第13話 もう一つの目標
「席子ちゃん。クラス委員長って具体的には何やるの?」
成り行きで私がクラス委員長が私に決定してしまったが、いまいちやることが想像わからない。
「うーん……パッと思いつくのは授業前後の号令かなぁ」
「うごごごっ! ご、号令!?」
「女子が『うごごご』とか可愛くない叫びしないの」
うごごごも言いたくなるよ席子ちゃん。
号令ってあれでしょ? 皆の前で『起立、礼、着席』ってやらされる無駄な儀式だよね? なんでそんなこと言わなくちゃいけないの? 心の中で先生にお礼を言うだけじゃダメなの?
「あっ! で、でも、高校に上がってから今まで号令なんてしてなかったよ! きっと号令はきっと中学生までなんだよ! 私達高校生にはそんなもの必要ないんだ!」
「めっちゃ喋るな未希ちゃん。そんなに号令やりたくなかったんだね」
「やりたい人なんて全宇宙探しても存在しないよ!」
よし。一つの懸念がなくなった。
号令を行わなくていいのであればクラス委員長の仕事なんてほぼないんじゃないかな?
あえていうならクラスを見守ること! そう見るだけ! クラス委員長の仕事は皆のことを見るだけなんだ! よっしゃあ!
「おまえらー。ホームルーム始めるぞー。委員長、号令」
担任の郷田先生が良くわからないことを言っている。
号令? 郷田怜? 先生のご家族の名前かな? 怜ちゃんって響きが可愛いな。
「おーい。委員長。聞いているか? 号令してくれ」
クラス中の視線が私に集中する。
皆、私の掛け声を待っている。
嗚呼。気のせいじゃなかった。私に号令を求めている。なぜ? なんでなの? 昨日まで号令なんてなかったじゃん。なんの気まぐれなの。
「うご……うごごご……」
口が震えて声が喉の奥で止まっている。
緊張で人間の言葉を忘れてしまったようだ。
「——起立!」
……!?
私が困り果てていると広井君が助け船を出してくれた。
「——礼、着席」
副委員長の広井君が号令をかけてくれることはおかしなことではない。
クラスの皆も“委員長。緊張していたみたいだから広井が助けてあげたんだな”と全てを察してくれて素直に広井君の号令に従っていた。
また……助けられちゃった。
助けてもらってばかりで、私、いつも何もやってない。
こんな情けない人間がビビり癖を直そうなんて片腹痛い。
「(いつまでも助けてもらってばかりじゃ……だめ!)」
号令くらいきちんとこなせるようにならなくちゃ。
「(あ、そうだ——)」
広井君にお礼言わなきゃ。
でも授業中だし私語は駄目。
ならば——
メモ帳を一枚切り取ってお礼の言葉を記入する。
それをソッと広井君の机に置いた。
「……ん?」
広井君がメモに気づいてくれた。
同時に私と視線が交わり合う。
私は照れながら小さく微笑んで視線を黒板へと戻した。
「(手紙? ミキティが? お、俺に?)」
広井君は丁寧に私からの手紙を広げてゆっくりと読み始める。
彼が黙読する心の声が私に聞こえてくる。
「(さっきはありがとう
広井君はいつも私を助けてくれるね
これからも少しだけ頼っていいかな?
私も広井君に頼られるような強い子になるから
その時はたくさん恩返ししたいです)」
自分の手紙を音読されるってちょっと恥ずかしい。
でも今だけはこのテレパシー能力に感謝する。
これは誓いのようなものだから。
自分に言い聞かせるように彼の心の声を全身に染み渡らせる。
私の目標はビビり性格を治すことだった。
でも今は少しだけ変わった。
『広井君に頼られるような強い子になる』
広井君がたくさん私を助けてくれているように、今度は私が彼を助けられるようになりたい。
今はまだ授業の号令も出来ない駄目な私だけど。
私、強くなるから。
それまではもうちょっとだけ頼らせてください。広井君。




