第17話 カラオケで最初に歌える人はたぶん出世する
「ふぅ~、やっと一息つけるね」
カラオケ屋に到着し、部屋に通された私達は3人そろって長椅子に倒れこんだ。
別に移動に疲れたわけではない。受付で神経を注ぎ込み過ぎたのだ。
カラオケ初心者の私達にカラオケの受付はまだ早すぎた。
機種って何。ワンドリンクオーダー制って何? 何分にしますかって何? 未成年にハンドルキーパー同意って必要?
訳が分からず3人で目を回しながら受付を終わらせて、今に至るというわけである。
おっと、いけない。カラオケに着いたらこれをやっておかなくちゃいけなかった。
「私、おしぼりもらってくるから二人は先に歌っていてね」
言いながら部屋から出ていく私。
だが、退室直前で席子ちゃんにガッと肩を掴まれた。
「何逃げようとしているの? 未希ちゃん」
「に、逃げようだなんて……」
「じゃあ言い方を変えるね。何を『最初に歌うことを私達に押し付けようとしているの?』」
「んぐっ……!」
席子ちゃんは私の作戦を見破っているようだ。
カラオケ初心者として……いや、カラオケ初心者じゃなくても最初に歌うというものはハードルがめちゃくちゃ高い。
私はどうにかしてそれを避けることができないか思案した。
それが『到着と同時に部屋から出ていき、良い感じのタイミングで部屋に戻ろう作戦』だったのだけど。
「逃がさないよ未希ちゃん。さっ、真ん中に座って」
広井君と席子ちゃんの間にちょこんと座らされてしまう。これでもう逃げ場がなくなってしまった。
「俺、タンバリン取ってくるから。どうぞお先に」
「「いらないからっ!!」」
今度は広井君が退室を図ろうとするが手を引っ張って椅子に押し戻す。
「「「…………」」」
心理戦はすで始まっていた。
席を外して時間を稼ぐ手段はもう取れない。
ならば如何にして最初に歌うことを避けるか。
三人の思考はその一点に集中されていた。
「わ、私と席子ちゃんカラオケ初めてでさ。広井君、ちょっとお手本として、う、歌ってみませんか?」
「い、いや、俺も初めてだから。ていうか席子もカラオケ初めてってのは意外だ」
「私は音痴だから。カラオケは誘われていても避けていたんだ。だから私が歌うのは最後でいいよ。なんだったら聞き専に回るし!」
聞き専!?
そんな便利なポジションが存在するの!?
「わ、私も聞き専にするね!」
「じゃ、じゃあ俺も今日は聞き専にする」
「じゃあ、全員聞き専ということで」
「「「…………」」」
3人で並んで座ってぼーっとプロモーションビデオを視聴する。
へぇ。アニメ系やVTuber系のCMも多いんだ。見ていて楽しいな。
「何しにきたんじゃ私らは!!」
席子ちゃんがガタッと立ち上がってツッコミを入れながら全員分のマイクを持ってきた。
「最初は全員で歌お! それなら全員文句ないよね!?」
「う、うん。広井君もそれでいいですか?」
「あ、ああ」
席子ちゃんが全員で歌えそうな曲を探してくれた。
それは小さいころ誰もが聞いたことがある有名アニメのオープニングだった。
3人が肩を並べてぎこちなく歌う。
広井君の低音ボイス、席子ちゃんのハスキーボイス、私の普通ボイス。
それぞれの特徴ある声が混じり合い、幼児向けのアニメソングが合唱される。
幼稚で稚拙で恐らく全員上手いとは言い難い歌声だったけど。
「(……楽しい)」
私にはこの経験がとてもかけがえないもののように思えたのであった。




