FILE1【メッセージはたった3通】#8
「……ストーカー」
あっさりと答えられて、俺と黒田はあ然とした。
「へ? 俺、なんか変なこと言った? 事実をそのまま述べたんだけど」
『述べた』からして「変人」と見た俺と黒田は一歩下がり、修司との間隔を取る。
「逃げないでくださいよ。普通、ストーカーは捕まえるモンでしょ?」
俺は『普通』という言葉に感づいた。
「君に"普通"を語られたくないよ」
"変人"に『普通』を語られ、俺と黒田は一緒に落ち込む。
「――……んで、捕まえないの?」
修司は笑って挑発する。
俺は黒田に目配せされて、一斉に修司に飛び掛った。
「いってぇ〜。もしかして、アンタたち、アッチ系?」
俺と黒田は真顔でそして二人で修司の頭を思いっきり殴った。
――自分に美貌があると思ってやがる……。
「失せろ」
「死なさんな」
表情を不気味な笑顔モードに変えて、修司をベランダに運んで落とそうとしたとき。
「やーっ、やめなさーい!」
婦警さんの鳴らす笛が聞こえそうな声が響いた。それでふっと力が抜けて、修司を落としてしまった。決してわざとでなく、誤ってだが。
「うわぁぁあああ!!」
カラス百羽に負けない声量で修司鳥が啼いた。それに修司鳥はまだ人間で言えば少年なので飛べなかった。
「ほらぁ、子がらすちゃん。手を離したら駄目でちゅよ〜!」
と、婦警さんな人が修司を小さい子供のように扱った。
そのせいで余計に修司が暴れてしまった。そして、やっとで掴んでいた手すりから堕ちる。
「時雨ちゃんっっ!!」
その人は千田時雨を呼んだ。
「いやだぁあああ!」
修司が叫ぶ。
ふと、重力通りに落下していた身体が建物に引き寄せられた。
「……ボウズ、落ちるな」
時雨さんはどんな感情を持っているのか分からないような表情皆無で言った。
隣では呆けたようにその部屋の奥様が突っ立っていた。
「えっとぉ、その……その方はぁ、なんです、か?」
「……失礼した」
奥様を少し見て時雨さんはあっさりそれだけ言って出て行った。