向日葵さんもう一回
寒い季節で温かい話が書きたくて書いてたら私的にぱっとしない話になった気がします。軽く読んでください。
じりじりと紫外線は私の肌に突き刺さる。暑いを通り越して痛い。3年になると夏休みは受験勉強で忙しいが菅野向日葵は、そんなのお構いなしにいつものように8時に登校して学校の裏庭で花の世話をせっせて行っている。
この綺麗な庭を見れるのは今年で最後だ。何故ならこの学校の花と畑を管理しているのは園芸部だからだ。その園芸部員は去年4人の先輩が卒業して向日葵が最後の部員になって入部希望の人が一人もいなかったのだ。顧問の滝川先生から数日前廃部の知らせを受けた。誰が土まみれになって花の世話をするだろうか。皆で集まって話し合ったり携帯を眺めている方が楽だ。そして園芸部は夏休み登校も必須なのだ。遊びたい夏休みに学校に来たがる人なんて珍しい。
「カントリーロード~~~このみち~~~。よいしょっと」
最後の花壇に水をやった向日葵は園芸用品を片付け始めているところだ。裏庭の花壇の世話が終わったので一旦片付けでお昼を取るため部室に向かう。グラウンドでは、サッカー部が熱い日差しの中ボールを追いかけている。そのグラウンドから見える教室の一角が園芸部の部室となっている。先輩達との写真が黒板に無造作に磁石で飾ってある。楽しい声が行きかっていた部室には、私一人。
水筒の冷えた麦茶をごくごくと飲みほす向日葵はぷはっと声を出して口の端から少し漏れた麦茶を袖で拭った。それから、朝作ったお弁当を開けてウィンナーを一つ箸で持ち上げた。
「たこさんウィンナーさん今日も私の血肉になってくれてありがとう」残念なことを言ってぱくっと口に入れて最初の一噛みの瞬間、思考がフリーズする。言葉の通り視界がフリーズしたのだ。
部室にエアコンなんて高価なものはない。あるのは、床置きの扇風機が一台。それだけでは熱いので部室の窓はすべて開け放たれている。そこから、何かが飛んできた向日葵の頭に直撃した。
私は何かしたのだろうか。最後に思ったのはこんな事だった。
持っていたお弁当のおかずは宙に舞い向日葵の体も衝撃に耐えられず床に倒れる。倒れた向日葵の口からよだれと共にたこさんウィンナーが一つ吐き出された。
「次からは気をつけなさい。軽い脳震盪だとは思うけど、はしゃいでふざけてはダメよ」
「はい。すいません。次から気を付けます」
目をうっすらと開いて意識がはっきりとしてきた向日葵。カーテンの向こうから保健室の先生の男子の声が聞こえた。ぐっと上に腕を伸ばして上履きを履いてカーテンを開く。シャーっと音がしたので会話の二人は彼女を方に振り向いた。
「菅野さん!本当ごめん!!俺のせいで・・・」
「おきれるようだし、体調は大丈夫そうね。もう、暗くなり始めたし二人とも帰りなさい。」
「すみません。お騒がせしました。」
向日葵は保健室の先生に頭を下げて誤ってきた男子とともに保健室を後にする。
「あの菅野さん本当ごめん!!」
保健室を出ると再度彼は向日葵に誤った。
「大丈夫だよ。死んでないし。」
菅野向日葵は園芸以外は大ざっぱな性格をしている。未だクラスメイトの半分以上の名前も憶えていない。だから、目の前で申し訳そうに誤る彼の事も顔は知っているが名前が全く思い出せない。
向日葵は部室まで自分の荷物を取りに廊下を歩き始める。グラウンド側の庭の手入れができなかった。状況からサッカー部のユニフォームを着ている彼は部活の練習ではしゃいでボールを蹴ったら私の頭に直撃したのだろう。
ガラガラと音を立てる部室のドアを開けて入ろうとしたが背後の人物を振り返った。
「あの。いつまでついてくるの?」
「えっ?」
「わざと狙って頭にボール当てたわけじゃないし、別にそんなに謝んなくていいよ。それじゃあ、さようなら」
部室をガラガラと閉めて彼との会話を一方的に切り上げた。菅野向日葵は誤解されやすい子だ。周りの子とはペースが違うのだ。人はそれぞれ価値観が違うのは当たり前だが、一般的常識の範囲内の価値観の相違が当たり前だというのが多くの人の意見だろう。しかし、彼女はその範囲内の相違を大きく外れているペースと考えと行動で中の良い友達も少ないのだ。
机にお弁当がきれいに包まれ直されており、吐き出したたこさんウィンナーとばら撒かれたおかずは綺麗に片づけられていた。開け放たれた窓を閉めカレンダーに赤いペンで7月27日に丸を書く。
「お腹すいた・・・」
部室を出て鍵を閉めるとお腹からぐーぐーと腹の虫が鳴く。
玄関を出ると彼が壁に寄りかかって携帯を見ていた。それを一目見たが向日葵は横を通って正門に向かう。
「あ。菅野さん!待って!」
向日葵の前に回り込んだ彼。
「・・・」
「あのさ。今から時間ある?」
「お腹かすいて早く家に帰ってご飯が食べたいから時間ないです」
「えっと。ファミレスでいいなら今日のお詫びとしてご飯おごる」
「私さっきの事どうも思ってないからお詫びとか大丈夫」
「いや、俺が悪いって思っちゃうから」
「・・・」
向日葵は黙って少し考える。
「分かった。夕飯ごちそうになります」
彼は嬉しそうに顔を明るめて自転車を引いてくると正門で待っているよう言われた。
正門を出て信号を渡るとカイゼリアという学生にはありがたいファミレスがある。値段もお手頃で味もなかなかだ。
「いらっしゃいませ。ご注文お伺いいたします」
「プレミアムハンバーグ」
「あ。えっと。俺は、グラタンで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
バイトの子だろうか、向日葵の向かいに座った彼をウエイターの女の子はちらちらと見てから中の方に折り返した。
「菅野さん。一応確認なんだけど。俺の事しってるよね?」
「知ってると言えば知ってるし、知らないといえば知らない」
「えっと?それはどういうことかな?」
「名前知らない」
「あ~~うん。だよな。わるい。俺、新崎学」
「初めまして。新崎学君。私は菅野向日葵です」
「俺達、クラスメイトなのは知ってる?」
「うん」
新崎は窓の外を見ると頭を抱えてテーブルにうつ伏せになる。
「どうしたの新崎君?」
「なんでもない」
そこに、注文した品がさっきのウエイターさんが両手で持ってきた。
「お待たせしました。プレミアムハンバーグとグラタンになります」
ハンバーグを向日葵の前に置き、グラタンを新崎を前において小さなメモ帳をグラタンのお皿の横に置いた。
「熱いのでごゆっくりどうぞ」
その紙に気づいて新崎を半分に折られたメモ用紙を開いて表情がなくなる。
「まって。ごめん。これ返す」
「えっ?」
「こういうのは受け取れない」
新崎はそのメモをウエイターの女の子に返した。女の子は顔を赤くして急ぎ足でキッチンの方に去っていく。
無言でそのやり取りを向日葵は見ていた。
「・・・。
・・・。
いただきます」
手を合わせてフォークとナイフを持ってハンバーグを切っていく。
「菅野さんその無言の間は何」
「別に何も。メアドでしょ?そういうナンパもあるのかと思って見てただけ」
「何か、俺今日かっこ悪すぎる気がする」
「それは自己嫌悪だよ。さっきのは寧ろ正しい気がする。気がないのに、メールのやり取りをやってるよりずっといいと思う」
切ったハンバーグをパクパク食べ始めた向日葵にそれ以上新崎は話しかけず食事に集中した。菅野向日葵はよく食べる。プレミアムハンバーグは高校の前にあるカイゼリアだけの限定メニューでお腹を空かせた男子高校生向けのボリューミーなハンバーグだ。カイゼの通常サイズのハンバーグの2倍はあるハンバーグを向日葵は黙々と食べている。加えてライスも一緒に食べている。普通の女子が食べられるご飯の量ではない。その様子を見て新崎はポカーンとみている。自分が今まで見てきた女子は、量が多いとわざとらしく食べれないと言わなくていい事を言うのに向日葵は違う。
「菅野さん美味しそうに食べるね」
「初めて言われた。たくさん食べるねとはよく言われるけど。オブラートに包んでくれてどうもありがとう。たくさん食べたって言われても別に嫌じゃないよ。実際そうだし」
「女子はたくさん食べるなんて言ったらデリカシー無いって言うかと思った」
「人によって違うからね。私は本当の事を言ってくれた方がありがたい」
新崎は食べ終えると向日葵が食べ終わるのを待った。ゆっくり食べる彼女を観察しているととても綺麗に食事をしている。食べる姿がきれいだった。
「ごちそうさまでした」
手を合わせてナプキンで口元を吹いた。
カイゼリアを出ると時間は8時に回っていた。真夏の暑さは夜になっても冷めない。クーラーで冷えた汗が再び噴き出してきた。
「ありがとう新崎君。それじゃ、私帰るね」
「こっちこそ今日ごめん。また明日」
また明日とはいつ振りだろうか。先輩達が卒業して学校で会話をする人がいなくなった。また明日会えって誰かと話せるんだという事に向日葵は嬉しくなった。
「また。また明日!」
振り返って小さく手を振って笑い返した。
それから夏休みの間、向日葵は学校の庭の手入れを終え部室で勉強しサッカー部の練習が終わると学は制服に着替えて園芸部に来て二人で勉強するようになった。
8月15日。夏休みの半分は部活と勉強ばかりしていた。しかし、今日は市の夏祭りがある。新崎学はその夏祭りに菅野を誘うべき朝から気合を入れていた。
「おい学、今日の夏祭りサッカー部の奴らで行こうって話してんだけどお前も来るよな?」
副部長の竹本がスパイクを脱いでいる新崎お肩を組んで誘った。
「パス」
「えーーーなんでだよ。・・・。お前まさか。菅野さんと行くとかだったりしたりしたりするわけ?」
「そうなる予定だから」
「これが世のいうリア充の幸せオーラってやつか!?まぶしい・・・まぶしいぜ・・・!!」
竹本との会話で周りにいた部員は皆食いついて新崎を質問攻めにする。一部の部員は新崎の思い人が菅野向日葵だと知っている。それは、夏休みの初めの頃部活帰りの部員がカイゼで新崎と菅野が一緒にいる所を見ていた。窓の外を見て驚いた新崎はテーブルにうつ伏せになって向日葵に心配されたのを今でも憶えている。
「あーーー!!!お前らうるせー!祭りで見かけても邪魔するなよな!」
制服に着替え終えた新崎はユニフォームを鞄にしまい。部員の質問攻撃から逃れるためさっさと部室から出た。
上履きに履き替え園芸部の部室まで走っていく。
ガラガラと勢いよく開けた新崎は汗を滝のように流していた。開いたドアを振り返る向日葵は冷蔵庫から冷えた麦茶を出していた。
「こんにちは学君。急いでどうしたの?」
「向日葵!」
お互い名前で呼ぶようになったが向日葵は男子に名前を呼ばれるのに慣れない。
「はい!菅野向日葵です!」
「向日葵!きょ、今日の夏祭り一緒に行きませんか?」
きょとんとした向日葵だがにっこりと笑った。
「はい。一緒に行きましょう」
「は~~~~~~。良かった。」ドアの前で座り込んでしまった新崎に近づく菅野。
「大丈夫?はい手」
しゃがんでいる新崎に近づき手を差し出すと目を丸くして驚く新崎。
「ありがとう」
「麦茶冷えてるよ」
向日葵の手は温かい。人のぬくもり一つで落ち着きがなくなる。重症だ俺は。
しばらく勉強してから二人は7時に駅前で待ち合わせすることにした。花火の時間は8時からなので1時間位屋台を回ろうという話になった。
「学君」とポンと肩を誰かに叩かれ振り向くと白の浴衣に淡い黄色の大きなひまわりの花が咲いている。帯の色はオレンジで普段はおろしている髪をアップにして鈴が付いた簪がささっている。竹網の巾着を片手に持っていた。
「お待たせしました。」
「あ、いや。どういたしまして」
「じゃ、行こう」
カランコロンと音を立てて歩き出す向日葵。新崎が一瞬見とれていたなんて知らないだとう。
屋台をたくさん食べると思っていたが今日の向日葵はあまり食べない。
「浴衣が苦しくて」
「具合悪くなったら言えよ」
「うん。制服で行こうとしたらお母さんに止められたの。そしたら浴衣を出して貰って着付けしてくれた。でも、屋台あまり食べれないのは残念」
「浴衣すげー似合ってる」
「そっか。ありがとう」
へへへと笑って浴衣を見下ろす向日葵。最初の頃は自分の事を進んで話そうとしなかったのに大きな進歩だ。まるで懐かない猫のようだった。
「学君少しかがんで、さっき食べた綿菓子ついてる」
「おう」
小さい向日葵の目線に合わせて膝を曲げる。すると後ろから走ってきた男の子に押されて向日葵の顔が目の前に広がる。柔らかい唇に周りの音が消える。自然とどちらともなく離れてしまう唇に寂しさを感じるが恥ずかしさもある。
「お母さん!!!!このお兄ちゃんがお姉ちゃんにチューしたよー!!!!」
「こら!周りに迷惑でしょ!!いくよまなぶ!」
まなぶという男の子の母親はこちらに頭を下げてまなぶ君の手を引いて連れて行く。
気恥ずかしい雰囲気が流れる。
「今のは事故で。その、ごめん!!」
「ううん。私こそごめんなさい?」
「い、いこっか」
その後はどうやって過ごしたか俺はよく覚えていない。花火を見て向日葵を家の近くまで送って家に帰った時にやっと何をやらかしたのか分かった。事故だとはいえ、これはやらかした。向日葵の照れて赤くなった顔を思い出して心臓がギュッと握りつぶされる感覚。
次の日になると、向日葵は何もなかった事のように穏やかに過ぎていった。夏休み最後の日、新崎は部活が休みにも関わらず学校に来ていた。ガラガラと古びたドアを開けるといつもの風景が見えた。窓を開けて椅子に座って勉強している向日葵。
「こんにちは学君」
「こんにちは向日葵」
「今日は夏休み最後だけど写真を撮ろう」
「写真?」
「毎年、園芸部の皆は夏休み返上で庭の管理してるんだけど夏休み最後の日にお疲れ会をやって皆で写真を撮ってたんだ」
「俺手伝いあんまりしてあげれなかったけどいいの?」
「サッカー部が休みの日は毎回来てくれてたでしょ?だから大丈夫!そのクッキーと冷たいミルクティー家から作ってき」
水筒から冷たいミルクティーをコップに注ぎラッピングされたクッキーを取り出した。ほんのり甘いバター味のクッキー。好きな子の手作りといことあって美味しくて仕方ない。
「美味しい。凄い美味しい」
腹を満たしたら向日葵は鞄からカメラを出してセッティングした。
「学君黒板の前に立ってもらっていい?」
「ここ?」
「もうちょっと右。うん。そこ」
タイマーに設定し、走って黒板の方に行こうとした向日葵は扇風機のコンセントの線に引っかかって転んだ。
「ふぎゃっ!?」
「向日葵!」
顔面スライディングで、膝からついたせいでもの凄く痛い。カシャッカシャッカシャッと一定のリズムでシャッター音が鳴った。
「サタンの呪いだ・・・」
「それはないから。大丈夫か?」
「大丈夫じゃないけど。大丈夫」
よいしょと立ち上がりスカートをはたいた。
「俺が押すから、向日葵はここに立ってて」
「分かった」
カメラのシャッターボタンを押して向日葵の隣に立つ。カシャと音を立てて静かな部室に響いた。その日のうちに部室にあるプリンターで写真を印刷して、二人で分けた。私が転んだ写真を見て学君は大笑いして写真を欲しがった。しぶしぶプリントアウトした写真を学君に渡すと大事にすると言ったのでパシッと叩いてやった。
今日で終わりだ。クラスで変人扱いの私は2学期が始まれば学君と話す機械がなくなるだろう。この夏休みは私にとって眩しい時間として過去になってしまうだろう。一人は慣れていたけど学君が園芸部に来てくれるようになってから誰かと一緒にいる事が楽しいんだってまた思えた。
新崎は急に真剣な面持ちで向日葵の前に立った。
「向日葵。好きです」
「私も向日葵好き」
「・・・そうじゃなくて向日葵さん好きです。付き合ってください」
「・・・」
「返事があると助かります」
「好きでいてもいいですか?」
「好きでいてくれるとすげー嬉しいです」
見つめあった二人は自然と距離が縮まって唇を合わせる。残暑が残ってまだまだ暑い。部室にセミの鳴き声がやけに響く。
離れた唇。
「もう一回…」
向日葵が見上げると学は静かに唇を重ねる。
「向日葵」
「向日葵。俺にもして」
ちゅっと音をだして向日葵から学にキスをした。
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「おい学。お前いい加減告白してこいよ。俺、昼休みの度にお前が菅野さんのどこが好きかを聞かされて疲れてんだよ」
「竹本…お前簡単に言うけど、告白できてたらとっくにしてんだよ」
「だろうな。やさしい新崎君はピュアな菅野さんに話しかける事すらできないんだからな~」
「うるせ~~~。俺だってな。やるときはやるんだよ!!」
「夏休み近いし祭りにでも誘えば?あ、そうそう、俺の姉貴が元園芸部でさ。菅野さん園芸部だろ?夏休みも園芸部毎日学校にくんだよ。お前チャンスじゃね?」
ボールが菅野さんの頭に直撃したのはわざとじゃない。本心から。部室で倒れていた向日葵を見たときは焦って竹本と保健室に運んだものだ。その反面これで接点ができたと心の中でガッツポーズを作った。




