第4話 ギャルに絡まれたので5千円で許してもらおうとする
高校生になってから1週間が経過した。
周りは徐々にグループが出来始め、3~4人くらいで集まってぎこちなく交流が始まる時期なんだけど……
「…………」
氷室未希くん!
はい、ぼっちです!
ビビり性格を治すという私の大目標は苦戦を強いられていた。
周りに置いて行かれる感覚。中学の時も感じたなぁこれ。
ただ話しかけるだけ。
私にはそれが難しい。
大きな理由は二つある。
“あの子といても面白くないからつるまないでおこ”
“あんな根暗と一緒にいると私のスクールカーストに傷がつく”
“氷室は何考えているかわからなくて気持ち悪い”
一つ目の理由がこのテレパシー能力。
『自分に関する心の声が聞こえてしまう』という力が私をぼっちにさせていた。
人と関わってしまうと、いつか嫌でも悪意の言葉が聞こえてしまうから……
そして二つ目の理由は——
「(くくく。周りは交友を深めているみたいだけど俺は焦ったりしない。ここで焦っても失敗するのがオチだ。慎重に、俺はこの恋を慎重に育むのだ。俺がミキティに話しかけるのは後5ヶ月と3週間後に決めている。それまでは彼女の可愛さを遠くから眺めるだけにしよう。嗚呼、ミキティ今日も可愛い。その長い三つ編みを首に巻いて歩きたい)」
この人である。
入学初日から私へ好き好き光線を出しまくっている男子。広井サトルくん。
彼からの好意が凄ましすぎて友達作りどころじゃない。
褒められ慣れていない私は彼からの声が聞こえる度に赤面してうつむいてしまうのだ。
彼との接し方もわからない。
恐らく私から声をかけない限り5ヶ月と3週間は広井君と交流することはないのだろう。
好意を向けられることは嬉しい。嬉しくないわけがない。
ストレートな気持ちが剛速球となって私の心のミットにいい音を鳴らし続けているのも事実。
だけど……
「(私は広井君のことを好きなのかな?)」
出会ってまだ1週間。
恋の気持ちなど芽生えるはずがない。
——普通ならば
『自分を好きな人が好き』
心の奥底で芽生え始めている感情は果たしてそれに当てはまっているのか。
私にはわからない。
「やっほ! 氷室ちゃん!」
「んぎょわああああああああ!?」
不意に背後から肩を叩かれ、私は陸に上がった魚のように飛び跳ねてしまった。
「あ、ああああ、貴方は! う、後ろの席の——!」
「うん!」
「う、後ろの席子……ちゃん」
「名前覚えてないなら素直にそう言お!?」
「ご、ごめんなさい……!」
派手な着装の女の子。
私以上に制服を着崩しており、可愛いアクセサリー類で飾りまくっている。
所謂『ギャル』ってやつだ。
うわぁ。ギャルに声を掛けられちゃった。殺される!
「ご、五千円で勘弁してもらえないでしょうかね? へ……へへ……」
「別にカツアゲしようとしているわけじゃないよ!?」
「えっ!? お金を巻き上げないギャルなんて存在するのですか!?」
「ギャルに対して悪い偏見持ちすぎだよ! ていうか私別にギャルじゃないからね!?」
「そ、そうなのですね。ごめんなさい。席子さん」
「名前、席子でもないわ!」
この人、私に何の用なんだろ。
ちょっと怖い。
「(うーん。怖がられているなぁ。私は単に近くの席の女子と仲良くしたかっただけなのに。どうやったら氷室ちゃんに怖がられずに済むのかな)」
席子さんの心の声が聞こえてくる。
この人、私と仲良くしようとしてくれた……だけ?
嬉しい。
それなのに私ったらカツアゲと勘違いしちゃって、しかも一方的に怖がってしまった。
失礼極まりない。
こんな自分が嫌になる。
「あ、あの、初めまして。氷室未希、です。貴方のお名前、教えて、もらえませんか? な、仲良くしたいので」
だから精一杯の勇気を出して、はっきりと自分の声で、自分の意志で、彼女に接触してみることにした。
パァッと花咲くように笑顔になる席子さん。
彼女の両手が私の手を包み込む。
「私、藤代莉々! 莉々って呼んで! 未希ちゃん!」
「は、はい。わかりました席子さん」
「何もわかってないな!?」
藤代莉々さん——通称、後ろの席子さん。
明るくて、可愛くて、人懐っこくて、私の理想を具現化したみたいな人だ。
彼女の明るさに照らされて、無意識に笑みが零れてしまう。
初めて私に友達が誕生した瞬間だった。




