12話 帰ってからのこと
町に着いたリクトとコゼットは、リクトが宿泊している宿屋には向かわず。街門の近くにある、湯屋に入った。
リクトとクーラが入った湯屋は、温泉街に来た旅人や冒険者が最初に向かい、疲れと汚れを落とすことを目的で作られた湯屋だ。長旅をしてきた者達が訪れるから、湯がすぐに汚れてしまう。そして綺麗な湯を提供するために考えられたのが、この湯屋だ。ここは、小さな浴室をいくつも用意して、お客が出るたびに湯を張り直すというやり方を取っている。浴室は20前後あり、一つの浴室に大人二、三人しか入れないが、貸切りなので血を落とすのにも最適だ。その代わり小さい割には少しお値段が高めだ。
この湯屋は他店が、温泉の種類や湯女の質などで勝負するが、この湯屋は別の形でお客を確保に成功した湯屋なのだ。リクトは、依頼に出る前に、クーラ達にいろいろな湯屋について聞いており、この場所を知っていた。
今はリクトは、浴室を一つ借りて、コゼットの髪の毛を洗っている。後、コゼットの痣が気になっていたリクトは、湯屋に余分な薬角を渡して、薬湯にしてもらった。
「コゼット、気になる所はないか?」
「大丈夫ですぅ、気持ち~です~。」
コゼットの髪の毛を洗い終え、頭から湯を被せてやる。洗う前は、くすんだ緑色だった髪が、今では鮮やかな明るい緑色になっている。
「髪、綺麗だったんだな。」
「えへへ~ありがとうございます。」
衣服の血も落とし、湯屋の人に乾かしてもらったのだが
「染みになってしまったな」
リクトの服は元々黒く、リクト手製なのであまり目立たなかったが、コゼットの黄色いワンピースは、染みができてしまっていた。
「次は服飾店だな。」
「ご主人様、服だけ、わがまま言ってもいいですか?」
遠慮されるかと思っていたから、これは嬉しい申し出だ。女の子なんだから、服ぐらいはわがままになっていいと思うのだ。
そう思い自由にさせてみた結果、コゼットはカーテンから出てきた時、小さなメイドさんになっていた。
「・・・・・・・・コゼット?」
「お仕えするなら、やっぱりこれかな~と。」
くるくる回って、得意気にメイド服を見せてくるコゼットは、とても愛らしいのだが
「コゼット、それを普段着にするのか?」
「うん♪」
満面の笑みが返ってきた。しかし、メイド連れの冒険者なんて聞いたこともない。そんなことしたら、めちゃくちゃ目立つ。それは困るリクトが、コゼットに思い直すように言おうと口を開くと
「ダメ?」
リクトの考えがなんとなくわかったのか、コゼットの目が潤んでいる。涙目のコゼットに強く言えないリクトは、
「い、いやダメじゃないぞ。とっても可愛い。それじゃあ、今度は仕事着以外も買おうか?」
仕事着を強調して、何とかそれだけを言う。我ながら甘い。
「そんなの悪いです。」
「1着ってわけにはいかないだろ」
「そうだけど、なら古着屋で」
「お金には余裕があるから遠慮しなくていい。」
「いいんですか?」
「ああ」
「やった。ご主人様大好き。」
コゼットが、リクトに飛びつく。やっぱり女の子だな。服でここまで喜んでくれるとは。そのあとコゼットの洋服を数着を買った。その際、予備のメイド服をもう1着、買うはめになったりもした。
服を買い終わり宿に着いた頃、すでに夕暮れ時になっていた。少し遅くなってしまったので、女達に戻ったことを伝えるべきなのだが、一度荷物を置くために自分の部屋に行くことにした。
コゼットのことをどう説明するか考えながら、部屋の扉を開けると、部屋の中には四人の女性が落ち着かない様子で待っていた。
「リクトさん!無事だったんですね!」
「心配したん、だ、よ。・・・・・その子は?」
「メイド服?」
「おまえ変態だったのか!?」
「なぜそうなる!?」
「じゃあ何なのだ、その子は?裾を掴まれておいて、知らない子とか言わないよな。」
いつの間にかコゼットがリクトの裾を掴んでいた。誰もいないはずの部屋に人が居て驚いたのだろう。リクトはコゼットが見えるように身体をずらして
「この子はコゼット、元奴隷で今は俺のメイドのようなものだ。」
「どうやったら元奴隷の女の子を、メイドとして連れて帰ることになるんだ?そこらへん、ちゃんと説明してもらおうか」
「説明は・・・・・・・何処かで食事しながらにしようか」
説明の内容を考えていなかったので、リクトは時間稼ぎをすることにした。ここで突っ込まれても面倒なので、リクトは返事を待たずに部屋を出る。
宿にある食堂に移動すると、適当に料理を注文して、六人はテーブルについた。
「リクト、そろそろ説明してくれ」
席に着いて、すぐにキュールが説明を促す。
「そうだな~、まず、最初に動物達がコゼットを見つけてな・・・・・・・」
リクトは、コゼットに人喰らいであることを明かした所と、戦闘の詳細は伏せて、四人に事情を説明した。
大まかに説明し終わった時、リクトの隣では、コゼットがチキンにかぶりついていた。料理は説明のしている間にきた。
「コゼット、もう少し丁寧に食べなさい。」
「はーい」
リクトがコゼットの口回りをハンカチで綺麗に拭ってあげている。その光景を見たクーラが
「リクトさん、私たちに何か話していないことがありませんか?」
「・・・・・何のことだ」
「リクトさん、今、とても優しい顔をしていました。山奥のログハウスで動物達と触れ合っているとき見せた、優しい顔でした。」
テーブルを見回すとミーシャとアメリアも頷いている。
「キュールさん?」
そんな中、キュールは惚けた顔で、リクトに見とれていた。クーラが声をかけると
「な、なんでもない」
キュールが、慌てた様子でそっぽを向く。顔が少し赤くなっていた。
「そ、それよりクーラ、どういうことなのだ?」
「つまり、リクトさんはコゼットちゃんに対してある程度心を許しているということです。たぶん私達より。きっと私たちに話していないことがあるはずです。」
今日のクーラは、鋭いな。同衾を平然と申し出たりと、たまに天然な所を見せるクーラだが、基本的に頭の回転は早いんだよな。
「私は、コゼットちゃんと私たちの線引きは『力』のことだと考えています。」
本当に鋭い。本当は、クーラがリクトのことをよく見ているから気付くのだが、リクトは鋭いの一言で片付けてしまう。
「そうなのか?」
「・・・・・」
ここでの沈黙は肯定と、そう変わらないだろう。
キュールが面白くなさそうにする。コゼット以外の他の女も同様だ。自分達はリクトに心を開いてもらおうと色々しているのに、今日会ったばかりのコゼットがリクトの『力』を知っているのだ、面白いはずもないだろう。
「理由を教えろ。何故我らは駄目で、コゼットはいいのだ?」
「・・・・・さっきも言ったが、俺はコゼットのこと預かったんだ。中途半端なことはしたくなかった。預かった以上は、コゼットに正体を隠すわけにはいかないと思ったんだ。それに、コゼットを虐待していた奴らと戦いになって、仕方ない一面もあったんだよ。」
最後のはちょっと嘘だが、力を見せるきっかけにはなったのは本当だ。キュール達は、理解はしたが、まだ納得できないようだ。
「コゼットちゃん、リクト殿の『力』とはどんなものだったのですか?」
「それは、ご主人様と私の秘密です。」
コゼットが自慢そうに口にする。そこでコゼットの言葉は終らず。
「それに、わたしから聞いてもいいんですか?」
「それは・・・・・駄目だな。」
アメリアがコゼットにやり込められていた。それを聞いたキュールが
「リクト、もう一度言うぞ、私はリクトがどんな力を持っていても味方だからな。」
「ありがとう、キュール。今は無理だけど、いつか、きっと話すよ。・・・・・たぶん」
「最後のが少し気になるが、待っているぞ。お前が話してくれるの。」
さっきまで不満全開だったキュールが、今は不満の中に少し喜色が混じっている。前向きな返答が返ってきたことが、嬉しいらしい。
「もちろん、その時は三人にも話すよ。」
今のリクトには、コゼットに人喰らいのことを受け入れられたことで、キュール達にも話したい気持ちが芽生えていた。
「リクト殿、待っているよ」
「私も待ちます」
「できるだけ早くお願いね」
「それじゃあ、事情説明も終わったことだし、コゼットに皆を紹介しないとな。コゼットの右隣の人からクーラ、ミーシャ、キュール、アメリアだ。」
「「「「「・・・・・・・・」」」」」
五人の女達はリクトの言葉に黙り込み、しばらくしてキュールが呆れたように
「なんだ、その適当な紹介は」
他の女達も少し呆れていた。どちらかというと、仕方ないなあこの人は、という感じだ。
「ご主人様、それは自己紹介とは、言えないと思います」
コゼットにまで呆れられてしまった。仕方ないだろ、自己紹介なんて数えるほどしかしたことが無いんだから。
「リクトさん、この世界の自己紹介では、ステータスカードを皆で見せ合うのが普通なんですよ。私達とリクトさんの自己紹介の時もそうしたでしょう」
「そうだったな。まあ、それは食事の後にするか。これ以上放置すると食べられなくなるぞ。」
料理がきてからも、話優先だったから、そろそろ食べないと食べられなくなる。
「そうですね。」
六人は、先に食事を済ませることにした。食事の間、ずっとリクトがコゼットの世話をしていて、それが女達をやきもきさせたりもしていた。主とメイドの立場が入れ替わっているが、そこには誰も触れなかった。
食事が終わると、リクト達は、もう一度リクトの部屋に戻った。
「それじゃあ、『カードオープン』」
「「「「「『カードオープン』」」」」」
リクト Lv12≪Lv15
リクト・タキカゼ
Lv15
種族 人間 男
クラス 剣士 拳士
筋力 33
耐久 32
敏捷 33
知覚 43
魔力 12
職業 冒険者
技能 中級拳闘 初級剣術 初級炎系魔術 完全対話能力 完全読解能力 聴力強化Ⅰ 視力強化Ⅰ
装備
ダマスカスの剣
黒衣
皮の靴
黒い包帯
クーラ Lv8≪Lv12
クーラ・ポートレアモン
Lv12
種族 獣人 女
クラス 魔法師
筋力 19
耐久 14
敏捷 21
知覚 26
魔力 43
職業 冒険者
技能 初級風系魔術 中級氷系魔術 初級水系魔術
装備
銀杖
白いマント
布の服
皮の靴
ミーシャ Lv8≪Lv12
ミーシャ・ミレンツ
Lv12
種族 獣人 女
クラス 獣戦士
筋力 28
耐久 19
敏捷 39
知覚 27
魔力 11
職業 冒険者
技能 半獣化 初級剣術
装備
鋼の剣
皮の鎧
布の服
皮の靴
キュール Lv10≪Lv13
キュール・ジルランド
Lv13
種族 人間 女
クラス 王女
筋力 21
耐久 19
敏捷 21
知覚 32
魔力 42
職業 王族
技能 中級雷系魔術 初級水系魔術
装備
雷水の指輪
ダマスカスの短剣
高級な服
良皮の靴
アメリア Lv21≪Lv22
アメリア・リプレーン
Lv22
種族 人間 女
クラス 騎士 剣士 魔法師
筋力 55
耐久 60
敏捷 45
知覚 30
魔力 41
職業 近衛騎士 冒険者
技能 中級剣術 中級風系魔術
装備
ダマスカスの剣
耐火のマント
鉄の鎧
良質な服
良皮の靴
みんな少しずつではあるが成長していた。
最後はコゼットだ
コゼット・レイマール
Lv6
種族 人間 女
クラス なし
筋力 11
耐久 10
敏捷 12
知覚 12
魔力 15
職業 なし
技能 なし
装備
メイド服
皮の靴
コゼットは、魔力が高めだな魔法職に向いているかもしれない。
そう思ってコゼットの方を見てみると、コゼットの様子がおかしかった。目を見開いて手に持った誰かのステータスカードを凝視していた。カードから顔を上げたコゼットが次に見た相手は、キュールだった。
「キュールさんって、王族なんですか?」