FILE1【メッセージはたった3通】#6
「さてと、今は一体何処に向かってんだよ」
「あたりまえ事務所に決まってるやろ」
黒田がペースを落として俺の肩をベシッと叩いた。ただ運転を誤って事故を起こさぬように。
「なんでだよ」
「お前の話だと、裕麻が事務所に帰ったかどうかがわからへん。もしかするとあいつは色々な手を使ってヒントを残して言ってるかもしれへん」
確かに俺は昨夜、彼女がどのような足取りを辿ったのか全く分からない。
だが、これだけ頭のキレる探偵がビンボウということがそのときの俺は不思議に感じていた。実際あとから俺はそのときの自分が冷静に見せかけて、現実逃避をし、慌てふためいていたかを思い知らされたのだが。
「……さすがタマゴ。意味わかっとらんなぁ。教えてやるわ」
「まず、」といいかけたところで「言わなくていい。略してくれ……」と俺は断った。
「そのかわり、お前はさっきからの言動を聞いていると何か心当たりがあるみたいだけど?」
俺はずっとまっすぐを見て、言った。この先にあるはずの山崎探偵事務所を。
「知ってるも何もなあ……お前ったら何も聞かされてへん? もう半年も一緒のくせして」
「聞くって何をだよ」
黒田は少し間を置いた。
「……裕麻の過去のことだけど、これまで一緒に暮らしてきたのは俺とお前だけじゃあらへん。他にも俺が知ってるだけで5人はいる。それにその行動は中学時代から続いてることみたいや。けど、俺もそこまでしか聞いとらんし、歴代の裕麻のパートナーたちもそれだけしか喋ってはくれへん」
黒田は俺を見ていない。バイクは時々押し寄せてくる横風と車の波を巧く避けながら疾走している。
「じゃあ、お前も俺にそれだけしか話さないのか?」
俺は少し残念だった。その言葉は黒田に脅しをかけているつもりでもあったが。
「そういや、さっきも言ったんけど、訊いとらんかった。裕麻のいなくなるときの行動。今回それはあったん?」
兆候は確かに目に見えた。彼女は俺に甘えた。「今夜だけ」と。
だが俺は一つのことで引っかかった。甘えると同時に「怯えていた」のだ。そのことを話すと。
「そうか。怯えるとかは誰からも聞いとらんなあ。裕麻は、もしかすると死ぬのかも知れへん。信じられへんだろうけど」
彼女は普段、感情を表に出さない。とてもクールな人格を持っている。それに気づかなかった俺は彼女のことをあまり理解していないのかもしれない。
「じゃあ、一体何に怯えてたって言うんだよ」
彼女が怖がったりすることは滅多にないと俺は見取っていた。これまで、ある依頼に関わったとき、切り刻まれた死体を見ても彼女は全く動じず、触ろうとさえした。
「だから、死っていってるやろ。まだわからへん?」
俺はやっとこさそのいいたいことがわかった。単に死に怯えているということ。
「……はあ、そういう意味」
「まずなあ、何に怯えていたかを探すために事務所にいくんやろ」
もっともなところをつっこまれて、俺は少し沈んで言った。
「さてと、ついたで?」
気付くと彼女のマンションまで俺たちは着いていた。