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FILE2【逃げるヒヨコはただのバカ!】#6
そして、時雨の手首に生温かい液体がポタッと零れ落ちた。それは白い肌を伝って、今度はシーツに今すぐにでも消えてしまいそうな、淡い紙魚を作った。
少年が顔を上げた。その瞬間、少年の頬がキラッと光った。目の周りは、赤く染まっているのに、修司は少年らしく、なのに一人の大人らしく、それでいて無邪気に笑った。
「あはは。俺、貴女に惚れた」
少年は告白した。
時雨は思った。
――これは平成の光源氏か?
でも、
「……ああ。私もかもしれない」
低くもなく高くもない、時雨らしい声は肯定のメロディーを奏でていた。
時雨地震、佐藤修司という年下の少年に興味とも好意とも似つかぬ、不思議な感覚、あるいは感情を抱いた。
「その前に、少し安静にしておいて」
時雨の中の女がその言葉を響かせた。
「うん……――俺はあなたを待ってる」
そんな修司の言葉を背中に時雨は部屋を後にした。