第49話:坑道戦
第49話:坑道戦
ミスリル鉱山の坑道は、思っていた以上に狭く湿っていた。
岩壁には無数の掘削痕が残り、ところどころに使われなくなった松明が突き刺さっている。
「……空気が重いな」 エンキドが鼻を鳴らす。
「坑内魔物は音と振動に敏感よ」 セレナが槍を構え、足運びを慎重にする。 「無駄に騒ぐと一気に寄ってくるわ」
ウルガは一歩前に出て、短剣を逆手に握った。 「俺が先行する。狭い場所は得意だから」
その少し後ろ。
殲滅戦線の三人は、あえて距離を取ってついてきていた。
「いい構えだな」 クロムが小声で言う。 「ただ――最初は深追いするなよ」
ウルガがちらりと振り返る。 「まずは数の把握 、だよね」
「そうだ」 クロムは満足そうに頷いた。
最初に現れたのは、坑道の影に紛れていた岩喰いゴブリンだった。
数は三。
「来たぞ!」 ウルガの合図と同時に、セレナが一歩前に出る。
――ゴッ!
槍の石突きが地面を叩き、間合いを制する。
飛び込んできた一体を牽制しつつ、ウルガが横から斬り込む。
「ギィッ!」
短い悲鳴と共に、一体目が崩れ落ちる。
「今の連携、悪くないな」 背後からメテロムの声。 「でもウルガ。倒した直後に視線を落とすな」
その瞬間、天井付近から何かが落ちてきた。
「上だ!」 エンキドの叫び。
二体目が壁を伝って飛びかかる。 だが――
ガンッ!
セレナの槍が正確に顎下を突き上げ、魔物はそのまま地面に叩きつけられた。
「よし」 ガルバラが腕を組んで唸る。 「前衛が慌てとらん。上出来じゃ」
残る一体は逃げるように奥へ引こうとするが、
「逃がさない」 ウルガが短く言い、投擲した短剣が背中を貫いた。
静寂が戻る。
「はぁ……」 エンキドが肩で息をする。 「坑道って、息苦しいな……」
「だからこそ、短期決戦だ」 クロムが前に出て、周囲を一瞥する。 「今の戦いで音は広がった。次は群れで来るぞ」
セレナが唇を引き結ぶ。 「……数は?」
「多くて五、少なくて三」 メテロムが淡々と言う。 「角を曲がった先だな」
ウルガは頷き、仲間を見る。 「俺たちで行く。援護は……必要な時だけでいい」
クロムは少しだけ目を細め、笑った。 「いい心意気だ。だが忘れるな」
剣の柄を軽く叩く。
「“生き残る判断”が、一番の正解だ」
坑道の奥から、低く湿った鳴き声が響いてきた。
ウルガは息を整え、再び前を向く。
「――行こう」
松明の炎が揺れ、
影が、ゆっくりとこちらへ伸びてきていた。




