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プロローグ
「やっとついた〜」
「つかれた〜」
冬が過ぎ、少し暖かさを取り戻してきた春のある日。小学2年生ほどの幼い少女が2人、町の中心の丘の上にある、〈願いが叶う〉と言われている一本桜の木の下に来ていた。
「うぅ〜、さむいねぇ〜」
「ねぇ〜」
2人は身体をブルッと震わせた。春とは言っても、時刻は深夜の12時。まだ冷たさを残した春風が、少女達の頬をなでる。
「やっぱりかってに来たのバレないかな?おこられないかな?」
「いそいで帰ればだいじょうぶだよ」
2人の会話が聞こえていたのか、桜の木がサワサワと、笑うようにゆれた。少女達に、花びらが舞い散って降りかかる。
「きれいだね」
「うん。ずっと見てたいかも」
「でも…そろそろ…」
1人の少女が、先に木に右手を置いた。それを追うように、もう1人の少女も木にふれる。
「それじゃあ、いい?」
「うん。いいよ」
2人はお互いの意志を確認するように目を合わせ、空いている手を握り合う。
そして、願った。
『私たちに、家族を下さい』