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FILE(Y)  作者: 鎌堂成久
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FILE2【逃げるヒヨコはただのバカ!】#3

「でも俺たちには、心当たりってのはあるんやないか」

 黒田がコクッと首をうなだれて、唐突に言った。

 三浦さんと彼女の眼が少しにごったように見える。

 ――そして肯いた。

「怪盗・浅野怜人。鬼畜的殺人怪盗犯、ね」

 正体不明で警察も手に負えない怪盗犯を俺は知らなかった。だから――

「え? 窃盗じゃなくて怪盗?」

 俺はこめかみに指を強く押し考え込む。でも、答えは浮かばない。

「そうだ。何故かと思うかもしれないが、罪歴を聞けばいい」

 狂ったように喚いていた修司を宥めていた時雨さんが言った。

  罪歴――さかのぼって11年。

 11年前――最初の凶悪殺人事件。金融業、吉川昭雄氏49歳が失踪。一週間後、山奥で一部ゲル化の四肢が切り刻まれた死体発見。鑑定の結果、吉川氏との判定となり、殺人事件発覚。犯人逮捕には至らず、迷宮入り。因みに金品は全てなくなっていた。

 10年前――二度目の殺人事件。ダイニングメッセージと似たような形で「血を盗る」と予告があり、吉川氏の事件からきっかり一年の同時刻に、投資家、小川麗子氏51歳が失踪。三日後、ミイラ化した女性の遺体発見。乾燥してのミイラ化ではなく強制的なミイラ化――つまり、血を抜かれていた。この場合も金品はなく、史上初の金品・血液強奪殺人事件へと発展。そしてこれも犯人は捕まらずに迷宮入り。

 8年前――一年開けて犯人は犯行を行わなくなったかと思われた翌年。また、予告で「脳と血を盗る」とあった。そして失踪したのは大企業取締役、元井美智子氏32歳。一ヵ月後、ミイラ化した遺体発見。予告通り、頭蓋骨内に脳はなかった。この時点で犯人はマッドサイエンティストかと思われた。

 そして5年前――三年越しにまたそれは起こった。「リセット」と書かれたメッセージとともにウイルスが捜査本部のパソコンに感染。バックアップデータでなんとか捜査が振り出しに戻ることはなかったが、その一週間後に送りつけられたファックスに「リライト・スタート」と書かれたものがきた。実際の意味は「書き換えを始める」と繋げられるのだが、ご丁寧にも「盗みを始める」と小さく紙の隅に書かれていた。その不気味なメッセージのせいで捜査員のほとんどが辞めてしまい、原因を余儀なくされた。三日後には前の二つの事件とは違い、一家四人が消えた。五日後、バラバラの肉片に干からびた脳が見つかった。それは一家四人分には足らず、残りはサンプルにされたのではないかと考えられた。そしてこの事件では犯人が名前を出してきた。

――浅野怜人です。オレがこれまでの凶悪実験を行いました。ここまで姿を出しても、あんたらはオレを見つけられないでしょう。彼女が犯人を突き止めたのに、それを無駄にしたのは失敗だったんじゃないのか? オレは書類なんて薄っぺらい髪の中に存在しなくてもオレは世界という厚い壁の中に生きています。もっと頭を使いやがれ。繰り返します。オレは浅野怜人です。オレがこ……――

 そうやって遺体を発見した人が来たときに流れていたという。実際そこにはラジカセが置かれていたらしい。声には特殊効果がかけられていた。

 そんな事件があったなんて、俺は全然知らなかった。五年前、高校を卒業したばかりで俺はニュースも見てないなかったから仕方がないことだろう。

「そんな事件、知らなかった」

「私はその事件を独自に追っていたのよ。怜人さん、全く私にかまわず……」

 哀しそうに、そしてうつろに彼女は言う。

「そうね。名探偵でも届かない怪盗がいるなんて、って信じられないだろうけど」

 三浦さんは開き直っていた。

 だけど、俺にはいくつかの点で引っかかる。

『怜人さん、全く私をかまわず……』の先は一体何と続いたのだろう。そして、それ以前に彼女は容疑者、浅野に対して『怜人さん』と呼んだ。

「――と兄さん……」

 俺が思考を走らせていると、彼女が呟いた。声が小さくてよく聞き取れなかった。

「お兄さん、なのよね。あの人は」

――!……なんだ?

 俺は閃いた。

「山崎さんっ、俺にあなたのこと、教えて下さい!」

 それを訊かないと落ち着けなかった。

「私、のこと……?」

 吃驚したように眼を丸くした。

 そこを三浦さんにポンと肩を叩かれた。

「ほら、こんなところに居たら風邪ひいちゃうわよ。リビングに行って話はしなさい。壁の血は明日也ちゃんに任せて」

「え――!! オレなんっ??」

 黒田が抗議をするが、受け入れてはもらえず。

「時雨ちゃんは、裕麻ちゃんのベッドに修司くんを寝かせてあげて」

「「ダメっ!」」

 オレと黒田はそれを拒絶する。

「なんでよ」

 三浦さんではなく彼女が問う。

「「そいつ、ストーカー」」

 またもや、ハモる。

「知ってるわ」

 呆気ない返事だった。

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