8話 ゴブリン討伐
ノルディを出発して徒歩三十分のところに、ゾル森林の入り口はあった。
入り口に着くとリクトとアメリアが地図を片手に話し合いを始めた。
「二人で何を話しておるのだ?」
「作戦を立てているんです。」
「ゴブリンなんぞの討伐に作戦が必要なのか?」
ゴブリンは禿頭の頭に浅黒い肌をした人型の魔物で、人型の魔物の中ではもっとも弱いとされる。少し危険だが、一般人でも人数がいれば倒すのことは可能だ。
「作戦無しだと、二百体を倒すのにかなりの時間がかかるぞ。」
「そうなの?」
「ええ、ゴブリンはすぐ逃げる習性があるので、無策だと追いかけながらの討伐になるので、200体を討伐するのに数日はかかります。」
「それは面倒だね。それじゃあ、どうするの?」
「作戦は簡単だ。ゴブリンを三方向から、袋小路に追い込んで殲滅する。」
リクトが地図の袋小路を指し、それを囲むそうに三箇所に石を置いた。
「それだけ?」
「こういう作戦は、単純な方がいい。組分けは、俺とキュール、クーラとミーシャ、アメリアは一人だ。質問は?」
「ない」
「ありません」
「別にないよ」
「それじゃあ、さっさと片付けよう。」
リクト達は、三方に散った。
「なあリクト、魔物とは話せるのか?」
「無理、あいつら何も考えてないからな。言葉の意味はわかるが、会話が成り立たない。」
「何も考えていない?」
「下位の魔物の殆どが、本能だけで生きているんだ。だから作戦は簡単なのでいいんだ。」
「へえ~」
「そろそろ時間だ。キュールは、後衛だよな?」
「そうだ。雷と水の魔術を使う。」
「それじゃあ、援護を頼む。」
「任せろ。」
リクトとキュールは最初に決めた三箇所の内、ひとつから森に入っていった。森に入ってすぐにゴブリンの群れを見つけた。リクトは群れを見つけると、剣を抜いて群れに突っ込んでいく。
ゴブリン達は、近づいて来たリクトを見つけると襲いかかってきた。
リクトは先頭のゴブリンの首を切り落とし、少し後ろに飛ぶ。頭のなくなったゴブリンの左側から出てきたゴブリンを回し蹴りで蹴り飛ばすと、リクトはさらに後ろに飛んだ。リクトが後退して空いた空間にゴブリンが3体入って来ると、
「『雷の投擲』」
そのゴブリン三体を、リクトの後ろから飛んできた雷が貫く。雷に打たれたゴブリンは黒焦げになって倒れた。キュールの魔術による援護だ。
これだけの戦闘でゴブリンは、戦いを放棄して逃げたした。これからは、袋小路に誘導しながら戦う必要がある。
三十分後、森の外れにある袋小路に相当数のゴブリンがひしめいていた。作戦は簡単に成った。
「あいつら、ここからは本気で抵抗してくるぞ。」
「このままやるのか?」
「いや、一応陣形を組もう、俺とアメリアが前で、クーラとキュールが後ろ、ミーシャはその中間で、俺達を抜いたゴブリンから後ろの二人を守ってくれ」
「了解」
「リクトさん、前衛は二人で大丈夫なんですか?」
クーラが、ゴブリンの塊を見ながら不安そうに聞いてくる。
「大丈夫だよ。アメリア、準備はいいか?」
「問題ない、行こう」
リクトとアメリアは自信満々で、ゴブリンに突っ込んでいった。
リクトは、剣術に蹴りをおりまぜた戦法で、ゴブリンを寄せ付けずに倒していた。その様は演舞を踊っているようにも見えた。
アメリアの戦法は、一見剣技のみの戦いに見えるが、剣に風を纏わせて切れ味を上げ、さらに重量軽減を行い高速で剣を振るっていた。
時たま、後方からクーラとキュールが、氷柱や雷撃を飛ばして、ゴブリンを打ち倒していた。
リクトとアメリアを抜いたゴブリンは、半獣化したミーシャが始末する。という流れができ、リクト達は順調にゴブリンを駆逐していた。
半獣化したミーシャの姿は、腕と足を獣毛が包んだ姿で、半獣化したミーシャの動きは素早く、クーラとキュールにゴブリンが近づく前に始末していた。
順調にゴブリンを狩り続けていると、突然リクト後ろを振り向いて叫んだ。
「ミーシャ、後ろだ!」
クーラとキュールの後ろの森からゴブリンが出てきたのだ。袋小路に追い込む時に漏れたゴブリンが、仲間を助けるために森から出てきたようだ。その数5体。
クーラは銀杖を、キュールは短剣を手に迎え打つが、近接戦が不馴れな二人は同時に2体を相手にするのが精一杯で、ゴブリンを倒すことができないでいた。
そこに、遅れていたゴブリンが追い付き、キュールに襲い掛かろうとした瞬間、キュールの後ろから飛んできた剣がそのゴブリンの頭を貫いた。リクトが、自らの武器を投擲したのだ。
少し遅れて駆けつけたミーシャが、4体のゴブリンを片付ける。
「リクト、大丈夫!」
ゴブリンを片付けたミーシャが、武器を無くしたリクトを探すと
「破っ!」
リクトがゴブリンを殴り飛ばしていた。殴られたゴブリンの首はあらぬ方向を向いており、首の骨が折れているのは明らかだった。
リクトは剣士であり拳士なのだ。
リクトが恩師から教わったことは多い。武術もそのひとつで、自分の力を制御できるようにと教えてくれた。恩師に教えてもらった武術は、武器と無手の両方を扱う。元から肉弾戦は得意だし、剣以外も扱える、さっきの投擲術も恩師に習ったものだ。
リクトは、ゴブリンに対して身体全体を使って攻撃を行い、時には関節技で首をへし折ったりもしていた。その戦いぶりは、剣で戦っていた時よりも凄まじかった。
「だ、大丈夫そうね。」
キュールは安堵しながらも、リクトの出鱈目さに少し顔を引きつらせていた。
それからは、危なげ無く戦いを終えた。
戦いを終えると、クーラとキュールが駆け寄ってきた。
「リクト助かったぞ」
「ありがとうございます。」
「怪我はないか?」
「大丈夫だ。」
「私も大丈夫です。」
「良かった。」
「リクト殿、あの戦いの中で、どうしてゴブリンに気付いたのだ?」
隣で戦っていたアメリアは、ゴブリンの存在に全然気付かなかった。後衛のキュールたちも同様だ。
「余裕がある時に身体を回転させる攻撃とかを混ぜて、戦いの場全体を見るようにしているんだ。そうすれば、不意討ち対策になる。」
恩師の受け売りだ。それに、通常時のリクトのステータス値は、知覚がもっとも高いのも関係している。
「参考になります。」
「ねえねえ、どれくらい狩れたのかな?」
ミーシャの言葉に、全員がカウントカードを取り出す。
カウントカード
討伐者 リクト
討伐指定 ゴブリン
討伐数 058
カウントカード
討伐者 クーラ
討伐指定 ゴブリン
討伐数 032
カウントカード
討伐者 ミーシャ
討伐指定 ゴブリン
討伐数 029
カウントカード
討伐者 キュール
討伐指定 ゴブリン
討伐数 033
カウントカード
討伐者 アメリア
討伐指定 ゴブリン
討伐数 071
「二百は、越えたな。町に戻ろうか。」
「はい」
五人は、ゾル森林を後にした。
町に戻ると、ギルドの受付でカウントカードを提出し、報酬を受け取った。
「おお~リクト、お金だお金」
キュールが、はしゃいで半金貨を1枚を見せてくる。なんというか微笑ましい。しかし、半金貨一枚ぐらい珍しくも無いとおもうのだが?
「どうしたんだ?」
「初めて自分でお金を稼いだのだ。何を買うか迷うぞ。」
いつもはしっかりしているキュールだが、はしゃいでいるキュールは普通の女の子に見える。
「よし今日の宿は私が払おう。さあ行くぞ。」
「そんなキュール様に出していただくなんて、恐れ多いです。」
「そうです。」
「クーラ、ミーシャよ、今の私は王女ではない、そういうことは気にするな。呼び方も気にいらん。まずは呼び捨てにするところから始めようか。」
二人はしばらく悩んでいたが
「私からも、お願いする」
アメリアからもお願いされ
「わ、わかった。これからは、キュールって呼ぶね」
「せめてキュールさんでお願いします。」
ミーシャは呼び捨て、クーラはさん付けにおさまった。
「まあ、それでいいだろう。では宿屋に行くぞ。」
この時リクトは、上機嫌なキュールに油断していた。
宣言通りキュールが宿の予約をしたのだが、部屋を二人部屋と三人部屋にしてしまったのだ。
「どうする?」
「それなら、私達と三人部屋にしようよ。一度は同じ部屋で泊まったことがあるんだし。」
今回はベットも三つあるから大丈夫だろう。それに、二人部屋はダブルベッドひとつしかないからな。しかし、キュールがミーシャの提案を却下して
「私が失敗したのだから、私がリクトと一緒の部屋に泊まる。」
と言い出し
「クーラ、ミーシャ、アメリアちょっとこっちに来てくれ。」
その後、何故か女達だけで話し合いをしていた。リクトは聞いたらダメらしく、その間リクトは一人隅に佇んでいた。
その話し合いの結果、リクトとキュールが同じ部屋に泊まることが決まったらしい、リクトは最後まで意見を聞かれなかった。
「三人とも、すまんな」
「いいえ、頑張ってください」
「姫様ご武運を」
「しっかり、伝えるんだよ~」
何のことだろう?
キュールはリクトと二人っきりになってから、ずっともじもじしていたが、寝る時間になっても何も言って来なかった。
「キュール、そろそろ寝よう。」
「そ、そうだな。」
リクトがベットに入りながらキュールに寝るように言うと、キュールは素直にベッドに入ってきた。
リクトが寝ることに集中していると、背中にキュールが触れてきた。
「のう、リクト、その、いろいろありがとう」
キュールが伝えたかったのは、感謝の言葉らしい。三人部屋に行った女達の言葉から、違うことを想像していたリクトは安堵感と脱力感を覚える。
「お礼ならゴブリンの討伐が終わった時も言っていただろ。」
「ちゃんと言っておきたかったのだ。一年前、私はお前に救われた。今日も危ないところを助けられた。
こうして旅ができるのも、依頼を受けることができたのも、初めて自分でお金を稼げたのも、全てリクトが助けてくれたおかげだ。本当にありがとう。それに旅はまだまだ続く、明日がとても楽しみだ。」
「そう、か」
「リクトは私の人生の恩人だ。リクトと出会ってから、生きることが楽しくなった。」
「大袈裟だな。」
「そんなことはない。全部本当のことだ。リクト、私は何があっても、リクトがどんな力を持っていても、そなたの味方だぞ。それだけは覚えておいてくれ。」
「・・・・・・」
リクトはキュールの言葉を受け入れることも、拒絶することもできず、何の言葉を返せなかった。
「・・・・・リクトちょっとこっちを向け」
キュールの言葉に従いリクトが頭を動かすと、いつも間にかキュールの顔が近くにきていて、キュールの唇がリクトの頬に触れた。
「おやすみ」
そう言って背中を向けるキュールの耳が赤くなっていて、めちゃくちゃ可愛いかった。
この夜、リクトはキュールのことが気になって、なかなか寝付けなかった。