第57話:噛み合わない武器
第57話:噛み合わない武器
その日、セレナは朝から憂鬱だった。
ギルドの中庭。
いつものように朝練をしようと槍を構え――次の瞬間、嫌な感触が腕に伝わる。
「……また、ね」
踏み込み、突き。
動き自体は完璧だった。
だが、槍の穂先が微かに歪み、柄の芯から悲鳴のような軋み音が漏れる。
セレナは静かに槍を下ろした。
(無理をさせてるわ……)
理由は分かっている。
以前から兆候はあった。
ゴールドランクへ昇格してから、
それがはっきりと“問題”として表に出ただけだ。
店に並ぶ量産品の槍。
品質は決して悪くない。
だが――今の自分の武威についてきていない。
一度の全力突きで、
刃は欠け、柄は歪み、内部に微細な亀裂が入る。
修理しても、次はもっと早く壊れる。
「……これじゃ、実戦じゃ使えないわね」
ぽつりと漏れた独り言。
ゴールドランク冒険者として、
戦場で武器が壊れることが何を意味するか――
セレナは嫌というほど理解していた。
ふと視線を上げるとギルドの中を歩くウルガの姿が見えた。
(あの子は……もう“武器に合わせて戦う”段階じゃない)
力を抑え工夫し時には遊ぶ余裕すらある。
一方で自分は――
武器が先に悲鳴を上げてしまう。
「……追いつかなきゃ、ね」
セレナは槍を壁に立てかけ、軽く手を握りしめる。
武器が合わないなら探すしかない。
既製品が駄目なら自分の武威に耐えられる“何か”を。
その答えが武器そのものなのか――
あるいは素材なのか。
まだ、この時のセレナは知らなかった。
だが確かなことが一つある。
次に選ぶ槍は、これまでとは違うものになる。




