紅葉は、しっりと手伝ってくれたようだ・・・が。。
顔だけ出してしょんぼりしている。 これは良くない傾向か。。。
「外に出て、一緒に戦ってくれるか? 俺一人では、これだけじゃ駄目かもしれない。。 紅葉の力をもう少し貸してくれないか? ほら、ここに乗ってればテイマーみたいだろ?」
「テイマー? ぅんっ! あっ! ・・・」
「あははっ、これからまた気をつけろよ? ありがと、さぁいくぞっ!」
俺は、オオカミの群れに襲われている荷牛車に向かって走り出した。
上から見ていたので、大方の状況は掴めている。
牛を狙っているのか、多数のオオカミに取り囲まれているのだ。
荷車の背面には弓が扱える者が居るようだ。
身を乗り出して、動き回るオオカミを狙っているが、致命打を与えられていない。 飛翔する矢も、魔法では無く物理的な物だ。
アリアなら簡単に・・・いや、今はそんな事を考えている場合ではない。
荷車の正面でも、剣士と思われる人物がオオカミと戦っている。
1:1ならともかく、多勢に無勢・・・。
ベチペチッ!
「痛いって!? 行くってば、ただ俺を味方だと思える最良のタイミングでっ」
木陰に隠れて様子を伺っている俺に、紅葉から指導が入る。
確実に早く行けと言っている。。
だが、1つ弁明させてくれ。
射手を見て俺は気付いてしまったよ。。
確かにあの人はエルフじゃない。 きっと人間種だ。
でもな? どう見てもアニメ調とか3Dモデルみたいなんだよ・・・
肌の色はキレイだし、きっとムダ毛と無縁だ。。
ここでも、自分だけがリアル調な事に気付かされた。
エルフの村で俺はどうなった?
簀巻きの記憶は、早々に癒える物じゃない。
無計画で割り込んだら、あの時と同じような未来しか見えない。。。
今だけは、確実に当たる預言者だと自負できる!
俺が弓や剣の標的にされるんだよなぁー・・・きっと。。
という訳で、劣勢が確定するのを見計らってから加勢する事に決めた。
尻尾鞭攻撃が結構痛いが、俺は紅葉に屈したりはしないっ!
・・・
射手の方は、防戦一方になった。 その内に荷車に乗り込まれるのも時間の問題だろう。
剣士の方も善戦しているが、牛が襲われ始めていている。
御者は何とか牛が暴れるのを抑え込んでいるが時間の問題か・・・
いくぞっ
小さく囁いてから、俺は遂に木陰から飛び出した。
「加勢するっ! 自分の身くらい何とか守れよっ!!!!」
シュッ!!
進行方向にいた狼の首が、振り下ろした剣で抵抗無く地面に転がり落ちる。
横から回り込んできた狼は、紅葉の出した風の壁に阻まれ一瞬動きを止められ、その隙に俺は剣を頭に突き立てた。
絶命した狼は皆一様に光子となって霧散する…
後に残るのは、そのドロップ品だ。
劣勢な射手の側から狼を狩っていく。
振るう剣以上に、紅葉の風の刃が敵を細切れにしていく。
数で優勢だったはずの狼の群れも、その優位性を失い警戒し始めていた。
剣士の方に向かうが、彼は自力で耐えきったようだ。
周囲にまだ残っている狼を紅葉の刃が流れるように切り裂いていく。
皮が裂かれた事に気付いた時には、肉も骨も断ち切られその身が崩れ落ちる事を防ぐ事は出来ないでいた。
飛び散る血は、それら狼からは無い事が唯一の救いだろうか。
周囲は、輝く光に満たされている。
想像以上に狼は居たようだ。
辺りは静けさを取り戻していた。
カチャ…
剣を片付けて、俺は地面に散らばったドロップ品をまとめる事にした。
いつもの皮や骨、たまに牙・・・そして銅貨や銀貨を拾いあげる。
皮は山積みになった。 骨もこれだけ集めればキャンプファイヤーでも出来るかのような積み骨を作れるだろう。 鋭い牙も恐竜の化石でも掘り当てたかのように集まった。
歪な貨幣のみバックパックへ入れ込み、俺は牛車へと歩みを進めた。
川原の小石がガチャガチャと歩く度に音を立てる。
助かった牛車の周りの者達は、手際良く牛の手当てや荷車の状態を確認している。
しばらくして、無事を確かめ終わったのだろう。 握りしめていた武器を手放し、倒れ込むかのように硬い地面へと腰を降ろしていた。
「おーい、無事か?」
俺は、寄り添うように牛車の前で座り込んだ二人に声を掛けた。
ATRIプレイしていたら、夜がふけってしまたw
ほんと良いシナリオで、可愛くて・・・。
早く寝ないといけないのに、興奮が冷めやらない!