第43話:強敵(ライバル)
第43話:強敵
ギルドの一角。
穏やかな昼下がり――のはずだった。
「……で、何で俺なんだ?」
エンキドは、困惑した顔で自分の腕を見下ろしていた。
その腕には、小さな黒猫――バステト様が当然のように丸まっている。
「今日はお主が世話係じゃ」
「いや、理由になってないよね?」
「細かいことを気にするでない」
喉を鳴らし、満足そうに目を細めるバステト様。
どうやら完全に居座る気らしい。
その様子を少し離れた受付カウンターの陰から―じっと見つめる視線があった。
「…………」
リーナである。
最初は微笑みだった。
だが次第に、その表情は真剣味を増していく。
(エンキドさんが……)
(バステト様を……)
――撫でている。
しかも慣れた手つきで。
自然に。しかも嫌がられていない。
リーナは、静かに一歩前へ出た。
「……わかりました」
「え?」
不意に声をかけられ、エンキドが振り向く。
リーナは胸に手を当て、
真っ直ぐ彼を指差した。
「私、決めました」
「?」
「エンキドさん」 「――あなたを」
一拍。
「強敵認定します!!」
「はぁ!?」
「お、おい!」 「何だよ強敵認定って……!」
「言葉通りです!」
即答だった。
「バステト様のお世話係」 「その座を巡る、聖なる戦いです!」
「いや、そんな聖戦ないから!?」
「今、勃発しました!」
「理不尽すぎるだろ!?」
リーナの背後で、
バチィッ!
見えない火花が散った気がした。
「今日から私は」 「全力であなたを観察し」 「全力で上回り」 「全力でバステト様に選ばれます!」
「怖ぇよ!!」
エンキドが一歩引くと、
リーナは一歩詰める。
「逃げないでくださいね?」 「ライバルなんですから」
「勝手に認定したのそっちだろ!?」
二人の間に、バチバチバチ……
と視線の火花が飛び交う。
その様子を、バステト様は面白そうに眺めていた。
「ほう」 「なかなか愉快じゃの」
くるりと首を傾け、追い打ち。
「して」 「そなたら、いつまで立っておる?」
「……」 「……」
「妾は膝を所望しておるぞ?」
沈黙。
リーナとエンキドの視線が、
同時に燃え上がった。
「……どうぞ」
「い、いや!」 「俺は別に譲るとかじゃなくてだな!?」
結局。
バステト様は二人の間を行ったり来たりし、
最終的には――
「今日の気分はこっちじゃ!」
そう言って、エンキドの膝に戻った。
「…………」
リーナの背後に、ゴゴゴ……
と効果音がついた気がした。
(次は…必ず……!)
そんな決意をよそに依頼から戻ったウルガとセレナ
「なぁウルガ」 エンキドが助けを求めるように視線を投げる。
だがウルガは、そっと目を逸らした。
(……見てはダメだ)
こうして今日もギルドの日常は
静かに平穏に過ぎてゆく




