56話 実験と検証
56話 実験と検証
ウルガは森の中を静かに進んでいた。
深く入りすぎない。
だが、弱すぎる相手では意味がない。
(相手は……中位以下の魔物。動きがあって、暴れるやつがいい)
ほどなくして獣の唸り声が聞こえた。
草むらから姿を現したのはフォレストハウンド。
群れを作ることもあるが今は一体だけのようだ。
「よし……ちょうどいい」
剣には手を伸ばさない。
今日の目的は討伐ではない。
ウルガは距離を保ったまま、意識を集中させる。
「来い……《我儘な玩具箱》」
玩具箱の2段目が脳裏に浮かび、引き出しが僅かに開く。
瞬間、掌に伝わる重み。
「――グラウプニル」
音もなく鎖が解き放たれた。
フォレストハウンドが跳躍する、その刹那。
鎖は生き物のように空を走り、魔物の四肢へと絡みつく。
「ギャッ――!?」
抵抗する暴れる魔物。
だが、鎖は一切緩まない。
(……すごいな)
見た目は細く重量もほとんど感じない。
それなのにフォレストハウンドは一歩も動けず地面に縫い止められていた。
(フェンリルを縛った伝説は伊達じゃないってわけか)
ウルガは額に滲む汗を拭う。
(魔力消費は……思ったより重いな。維持し続けると長期戦は厳しい)
数秒後、ウルガは鎖を解除する。
「よし、今日はここまでだ」
逃げ出す魔物を追わない。
実験は成功だ。
それ以上の危険を冒す理由はない。
「拘束力は文句なし……問題は燃費か」
ウルガは森を後にしながら、小さく笑った。
「でもまあ……切り札としては十分すぎるな」




