3話 クラスの追加
リクトがログハウスに戻って来ると、すぐに出発することになった。
リクトがスレイの身体に、荷物を括り付けていると、モーリーが外に出てきてお辞儀をする。
「ウキキ(【行ってらっしゃいませ】)」
「ああ、家のこと、頼んだぞ。」
リクトとサルの会話は、横から見ていると、とてもシュールだ。普通の人たちには、サルの鳴き声にリクトが真面目に返しているようにしか見えない。
「ウキ(【任せてください】)」
「行ってくる」
三人と一頭は、ログハウスを出発した。
山からは、30分ほどで出られた。
「こんなに、簡単に出られたの」
「私達は、何をしていたのでしょう」
獣人娘の二人は山の出口で、項垂れている。
「・・・・・それについては悪かった。」
リクトが、気まずそうに言うと、二人が顔を上げて
「「はい?」」
「・・・何も知らない人間は、山の奥に行けないようにしているんだ。君達が、一日迷ったのに関係しているかもしれない」
「えっ、・・・あんたのせいだったの!」
「別に外に、向かう分には問題ないはずなんだが。」
「むう」
ミーシャがむくれる。実際に30分ほどで外に出られたのだ、リクトの言葉は本当なのだろう。
「ど、どうやっているんですか?」
「木や獣道を使って、人を誘導したり、登っている気がするように錯覚させたり、と色々な。」
「リクトさんって、できないことってあるんですか?」
「そりゃあ、いろいろできないことはあるさ。設備が必要なものは無理だし。」
「設備って時点で、次元が違いますよ。」
この頃になるとクーラの視線には、少し呆れが混じっていた。
「それより、この後はどうするのよ?」
「近くの町に泊まって、明日から本格的に移動だな。」
「それなら、町に着いたら、神殿に行きましょう。そして一緒に、クラスを決めましょう。」
クーラが、リクトの手を握って念押ししてくる。
「あ、ああ」
「あっ」
リクトに接近しすぎていることに気付いて慌てて手と放す。
「今日のクーラは、積極的ねえ・・・ムフフ」
「なっ」
ミーシャが口を猫みたいにして、クーラをからかう。顔を真っ赤にして、恥ずかしがるクーラは、とても可愛らしかった。
「ねえねえ、リクトって、いつもは何やってるの?」
「いや、これといって、なにも」
「【主は、いつも動物と戯れるか、新しい料理に挑戦している。いつか振るってくれるかも知れんぞ】」
言葉を濁すリクトの代わって、スレイが質問に答えた。
「それは、本当に楽しみですね」
「えっ、さっきのご飯は?」
「【あれは、手抜きをしたわけではないが、あくまで有り合わせだよ】」
「ほうほう、・・・リクト楽しみにしてるよ。」
「まあ、それまで俺と仲良くできていたらな」
「「??」」
リクトの意味深な言い方に、首を傾げるミーシャとクーラ。
「いや、なんでもない」
その場を誤魔化したリクトを、スレイが何か言いたそうに見るが、結局最後まで黙っていた。
「さあ、早めに町に着きたい。早く行こう」
リクトが地図を出しながらそう口にして、三人と一頭は歩き出した。
近くの町には、日が出ている内に、着いた。
「さあ、リクトさん神殿に行きましょう。」
クーラに、右腕をとられ
「いや、先に、宿屋に」
「いいから、いいから」
ミーシャに、左腕をとられた。
二人の女性に腕を掴まれて、連行されていく。二人とも美少女と呼ぶにふさわしい女の子だから、両手に花状態のリクトに向けられる視線には、嫉妬が多分に含まれており、とても視線が痛い。
それに女性と腕を組んだのは初めてで、リクトは少なからず動揺していた。
「着きましたよ。リクトさん。どうしました?」
顔が少し赤いリクトを不思議そうに見るクーラ。
「いやなんでもない。それより腕を離さないか?」
「あっ、そ、そうですね」
クーラは、言われて初めて、腕を組んでいることを意識したらしい、慌てて腕を解放する。クーラが放すと、ミーシャも腕を放した。
「今日は、どういったご用件でしょう?」
そうこうしていると、神官の女性が近づいてきた。
「クラスの、追加をしたいんですが。」
「初めてですか?」
「はい。そうです」
「わかりました。どうぞこちらへ」
三人は、奥の部屋に通された。その部屋の床には魔方陣が描かれていて、リクトはその中心に立たされた。
「では、『天の神々よ、この者に適正あるクラスを、ご掲示ください。』」
神官が祈りを捧げると、神官の前にステータスカードに似た白い板が現われた。白い板には、いくつかの文字が書かれているようだ。
「これが、クラスカードです。こちらを見てください。」
神官が、出てきたクラスカードをリクトに見るように進める。クーラとミーシャも、カードに書かれている文字を見に来る。
クラスカードには
選択可能数 2
選択可能クラス
剣士 拳士 戦士 従士 獣使使い 魔法師
「いろいろ、ありますね」
「すごーい」
何を選べばいいのか全くわからないので、聞いてみるか
「何を選択したらいいと思う?」
「そうですね。今は動物を連れていませんし、剣士と拳士でどうですか?」
「じゃあそうするか。この選択可能数っていうのは?」
「レベルが10増えるごとに、選択できるクラスが増えるんです。ついでに言うと、職業の方はいくつでも追加できますが、多くても三職くらいですね。」
「ありがとう、クーラ」
「どういたしまして」
「それじゃあ、剣士と拳士でお願いします。」
神官の女性に選択するクラスを伝える。
「わかりました。ステータスカードを、よろしいですか」
「『カード・オープン』」
リクト・タキカゼ
Lv12
種族 人間 男
クラス なし
筋力 25
耐久 24
敏捷 25
知覚 34
魔力 12
職業 冒険者
技能 初級拳闘 初級剣術 初級炎系魔術 完全対話能力 完全読解能力
装備
ダマスカスの剣
黒衣
皮の靴
カードを神官に渡す。
「それでは、追加しますね」
ステータスカードの上にクラスカードをかざして、神官が何かを祈る。するとステータスカードは、次のように変わった。
クラス 剣士 拳士
筋力 25<<27
耐久 24<<26
敏捷 25<<26
知覚 34<<35
魔力 12<<12
大した苦労もなくステータス値が上がってしまった。便利な世界だな。
「同じクラスをずっと使っていると上位のクラスが追加されたり、何か条件を満たすと、クラスが増えたりします。獣使いなんかが良い例ですね。獣使いは、動物と仲が良い人だけがなれるクラスですから。」
「へえ」
クーラは、選択可能数といい、どうやら説明好きらしい、色々とこの世界のことを教えてくれるのは、異世界から来たリクトにとってはありがたい。
「次は、宿屋に行きましょう。」
どうやら、あまり常識を知らないリクトに、色々と教えることができて、嬉しいらしい。町に来てからのクーラは活き活きしている。
しかし、宿屋で問題が起きた。
「部屋がない!?」
「はい、申し訳ありません。今日はもう、三人部屋がひとつだけ空いているだけでして。」
三人部屋に恋人でもない男女が一緒の部屋に止まるのは問題がある。しかし、この町は、あまり大きくないので、宿屋はここしかない。だから、リクトは早めに来たかったのだが。神殿に行きたがっていた二人を強く止めることができなかった。
「ごめんなさい、リクトさん」
「ごめん」
神殿に行くことを押し通したからだろう、クーラとミーシャが落ち込んでいる。
「いや、知ってて強く反対しなかった俺も悪いんだし。今日は俺が野宿するよ。」
「ダメです!恩人のリクトさんを野宿なんてさせられません。それにやっぱり原因は私達にあるんですし、ここは私達が。」
「それはダメ。それじゃあ、俺がゆっくり休めない。」
女を野宿させて、ぬくぬくとベット寝られるような神経は持ち合わせていない。
「それじゃあ、えっと、えっと」
「クーラ、ちょっと」
ミーシャが、クーラに何か耳打ちをする
ごにょごにょごにょ
「いいのね」
「うん」
「リクトさん」
目が本気だ。ただ、ミーシャが横でニマニマしているから、碌なことにならない気がする。
「な、なんだ?」
「私達とお泊りしませんか?」
クーラが、大きな声できわどい事を言った。あらかじめ言っておくが、ここ場には他の客も結構いる。特に男達が聞き耳を立てている。
是でも否でも、騒ぎになりそうだ。リクトが答えられないでいると
「私達なんかと、一緒は嫌ですか?それなら私達は野宿します。」
いつの間にか、否と言えば、女の子を外に追い出すことになってしまった。今度は、周りから女の視線も加わって逃げ場がなくなる。
「わかった。一緒の部屋で頼む」
「はい」
周りの男供が、騒ぎ出すが無視する。
今日一番の笑顔のクーラの横で、ミーシャが腹を抱えて笑っていた。クーラは、何故ミーシャが笑っているのか、わからないようで、首をかしげている。クーラには、少し天然が入ってるかもしれないな。
部屋に入ると、そのミーシャの笑顔が固まった。部屋には、キングサイズのベットが一つだけだったのだ。
そりゃあ、空いているはずだ。だれも使いたがらないだろう。三人のサイズのベットを使うことが普通は無い。宿屋の方はどういうつもりで、この部屋を作ったのだろう?
「リクトさん、私達汗を流してきますね。」
クーラは、この状況に全く動じていなかった。固まったままのミーシャを連れて浴場の方に向かっていった。
リクトも、風呂に行くことにする。もちろん男のリクトの方が入浴の時間は短いので。すぐに上がって、部屋に戻ってきた。
「楽しかったな。」
クーラとミーシャは、まだ入浴中だし、スレイは、外の厩舎にいるため、ただの独り言だ。
人と、一緒の時間を、過ごすのは久しぶりだった。
二人との会話も、神殿に引きずられて行ったのも楽しかった。スレイの言った通り二人ともいい子達だった。
だからこそ、人喰らい《マンイーター》のことを知られるのが怖い。だが、知ってほしいとも思う。もしかしたら知っても、拒絶されないかも知れないと、この世界に来てから思えるようになれた。
今は、まだ無理だが
「いつかは」
「何がですか?」
クーラとミーシャが戻ってきた。風呂上りで、クーラの銀髪はキラキラ輝いていて美しい。ミーシャの黒髪は、しっとりしていて色っぽい。
「明日のこともありますし、もう休みましょうか。」
「そうだな」
「ちょっと待って、寝る配置は、どうするの?」
「それはもちろん。」
クーラが自信満々に、提示したのが
クーラ・リクト・ミーシャ
の順番だった。クーラのことが、よくわからなくなってきた。
「どうして、リクトが真ん中なの?」
「不公平を無くすためよ。他にいい配置がある?」
「リクトは、いいの!?」
「別に構わない」
「そ、そっか。じゃあしょうがない、寝ましゅ、寝ましょうか。」
キョドりまくりのミーシャ。
(二人が寝たら、抜けだそう)
三人川の字でベットに入る。
「おやすみなさいリクトさん。」
「おやすみリクト。へ、変なことしたらダメだからね。」
クーラは、腕を組むことすら恥ずかしがっていたのに、同衾は平気らしいやはりどこかずれている。ミーシャのほうが、正常な反応だろう。
「ああ、おやすみ」
~一時間後~
リクトは、ベットを抜け出せないでいた。クーラに、腕を抱えられ、足を絡められている。ミーシャは、リクトに背を向けて寝ているが、尻尾をリクトの腕に絡めてきている。ふさふさしてやわらかい尻尾だった。
リクトは、二人に絡まれて抜け出せなくなっていた。それもクーラが頬擦りしてきたり、匂いを嗅いでくるので、くすぐったいし、腕に当たっている胸が気なったりで、この日リクトはあまり眠ることができなかった。