第63話:変人令嬢の招待状(拒否権なし)
第63話:変人令嬢の招待状(拒否権なし)
王都の大通り。
石畳と人の波に飲まれかけながらウルガは必死について行っていた。
「す、すごいな王都……」
「建物も人も全部でかい……」
「落ち着きなさい」
セレナが小声で釘を刺す。
「恥ずかしいわよ」
その時だった。
「……止まりなさい」
涼やかで、しかし有無を言わせぬ声。
進路を塞ぐように、一人の女性が立っていた。
薔薇色の長髪、整った顔立ち。
貴族然とした装いだが――
その視線は、明らかに人ではなく。
「みゃあ」
ウルガの腕の中で欠伸をするバステト様に、完全に固定されていた。
「……素晴らしい」
「生体挙動が異常」
「魔力反応はゼロ、なのに存在感が飽和している」
「え、えっと……?」
ウルガが困惑していると、女性は満足げに頷く。
「ローズ・グラスハイム」
「王家御用達の錬金術師よ」
その名を聞いた瞬間、
エンキドが露骨に嫌そうな顔をした。
「……まだ王都にいたのか」
「グラスハイム伯爵家が誇る錬金術バカ」
「第一声がそれ!?」
ローズが即座に噛みつく。
「久しぶりねエンキド!」
「久しぶりだな」
「相変わらず人付き合いは壊滅的か」
「あなたにだけは言われたくないわ!」
セレナがウルガに耳打ちする。
「錬金術師って変人ばかりね…」
「しかも、かなり拗れてる」
「ふむ……」
ローズは言い争いを即座に切り上げ、再びバステト様へ一歩近づく。
「ねえ、その猫」
「譲ってもらえない?」
「む、無理です!」
即答だった。
「実験はしない」
「軽い刺激と魔力反応の観察だけだ」
「安全は保証する」
「それ実験です!嫌な予感しかしませんよ」
ウルガは慌ててバステト様を抱き直す。
「この子は……その……」
「大事な、家族みたいなもので……」
言葉を濁すウルガの胸元でバステト様は相変わらず泰然としていた。
「みゃあ」
「……鳴いた?」
ローズの目が細まる。
「今の、普通じゃないわね」
「普通です!」
ウルガは必死だ。
「猫は普通鳴きますから!」
「ますます興味深い……」
ローズは一拍置いて、にっこり笑った。
「決めたわ」
「あなた達、うちに来なさい」
「え?」
「実験室があるの」
「設備も揃ってる」
「この子の“正体”を調べるには最適よ」
「行きません!」
「拒否権はないわ」
「あります!」
だがローズはもう歩き出していた。
「大丈夫」
「逃げても追いかけるから」
「怖いこと言わないでください!?」
エンキドが肩をすくめる。
「諦めろウルガ」
「捕まった時点で詰みだ」
「そんな……」
セレナは溜息をつき、
バステト様はウルガの腕の中で喉を鳴らす。
「ぬしよ」
「世の中には、面白い人間が多いの」
王都の空の下。
こうして一行は、半ば強制的に――
変人錬金術師の巣へと連行されるのだった。




