0-1.夜空がすごく綺麗なんですけど!?
カタカタ・・・・・・グラグラッ
「っ!?」
突然の揺れで俺は眠りから飛び起きて暗闇の中を走った。
暗闇といえど家具の配置は覚えており、手探りや感覚で動き回れる程度には住み慣れた部屋だ。
俺は宝物達を守るために木製のガラス棚を必死で支えていた。
「2階が崩れてきたりしないよなぁ・・・」
家は築7年の2階建てアパートだ。
1棟4部屋しかなく全てが角部屋となっているタイプの1階に住んでいる。
1LDKの部屋だがリビング14畳,寝室10畳,脱衣所が広く大型の鏡があり、1畳風呂でトイレ・バスはもちろん別。 1階特権でベランダから出れば50㎡近くある庭までついている。
男1人には十二分な部屋で暮らしはじめて2年が経っていた。
「くっ」
数年前から来るぞ来るぞと言われていた大地震が遂に来たようだ。
防災準備をしっかりしていなかった事を俺は今頃になって後悔している。 そんな中、揺れは収まるどころか激しさを増していく。
ギギィ・・・
家が軋み出し、ガラス棚の中ではいくつかが倒れ棚内を転がっていた。
「うわっと!」
立ち続ける事はとうとう出来なくなって、床に倒れこむ様ににしゃがむ事しかできなかった。
それでも、ガラス棚に持たれ掛かりながら転倒を防ぎ続けていた。
(こんな事ならあのプレミアが付いちゃったフィギュアも買っておくべきだったなぁ)
死が目の前に迫る中で、走馬灯のように浮かんだ事は、買えなかったまま今に至る1/7スケールの美少女フィギュアへの想いだった。
流石にオタクを拗らせ過ぎているなと、小さく笑いが漏れる程度に、生きる事に諦め始めていた。
俺は今年で33歳になった。 周囲からは結婚しろだの何だの言われるが、正直その気は無かった。 童貞では無いし数年同棲した経験もある。 ただ、二次元の可愛さに勝るものは無くそれ以上に愛せる人にめぐり合えた事が無かった。 彼女よりもアニメや漫画,ゲームの中の女性が好きだった。 そんな俺は、結婚せずに1人で生活するべきだと考えて、今の生活を選んでいる。 見栄っ張りな思考から出てきた考えでもあるだろうが、今の生活に満足していた。
「・・・お?」
死ぬ覚悟を持ち始めていたが、体感で5分以上にも感じた大地震はゆっくりとした揺れに変わり、次第におさまっていった。
「ふぅ――・・・・・・ 倒れずに守れたか」
ガラス棚の中身は小さなデフォルメフィギュアが倒れた程度で、1/7スケールのフィギュアは破損無く輝く笑顔を振りまいたまま何事も無かったように立っている。
一部を除き、フィギュアは台座を棚に貼り付けていた関係で難を逃れた可能性が高かった。 もちろん剥がせる貼り付けなので、置き換えも自由だ。
「そう言えば、緊急地震速報を確認しなきゃな」
ガラス棚の中で倒れてしまったデフォルメフィギュアを立て直し、警報音が鳴り響いているスマホを手に取って緊急地震速報を確認した。 震度6強だったようだ。 死を感じていたが震度6強であの状況とは・・・。 震度7の地震とは一体どのような物なのか? 命が助かった安心感からか、未体験への憧れのような物を不謹慎だが感じてしまっていた。
「今のうちに非常食用にコンビニにでも行くか」
地震発生直後だし、場所によっては倒壊被害も出ているだろう。 防災準備がままならない俺は、近所のコンビニで早めにカップ麺やスナック菓子等を買っておこうと暗闇の中で財布を鞄から引っ張り出し、外に出ることにした。
ガチャ、ガチャリ
パジャマ代わりのジャージ姿のまま玄関扉のダブルロックを解除し、扉を開けて外に出た。
涼しく爽やかな風が、肌を撫でていく。
一歩玄関を踏み出したが、俺は足を止めていた。
「えっ、はぁっ――!?」
外は真っ暗で街頭や近隣のアパート,マンションの灯りさえ無く、地上には一面の木々が。。。 頭上には大きな月と小さな月、そして煌く満天の星空が俺を迎えていた。
地震で停電なのは分かる。 近隣の建物が崩れて見晴らしが良くなったとかでもまだ理解できる。
ただ……駐車場に停めてあった車も、近所の建物も無く、目の前に広がる一面の木・木・木! 3本集まって森だよー♪なんて可愛いもんじゃない。
何がどうなった!?
先が見えないほど鬱蒼とした森が辺り一面に広がっているのみで、道路なんてもちろんなく、夢でも見ているのかと混乱してしまった。
(一度冷静になるべきだ)
室内に戻り、目を閉じて深呼吸。 もう一呼吸。 更に一呼吸。 ゆっくりと吸い込んで吐いてを繰り返す内に混乱から落ち着きを取り戻す事ができた。
やっぱ地震に驚いていたか。 落ち着いていたと思っていたけど幻覚が見えるほど気が動転していたんだなと自分に呆れていた。
「さーて、今度こそコンビニに行くか」
鼓舞するような気持ちで声を出し、扉を開けて再び外に出た。
月明かりに照らされて思ったほど暗くは無い。
だが、住み慣れた家の玄関から見える風景ではなかった。
ドッキリ成功☆なんて看板も出てこず、俺は呆然としたまま爽やかな風を感じながら夜空の星を眺めるしかなかった。
何となく書き始めた初の小説のような妄想です。
考えるのも楽しいですね