4話 転移門と女騎士
次の日、三人と一頭は、転移門のある町を目指していた。
「そういえば、クーラとミーシャは、カネは持っているのか?」
ふと気になって二人に尋ねてみた。昨日の宿賃は、リクトが払った。
ちなみに、この世界の通貨は
金貨一枚=10000コニー
半金貨一枚=1000コニー
銀貨一枚=100コニー
半銀貨一枚=10コニー
銅貨一枚=1コニー
1コニー=10円くらいだ
二人は、持ち金を確認すると、
「銀貨3枚」
「銀貨2枚と半銀貨4枚」
二人合わせて5400円くらいだ。それでどうやって王都に行くつもりだったのだろうか?転移門を使わないと10日はかかる。どこかで依頼でも受けるつもりだったのだろうが、それにしたって無計画すぎる。
「お前達、本当に冒険者か?」
「あはは~~~」
「すみません。私達、駆け出しなもので」
駆け出しとか、そういう問題じゃあないんだが。気まずそうに笑うミーシャと、そっぽを向いて言い訳をするクーラを、呆れ顔で見るリクト。
「まあいい。王都までは俺が立て替えておくから。」
「そういうリクトは、いくら持ってるのよ」
ミーシャが興味本位で聞いてきたので、二人に硬貨を入れている袋を見せる。
「「わああ」」
「半金貨8枚と銀貨30枚くらいだな」
11万円くらいだな。ログハウスには、まだまだある。
「どうしてこんなにもってるの?」
「偶にギルドの依頼をやっていたのと、色々作った物を売っていたからな。それにあそこに住んでいると、ほとんど金を使わない。」
本当はそれだけじゃなくて、一度だけ大きな仕事をしたことがあるのだ、それも理由の一つだ。
「ああ、そっか。自給自足だもんね。いいなあ~。依頼受けないとなあ~」
「その、なんだ、今度一緒に、依頼でも受けるか?」
「えっ、・・・・・うん、やる!。リクト、約束だよ」
最初は驚いていたが、言葉の意味を理解したミーシャは、嬉しそうにして、約束を念押ししてくる。
「ああ約束だ」
「私とも約束してくれますか?」
少し不安そうなクーラが聞いてくる。
「もちろん」
「ありがとうございます。」
クーラが、嬉しそうに笑う。スレイもどこか満足気にしている。リクトの方から誘ったことが嬉しいのだろう。スレイは、お節介なところがあるから。
「そういえば王都には、何の用があるんだ?」
「いえ、用があるわけではなくて王都を拠点に、活動しようと思いまして。」
「地元でもう少しゆっくりしても、よかったんじゃないか?」
「その、地元には、居られなくて」
言葉を濁すクーラの様子からして、なにか訳アリなのだろう。
追求はしない方がいいよな。話したくなったら、向こうから話してくるだろうし。
「そうか」
「【主、町が見えてきたぞ。次の停泊は、あそこでいいのか】」
「ああ、あそこに停泊する。」
今度は、絶対二部屋とろう。
それから2日後、転移門のある町に到着した。早速転移門を使うために、転移門が設置されている場所に行ったのだが。ちなみに転移門は、同時に三人ぐらいが通れそうな大きさの白い扉に、複雑な魔方陣が掘り込まれた物だった。
「ダメだ、ダメだ、一般人に転移門は解放されていない。」
リクト達は、転移門を警備する騎士に、道を塞がれていた。リクトは通行証を見せるが
「通行証があるだろう。」
「そんなもの、偽物に決まっている。お前達のような、ただの冒険者が、本物の通行証を持っているわけがないだろう。」
騎士は通行証の確認すらしない。まあ確かに俺達は転移門が使えるような貴族にも国の高官にも見えないからな。
「本物よ!ねえリクト?」
「たぶんな」
「リクト~~」
いい加減なリクトの返答に、困り果てるミーシャ。アメリアにもらった物だから、たぶん本物だ
「だいたい、本物ならその通行証、どうやって手に入れた。」
「人に貰った」
「も、貰える訳がないだろう!」
騎士が怒鳴るが、本当なのだから仕方がない。しかし、説明するのは面倒だし
「二人とも悪いけど、ちょっとどこかで時間を潰そう。その内、迎えが来るだろうから。」
「ええ、構いませんが、誰が来るんですか?」
「アメリアって騎士が来るはずだ。」
「ああ、スレイさんが言っていた。」
「暇つぶしに、どこかで食事でもしよう。」
「ちょっと待て。お前、今アメリアと言ったか」
その場を後にしようとしたリクトたちを、先程の騎士が呼び止めた。どことなく怒っている気がする。
「ああ、そうだが。知っているのか?」
「最近復帰された、キュール王女様の近衛騎士だ。あの方と貴様のような冒険者が知り合いだと」
やはり怒っているようだ。もしかして、アメリアのことが好きなのだろうか?そうだとしても、そんなことで、俺に怒りをぶつけられても迷惑だ。思わず少し挑発気味に返事を返してしまう。
「あっそう。ご苦労様、そのアメリアに職務怠慢で怒られないといいな」
職務怠慢とは、もちろんリクトの通行証を確認しなかったことだ。
「まだ言うか!」
突然騎士が、リクトに掴みかかってきた。思わずリクトは、その腕を掴んで背負い投げで、騎士を背中から地面に叩きつけてしまった。しまった、やってしまった。
元から美少女二人をつれているリクトに、あまりいい印象が無かった周りの騎士たちが、仲間を投げられたのを見て、騒ぎ出した。
「貴様何のつもりだ!」
「牢屋にぶち込んでやる」
「先に手を出したのは、その人です。言いがかりはやめてください。」
「な、なんだと!」
クーラが、それに反論して、騒ぎが大きくなりそうになった時
「お前達、持ち場を離れて何をしている?」
そこに、よく響く声の持ち主が現われた。茶髪をポニーテールにした、キリッとした印象の女騎士が転移門の前に立っていた。リクトが騎士を投げた原因になった、アメリア本人だった。
「ア、アメリア様、その、この者たちが、仲間を投げ飛ばしたので」
「投げ飛ばした?・・・・・うん?リクト殿ではないか!」
アメリアは、言い訳をする騎士たちの中からリクトを見つけると、顔を輝かせる。
「おう、早かったな」
片手を上げて返事をするリクトに、周りの騎士が驚く。
「お前達その人は、私の知り合いだ。解放しろ。」
「「「も、申し訳ありませんでしたーーー」」」
騎士たちが謝罪しながら数歩下がり、アメリアに道を作った。
「リクト殿、久しぶりだな。」
アメリアが、リクトの傍まで走り寄って来て、両手でリクトの手を握って上下に振り回す。
「ア、アメリア、ここだと何だから、まずは、転移門をくぐろう。」
リクトが、アメリアの肩を後ろから押して、転移門に向かう。騎士たちとクーラ、ミーシャの視線が痛いかったのだ。
「おお、そうだな。あっ、お前達、今後はこういうことはないようにな。」
騎士たちに釘をさしながら、アメリアとリクトは転移門に消えた。二人と一頭も、慌ててついていく。
「アメリアって有名なんだな。」
「ああ、以前王女様とここの転移門を使ったことがあってな、彼らとて騎士だ王女様のことぐらいは覚えていたんだろ。わたしはおまけだ。そんなことより、リクト殿。あの、二人とはどういう関係なのだ?」
アメリアがクーラとミーシャを見ながら質問する。
「俺の山で拾った、迷子だ。」
「ちょっと他に言い方があるでしょ!・・・事実だけど」
ミーシャが、怒りながら恥ずかしそうに肯定する。
「リクト殿、そういうのではなくて、馴れ初めを頼む。」
「簡単に言うと、数日前、俺の山で迷子になっていたから、俺の家まで案内して、行き先が一緒だったから、一緒に行動している。こんな感じだな。」
「そうか、そうか、私とまともに話してくれるようになるまで、3ヶ月もかかったというのに、私達の出会いが最悪だったのは確かだが、それにしたって・・・・・」
リクトのザックリな説明を聞いたアメリアが、何かに堪えているように身体をプルプル震わせながら、何かをブツブツ呟いている。
「どうしたんだ?アメリア」
「別に、なんでもない。それより、馬車を待たせている。早く行こう。」
「わかった」
リクトは、どことなく拗ねている様子のアメリアについて行く。
「ば、馬車ですか」
「リクトって何者?」
クーラとミーシャは、待遇に驚いているようだ。
四人は、近くに来ていた馬車に乗り込んだ。
馬車の中は、それなりに豪華なつくりだった。よく見る大人数が乗るような作りではなく。ソファーが置かれており、精々六人ぐらいしか乗れない作りだ。
アメリアとリクト、ミーシャとクーラの組み合わせで座った。スレイは、外を併走している。
「アメリアさんは、どうやって、リクトさんと会ったんですか?」
「そうだよね。あんな山奥で暮らしているリクトと、どうやって会えたの?」
二人がリクトに出会ったのは、本当に偶然だった。アメリアまで、同じような出会いかただとは思えなかったのだ。
「それは今から姫様の所に行くのですし、主に聞いた方がいいでしょう。嬉々として説明してくれますよ。」
「えっ、これから行く所って、もしかして」
「ええ、王宮のキュール姫様の所ですよ。」
「「・・・・・・えーーーー!?」」