第3話 「納得できない」
勤怠システムに入れへん。
《該当ユーザーが存在しません》
一回、画面を閉じた。
もう一回、開いた。
同じ。
指が止まる。
頭は回ってる。
こういう時にありがちな勘違いやとも思わん。
——俺は、ちゃんとここにいる。
上司の席まで行った。
「すみません。勤怠、入れないんですけど」
上司は画面から目を離さずにたずねた。
「……君、いつからこの部署やった?」
その聞き方が、あまりに自然で、一瞬、言葉を失った。
「ずっとですけど」
「いや、ほら。正式には」
正式。
その言葉で、胸の奥がざわついた。
「正式って、何ですか」
声が少し強くなった。
上司は、困ったように眉をひそめた。
「声、ちょっと大きいな」
——違う。
怒鳴ってない。
説明を求めてるだけや。
「これ、普通の会話ですよね?」
そう言った瞬間、周りの視線が集まった。
俺だけが、場の空気を読めてない人間みたいやった。
席に戻って、社内規程を開いた。
何度もスクロールして、そこで止まった。
——存在不確定者。
意味は書いてない。
手続きも、条件も。
ただ、そういう区分が、ある。
心臓が、どくんと鳴った。
社長室に向かった。
ノックもせずに入った。
「説明してください」
社長は、コーヒーを飲みながら言った。
「君がいなくても、会社は回った」
「それ、理由になってません」
「会社ってのはな、記録がすべてや」
記録。
頭では、分かる。
分かってしまう。
「じゃあ俺は、何なんですか」
社長は、少し考えてから言った。
「処理中や」
その瞬間、理解と拒否が、同時に来た。
——ああ、そういうことか。
——ふざけるな。
両方、ほんまやった。
怒鳴りたかった。
でも、ここで怒鳴ったら、俺はただの音になる。
それが分かってしまう自分が、一番、腹立たしかった。




