第44話:旅支度と置いてきぼりの猫(神)
第44話:旅支度と置いてきぼりの猫(神)
鍛冶ギルドからの依頼は、実に分かりやすい内容だった。
トレマーダ山脈。
その中腹にあるミスリル鉱山で、坑内モンスターが増えすぎたための間引き。
「鉱夫が入れなくて困ってるらしい」 「採掘が止まると色々面倒なんだとさ」
ギルドの説明を受けながら、ウルガは頷いた。
メンバーは三人。
ウルガ、セレナ、エンキド。
今回はバステト様は――
「……にゃ」
ギルドの休憩室。
クッションの上で腹ばいになり、高級魚タワナムの乾物にかじりつく黒猫の姿。
「今回はお留守番です、バステト様」
ウルガがそう告げると、
バステト様は一瞬だけ顔を上げ――
「む」 「……まぁよい」
再び乾物に戻った。
「この香り……」 「人の世も、捨てたものではないの」
完全に夢中である。
その様子を見て、セレナが小声で呟いた。
「……本当に神様なんですよね?」
「多分な」 エンキドは遠い目をした。
こうして、
バステト様は高級おやつ付きお留守番という最高待遇を勝ち取り、
三人は旅支度のため街の市場へ向かうことになった。
市場は相変わらず賑やかだった。
食料、保存水、簡易ポーション。
松明、魔物避けの香、ロープ。
「地下は湿気が多いからな」 「滑落対策は念入りにしとけよ」
ベテラン商人の忠告に、ウルガはメモを取りながら頷く。
一方セレナは、武具店の前で足を止めていた。
「……砥石」 「もう一つ、買っておくわ」
「まだ残ってただろ?」
「予備よ」
即答だった。
エンキドはその横で、保存食の袋を手に取って首を傾げる。
「なぁ、これ誰が持つ?」 「俺は魔導具で結構いっぱいなんだが」
「じゃあ私が」
「いや、セレナは武器が重いだろ」 「ウルガだな」
「え、俺?」
自然な流れで押し付けられ、
ウルガは袋を抱えて苦笑した。
「……まぁ、いいけどさ」
市場の喧騒の中。
三人は特別な緊張もなく、
いつもの調子で準備を進めていく。
ミスリル鉱山。
危険はあるが、命を賭けるほどではない。
「準備はこんなもんか?」
「ええ」
「じゃ、戻って寝るか」 「明日早いしな」
市場を後にする三人の背を、
夕暮れの光がゆっくりと包み込む。
その頃。
ギルドの休憩室では――
「……もう一枚、いけるの」
乾物の山を前に、
完全に戦闘不能になりつつある神様が一柱。
この留守番が、
平和で終わるかどうかは――
まだ、誰も知らない。




