5-2.森の探索(5日目)
肉食ばかりに飽き飽きもとい、栄養バランスを考えて野菜や果物を探し始めた結城達。
森の先で何に出会えるのだろうか。
木々の間を跳び跳ねたり、時折木の根元の匂いを嗅いでいたりと忙しなく動き回っている紅葉を俺は微笑ましく眺めている。
警戒は怠っていないつもりだが、紅葉がガサガサと音を立てているので、素人の俺じゃ聞き分ける何て無理だと半ば諦めている。
家から北へ向かって森に入ったが、その後は東にも逸れており現在地があやふやになってた俺は内心冷や冷やしている。 あー・・・脇にも変な汗かいてきたわ。 鬼が出るか蛇が出るかと不安ばかりが湧き溢れて来る。 そんな俺とは真逆に、楽しそうにはしゃぎまわる紅葉を見ていると僅かばかりは心が落ち着くような気はする。
かれこれ1時間半は歩いているだろうか? 頻繁に地面の匂いをかぎ回るようになってきた。 何か近いのか、はたまた迷ったのだろうか。。。
グルグルと匂いを嗅ぎ回っていたと思ったら、ピコンッ!と擬音が流れるかのように耳が立った。
俺の方を紅葉が向いて、目をキラキラさせている。 敵を見つけたとかじゃない・・・んだよな? やばい、紅葉を信じられなくなってきているな・・・不安って恐ろしい。
腰の引けている俺を尻目に、紅葉は東の草むらに潜っていった。
「お、おい待ってってば。 どうしたんだ?」
慌てて俺も草を掻き分けて追いかけた。
黄色い頭と尻尾が目立っているので何とか見失わずに追いかける事が出来た。 しかし、日頃運動不足の俺にはこのペースはきついぞ・・・。 紅葉め、今日の夜は撫でて上げないからな。。 はぁはぁと息を切らす俺との距離が少しずつ開いていく。
紅葉が茂みを抜けたようだ、俺もあと少し・・・
鬱蒼としていた森を抜け、心地よい風が頬を撫でた。
木が無い訳では無いが、ここには疎らにしか生えていないようだ。 さっきまでずっと上り坂だったのもここが台地だったためだ。
時計を見ると11時半になっていた。 2時間半森を歩き続けてヘトヘトだ。 俺は芝生のような細かい草が生えた大地に座り込み寝そべった。 すかさず紅葉が俺の横に寄ってきた。
「紅葉、疲れたろ…。僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ・・・」
ぐふっ
どこかの名言っぽく言ってみたが、横っ腹に頭突きを入れられた挙句、腹の上に飛び乗りやがった・・・。
腹の上は止めなさい、色々出てしまいそうだったじゃないか。
馬鹿な事を言って寝転がってた自分が悪いんだと諦めて、重い体を起こして改めて追いかける事となった。
丘へ向かった紅葉を息が上がった俺はゆっくりとした足取りで追いかける。
満身創痍で丘を登り切った先は・・・
この丘の台地一面に赤い実を付けた木がたくさんあった。 農園のような感じだろうか、森の中で見た木々とは違い、実を付けた木ばかりが一面に生えているのだ。 近寄って木の根元を見る限りだと特段手入れがされている訳でも無さそうだし、落下した実もそのままとなっている。 実に関しては肥料代わりにもなるので放置と言うのは良くある事だが。 木の高さは10m程度と高めではあるが、森の中と比べればとても低い。 誰かが整備しないと森に侵食されてしまうはずだろうと考察する。
(ごめんなさい・・・)
特に立て札も無いので、少しだけ拝借させてもらうことにした。
地面に落ちているものをで状態の良い物を探していると、少し離れた先に比較的綺麗な実が落ちていたので近づこうとしたら、紅葉が咥えて持ってきてくれた。 さっきの俺を置いていくような走りで、今日はもう撫でないとか恨んだがあれは嘘だ。
「紅葉ありがとうなー」
めちゃくちゃ可愛がって撫でまくりました。
おっと、肝心なことを忘れていた。 赤い実を受け取り鼻に近づけると、濃厚な甘さを感じる匂いがした。 見た目はリンゴだが、香り的には桃に近い感じだ。 実の表面を良く見ると、桃のような皮ではなく本当にリンゴのようだ。 落ちていたものがどの程度熟したものかは想像でしかないが、基本的にここまで成熟した実ならば完熟と考えてよいだろう。 桃ほど柔らかくなく、ある程度の硬さを持っているので輸送や日持ちは良好と思われる。
さて・・・、肝心なのは味だ。 服で実の表面を軽く擦り、ナイフを当てて半分に切っていく。 切り口からは果汁が溢れてきた。 濡れた手を軽くなめてみると、やはりとても甘い。 もう我慢できないと皮がついたままかぶりついた。 口いっぱいに広がる甘さと瑞々しさ、でも濃厚さも兼ね備えており、梨のように歯切れ良くシャキシャキとした食感は心地いい。
1人で実の味に舌鼓を打っていると、ズボンの上から脛辺りをカリカリと紅葉が引っ掻いていた。 すまん・・・。
慌てて紅葉の分も切り分け、2人でこの果物の味を堪能した。
お昼ご飯は果物で十分かな。 そう思えるほどにたくさん食べてしまった。 2人と言うかほとんど俺だが6つも剥いてしまっていた。 だって・・・美味しかったんだもん。。(可愛くない)
12時半を回ったばかりだが、既にお昼ご飯も終わり紅葉と2人芝生で横になる。 顔の横で丸まった紅葉の背中を撫でながら感謝する。 素晴らしい果物が手に入ったのだ。 久々に感じた甘味は疲れも不安も全て吹き飛ばすようなそれくらいの幸せを感じられた。
リンゴのような見た目で、桃の香りと梨の瑞々しさを兼ね備えた果物・・・ 俺は仮で【ペアーチ】と命名した。
食後の30分を2人してダラダラ過ごしていると、どこからとも無く温泉のような硫黄臭が鼻についた。
上半身を起こして周囲を見渡すと、現在の丘から南に巨大な噴水が発生していた。
さっきまでは無かったはずだが、水飛沫を上げて空へと向かっている。 この発生源近くに、温泉があるかも知れない。 予想外の出会いに、午後からの食料調達そっちのけで温泉探しへプランを切り替えた。
ペアーチ10個をバックパックに仕舞い、位置関係を整理した。
【丘】※ペアーチの森
【大滝】 【大木】
| 目的地→【噴水】
|
|
|
|
| 【家】
↓
川
家から近いとは言いがたいが、4日振りにお風呂に入れるかも知れないと気力が湧いてくる。 やはり日本人はお風呂・温泉が大好きだ。(反論は受け付けない)
気持ち良さそうに寝てしまった紅葉を置いていく訳には行かないので、バックパックのファスナーを顔が出せるように隙間をあけておき、中に入れて運ぶ事にした。 以後、屋外で紅葉を日中寝かさないと誓いながら、丘から南下して森へ入り噴水を目指した。
おやすみぃ




