第6話 初めてできた友達に負ける
授業が終わると私は席子ちゃんの腕をガッと掴んで階段の踊り場まで引っ張ってきた。
「もぉぉ! あの手紙は何なの!?」
私としては珍しく感情爆発させながら席子ちゃんに詰め寄った。
席子ちゃんは頬をぽりぽり搔きながらにんまりと口角を上げて楽しそうにこう言ってきた。
「いや~、未希ちゃんが赤い顔しながら広井君の顔をじーっと見つめていたでしょ? 後ろから見ていてわかりやすいくらい恋する乙女しているなーって思って」
「赤面しながら広井君の顔をじっと見てはいたけど、恋する乙女なんてしてないよ!」
「まるで説得力ないよ。女子が顔を赤くさせながら男子の顔を見る状況って恋以外ないよね?」
「うぐっ! と、とにかく違うから! べ、別に広井君のことなんて何とも思ってないんだからね!」
「なんてわかりやすい反応……可愛いなぁ未希ちゃん」
「ぅぅぅううう」
無意識だった。
赤面している自覚はあったけど、彼の顔をじっと見ていたなんて自分でも気づいていなかった。
わ、私、傍から見るとそんなにヤバい女ムーブしていたんだ。恥ずかしい。
「正直にいっちゃえ~。広井君のこと気になるんでしょ~?」
「……気には……なるよね」
零れ出た本音。
それを聞いた席子ちゃんは満足そうに微笑みを浮かべて、胸をドンと叩いた。
「このラブリーキューピッド席子にまっかせて! 未希ちゃんと広井君の接点を私が作ってあげる!!」
「えっ? ちょ!?」
今度は私が腕を引っ張られ、教室に連れ去られていく。
席子ちゃん。何をする気なの……
果てしなく嫌な予感を抱きながら私は抵抗することなく連行されてゆく。
ていうかラブリーキューピッド席子て。
席子呼びを自称するようになっちゃった。なんかごめん。
最近私、心の中で謝ってばかりだなぁ。
「やっほ。広井君。ちょっといいかな?」
教室に戻った席子ちゃんはまっすぐに広井君の席に向かい、愉快な雰囲気で話しかけていた。
えええ!? 私は距離感に一週間も悩んでいたのに、この人一瞬で踏破しちゃったよ! 陽キャってすごい。
「えっと……藤代席子さんだったな。何か用か?」
「莉々ね」
「???」
「ほらぁ! 未希ちゃんが私のことを席子席子呼ぶから広井君困惑しちゃってるじゃん!」
「さっき心の中で謝ったから許してください」
「口で言え!?」
「藤代=席子=莉々……さんか」
「ミドルネームでもないからな! このボケボケコンビ!」
怒涛のツッコミを繰り出し、息を切らす席子ちゃん。
ボケボケコンビって私と広井君のこと? 噓でしょ? ボケは広井君だけだよ。広井君のソロだよ。コンビって言われてもちょっとしか嬉しくないんだからね。
「私のことは『莉々』って呼んでね。抵抗あるなら苗字呼びでもいいけど、呼び捨てにしてね」
「わかった。席子」
「ミドルネーム呼びは許可してないな!?」
「…………呼び捨て」
広井君が席子ちゃんを呼び捨てにしてる。
まあ? 別にいいけど? 私なんてミキティって呼ばれてるし? 私の勝ちだし? 羨ましくなんてないし?
「病むな!? だー! もう! 話が進まないぃ!」
机をバンッと叩いて注目を向ける席子ちゃん。
クラスメイトほぼ全員の視線が集中する中、それに全く気付いていない様子の席子ちゃんは大声で言い放つ。
「広井くん!」
「あ、ああ……」
「スマホ出して!」
「へっ?」
「早く!」
「う、うい」
席子ちゃんの迫力に押され、ポケットからスマホを取り出す広井くん。
「私と連絡先交換する!」
「えぇっ?」
「嫌なの!?」
「め、滅相もございません!」
「よしっ!」
席子ちゃんが広井君と連絡先を交換してる。
席子ちゃんが広井君と連絡先を交換してる!
席子ちゃんが広井君と連絡先を交換してる!?
なんか……なんか……うぅ……っ!
「よし! 連絡先交換かんりょー! 広井君、次は未希ちゃんとも——」
「こ、これで勝ったと思うなよ~!」
「急に何!?」
「次は負けないんだからね! 席子ちゃん!!」
「私!? ちょ、ちょっと、未希ちゃ——」
「うわぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
なぜかあふれ出る涙を散らしながらその場を走り去ってしまう私。
教室を飛び出す際、彼の心の声が聞こえてきた。
「(何かに敗北したみたいだが、敗北を全力で悔しがれる野心! 素敵だミキティ。走り去る際に垣間見せた走力。あれは玄人のモノだな。きっとミキティは陸上で結果を出した人なんだ。くぅぅ! 俺は応援するからなミキティ! いつかオリンピックの舞台で活躍してくれ!)」
「うわぁぁぁぁぁん! 相変わらず見当はずれな解釈されたよぉぉぉぉっ!」
広井くんなんて……広井君なんて……
席子ちゃんと仲良くすればいいんだ!
きっとすぐに私のことなんて忘れて頭の中が席子ちゃんのことでいっぱいになるんだ!
「私が先に気になっていたのにぃぃぃぃぃぃっ!!」
氷室未希15歳。
初めて脳破壊を経験し、今日も敗北を記すのであった。




