第16話 私服
さすがにお店に迷惑をかけすぎたので私達は別のカラオケ屋に向かうことにした。
「席子ちゃんの私服ってとっても清楚な感じなんだね。ビックリしちゃった」
「そ、そう? 似合うかな?」
「似合う似合う~! ね? 広井君」
「ん? ああ。良く似合っていると思うぞ」
「あ、ありがと。男子に私服褒められたの初めてだ。なんか変な感じ」
照れ笑いしながら少しうつむく席子ちゃん。
その表情を見て、一瞬モヤっとした感情が私の中で渦巻いた。
「ミキテ……氷室さんの私服も……その……個性的で素敵だと思う」
「わわ! あ、ありがとう!」
モヤモヤした感情は一瞬で完全に吹き飛んだ。
「確かに個性的だな!? インナーのTシャツに如月冬康命って書いてある!」
「うん! いいでしょ~!」
「よくはないな!? なにそのTシャツ! どこで売っているの!?」
「イベントで手に入れた記念Tシャツなんだ。とっても着心地良いんだよ」
「さっきのナンパ師達、よくこんな子に声かけようと思ったなっ!?」
あ、あれ? 駄目だった? 私的には無難な恰好のつもりだったのに。
でもいいんだもん。席子ちゃんには不評だったけど広井君は褒めてくれたから。
「ひ、広井君も、格好いい……よ?」
「……うっす」
あれ? ちょっと反応薄い。
男の子は私服褒められてもあまり嬉しくはないのかな?
「(ぎょひー! み、ミキティに格好いいって言われたぁぁ! 記念日決定。今日は『ミキティが格好いいよって言ってくれた記念日』と設定する。全国民。今後5月15日は休んでいいぞ。俺が許す。なにせミキティが褒めてくれた記念すべき日だからぁぁぁぁっ!!)」
あ、喜んでくれてた。
祝日増やしてくれるほど嬉しいならもっと表情に出してくれてもいいのにな。
「そ、その、氷室さんは声優の如月冬康が好きなのか……?」
「え? う、うん。演技とか人柄が好きで、声優ユニットのイベントにもよく行っているかな」
そういえば広井君もアニメや声優が好きって言っていたっけ。
当然如月冬康のことも知っているのだろう。
「お、俺は佐伯千秋が好きで、イベントには行ったことないから興味があるんだ」
「ほ、本当!?」
佐伯千秋というのは大人気の女性声優で歌がとても上手な人。
人気声優同士を集めた声優ユニット『春夏秋冬』のメンバーだ。
ちなみに如月冬康も同じユニットのメンバーである。
「じゃ、じゃあ、さ。今度、一緒に……行く? 春夏秋冬のイベント」
「あ、ああ、ぜひ」
また誘ってしまった。
しかもこれってデートというやつではないだろうか?
い、いや、これは声優好き同士の交流であって、所謂男女のアレ的なやつじゃなくて……!
「お二人さん。私の存在忘れているだろ~? よくもまぁ人前でデートの約束を交わせるものだね若人たちよ」
「あ、ち、ちが! も、もちろん席子ちゃんも誘おうと思っていたよ!?」
「いや、私は声優に興味ないからいいよ。二人で行ってきな」
「あ、あぅ……」
席子ちゃんを巻き込むことに失敗してしまった。
それはつまり広井君と二人きりのお出かけが決定したというわけで。
「「~~~~」」
互いに視線を外方へ向けながら歩く私達を席子ちゃんはニマニマしながら眺めているのであった。




