5話 1年前のお話
リクト、クーラ、ミーシャはお城の応接室に通され、待つように言われた。スレイは、厩舎でお留守番だ。応接室には、大きめのテーブルと椅子が五脚用意されていた。
「どうしたんだ二人とも?少し落ち着いたらどうだ」
クーラとミーシャが、落ち着かない様子で部屋の中を、ぐるぐる歩き回っている。それに比べてリクトは、椅子に腰かけてのんびりくつろいでいる。
「リクトさん、お姫様なんですよ。王女様なんですよ。王族なんですよ。身分が違いすぎます。」
「気分、悪くなってきた。なんでリクトは平気なのよ?」
「姫さんは、あんまり身分を気にする人じゃないからな。それに、初対面があれだったからな」
「そうだな。私とそなたの出会いは、かなり刺激的だったからな」
扉の外から声が聞こえ、声の主が扉をあける。扉を開けて入って来たのは、赤いドレスに身を包んだ長い金髪に碧眼の小さな少女だった。この少女がキュール王女だ。
「久しぶり」
キュール王女は、リクトの言葉に返事をせずに走り出した。そして、リクトの近くでジャンプして、頭に飛び蹴りをかました。リクトが椅子から転げ落ち、キュール王女を抱き止める形になった。リクトの上で王女が起き上がり
「久しぶりっではないわ!一年間も待たせおって。」
「悪い悪い。そして痛い」
クーラとミーシャは呆然としながら、その流れを見ていた。キュール王女と一緒に来ていたアメリアも、オロオロして助け起こせばいいのか迷っている。
リクトがキュール王女を持ち上げて立たせる。少しむくれているキュール王女が腕を組んで。
「まあよい、今日は謝礼をするために呼んだんだからな。」
「飛び蹴りが謝礼かと思ったぞ。」
「そんなわけがなかろう!」
「それより周りを見てみろ。皆、驚いているぞ。」
周りでは女達が、リクトとキュール王女を呆然とした表情で見ていた。
「むっすまぬ。醜態を見せた。私はジルランド王国第四王女のキュールだ。よろしくな」
「よ、よろしくお願いします。クーラと申します。」
「お、お願いします。ミーシャと申します。」
恐縮しまくっている獣娘の二人。
「そう固くならずともよいぞ。それより、立ち話もなんだし椅子に座ろう。アメリアも座れ」
王女に進められて断るわけにもいかない。全員が椅子に座ると、キュール王女が楽しそうに
「お前達、リクトとの馴れ初めを聞きたくわないか?リクトの奴が言いふらすのを嫌がるから、話す機会があまりないのだ。」
「是非、聞かせてください。どうやって出会ったんですか?。」
ミーシャがリクトの話題に食いついた。
「任せろ、この引きこもりとの出会いを、教えてやろう。」
「「「お願いします。」」」
クーラとミーシャはもちろん、アメリアも興味津々のようだ。ついさっきまで恐縮していたのに現金なものだ。
「あれは一年前のことだ。私が、何者かに誘拐されてな」
キュール王女が、語り始める。
一年前の王都
誘拐されたキュール王女は、南門の近くにある倉庫に縄で縛られて監禁されていた。王女のほかに、商人や冒険者の格好をした男達が6人いる。男達の様子から、外にも何人かいるようだ。
「もう少ししたら出発だぞ、王女様。」
小馬鹿にしたように、商人の格好をした男が王女に話しかける。
「直ぐに我が国の騎士達が、駆けつけるからな。覚悟しておけ」
「残念でした~。あんたの国の騎士達は、偽情報に騙されて、北側を探しにいったよ」
「う、嘘だ。そんな簡単にいくか。全ての騎士が北側にいくなど、あり得ん。」
「それが可能なんだよ。なんせ偽情報を流しているのは、なんてったってあんたの婚約者だ。どいつもこいつも簡単に信じたらしいぞ。」
あの侯爵家のボンクラか
「そんなことを、私に話していいのか?」
「問題ねえよ。あんたはこの後で洗脳されるんだからな。」
「なっ何故そのような!?」
自分は、確かに王女だが、王族としての立ち位置は、それほど重要なものではない。その自分に、何故そんな面倒なことを
「あんた、キリク坊っちゃんとの婚約に反対だったんだろ」
「当たり前だ!誰があのようなアホと」
侯爵家長男のキリクは、かなりの問題児だ。領地の娘を拐かしたり、気に入らない者を闇討ちしたり、という噂が絶えない。一度だけ顔を合わせたが、取るに足らない男だったことだけは覚えている。
「王女様の方がそんなんだから、一芝居打つことになったんだよ。婚約者が拐われ、それをキリク坊っちゃんが助けてプロポーズする。洗脳された王女様は、それを受け入れるってシナリオだ。」
「・・・・・ッ」
「俺をにらまれてもねえ。悪いけど、そろそろ時間だ。眠って貰おうよ王女様」
男が、薬を染み込ませた布を持って近づいて来る。
「だ、誰か!」
「だから自慢の騎士様は、来ないって言ってんだろうが。」
「ん~~」
キュールは、薬を嗅がされ意識を落とした。
次に目を覚ました時、何故か拘束されていなかった私は、外から入ってきた男を、思いっきり殴った。
拳は当たりはしたが、その腕を掴まれてしまった。
その時、男が意外なことを言ってきた。
「いっ痛、・・・ちょ、ちょっと待った。俺はあんたを助けに来たんだ。」
「・・・証拠は?」
「外を見てみろ」
キュール王女は、男を警戒しながら馬車の外を見てみる。馬車の外には見ただけで死んでいることがわかる死体が無数に転がっていた。
「うっ」
「すまん、見せるような物ではなかったな。」
思わず口に手を当てた王女を見て、男が視界を遮って外が見えないようにする。
「あれは全部、お前が殺ったのか?」
「・・・・・ああ」
「その、なんだ、さっきは悪かったな。」
「まあ、お姫様を、助けに来て殴られるとは思わなかったが」
「わ、忘れてくれ」
顔を真っ赤にするキュール王女。
「その、お前、名前は?」
「リクト・タキカゼだ。え~と・・・・・」
「キュール王女だ。助けに来た王族の、名前くらい覚えておけ」
普通なら疑われるところだぞ、と内心呆れるキュール王女。
「すまん。口調はこのままでもいいか?」
「構わん」
「それじゃあ、早くこの場を離れよう。」
「何故だ?全部倒したのではないのか?」
「一人逃げられた。確認したいんだが、誘拐の犯人は、姫さんの婚約者の家で間違いないよな」
王女は、この時内心かなりの驚いていた。攫われた自分自身も、倉庫で聞かないとわからなかったのを目の前の男が知っていたのだ。
「そうだが、・・・何故わかった?いや待て、そもそも何故リクトはこちらに来たのだ?」
「北側にはかなりの数の騎士が派遣されていたから、行く必要がなかったのと、城から王女を攫えるような奴らが、北側に逃げたなんてわかりやすい痕跡を残すとは思えなかったんだ。だから俺は、あんたの婚約者が嘘を吐いていると考えたんだ。そして反対の方角の南に当たりを付けた、後は裏技を使ってこの馬車を見つけたんだ。」
「裏技?」
「それは、後で。まずは、この場を離れよう、侯爵なら、まだまだ私兵を持っているだろうから。街道は使えない。お姫様には悪いが一度森に隠れたいんだが、いいか?」
「構わないが、あれを私の婚約者などと二度と言わないでくれ。」
「わかった。行こう」
リクトとキュ−ル王女が、森に近づいていくと
「いたぞ!あの女を捕まえろ」
十数人の騎兵が、王都とは反対側から現われた。
「遅かったか、話し込みすぎたな。」
「すまん、わたしのせいで。」
「気にするな。走るぞ」
騎兵に近づかれる前に、二人は獣道に入る。奥に進むにつれ、獣道は道の体をなさなくなり、ドレス姿のキュール王女は思ったように動けなくなり、移動速度が遅くなった。その変わりに話す余裕ができた。
「これから、どうするんだ?」
「仲間が、王都に援軍を呼びに行っている。援軍が到着するまでどこかに隠れる。」
「リクトは、あいつらを倒せないのか?」
「君を守りながらは無理だな。それに敵の数がわからない。」
「そうか」
「よしこの木に登ろう」
「は?」
リクトは、いつの間にか準備していた縄を使って木の上に登っていってしまった。
その後で、驚いているキュール王女に、縄を絡めて木の上に引き上げる。
登った木はかなりの大木で、下からは枝葉に隠れてリクト達の姿は殆ど見えない。これなら下からは見つからないだろう。
問題は体勢だ。下から見えないようにするために、リクトの腕の中にキュール王女が座るような体勢になってしまっている。
「の、のう、リクト?」
「静かに」
「むっ・・・わかった。」
物心ついてから、異性と触れ合うことなどなかったキュールは、リクトとの密着に結構ドキドキしているのだが、リクトにその様子がないことに気付き、キュール王女は不満を覚える。しかし、今は非常時だから黙ることにした。
「なっなんだ?」
しばらく静かにしていると、リクトとキュール王女が登った木に小動物が集まってきた。その状況に驚き思わず声が出てしまった。しまったと王女が思っていると、リクトも話し出した。
「俺の友達だ。キュール王女を見つける手伝いをしてくれた。それから今は小さな声なら話していいぞ。」
「この子達が裏技か?」
「ああ、人間は、動物のことを警戒しないからな。簡単に見つかる」
「リクトは、動物と会話ができるのか?」
「まあな。」
どこまで不思議な男なのだろう。複数の敵に勝つ力を持ち、偽情報を看破する頭もある。おまけに動物とまで話せる。
キュール王女は、この不思議な男を心底気に入った。なので色々聞いてみることに
「何処に住んでるんだ?」
「なんでそんなことを聞く?」
「ダメか?」
「・・・・山奥だ。」
それでは、何処かわからないし、会えない。
「王都に住まないか?」
「興味ないな」
「私は、お前に興味がある」
「動物と過ごしているから無理。」
「むう、何か望みはないのか?」
「のんびり静かに過ごしたい。」
「むっ、なら女に興味はないのか?」
リクトの物言いに、拉致があかないと思い、別の方向から攻めてみた。
「なっ何して」
リクトから驚いた声が出た。キュールが、小さいながらも確かな膨らみのある胸を、リクトの腕に押し付けたからだ。
リクトが顔を逸らす。微かに顔が赤い。
「どうやら興味が無いわけではないようだな。」
女か、それは何故か嫌だ。
「お姫様がそういうことをするもんじゃない。・・・思いついた、キュール王女に頼みがある」
「なんだ望みがあるのではないか。なんだ言ってみろ」
「俺のことは伏せてほしい。」
キュール王女がきょとんとして、質問する。
「・・・何故だ?」
「あまり表舞台に立ちたくない。」
「なら何故助けに来た?」
「俺しかいなかったからだ。」
「私は王女だ。助けられて、何もしないわけにはいかない」
「俺はキュールを助けに来ただけだ。王女だとかはどうでもいい。」
「なっ」
突然キュールが、顔を真っ赤にした。
「・・・そ、そうか、私を助けに来たのか、ならしかたないな。わかった。お前のことは伏せることにしよう。」
何故か、急にキュールが素直になった。
この頃のキュールの周りは、キュールを第四王女としてしか見ない者達がほとんどだった。しかしリクトはキュール個人を助けに来たと言ってのけたのだ。それが、キュールにはとても嬉しく心に響いたのだ。
「なら、私個人の謝礼なら受け取るのだな。」
「まあ、それくらいなら。」
「まずは、私をキュールと呼ぶことを許す。」
「それは駄目だろう。王族を呼び捨てにするのは」
「身内だけの時なら問題あるまい。」
「まあ、そうだが」
「他の謝礼は、また今度だな。」
それからしばらくすると、一羽の小鳥がリクトのところに、飛んできた。小鳥が何かをさえずる
「援軍が来た。降りよう。」
「うむ。有意義な時間だったぞリクト」
この後、二人は援軍に合流した。
「とまあ、リクトとの出会いはこんな感じだな。」
キュール王女がそう締めくくった。
「リクトさん、やっぱり凄いです。」
「これで終われば良かったのが、少し続きがある。」