FILE1【メッセージはたった3通】#5
部屋に入っていって俺は驚嘆してしまった。
そのとき、彼女が逃げた理由がわかったような気がしたのは俺だけなのか……。黒田の部屋はありえないほどに散らかっていた。脱ぎ捨てられた服が溜まり、カップラーメンや缶コーヒーの空き缶に何か意味の判らない写真の数々……。とにかく、人の住む場所ではない。
俺は無理やり、足の踏み場所をつくって、台所までの道を行く。
だが、その台所は何故かキレイだった。料理好きなのか? とも考えたが無論すぐにそんな考えも消え失せる。さっき、カップラーメンがあったじゃないか! と思ったから。と言っても理由は依然分からない。何故なのかと考えながらも俺は二人分のコーヒーを入れ終えた。
準備が終わって黒田が自室から出てきた。
「なあ、お前が逃げられた理由ってこれが厭だったんじゃないのか? この部屋の汚さ」
率直に聞いてみる、とりあえず。
「まさかあ、俺の生活に飽きあきしたんじゃないし……裕麻は逃げるとき、決まって甘えてくるみたいやし、俺は結局裕麻のことわかってやれなかったのかもしれへん。俺じゃあ、な――ま、戻ってきたらやさしく襲ってあげるんやね」
またとんでもないことを言い出すから今度は横殴りのパンチを左頬に食らわせた。ついでに俺は黒田よりも顔を赤くしている。
「ほ、照れとる、照れとる」
下に置いているものを踏むのではないかと思うほどに黒田は飛び跳ねた。まるでその姿は純粋な少年のようだが……。
「まあ、それが実現できるのは裕麻が戻ってこないことには意味あらへんけど」
その言葉で俺は現実に引き戻された。
「って、こんなとこにいたら山崎さんが死にますよ! 早く!」
勢い良く立ち上がって最初の一歩を踏み出す。
「いてェえええ〜!!」
ザックリと足の裏に画鋲が10本ほど突き刺さっていた。
「っく……黒田。これは新手、いや古い手のいじめか?」
「そんなことあらへんよ。ネガとか貼っておくためなんやけど、そんな汚らわしい血ぃを画鋲さまに付けたらあかんでぇ。聖・ガビョーゼを汚らわしい血で濡らすモンや」
意味の判らないことを口走る黒田に一つ呟く。
「聖・ガビョーゼって誰だよ……」
丁寧に画鋲を拾う黒田がこう呟いた。
「よく裕麻も足に刺してたな……」
懐かしみを込めて行っているように聞こえるが、黒田の言い方はまるで「彼女が自ら足裏に画鋲を刺していた」に聞き取れて、一瞬だけ俺は恐怖、あるいは奈落の底に堕ちてしまった。
それからふっとしているうちに黒田は玄関に佇んでいた。
「いくんやないの?」
「……当たり前だろ!」
俺は少し怒っていた。