FILE1【メッセージはたった3通】#10
俺はリビングの扉を開けた。
「……はあ、あの三人は一体誰だったんだ? 黒田があーゆーやつら呼ぶ様子もなかったし」
「……お前、何も、本当に、聞かされてへんの?」
不意に言われた。
いつの間にか、黒田が戻ってきていた。
でも俺は振り向かなかった。
俺は――目の前の光景に目を奪われていたから。
「なっ、なんやこれ?! 血文字だと!!」
先ほどまではなかった、第二のダイニングメッセージが壁に描かれていた。
「二つめ。犯人は俺たちのことを見ている……」
呆然と呟くことしか俺には出来ない。
――南東ヲ見ロ
「ちょっと、待ってろ!」
黒田が腕時計についている羅針盤を見た。
「あっちだ」
黒田の指し示す方向は修司を発見した場所だ。
窓に駆け寄り、俺たちは外を見る。
その先にはこの地区で一番大きなホテル――桜帝ホテルがあった。そしてそのビルの壁面に赤い、紅い、朱い文字が描かれていた。
「?!――山崎裕麻の命……盗る!」
――山崎裕麻ノ命ヲ盗ル
黒田が驚愕に目を見開いた。
「そんなっ、予告……。こんなにも大げさなことなのか?」と俺。
「ウソだろ。こんな短時間でこれだけの細工はできたようなもんじゃない!」と黒田。
俺と黒田はうろたえたまま。
「あら? 二人ともどうしたのかしら」
「知りません、女神様っっ」
「何かあったんだろう、下僕よ」
背後から三人の声が聞こえる。
千田さんは修司のことを下僕扱いにしているようだ。
「時雨ちゃん、そんなこと言っちゃダメよ。修司君がかわいそうじゃない」
三浦さんは言ったが、
「なっ、なんで俺の名前知ってんだよぉ!!!」
修司がまたも叫ぶ。
「え?――ああ、これよぉ」
のほほ、と指差し突き出したのは修司のリュックだった。
「ホント可愛いんだから、まだリュックにお名前入りなんて」
と言って時雨さんにパス――そしてキャッチ。
修司が「待ちやがれぇ〜悪魔! 死神めぇ〜!」と時雨さんを追いかけ始めた。
それを背に三浦さんが近づいてきた。
「……そうなのね。またアレが出て来ちゃったんだ」
血文字を見て、懐かしいそうなようで、そうでもなく哀しそうなようでどちらとも似つかない表情を浮かべている。
「……アレって何ですか?」
俺の問いに三浦さんは目を丸くする。
「あなた、誰?」
俺と三浦さんとの会話の間、血文字から何か考えようとした黒田がずっこけた。
「奈津子さんわからなかったんかぁ?!」
「ええ、誰なのよ、この子って……ねえ、明日也ちゃん」
黒田にちゃん付け――すごい人だ。
「うわぁあっっ!」
またも修司が叫んだ。
すると時雨さんがリビングの扉を開けて手招きをした。
「何があったのかしらね?」
叫び声の上がった玄関へと足を運ぶ。