6話 女達の作戦会議
リクトとキュール王女が、援軍に合流しようとした時
「賊め、姫様から離れろ。」
援軍にいた女騎士が、突然リクトに斬りかかってきた。攻撃自体は激情に任せたものだったので、簡単によけることができたが、姫様に続いて援軍にまで攻撃されたことで、リクトはやるせない気持ちでいっぱいになった。
援軍も来たし任せても大丈夫だな、そう判断したリクトは、色々面倒になってその場から逃げた。
女騎士がキュール王女に近づいていく。
「姫様、ご無事ですか?」
「お、おま、お前はアホか!」
助けに来た女騎士をアホ呼ばわりするキュール王女。まあそれもしかたないだろう。
「はい?」
「すぐに追え」
「わかりました。必ずや捕らえてみせます!」
「ええい違う。あやつは私を助けた恩人だ。」
「・・・えっ」
女騎士の顔から、血の気が引いていく。
「王族を助けた者に対して礼もせず、ましてや攻撃したなど我が国の沽券にかかわる。早く詫びに行け。そして私の所に連れてこい、それまで城に入ることを禁ずる。わかったな!」
「は、はい!」
女騎士はすぐにリクトを探したが、その時すでにリクトは援軍を呼んで一緒に戻ってきたスレイと共に、その場から姿を消していた。
ということがあった。
「何を隠そう、その時リクトに斬りかかったのがアメリアだ。」
「し、仕方ないじゃないですか、一角獣の主が男だとは思わなかったんです。」
気まずそうにするアメリア。王都に援軍を呼びに来たのは一角獣のスレイだった。一般的に一角獣は男を毛嫌いする聖獣だ。そのためアメリアはスレイの主を女と決め付けていた。そのためアメリアはリクトのことを賊と勘違いしたのだ。
「そういえば最近復帰したって、転移門にいた騎士が言ってましたね。」
「ああ、リクト殿を見つけるのに半年、スレイ殿に許して頂くのに1ヶ月、リクト殿とまともに会話ができるようになるのに3ヶ月、王都に来てくれるよう説得するのに1ヶ月かかった。この頃には入城を許されていたよ。さらに1ヵ月後に王都に来てもらうことができた。」
「全く、自業自得だ。」
「姫様だって、リクト殿を殴っていたではありませんか」
「うぐっ、た、タイミングだタイミング。お前のタイミングは最悪だった。」
「あんなところに住んでいるリクトさんを、どうやって見つけたんですか?」
「確かにリクト殿を見つけるのは骨だったよ。私はまずリクト殿の目撃情報を集め、あの山付近と当たりをつけて張っていたんだ。幸いリクト殿の両腕に巻いている黒い包帯は目立つから、情報はすぐに集まった。だが、あんな山奥に住んでいるとは思わなくてな。的外れなところを張っていたから、半年もかかってしまったよ。」
「大変だったんですね」
「確かに大変だったが、リクト殿が山奥で過ごす姿は何というか、とても良かった。」
「ああ、それはわかるなあ」
「私も同意です。動物と戯れるリクトさんの姿は、グッとくるものがありました。」
「まだまだですね。リクト殿は、物を作っている時の楽しそうな顔こそが」
「ええい、私が見に行けないことへの当てつけか」
リクトの話で盛り上がる三人の姿にキュールが頬膨らませている。リクトは三人の会話を聞き居心地が悪そうにしている。
「そんなことより、リクトへの謝礼の件なのじゃがな。その~だな、王都に屋敷を建ててみた。動物も一緒に住めるように、敷地をかなり広きして庭も広く作ったのだが・・・どうだ?住んでみないか?」
一度王都に住むことは断れたが諦めきれず、動物と一緒に住めるようにリクト専用の屋敷を建てたらしい。キュールは、一度断られているからか、少し気まずそうに言ってきた。
「・・・・・どうしてそこまで?割に合わないだろう。」
「私はリクトが気に入ったのだ。王都で暮らしていれば会うことの可能になるだろう。」
「人間が多いところは苦手なんだ。」
「アメリアにも最初はそう言って王都に来ることを断ったそうだな。私とは会いたくもないのか?」
不満そうにするキュール王女に、リクトは慌てて弁明する。
「そんなつもりはない」
「スレイさんが、主は人間不信だと言っていました。昔、何があったのですか?」
「俺は・・・・・」
リクトはしばらく黙っていたが、女達がじっと待ちの体勢を崩さない様子にリクトのほうが先に折れた。
「俺は・・・異世界から来た」
「・・・・・それで」
キュール王女が先を促す。
「信じるのか?」
思い切った告白をあっさり流されて、リクトの方が驚く。
「お前がこの場で冗談を言うとは思えん」
「私も信じます。続けてくれませんか?」
「・・・わかった。俺は前の世界で化け物と呼ばれていた。」
「化け物?どういう意味?なんでリクトが」
「俺は、昔からある『力』を持っている。それが原因で俺は基本的に一人でいた。」
「力なんて使い方しだいだろう」
キュールが、スレイが昔口にしたことと同じことを言ってくれる。しかし、今回のリクトはそこで止まらなかった。
「俺は『力』で人を殺してる。」
「しかし、それは私の時のように何か理由があったのだろう?」
「そうだな」
「なら何故、化け物などと」
「その辺は別にいいんだよ。」
リクトにとってそれらの境遇は、あくまで『力』の付随でしかないし、リクト自身仕方ないと思っている。前の世界では、骨折した腕が数秒で治ったのを大勢の人間に見られたのがきっかけだった。骨折が数秒で治る人間などそりゃあ気持ち悪いに決まっている。
リクトにとって本当に話しづらいのは、持っている『力』の方だ。
「私達のことも信じられませんか?」
クーラがリクトに問いかける
「わからない。だけど昔、一人だけ俺のことを受け入れてくれた人がいたんだ。俺に色々教えてくれた人で、俺の恩師だ。だけど恩師は、俺が原因で死んだ。それから誰かと関わるのが面倒になった。」
「そんなのって・・・」
「動物達といる方が楽なんだ」
「リクト」
「なんだ?」
「今から作戦会議をするから、ちょっと外で待っていてくれ。」
「は?」
「いいから外で待っていろ!」
「わ、わかった。」
「逃げるなよ!」
キュール王女の突然の提案と剣幕に驚いて、リクトは素直に部屋の外に出た。
リクトが外に出た後の部屋では、女達で話し合いが行われていた。
「どうしたらいいと思う?クーラとミーシャも意見を聞かせてくれないか。」
「私はリクトに付きまとうよ。絶対に一人になんてしない。」
そうミーシャが息巻くが
「それではリクト殿は山奥に戻ってしまう。それに人間不信は直らないだろう。」
「・・・そうだよねえ」
「やはり、『力』とかいうものを見せてもらうしかないのではないか?」
「絶っ対見せたがらないと思いますよ。それにどんな力かもわかりませんし。」
「「「・・・・・」」」
部屋を沈黙が満たす。
「リクト殿に、人の中で過ごしてもらうのは無理なのでしょうか?」
「そもそも私達の我が侭みたいなところがあるからなあ~」
部屋の空気が重くなる。そこにクーラが
「私はそこまで悲観してはいませんよ。」
「どうしてよ?」
「ミーシャ思い出して、今度リクトさんと一緒にギルドの依頼をする約束をしたでしょう。」
「そういえば」
ようやくミーシャも思い出したようだ。
「リクトさん、本当は人との繋がりを求めているんだと思うんです。少なくとも人が恋しくなることぐらいはきっとあります。」
「確かに、そうじゃないとリクトから誘ってくるはず無いもんね。」
クーラの言葉に、ミーシャは得心がいったようだ。
「・・・・・そうだ!その一緒に受ける依頼の内容は決まっているのか?」
キュール王女の顔に笑みが浮かぶ。なにか良いことを思いついたようだ。
「いいえ、それはまだ」
「それならこういうのはどうだ」
思いついたことを三人に話す。
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「いいですね。それでいきましょう」
「それなら何とかなりそうね。」
「少なくとも時間は稼げるはずだ。」
「そうだろう。根本的な解決にはならないが、やってみる価値はある。四人でリクトの人間不信を直すぞ!」
「「「はい!」」」
リクトのことを思い、四人の女達はここに団結した。




