表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『我儘な玩具箱(トゥテソロ)と少年ハンター 〜才能ゼロと鑑定された俺が、代償を払って神具を使いこなすまで〜』  作者: フジサン デス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/63

第7話 背中を押す者たち

魔獣の死骸は、森の静けさの中に転がっていた。

 血の匂いも、戦いの痕も、まだ生々しい。

 だが兄は、それらを見ていなかった。

 視線の先にあったのは――ウルガだった。

 あの一瞬。

 あの刃。

 あの、世界の理屈を一段飛ばしたような一太刀。

 (……あれは、才能なんて言葉で片づけていいものじゃない)

 兄は剣を鞘に収めながら、唇を噛んだ。

 騎士爵家ウトナビス。

 貧しく、名も通らず、だが誇りだけは捨てなかった家。

 その中で、ウルガはあまりにも異質だった。

「ウルガ」

 呼ばれて振り返った弟の顔は、まだ幼い。

 今日の出来事を、どう飲み込めばいいのか分からずにいる顔だ。

「……今日のことは、家に帰ってから話そう」

 兄はそれだけ言った。

 今はまだ、言葉にできない。

 だが一つだけ、胸の奥ではっきりしていることがあった。

 ――このままでは、駄目だ。


 家に縛りつければ、

 畑仕事や雑用に追わせれば、

 いずれ“普通”として押し潰してしまう。

 あの力を。

 ウルガの未来を。

 *

 その夜、家は、いつも通り静かだった。

 粗末な夕食。

 薄いスープ。

 それでも姉は、いつも通り微笑んでいた。

「……今日、何かあったでしょ」

 食後、姉がそう切り出した。

 兄は一瞬迷い、そして隠すのをやめた。

 森での出来事を、すべて話した。

 ウルガが黙って聞いている間、姉の表情は一度も崩れなかった。

 話し終えた後、しばらく沈黙が落ちる。

 やがて姉は、小さく息を吐いた。

「……やっぱりね」

「やっぱり?」

「ウルガ、昔からそうだったもの。

 困ってる時ほど、変なところで肝が据わる」

 姉は弟を見る。

 不安と、期待と、少しの怯えが混じった目。

「ねえ、ウルガ。

 あんた、このまま家に残りたい?」

 突然の問いに、ウルガは言葉を失った。

 残りたいか。

 残るしかないと思っていた。

 だが――

 今日、刃を振るった瞬間。

 胸の奥が、確かに高鳴った。

「……分からない」

 正直な答えだった。

 兄は、その言葉を待っていたかのように口を開く。

「だったら、外を見ろ

自分の目で世界を見てこい」

 強い口調だったが、押しつけではない。

「お前の力は、この家の中で使うためのものじゃない。

 俺たちが囲っていいものでもない」

 兄は、ウルガの目をしっかりと見つめ‥

「ウルガ、冒険者になれ。

 自分の力が、どこまで通じるのか――確かめてこい」

 ウルガは目を見開いた。

 反対されると思っていた。

 危険だと言われると思っていた。


 姉が、そっと笑う。

「大丈夫。帰る場所は、ちゃんと残しておくから」

 その言葉で、胸の奥が熱くなった。

 逃げるんじゃない。

 捨てるんじゃない。

 ――背中を、押されている。

「……行ってくる」

 それだけ言うのに、少し時間がかかった。

 兄は、うなずいた。

「それでいい」

 こうして、ウルガ・ウトナビスは大きな一歩を踏み出した。

 騎士爵家の三男としてではなく、

 ただ一人の――冒険者として。

 その一歩が、やがて世界に名を刻むことになるなど、

 この時は、誰も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ