10話 奴隷の女の子
キュールと温泉で鉢合わせた次の日、リクトは冒険者ギルドで依頼を受け、キシナ林に来ていた。受けた依頼は
依頼 薬角六本の納品
依頼ランク D
種別 捕獲&納品
報酬 銀貨18枚
内容 薬角は薬野鹿の角。薬鹿の殺害は禁止。一頭につき二つの角の内、片方だけを折る。元から片方がない場合の入手は禁止
というものだった。
「これで五本目っと」
リクトが薬鹿の角を専用ののこぎりで切り取っている。
薬鹿の角は、粉にすると薬になるため重宝されている。しかし、人が飼うことが難しいため、野生の薬鹿を捕まえて切り取るしか入手方法がない。そのため、よく薬師ギルドから冒険者ギルドに依頼がくるのだ。リクトが受けた依頼も、そんな依頼の一つだ。
「後一本だな。」
「【早く済ませましょう】」
この依頼には、リクトとスレイだけで来た。薬鹿は、動きが少し早いだけで凶暴性はないし、周りの魔物も雑魚ばかりだからリクトとスレイだけで問題なかった。この依頼は薬鹿を無傷で捕まえる方法が必要になるから、本来なら人を選ぶ依頼なのだが、動物と話せるリクトにとってはかなり楽な仕事だ。薬鹿を見つけて頼むだけで事足りるのだ。
リクトとしては女達から離れてのんびりしたかったというのもある。彼女達が嫌いなわけではないのだが、人とあまり行動を共にしたことが無いリクトは、ちょっとしたことで気疲れするのだ。それに昨日はキュールと温泉で鉢合わせたので、今日は顔を合わせづらかったのだ。
今頃女達は、ボーラで宿以外の温泉を楽しんでいるだろう。
「静かだな~たまにはこういうのもいいな~」
「【主、そんな枯れた発言をしないで下され。早く依頼を終わらせて、お嬢さんたちのところに戻りますぞ】」
「はいはい」
リクトとスレイは七本目(一本多めに手に入れた)の角を手に入れた時、林の奥のほうまで入ってきてしまっていた。林の奥のほうで友達になった動物達と話していると
「【この先で、人間の子供を見たよ】」
「【見た見た】」
動物達からそんな話を聞いた。こんなところに子供が一人で来れるとは思えない。厄介事の匂いがするが、無視もできないよな~。
「案内してくれ」
直接見たという狐の先導で林の奥に進んでいくと、本当に子供が倒れていた。子供は八歳ぐらいの小さい女の子で、深い緑色の髪はボサボサで身体はガリガリに痩せている。身につけている服はボロボロで、首には鉄製の首輪が付けられている。リクトは付けられている首輪を見て顔を歪ませた。付けられている首輪は奴隷用の首輪だったのだ。遠隔操作で首輪の内側に仕込まれた爆薬を爆発させて、奴隷を殺すことができる。奴隷を死の恐怖で支配するのだ。ジルランド王国では禁止されていたはずだ。
こんな状態で遠くから来たとは思えない、どこかに奴隷商人か主がいるはずだ。リクトは最近使えるようになった聴力強化を使って周りを探っていると、女の子が目覚めた。周りを見渡して、リクトを見つけると
「助けて」
小さかったが確かにそう言った。聴力強化していなければ聞き逃していたかもしれない。女の子はすぐに意識を失ってしまった。女の子が意識を失うのと同時に、聴力強化した耳に複数の足音が聞こえてきた。
「スレイ、西側から来る。離れたところで待機」
「【わかった】」
スレイがすぐにその場から離れていく。スレイが東側に姿を消してからしばらくして、西側から鞭を持った男達が現われた。馬も二頭いる。
「小僧、こんなところで何してる」
厳つい大男が話しかけてくる。おそらく奴隷商人なのだろう。
「薬角を取りに来ていたんだよ。」
袋から角を見せる。
「・・・まあいい、そのガキをこっちに渡せ。そうすれば見逃してやる。」
「いいぜ、その代わり、あんた達のボスに会わせてくれよ。ちょうど奴隷が欲しいと思っていたんだ。」
そう言ってリクトは、懐から銀貨を3枚取り出して男に向かって投げる。銀貨を受け取ったリーダーらしき男は、しばらくの間リクトを品定めするように見ていたが
「・・・いいだろう。付いて来い。」
銀貨を懐にしまい、リクトについてくるように言ってきた。リクトは大男の先導についていく。女の子は、馬の背に括りつけられた。
しばらく男達に混じって歩いていると、途中で女の子が目を覚ました。起きた女の子は、周りの男達をみて怯えだす。
「おいガキ、よくも逃げやがったな」
少女が起きたことに気付いた男が、腕を振りかぶる。
「ひっ」
女の子の悲鳴に反応したリクトが、女の子に振り下ろす拳を掴んで受け止める。
「そういうことは、俺の前ではやめてもらおうか。」
「部外者が口を挟むな」
ムカついたので、掴んだ拳に力を加える。
「イダ、イダダダ、おい、てめえ放せ」
すぐに放してやると、男は舌打ちしながら離れていった。女の子が不思議そうにこちらを見てくる。
「大丈夫?」
「う、うん、大丈夫。」
さっきの男の言動からして、奴隷商人の元から逃げ出したのだろう。よほど酷い扱いを受けていたらしく、馬に括られるときに見えたのだが、服の下に痣があった。このまま奴隷商人の所に返したら最悪、殺されかねない。
「着いたぞ」
連れて行かれた場所には、幾つかテントが張られていた。テントの近くに、鞭を持った男達に囲まれる形で奴隷が何人か地面に座り込んでいた。リクトには彼らを救える力はない。
「こっちだ。来い」
「ちょっと待ってくれ、あの子を連れてきて欲しい。」
リクトは別のところに連れて行かれそうになっていた女の子を指差す。
「あんなのが欲しいのか?まあいい、おいそいつも連れて来い」
女の子が、首輪に鎖を付けられて連れてこられた。女の子が不安そうにしている。リクトは、テントの中で一番作りのいい場所に案内された。そこには、商人風の老人が待ち構えていた。
「ボーマン様、奴隷が欲しいという者を連れてまいりました。」
「こいつが奴隷を?お前、金はあるのか?」
「それなりに持っているつもりだ。」
「どんな奴隷を探してるんだ?」
「こいつを貰いたい」
リクトは、一緒に連れてきてもらった女の子を指差した。
「えっ」
女の子が驚ている。
「・・・なんでこんなのが欲しい?」
「あんた達に理由が必要か?必要なのは金だろう」
ボーマンと呼ばれた男は一瞬呆気に取られ、次に笑い出した。
「かっかっかっ、確かにそうだな」
「ところで外に俺に首輪をつけようとしている奴らがいるんだが、あんたの命令か?」
聴力強化をそのままにしていたから、テントの外の密談は丸聞こえだった。
「いいや、ただ禁止した覚えはないなあ」
「やめさせた方がいいぞ。そいつら死ぬよ」
「そのようだな。それでそっちのガキだったな。いいだろう、どうせ売り物にはならんしな、そうだな8000コニーでどうだ。」
リクトは懐から金貨を取り出して前にある机に置いた。金貨は一枚で一万コニーだ。昔の大きな仕事で手に入れた金の一部で、一度自宅に戻ったスレイに、ログハウスから取ってきてもらっておいたのだ。
「ツリはいらん。その代わり彼女にまともな服を、後逃げ出したことについてのお咎めは無しだ。」
「わかった。ダグラス、聞いたな」
「へい」
大男はダグラスというらしい。ダグラスは、女の子と他の男達を連れてテントの外に出た。
「お前さん、他の奴隷は見ないのか?」
周りからリクトとボーマン以外の気配が消えるとボーマンの雰囲気が変わった。
「今日はいい」
「では少し話をしよう」
「何故だ?」
「そうしなければ、お前さん、ワシらを殺すだろう」
「・・・・・」
バレた。何故だ。
確かにリクトは、方法こそ決めていなかったが、ここの奴隷商人の集団を潰そうと思っていた。ボーマンの表情からして誤魔化しは効かなそうだな。腹を括るしかないか。
「何故わかった?」
「ワシは色々な人間と商売をしてきた、商売の相手以外にもワシを捕らえようとする高潔な人間も何人も見た。そしてお前さんは高潔な人間だ、奴隷商人のことが嫌いだろう。」
「嫌いだな。文句あるか」
「いいや、お前さんは正しいよ。だがな、ワシらは奴隷を支配しているわけではないのだ。」
「ふざけるな!」
リクトの声に、怒りが混じる。
「話を最後まで聞け、ここにいる奴隷のほとんどが西の隣国、トライス国からの難民たちだ。彼らは、この国の役人に見つかれば、強制送還される。今のトライス国に戻れば間違いなく彼らは死ぬ。」
「・・・トライス国は、それほど酷いのか」
「ああ、見てきたが酷いありさまだったよ」
「つまりあんた達は、彼らを保護しているのか?」
「ああそうだ。ワシも昔は色々やって荒稼ぎをした。その頃に『青い爪』という傭兵団に命を助けられてな。それからワシは心を入れ替えて、トライス国の彼らにこの国で生きていけるよう、仕事を探しているのだ。先程の娘をお前さんの所に行かせたようにな。」
「それをどう証明する」
「後で、奴隷達の首輪を確認してくれ。首輪の爆薬はすべて抜かれている。」
「ならどうしてあの子は逃げ出したんだ。それに服の下には痣があったぞ。それはどう説明する。」
老人は沈痛な表情になって。
「実はわしの考えに同調してくれているのは、ダグラスと数名の部下だけなのだ。勝手をするものがあとを絶たんのだ。特にあの子は標的にされていてな。だからこそ、あの娘をお前さんに連れて行ってもらいたいのだ。」
「残った奴らはどうなる。」
「少しずつではあるが意識改革を行っている。時間さえあれば何とかなりそうなのだが、あの娘にはその時間を耐えられないだろう。」
「・・・わかった。その言葉が嘘だったときはお前達を殺す」
「ああ、構わない。そうしてくれ」
「ならどうして売るんだ?トライス国の人間に仕事を斡旋して、そいつらの給金から少しずつ金を貰えば、犯罪にはならないだろ、それに長い目で見ればそちらの方が儲かると思うんだが。」
ボーマンは、ポカンと口を半開きにして、驚いている。
「そんな商売があったのか・・・お前さん、実は商人だったりするのか?」
「いいや、違う」
リクトは前の世界の人材派遣会社のシステムを簡単に教えただけだ。
「もっと話を聞かせてくれ」
「ああ、構わないが」
その後は、ボーマンに色々質問をされては、リクトはそれに答えていった。女の子が到着するまで、その質問は続いた。
しばらくして、ダグラスが連れて戻ってきた女の子は、黄色いワンピース姿だった。
「お買い上げありがとうございます。コゼットと申します。八歳です。精一杯ご奉仕させていただきます。」
「コゼット、この方には説明してあるから、普通にしてよいぞ。」
「そうなの?」
「ああ、聞いた。そこで君にひとつ聞きたいことがある。ボーマンとダグラスのことをどう思っている?」
「おじいちゃんもおじちゃんも優しいよ。」
即答で返事が返ってきた。嘘を言わされているようには見えない。
「お前さんこれを、首輪の鍵だ。首輪はキャンプを出てから外してくれよ」
「わかった。コゼットでいいかな?」
「はい、ご主人様」
「ご、ご主人様!」
「はい、ご主人様です。」
「いやいや、コゼットは奴隷じゃないんだから。そんな言葉は使わなくていいんだぞ。」
「それならメイドとして仕えさせてください。メイドならご主人様って呼べますよね。」
コゼットは、どうしても俺のことを、ご主人様と呼びたいらしい。
「・・・もう少し大きくなるまで、働かなくてもいいんだぞ」
「いいえ、働かざるもの食うべからずですから。」
八歳の子供が言い切った。
「すまない、内の教育方針でな。間違ってはいないと思っているのだが」
ボーマンが苦笑いしている。リクト自身、高校の頃からアルバイトをしていたからその精神はわからないでもない。しかしこの子はさらに幼い、とも思うがそれは前の世界の考え方なのかもしれないな。
「わかった。今はそれでいいよ。それじゃあ、コゼットこれからよろしく。」
「はい、ご主人様」
満面の笑みで返事をするコゼット、リクトの呼び名はご主人様で決定のようだ。