FILE2【逃げるヒヨコはただのバカ!】#7
「時雨ちゃんっ、早くしてあげてね。手錠って意外と痛いんだから」
やっと戻ってきた時雨さんを三浦さんは急かした。
「……」
無言ながら頷き、紙に留めてあったヘアピンを一つ外し伸ばして、ピッキングの要領でガシャッと開けた。
「ありがとう」
彼女は時雨さんを見上げて言った。
「すごいですね」
そこで俺は時雨さんのその技術に感激して、横槍を入れた。それに相乗して黒田が言う。
「流石やなぁ。手錠はお手の物っ。女刑事はやっぱ強いわぁ」
「けっ刑事ぃ?!」
俺はとてもびっくりした。
「そうだが……」
キッチンへ行こうとする時雨さんが歩みを止めた。
「奈津子さんもよ」
彼女が付け加える。なんと言う新事実。黒田も作業する手を止め、
「お前、勘の欠片もないんやろ?」
「……はい、きっとないですよ。なくて悪かったですね。俺に探偵の素質なんて、勘の欠片なんて何処を見ても探したって、見つからないんです。それでいいですよ。いい、んですよ」
要は、俺は拗ねたわけだ。そんな俺を見て彼女が一言。
「おもしろいっ」
ベシッと思いっきり背中を叩かれた。一体どこに笑いのツボがあるんだか。それともこれはわざとなんだろうか? だったら酷い。けれど、そんな彼女を俺は初めて見た気がする。
「ふふ。裕麻ちゃんも変わったわよね」
お茶を入れてキッチンから出てきた三浦さんが言う。
「そう、かしらねェ?」
「そうだ」
時雨さんはキッチンでホットケーキを見ながら頷く。
「何処が変わったんですか?」
もちろん俺にはわからない変化だ。
「性格やろ」
黒田が返してきた。
「そうね。私と時雨ちゃんのときなんてすっごく恐かったわ。眉間にギューッてしわ寄せて、いつも不機嫌そうだったわ」
「せや、俺のときは自由奔放なB型気質やったけど、実際A型って聞いたときは、ほんまびっくりしたわぁ」
過去を振り返る2人に未練なんてものはない様子だった。
「でも、山崎さんって、俺に会う前に何してたんですか? さっきも言ったけど、教えて下さい」
妙にしんとした表情だった。
「……ここで言うと、積み上げてきたのはなんだったのかわからないけど――そうね、順を追って説明してあげる」
言いたくはない。それでも言わなければならない、と彼女なりに気持ちを固めたらしかった。