13話 これからのこと
「キュールさんって、王族なんですか?」
「あ、ああ」
「どうして、ジルランドは援助を止めたんですか!そのせいで、私のお母さんとお父さん・・・」
コゼットが、キュールを責めるように問い詰める。そこにリクトが、口を挟んだ。
「コゼット、ジルランドでは、たとえ王族でも女性は政治に関われないんだ。」
「でも、でも」
リクトがコゼットを諭そうとするが、そう簡単に納得できるものでもないだろう。コゼット自身どうすればいいのかわからなくなって、その場で俯いてしまう。
「すまない」
そこに、キュールがそう言って頭を下げた。政治に関わっていないとはいえ、王族であるキュールが外交について謝罪したのだ。これはコゼットにとってかなり衝撃的なことだった。その謝罪の言葉に驚いてコゼットは、顔をあげる。顔を上げたことで、頭を下げたキュールの姿を見て、コゼットが我に返る。
「あ、ごめんなさい。私の、お父さんとお母さん、飢えで死んで、ぐす、・・・・・ジルランドの偉い人が悪いんだって聞いて・・・うえ~~~ん」
コゼットが泣き出してしまった。リクトはコゼットの前にしゃがんで、コゼットの頭を撫でながら、コゼットに話しかける。
「キュールは、女でも何かできないかと思って、トライス国を目指しているんだ。」
「ぐす、そう、だったんですか。キュールさん、ごめんなさい。」
「いや、良い。私が、トライス国に対して何もできなかったのは事実だ。」
コゼットは悲しそうに、キュールは悔しそうにして、二人は目に涙を浮かべる。
「なあアメリア、さっきコゼットが援助を止めたって言っていたよな。ジルランドは援助を減らしたんじゃなかったのか?」
リクトは、キュールとコゼットは辛そうだったので、アメリアに説明を求めた。
「たぶん、援助のほとんどが貴族に流れているんだろう。だからトライス国の民は、援助を止められたと思っているんだろうな」
「ジルランドは、それを許しているのか?」
「すまない、私も政治には詳しくないんだ。だけど、このことを王様に知らせることができれば、トライス国援助を担当している貴族を、入れ替えることができるかもしれん。」
「なんで、その担当の貴族は、そんなことをするんだ。馬鹿なのか」
「おそらく、トライス国の貴族と繋がりが欲しいんだろう。」
やっぱり馬鹿だろ、繋がりを作っても、トライス国がボロボロでは意味がないだろうに。部屋の空気が重くなるのを感じ、話を進め早く終わらせることにしたリクトは、涙を拭き取ったキュールに質問した。
「そういえば、キュールはトライスの現状を見た後、どうするつもりなんだ?政治には口を出せないんだろ」
「父上と話す、私とて王族だ。父親と話すことぐらいはできる。それでどうなるかはまだわからんがな。」
キュールは何処と無く自嘲気味に言う、かなりネガティブになっている。
「キュール、大丈夫か?」
「大丈夫だ。大変なのはトライス国だろ。コゼット、トライス国は今どうなっているのだ?頼む、辛いだろうが教えてくれないか?」
「・・・・・えっと・・・その」
「頼む、コゼット」
コゼットは、あまり話したくなさそうだったが、リクトに頼まれて決心がついたようで、ゆっくり話し始めた。
「えっと、ほとんど人から聞いたのですが、最初にお米がダメになって、次に麦がダメになって、私が国を出るときは、湖が汚れたって言っていました。他にも・・・・・・・」
コゼットから聞いた話は、想像を絶するものだった。
計画性の無い村や町はすぐに食料が尽き、餓死者が急増した。計画性のあった村も、最近は蓄えがなくなり始め、老人は食い扶ちを減らすために、自ら命を絶つ者が現われた。自暴自棄になった男達は、貴族の屋敷に攻め入り、兵士に殺された。死者の数は、トライス国の総人口の四分の一に上っている。今のトライス国で生きるのは、女子供に兵隊、貴族とその使用人、それと少しの男だけとなってしまっている。コゼットはこれらのことを父やボーマンから聞いたらしい。
「そこまで酷いのか」
「あの、キュールさん、今のお話を王様に伝えれば、援助を増やしてくれるのでは?」
クーラが、希望を目に宿して、キュールに訊ねるが、キュールからの返答は芳しくなかった。
「いや、私自身がこの目で見ないと、父上は聞き入れないだろう。ただでさえ父上は女の私が外交に口を出すのを嫌っているし、それに大臣どもを黙らせるためにも、やっぱりトライス国には行かないといけない。」
「それなら、城塞都市に急ごう。キュール、明日、この町の転移門を使えないか?」
「何とかしよう。時間稼ぎなどしている場合ではないな。」
わかっていたことだが、時間稼ぎのことを暴露している。リクトもさすがに指摘はしなかったが、ジト目でキュールを見る。リクトの視線に気付いたキュールは、気まずそうに顔を逸らした。
「あ、明日は早く出発しよう。」
「そ、そうだね。じゃあ早く寝よう。そうしよう」
「そうですね。え~と、え~と、そういえば、コゼットちゃんはどうしましょう?」
残った三人が、慌てて話題を変える。
「わたしは、ご主人様と一緒がいいです。」
「・・・・・」
そう言うコゼットの顔には、まだ涙の痕が残っており、コゼットに他の女達はダメとは言えなかった。
「そうだな。一緒に寝るか?」
そこでリクトが、コゼットと寝ることを了承して、決まりとなった。
「やっぱり、リクトにとってコゼットは特別なんだねー。」
ミーシャが唇を尖らせながらリクトを見る。
「なんでだ?」
「べっつに~~」
気になる言い方だが、突いても良いことになりそうにない、なのでミーシャのことは流すことにする。
「そうか」
「いいな~コゼットちゃん」
「ほら、そろそろ寝るぞ。早く部屋に戻れ。」
ミーシャが引き下がらないので、リクトは部屋から女達の背を押して追い出す。
「はいはい、おやすみリクト。コゼットもおやすみ~。」
「皆さん、おやすみなさい」
女達が部屋に戻ると、コゼットがリクトの方を向いて。
「ご主人様、私の国、助かるんですか?」
コゼットはリクト達の旅がトライス国のためであること聞いて、希望を見出したのだろう。しかし、リクト達にとって、トライス国の現状は予想以上の酷さだった。どうなるのかわからない、というのが本音だ。だが子供にそんなことを言うわけにもいかない。
「きっとな、それよりすまなかったな」
知らなかったとはいえ、リクト達は転移門を使わずにのんびりトライス国を目指していた。それがとても申し訳なかった。
「??」
コゼットには何を謝られているのかわからないようだ。可愛らしく首を傾げている。
「それより、ご主人様もトライス国を助けようとしていたんですね。」
「いや、俺はどっちかっていうと、付き添いかな」
「えっ、そんなんですか?」
コゼットが残念そうな顔をする。適当に誤魔化せばいいのに素直に言ってしまう辺り、リクトは人付き合いが下手だ。リクトは慌てて、こんなことを言ってしまった。
「た、助けるから、何ができるはわからないけど、俺にできることがあればやるから。」
「ご主人様、ありがとうございます」
助けると約束してしまったが、リクトにできることなんてたかが知れているし、食糧問題にはどうしても組織的な力が必要になる。この件で一番頼りになるのは、やっぱりキュールの直談判だろう。
とリクトは思っていたが、この約束でリクトは、後々、苦労することになる。
「ご主人様、おやすみなさい」
「おやすみ、コゼット」
そう言って二人はベットに入る。色々あって疲れていたのだろう。リクトとコゼットは、すぐに眠りについた。